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カトリーヌの悩み2

【カトリーヌの悩み2】


 カトリーヌ、卒業を控えたある日。

 彼女が真っ赤な顔をして僕のところにきた。


『ちょっと話があるの。図書館に来て』


 図書館の隅の方へ。


 事情を説明した。

 要するに、


 ①私は独立したい。

 ②縁談が山のよう。



『カトリーヌは具体的に何をしたいの』


『研究者よ。アニエス先生みたいな』


 研究者か。

 能力的には問題ないと思う。


『研究者っていうけど、何十年も同じテーマで芽も出なくても研究を続けられる?』


『できるわよ』


『アニエス先生見てご覧よ。彼女は身の回りに無頓着とはいわないけど、綺麗な服とか化粧とかにあまり注意を払わないよね』


『うーん、そうね』


『僕たちが現れるまでは、美味しい食事にもこだわりがなかった』


『わかんないけど、そうかも』


『友達がいなくても構わない』


『あー』


『アニエス先生は、孤高とか孤立とかを全く恐れていない。研究大好きだからね』


『ええ』


『カトリーヌ、君はそういう毎日で満足できるのかな?』


『……』


『カトリーヌが独立したいっていう気持ちには大賛成だし、研究者でもいけるのかもしれないけど、もう少し間口を広げてみてもいいような』


『間口を広げろって、じゃあ何があるのよ』


『君さ、薬師の才能も凄いんだけど、もう一つあると思う。突出してるのが』


『なんなの?』


『対人関係。正直、君はお嬢さん中のお嬢さんだし、言葉遣いも非常に率直だ。でも、角が立たないんだよ』


『そう?』


『自分に厳しいけど他人には許容的だよね。身分とか人種にこだわりがないし』


『そうかも』


『だからさ、社会との接点の大きい職業でもいけるんじゃないかと。というか、むしろそっちのほうがあってるような』


『じゃあ、具体的には?』


『漠然と考えているのは、化粧品の開発と販売』


『化粧品?』


『薬の販売でもいいんだけど、ありきたりだし、化粧品のほうが華があるでしょ?』


『華とか』


『この世界はね、薬は案外イケてる。でも、化粧品は最悪だと思う』


『どう駄目なの?』


『白塗り一辺倒だし、厚化粧だし、何よりも化粧品に鉛白とか水銀とかを混ぜてる。あれ、健康を害するよ』


『え、初めて聞いた』


『これは、古代書にも載っている。僕の“料理人”スキルの“料理大全”にも健康を害するものとして記載されているんだよね』


『料理と化粧品とどう関係があるわけ?』


『不摂生や食生活の乱れは肌荒れを起こす。それを隠すために、危険な化粧品を多用する歴史がある。だから、概略だけが料理大全に載ってるんだよ』


『はー、料理大全って、手広く扱っているのね』


『うん。適切な料理で健康な体を作るという考えがあって。化粧だって同じさ。間違った用法で健康が損なわれるのは誠に不本意だし』


『だって、綺麗になりたいんだもの』


『あのさ、醜さを隠す化粧じゃなくて、美しさを内面から輝かせる、そういう化粧にしたい』


『どうするの?』


『料理と同じ。健康的な体を作れば、人は美しく輝く』


『健康がキーワードなのね』


『そう。お世辞抜きで、君は綺麗だと思う。それはパーツの美しさもあるけど、もともと君の肌の美しさは出色だった』


『えへへ。私、肌は丈夫なのよね』


『丈夫なのかもしれないけど、君の魔法鍛錬が健康的な体を作ったんじゃないかな』


『そう?』


『僕たちも経験したよ。厳しい魔法鍛錬が健康な体を作ることを。元E組の子たちも、入学時と比べると劇的に綺麗になったけど、あれは僕の料理だけじゃなくて、厳しい鍛錬のお陰もあるんだよね』


『そう言われると、なんだか嬉しい』


『今僕が考えているのは、基礎化粧品』


『基礎化粧品?』


『肌を健やかに保つことを目的とする化粧品。スキンケア化粧品』


『スキンケア?』


『そう。化粧品で肌にダメージを負ったり、健康被害を被っている人はたくさんいる。そういう人たちを救う化粧品』


『なるほど。化粧品でありながら、薬としての側面もあるのね』


『そう。でね、薬師だって、症状に合わせて治療法を考える必要がある。化粧品だって同じでしょ?』


『肌の症状から適切な化粧品を選ぶってことね』


『うん。そうなると、薬師同様、化粧品も対面販売が重要になる。そのときに君の社交性の高さが役立つんじゃないかな』


『私、もの売ったりしたことないよ』


『いいんだよ、素人で。大切なのは、お客さんの肌。肌に寄り添う化粧品を提案できること』


『うん』


『やっちゃいけないことは、客におもねることだよね。客の地位や財布・人間関係なんかに気を取られないこと。そのために、絶対的な商品力を確立すること』


『そんな。自信ない』


『潰れたっていいんだよ。僕も君もまだ若いんだから。それに商品開発はエレーヌと共同でやればいいんじゃない?』


『うーん』


『たださ、接客の経験は必要だと思う。だから、どう?プレミアム食堂のウェイトレスとか』


『え?』


 かくして、王国に鳴り響く美貌の高位貴族子女ウェイトレスが誕生した。



ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

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