この女神はどこかおかしい2
この幽霊が神だって?
いや……その前にこの世界の神って神族のことじゃないのか?
どう見ても実体の無いバケモノなんだが……。
「出て来なさい! この辺りにいることはわかっています!」
ニーニャさんが周辺に呼びかける。
いるって誰が?
「きゃぁぁぁ!」
幽霊が再び叫ぶ。
「無駄です! ホーリーアロー!」
白く輝く矢を取り出し、幽霊に向けて放つニーニャさん。
光と闇って攻撃魔法が存在しないはずなんだが……あれは魔法具か?
バシュ!
「あぁぁぁぁ!」
幽霊にニーニャさんの弓が当たり消え去ってしまった。
一撃で仕留めるとは、さすがに過去の勇者の仲間だけはある。
「小細工はおやめなさい! 眷属など私の敵ではありませんよ!」
ニーニャさん、かっこええ。
あの弓矢ってどこで売ってるんだ?
白く輝いている実体の無い弓矢なんて、どこにも売ってなかったぞ。
俺もアーチャーなんだから弓矢は使えるのに、そんな機会がまったく来ないんだ。
下手くそだから使わないんじゃないよ、使う機会が来ないんだって……ステルス使っていると攻撃ができないのが悪いんだ。
攻撃するとバレちゃうし……。
ピカッ
病室の窓から大きな閃光がほとばしる。
「あっははは、まさか眷属を退けちゃうとはの。そうかそうか……じゃが、面白い」
「う、うそっ!?」
ユーナが窓側を見て驚嘆する。
それもそうだ。
背中に翼の生えた、アニメや映画で見たことのあるような女神の姿が現れる。
後光のせいでシルエットだけだったが、やがて光が収まるとその美しい姿がはっきりと見えた。
「め……女神?」
「くぅぅぅ……私だって女神なのにっ!」
いや、ユーナ……お前は半分だけどな。
翼があるってことは純粋の神族ってわけか。
「あっははは、よく見たら弱小勇者の従者ではないか? こんなところに居るなんて驚いたのぉ」
「貴女は? 私は会ったことがありませんが……こんなことをして何をしているのです!?」
ニーニャさんが激昂している。
そりゃそうだ……無関係な人を次々と殺して姿に似合わずやっていることはとても神とは思えない。
「あっははは! おもちゃでどうやって遊ぼうが妾の勝手じゃろう?」
「……貴女って方は! もしかして……絶対神主義の神族ですね?」
え――と、まったく話が付いてこれない。
絶対神主義ってなんだ?
「ユーナ、知ってるか?」
「し、知らないわよ! 私だって本物の神族に会うの初めてなんだから!」
そっか、ユーナは俺たちのおふくろの顔も知らないんだったな。
今度、スマホに保存してある写真でも見せてやるか。
「そこの子どもたちは何も知らなそうじゃぞ……教えてやったらどうじゃ? 弱小従者さん、うふふふふ!」
「そうですね……リュージさん・ユーナさん、今でこそ平和的な神族たちが多いですが、昔は一部の神族に誤った思想が登場し始めたのです。自分たち神族は創造主で、それ以外の生命体は創造主の玩具であり奴隷であり、それを使って世界を発展させると言った思想、それが絶対神主義と言うものです」
だから、さっきからボンボンと爆破させ殺した人たちはおもちゃってわけか。
「ふふふふ、誤った思想とはの……言うではないか? まぁ、たかが人族に神の考えなど理解できるはずもないからのぉ……ちなみにこの偉大な思想の生みの親こそ妾の曾祖父ゼウスなのじゃ! さぁ、ひれ伏せ! 人間共よ!」
ゼ……ゼウスだって!?
神々の王じゃないか!?
それの曾孫?
「そうですか。あの最悪の悪神ゼウスの……」
「あっははは、畏れているようじゃな……当然じゃ! そこの子どもたちも妾を畏れるがよい!」
「す……」
「す? そこの女子、何か言ったか?」
「凄いわ、リュージ! ゼウス様の曾孫だって! リュージ、絶対神主義って素晴らしいじゃない! いいなぁ、羨ましいわ! あ……今日から私もそれで行く! リュージ! 今日から貴方は私のおもちゃよ!」
アホか――!
時と場所を考えろ!
あんな危険な思想を受け入れてるんじゃねぇぇ!
「ほほぅ……半神にしては見込みのある女子よのぉ。ホークを取りに来たついでに良い土産ができそうじゃ」
ホークを取りに来た?
……おいおい、まさか!?
「貴女はもしかして!?」
「そうじゃ、妾は親切じゃからの……名乗っておこう。妾は純潔の使徒ディーテ。昔、とある奴の罠にかかっての……つい、この間まで呪術で眠っておった。ホークが起こしてくれたからの、今はその主であろうアレクサンダーのそばでおもちゃ同士の争いを愉しませて貰っておる」
純潔の使徒……こいつはやっべぇ!
逃げないとダメだ!
逃げないとダメだ!
逃げないとダメだ!
「さぁ、リュージ! ゼウス様の曾孫よ! 眷属の貴方はひれ伏さなきゃ!」
そんなのしている場合じゃ無いだろ!
逃げないと!
エスケープだ……エスケェプ!
「うふふふふ、愉快な女子よのぉ。それはそうと、弱小従者とそこの弱そうな男! 心が見えておるぞ……妾を畏れておらぬな?」
畏れるも何も頭が追いついて無いだけなんだよ、ゼウスの曾孫って何だよ?
ゼウスも見るアニメによってはヴィランで描かれること多いし、神って感じがしないんだよな。
それより、神と言うだけあって心も読めるのか?
逃げようにも簡単にはいかなそうだ。
愛輝も何とかしてやりたいが……もう手遅れなんじゃないのか。
「先代の勇者と魔王の戦いで私たち従者の力が及ばなかったばかりに負けたことは認めます……ですが、勇者様は最後まで精一杯、命を賭して戦い抜きました! 貴女に弱小と馬鹿にされる言われはありません!」
「ほう……弱者従者がよく吠えるわ。まぁ、確かにあの最後の戦いは愉しませて見せて貰ったぞ。賭けにも勝てたしな」
「貴女たちが仕組んだことはわかっているんですよ!」
賭け……仕組んだ?
二人にはわかっているみたいだ。
何百年も前の話をされても、俺とユーナは付いてこれない。
「仕組んだか……あはは、そうじゃ。毎回のこの戦争は我ら神々の遊戯じゃ。おかげで人族も悪魔もスリルのある生を謳歌できておろう? 逆に感謝することじゃ、あっははは!」
「貴女は……貴女たち間違った神族は……いつも、いつも、いつも、いつもぉぉ!」
ニーニャさんが涙を流し、ディーテを睨みつけている。
一部の神族とはいっても、こいつみたいな神族に世界が弄ばれていたっていうのか……どうやらルーシィさんの言ってた真の敵っていうのが見えてきたような気がする。
「ほう……妾とやるつもりか? 人族が勝てないことはわかっておろう? いや、戦えないと言ったほうがよかろうの?」
戦えない!?
どういうことだ?
「……そうですね。私では貴女にはどうやっても勝てませんし、そもそも戦うことができません……ですが、ここにいるこの二人なら! リュージさんとユーナさんなら貴女と戦えるし勝てると信じています!」
よぉし、ニーニャさんが言ってくれてるんだ!
頑張るぞぉって……えええ!?
ニーニャさん、何言ってるんですかぁぁぁ!
勝てるわけないでしょ!