042 妻はエピローグを知る
イベントから三日後。
二人は、王都の中央病院へと居た。
回復魔法があるからといって、病院がないわけじゃなく。
魔法の使い手も限られ、回復魔法は体に悪いと拒否する者もいる。
マルクの傷はふさがったが、打撲や足首のねんざなどの為、今は入院していた。
その病院の中でも、お値段が中ぐらいの個室。
ベッドは一つであり、後は見舞いが泊まれるようにソファーや、暇つぶし用の本などが置いてある。
清潔なベッドの上で寝そべるマルクに、ベッドの隣に椅子を引っ張り出し、リンゴを剥いているラーミ。
上半身包帯だらけのマルクは、上半身部分が斜めになったベッドの上でぼーっとしていた。
ラーミがリンゴの皮を食べながら喋りだす。
「にしても、全部ぶん投げて来ましたけど、よかったんですかねー」
「オレ達に出来る事はないさ」
ラーミがサンフラを倒した後、直ぐに他の冒険者、それに一般兵が集まってきた。
その中には各街のギルドマスターの顔もあり、フィやロウ爺などの顔もあった。
治療途中でさらに、火傷を負ったマルクは直ぐに担架に乗せられ、ラーミは回復魔法をかけながら病院へ来たのだ。
その日の夜に、重要参考人として外に出ないほうがいいと注意を受けた。
「にしても、もう三日ですか」
「まだ三日だな……」
戦いはマルク達が勝った。
それだけなら、予定の範囲内であったが、サンフラの魔物化が尾を引いた。
その他にも、中央冒険者ギルド長の不正な資金問題や、一部貴族などのワイロなども発覚。
これは、元々他の冒険者ギルドの依頼でニイケル達が調べ上げ大会中に発表する予定であったらしいが、その予定が外れ、今はどうなったか二人は知らない。
リンゴの皮をむき終わったラーミが、よいしょとベッドの上へ登った。
マルクは何をするのかと、不思議に思っていると、ラーミはマルクの腰の部分へ馬乗りになる。
お互いの顔が近い。
「お、おい」
「せっかくリンゴを剥いたんですし、食べさせてあげようと思って、手動かすのも辛そうですし」
現在はマルクの指先まで包帯が巻かれており、ほぼ火傷は治ってはいるがそれでも、動かすと痛みが走る。
「まぁ……それなら」
(この口にオレは、キスをしたのか……)
マルクが考えていると、リンゴを食べさせようとしているラーミが口を開く。
「はい、あーん」
「あのなぁ、さすがにそれは無い……」
テレながら文句を言うマルクであるが、口を大きく開いた。
マルクがリンゴを一口かじった所で病室の扉が開いた。
二人共、もちろん開いた扉をみる。
マグナのギルドマスター、フィであった。
三人の視線が絡み合うと、フィは病室には入らず扉を黙って閉める。
そしてノックが小さく鳴らされた。
「マグナのギルマスのフィだ、落ち着いたら開けてくれ」
マルクは慌てて、ラーミに体から降りろと、伝えた。
最初は不思議がっていたラーミであるが、マルクから子作りの最中と勘違いされていると言うと、直ぐにマルクから離れた。
「なるほど、それは少し恥ずかしいですね」
あまり恥ずかしがって居ないラーミは、マルクの腰部分から降りると、病室内へフィを招きいれた。
「せめてカーテンをしてからプレイしてくれ、目のやり場に困る」
「違いますからー。
ギルドマスターもどうぞ、リンゴです」
フィは皿に盛られたリンゴを一つ食べると、手にしていた袋をラーミへと手渡した。
中身を確認すると、ブドウ酒が一本入っていた。
「おお、さすがギルドマスターですっ!」
「まぁな。それとコレだ」
ラーミに二枚のカードを手渡す。
冒険者カードである、一番最初に王都に入る時に没収された二人の冒険者カード。
どういう伝を使ったか謎であるが二人の元へ戻ってきた。
「偽造用を直ぐに出せ、さすがに見つかるとシャレにならん」
フィに言われて、そういえばと、ラーミは荷物から偽造した冒険者カード二枚をフィに渡した。
表に出ては駄目な物、ほっとしたのか近くにあった椅子に座り込む。
