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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

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第一話「振り返った瞬間――銃士に狙われていた」

「そこの少年!」


 振り返った瞬間――。


 メイドが、こちらを指さしていた。


(まさか……俺のことか?)


 辺りを見渡すが――自分以外に誰もいない。


「貴方ですよ! クリストファー・テトレー!」


(……ん? テトレー?)


「あ……俺のことだ――」


 ポンと軽く手を叩く。


(ああ……養子になったからな)


 うんうんと頷いて納得していると、メイドは苛立ったように声荒げる。


「逃げても無駄です! 身柄を拘束します!」


(ん……? 拘束……?)


「おいおい……アンタ……何を言って――」


「問答無用!」


 メイドが、いきなり襲いかかってくる。


 ――疾い!


 瞬く間に懐に入り込まれていた。


 ――くっ!


 後方に飛び退くが、背後には壁――。


 この動き――ただのメイドじゃない!


 メイドは無理やりクリスの着ているスウェットの胸元と袖口を掴みあげる。


(な……?)


 くるりと腰を回して強引に背負い投げ――。


 だが、クリスもさせてなるものかと、タイミングよく自ら飛んで、地面との接触を回避する。


(強い! しかも……なんて馬鹿力だ!)


 間合いを取りつつ、メイドを観察する。


 クラシカルなメイド服姿――。

 しかし、眼光の鋭さと殺気は異質。


 常人ではない……。

 さながら虎だった――。


 ふと頭を過る――。

 投げられるときの、あの感触……。


(もしかして――?)


 クリスはもう一度メイドの所作や仕草を探る。


(あのメイド……細身で気づきにくいが――リグを着込んでいるのか?)


(だとしたら……危険だ……。アレはやりあっては――ダメだ)

 直感がそう告げていた。


 クリスはにらみ合いながら、逃げる機会(タイミング)を探していた。


(……隙がない)


 獲物を捉える鋭い眼光――。

 追い詰め方も絶妙な間合いも――殺し方を心得ている。


 その時だった――。


「マルセイユ! 気をつけろ! そいつもリグを着ているぞ!」

 どこからか聞こえる男の声。


(お仲間かよ……? しかもこっちが着ていることも気づいてやがる)

 つい舌打ちをしてしまう。


「それくらい、分かって――」

 言いかけて、メイドの動きがピタリと止まった。

 僅かに首と視線を、声の方へ向けた。


(今しかない!)

 不意に訪れた、その瞬間――。


 クリスは踵を返して、全速力で走り出す。


 しかし、眼前に赤煉瓦の壁がそそり立つ!


 必死だった――。


 壁を一蹴りして塀の上に飛び乗ると、そのまま中へと飛び降りた。


「あ! 待て――!」

 向こう側から聞こえてくるメイドの声――。


 構わずクリスは逃走を決め込んだ。


「何なんだ? 何でメイドが俺を捕まえようとする?」


(爵位を手にしたんだぞ? 俺は貴族なんだぞ?! どうして追われる……?)


 身に覚えのない状況に動揺が走る。


 近くにあったモニュメントの陰に身を潜める。

 息を止め、気配を殺して……注意深く耳をそば立てる。


 時が止まっているかのように、あたりは静まりかえっていた。


 そよそよと風がそよぎ、小鳥のさえずりだけが聞こえてくる。


 人の気配は……まったく感じられなかった――。


(なぜ……追ってこない?)


 不安だけが募る。

 状況が分からないから尚更だった。


(それに……ここは何処だ?)

 この場にいることが安全だとは言い切れない。


 クリスは、隠れるのを止めた。

 立ち上がり周囲の状況を確認する。


 不思議な光景が広がっていた。

 まるで、異世界に迷い込んだみたいだった。

 青い芝生が広がり、遠近には数多くの石碑が整然と並んでいた。


(……霊園なのか?)


 ……ザ……ザザ――。


 立ちくらみと同時に、視界にブロックノイズが走った。


 クリスは目頭を押さえて、頭を振る。


(何だ? い……今のは――?)


 すると――。


 視線の先に、少女の後ろ姿が見えた。


 気配もなく……忽然と少女は姿を現した。


「クリスティーナ……?」


 ようやく思い出す。目的を……。


 首都(グランディール)まで歩いてきたことを――。


 彼女の後を付いて――。

 いや……導かれて、ここまで来たんだ。


 少女は石畳を歩いて行く。


 向かう先は――薔薇に囲まれた庭園。


 その庭園の前で、彼女はスッと姿を消した。


「お、おい! 待ってくれ!」


 クリスが追いかけようと一歩踏み出した、その時だった――。


 背後から――。


 突き刺さるくらいの強烈な殺気!


 反射的に――振り返っていた。


 アドレナリンの分泌が急激に高まるのを感じる。

 横目に殺気の持ち主の姿が、少しずつ少しずつ視界に入ってくる。


 時代にそぐわない出立(いでたち)をしていた。


 羽のついたムスクテールハット。

 ジュストコールと呼ばれる上衣。

 乗馬用のズボンであるキュロットに、膝丈まである乗馬用のブーツ。


 それは――国王直属の銃士隊の正装だった。


 銃士は長銃身(ロングバレル)のマスケット銃を構えていた。

 すでに照準を覗き込み、引き金には指がかけられていた。


 帽子に隠れて表情までは読み取れない。

 それでも――口元だけは僅かに綻んでいた。


 引き金が絞られ――撃鉄が落ちた。


 次の瞬間――。


 銃口から白煙が吹き出した。


 白煙の中――弾丸が、ゆっくりとこちらに迫ってきた。


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