回し者の教師
【回し者の教師】
この半年、エレーヌとロベルトは何をしていたのか。
料理を作ったり、週末の僕との森の探索以外に。
ロベルトには秘密案件を依頼していた。
学校関係者の内偵だ。
僕は、学校関係者にスパイがいると考えている。
いないかもしれないが、予防は必要だ。
ロベルトは、僕以上に内偵に向くスキルを強化していた。
探査範囲は僕の2倍、約200m以上。
気配操作も僕よりも上手く、闇に潜むと、
僕でも気配を察知できない。
一般人なら、脇を通り過ぎても気が付かないレベルだ。
スキルとして表示されないが、
鍵開け技術も高い。
魔法鍵でない普通の物理鍵ならば、
王国で開けられない鍵はないと豪語する。
そのロベルトが学校関係者の内偵を進める。
いや、出るわ出るわ。
スパイ?
いや、不祥事が。
浮気、横領、賄賂、暴行、その他様々な犯罪。
学校関係者の1割がなんらかの不祥事を働いていた。
ロベルトはそれぞれ証拠付きで
不祥事を押さえていた。
実は、アニエス先生との共同開発で、
非常に役立つ魔道具を開発していた。
カメラと録音機である。
勿論、この世界ではチートな魔道具になる。
いや、この世界にも似たような発想をするものがある。
鉄の誓約書だと、1枚に記述するだけで、
同じものが2枚連写される。
オリジナルは誓約書保管所というところへ保管される。
残りの2枚は当事者が所持するのだ。
文字の書けない人や目の不自由な人のために、
声による契約もできる。
カメラと録音機は、鉄の誓約書に使われている魔法を
応用・発展したものだ。
むしろ、なぜ今まで魔道具になかったのか、
というレベルである。
さらに、先生とはビデオを開発中である。
近いうちに実現されるだろう。
ロベルトはこの魔道具を使い、証拠を集めている。
積極的に公表するつもりはないが、
おかしな振りをしたら、これらが物を言う。
◇
ある講師。
内偵するロベルトも要チェックとして、
重点的に探っているものがいる。
怪しさ満点だが、状況証拠しか出てこない。
学院にある森で何かをしているのだ。
その講師が僕たちの家を眺めていることがあった。
僕の探査スキルに赤点が点滅する。
敵意のあるものが赤く表示されるのだ。
僕は、彼に話しかける。
『先生、何を撒いているのですか?』
僕にはわかる。
彼は何か特殊な粉を撒いているのだ。
ぎょっとする講師。
なぜ、バレないと思ったのか。
普通の人ならともかく、僕にそんなのは通用しない。
『何言いがかりをつけてるんだ?何も撒いていないぞ』
『そうですか』
僕は風魔法ですっかりキレイにしてあげた。
顔がひきつる講師。
『ひょっとして、ある“団体”の方ですか?』
なので、僕はカマをかけてみた。
『は?“団体”ってなんだよ。おかしなことを言うな』
僕はじっと講師の顔を眺めると、
彼は罰が悪そうな顔をして退散していった。
僕はロベルトに目で合図すると、
僕とロベルトはこっそり講師をつける。
講師は校内にある彼の宿舎に戻っていった。
それでも講師を張っていると、
夜半にその講師は闇にまぎれて、
校内裏手の森に入っていった。
『クソっ、なんて敏感な奴だ。せっかく作り上げた様々な魔物の死骸の粉。取り除かれてしまって威力は半減するが、儀式を始めるぞ』
講師は訳のわからない言葉を吐き、
見たことのない魔法陣でなにやら祈りを捧げ始めた。
僕にはわかる。
これは“暗黒魔法”だ。
僕は暗黒魔法を使えるわけではない。
だが、概要はわかっている。
それに、僕にはとっておきのスキルが発現していた。
魔法リバースエンジニアリング。
展開されている魔法を逆算して解析するスキルだ。
そして、解析した魔法を僕はいじることができる。
今まで使っていた魔法キャンセルの上位互換だ。
僕はでたらめに魔法を書き換えてやった。
『なんだ、どうしたんだ、魔法が暴走してるぞ!』
押さえきれなくなり、講師がその場を避けようとした瞬間。
魔法が大爆発を起こした。
学院中が大騒ぎとなり、大勢が現場に駆けつけた。
そして、重傷を負い倒れている講師を発見する。
現場検証をするまでもない。
講師が暗黒魔法を発動しようとしたことは、
誰の目にも明らかだった。
暗黒魔法は王国では禁術とされている。
発動したものは極刑である。
講師は審議会にかけられ、
背景を調べた上で、数日後に処刑された。
騒動はそれだけに終わらなかった。
まず、学園に彼の仲間とおぼしきものが数名いたのだ。
直接のつながりはないのだが、嫌疑十分ということで、
ひっ捕らえられた。
その情報は、僕がアニエス先生経由で学園に知らせていた。
ロベルトの日頃の情報活動の賜である。
王国の誇る魔法高等学院で、
禁術である暗黒魔法を操る講師がいた。それも何名も。
これは大スキャンダルに発展した。
学院と城は徹底的な調査を約束した。
講師たちが所属する団体。
それはすぐに判明する。
通称、“闇のもの”。
正式名称もはっきりとした活動内容も不明。
しかし、古くから王国に巣食う闇の組織。
捕縛された講師から無理やり引き出した情報をもとに、
拠点とされる場所が捜索された。
しかし、すでに蛻の殻であった。
ただ、追求はここで終わらなかった。
引き続き、厳しい監視の目が注がれる。
何しろ、国の中枢には魔法高等学院の卒業生が
多数存在する。
いや、ほぼ卒業生で占められていると言って良い。
そのかつての学び舎が汚されたのだ。
王国中の上層部が憤怒に沸き返った。
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