ラーミは受け取ったカードを見て驚きの声を上げた。
「あ、フィさん。
マルクさんのランクがDへ上がってますっ!」
「上げたからな。
上げぬわけには行かないだろう、仮にも部隊長に勝った男だぞ。
本当はCまで上げたいと思ったが、まぐれ勝ちって意見もあってな」
ベッドの上で驚くマルクは、フィに訪ねる。
「では、ラーミもいよいよA……」
「強さはな、当分はBのままだ、考えても見ろ。
二十才も行かない人間に何か教わりたいと思うか?」
ランクAは師範クラス。
別に無理に人に教えないとは行かないがAとなると、どうしても人に何かを教える事が多いのが現状である。
とてもじゃないか、ラーミには向かない。
「あの、二人してかわいそうな目で見なくても、いいと思いますけどっ!」
「別にそういうわけじゃない。
中央冒険者ギルドはどうなったんだ?」
「ああ? ああ、クソ生意気な元ギルドマスタースライクと、息子ナルは逃亡中。暫くは各所のギルドマスターが出張という形で中央ギルドを動かす」
あの大会で悪事を観客に知らせ逮捕する予定だったが、サンフラが魔物になった騒ぎの最中に逃げ出したと、気付いた時には王都から脱出した後だったと説明してくれた。
「で、私が倒した人はどうなりました?」
サンフラの事である。
ため息を吐くフィであるが、しょうが無いと、言うと話し出す。
「せっかく、話題に出さないようにしていたのにな。
死んだよ、まぁ奴も本望だろう。
表向きは、取り合っていた花嫁の手にかかったんだ、まぁ何にせよ特に罪に成るような事は今回は無い」
「そうですか、教えていただきありがとうございます」
ラーミは丁寧に挨拶をする、その様子をマルクは見ていた。
(そうか、あの男は死んだか……、ラーミが気落ちしてなければいいが)
一方マルクの考えを知らないラーミは淡々と答える。
「ま、しょうがないですね。
あのままだったら、他の誰かが死んでいましたし」
「そういう事だ」
フィは剥いてあったリンゴを全て食べ終えると、所でと、マルクに話を切り出した。
「お前らはこれからどうするんだ? マグナに戻るなら馬車を手配しておくが」
「そうだな、そうしようか」
マルクが言った言葉で、ラーミは固まった。
「マルクさん、ええっと何か忘れてませんか?」
(ん? 何か、ああ……)
「ああ、そうだ!」
「そうですっ!」
「トットマ達はどうなっただろうか」
「ずこー」
「ど、どうしたラーミ」
「い、いえ別に良いんですけどねっ」
不機嫌になるラーミ。
それもそのはず、マルクと数日前に約束した事を言っているのだ。
全部終わったら『美味しいお酒と海を見に行こう』しかし、マルク本人は忘れている。
「すまない、オレに何か不満があるなら言ってもらえないだろうか?」
「別にですー」
「いや、確かに怒っているじゃないか……」
「全然ですよ」
(うーん。困ったな……、ギルドマスターは知らぬ顔をしているし)
二個目のリンゴを丸かじりし始めたフィが助け舟をだす。
「ラーミ、その辺にしておけ。
こういうのは、お互いが歩み寄らないと別れる原因となるぞ」
「なっ、わかわわかかかかかか。
別れませんしっ!」
「別にラーミお前が別れなくてもコイツが別れると言ったらどうするんだ。
少なくとも、教えてくれと言っているんだ、教えてやれ。
それと、マルクも大事な事はちゃんと覚えておけ」
「す、すまない……」
怒られはしたが、助け舟にほっと胸をなでおろす。
ラーミは、数日前にマルクと約束した事を伝えた。
「本当にすまない。
確かに言った……」
フィが海と聞いて腕を組む。
「海か……、となると暫くマグナには帰ってこないのか」
「そうなる」
「まぁ君ら二人ならどこに行っても大丈夫だろうな。せいぜい楽しくおかしくするといい」
「そうですね! マルクさんと二人なら何所にいったって幸せです!」
マルクはその言葉を受け取ると、思わず微笑んだのであった。




