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俺、神様になります  作者: 昼神誠
混沌の世界へようこそ
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この逃走はどこかおかしい

「ユキ……お姉様?」


 黒子が雪のほうをジッと見つめている。

 お姉様?


「貴女の相手は僕です!」

「あれって……ユキお姉様?」


 黒子が雪を指差して、欽治に問いかける。

 なんでそんなに雪が気になるんだ?

 すでに雪によって操られているとすれば最高なんだが。


「違います……僕の妹の雪です!」

「ふ――ん、違うんだ? じゃ、処分」


 ブワッ!


 黒子が太刀を雪に目がけて投げつける。

 とっさの出来事に欽治も俺も反応できなかった。


「雪ぃぃぃ!」

「雪ちゃん!」


 ザシュ!


「ぐっ!」


 愛輝が身を挺して守ってくれたが、愛輝の脇腹に太刀が刺さっている。


「愛輝くん!」

「金づるちゃん、お腹に刀刺さってる――あははははは!」


 もう、この子将来不安でしか無いんですけど!


「まったく……吾輩としたことが……迂闊だったでござるよ……空腹で思った以上に……」


 ドサッ


 地面に倒れこむ愛輝の元にルーシィさんが駆けつける。

 すぐにヒールを放ち治療を開始する。


「大丈夫、気を失っただけみたいなわけ!」

「痛いの痛いの飛んでけ――!」


 良かった。

 いや、良くは無いが気を失っただけなら何とかなるか。


「子どもだから少し低い目に投げたのが失敗……やっぱり自分は欠陥品?」


 黒子が太刀を取り戻そうと愛輝のもとへ歩みだす。

 

「行かせません! 誅武の型……」


 欽治が脇差を鞘に納め構えを取る。

 納刀したということは居合の構えだろう。

 また静岡県か?


「邪魔哭死剣!」


 山梨県!?

 以前の静岡県と同じ構えで鞘から素早く脇差を抜き出……さない!?

 何をやっているんだ!

 自分の刀じゃないから、うまく抜刀できていない?

 いや、欽治に限ってそんなことないよな。


 ガッ!


 黒子のみぞおちに鞘が当たる。

 あれ、鞘のまま?

 居合技は動きが速すぎて何をしたのか、まったくわからないのだが。


「ケホケホ……あれ……息が……呼吸困難……?」

「みぞおちに入りました。少しは呼吸しにくくなりますよ」


 ドサッ


 黒子が両膝をつき、苦しそうにしている。

 そりゃ、みぞおちって急所だもんな。

 いくらホムンクルスでも人体に変わりは無いわけだし。

 

「欽治、今何をしたんだ?」

「邪魔哭死剣ですよ」

「いや、名前はわかっているが居合じゃないよな?」

「しっかり握っていたら賤侵剣になっちゃいますよ」

「居合じゃないのか?」

「鞘の先端による打撃技ですから。微妙に遠い相手にも使えるんですよ」


 なるほど、欽治のいつもの武器なら威力も桁違いなんだろうな。


「ケホケホ……自分……は欠陥……品」


 とにかく、こいつが動けないうちに脱出しないとな。

 

「ルーシィさん、愛輝の様子は?」

「大丈夫なわけ。まだ、気を失っているけどね」

「ダリアは?」

「治療はしたけど、あっちもまだ気を取り戻さないわけね? 後で詳しく調べてみないとわからないけど、あれって……もしや」


 ダリアになにかあるのか?

 

「今のうちにテレポートできませんか?」

「ごめ! 愛輝くんの治療にMP使い切っちゃった!」


 両手を合わせて俺に謝られてもな。

 俺も自身のMPを回復するためにエリクサーを使い切ってしまったし迂闊だった。


「僕は雪を連れて行くので、リュージさんが愛輝さんを、ルーシィさんが先輩を連れて行きませんか?」


 愛輝よりもダリアをおんぶしたかったな。

 だって、背中にあの感触が……ゴホン!

 今は仕方ないか。

 まずはみんなにステルスをかける。

 そして、欽治の言う通りに愛輝をおぶって、タワーの入り口のほうへ走って行く。

 入り口付近と入り口前にいた二名の黒子はなぜかいなくなっている。

 もう一人の侵入者とやらのもとへ向かったのだろうか?

 タワーの外に出ると怪獣の姿も無くなっている。

 深く考える必要は無い。

 今が街の外に出るチャンスだし、運が良いことだけはわかる。


 ドゴォォォン!

 

 音が近いな。

 誰か知らないが侵入者もこのタワーを目指しているのか?

 早くここを立ち去らなければ、巻き込まれかねんぞ。

 タワーを背に破壊された壁の所まで大通りを突き進む。


 ヒュゥゥゥ

 ズガァァァン!


「あ……ああ……べし……」


 目の前にならず者が降ってきた。

 だが、気を失っているようだ。

 これは例の侵入者の仕業か?


 ヒュゥゥゥ


 また、何か落ちてくる。

 頼むからこっちに飛ばしてくるなよ、謎の侵入者さん。


 ズガァァァン!


 黒子じゃねぇぇか!?

 やっぱり、こいつらも侵入者と戦っていたのか。


「ん……んん……痛い」


 ひぃぃぃ!

 気を失っていないじゃないか!

 謎の侵入者さ――ん、こっちにも敵が!


「あれ……さっきの侵入者と違う。あんたたちも侵入者?」


 やっべぇぇぇ、ステルスの効果効いていないんじゃないのか?

 なんとか、なんとかしてこいつと戦わないように穏便に話をつけなきゃ。


「チ、チガウヨ。ボクラハユウシャサマノケライダヨ」

「……明らかに嘘。体温急上昇、発汗量も凄い」


 ひぃぃぃ!

 その場凌ぎの嘘では騙せないか?

 そんな便利な能力あるなら、事前に教えてくださいよ!


 ヒュゥゥゥ

 ズガァァァン!


「痛い……あれ、別の侵入者?」


 あ、アカン……終わった……。

 誰か知らんがこっちに飛ばしまくるんじゃねぇぇぇ!

 二人の黒子を相手にできるのは欽治一人しかいねぇんだぞ!

 これは明らかに分が悪すぎる。

 仕方がない、欽治と黒子が戦いを始めたら、さっさと逃げるに限る。

 えっ?

 また、見捨てるのかって……当たり前でしょ!

 生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから!


「ちょ、ちょっと! リューくん、なんで後ろにさがるわけ?」


 決まっているじゃないですか、欽治とホムンクルスがバトりだしたらすぐに後退するためですよ。

 

「みなさんは下がってください。僕が何とかします」


 んもう、予想通り!

 欽治様、素敵!


「お姉ちゃんが三人も! やったぁ!」


 雪、今は喜んでいる状況じゃないんだぞ。


「「ユキお姉様?」」


 二人の黒子がまた雪を見つめている。

 いったい、何なんだ?

 雪の能力で操られているわけじゃ無いみたいなんだが。


「ん……お姉様? 1037号、あれは自分のお姉様」

「1043号、違う。あれは自分のお姉様」

「否定。あれは1043号、自分のお姉様」

「それも否定。1037号のお姉様でしかない」


 二人の黒子が俺たちをそっちのけで口論を始めた。

 やっぱ、雪に何かあるのか?


「どっちも違います、雪は僕の妹ですよ!」


 欽治が黒子たちの口論に割ってはいる。

 いやいや、そんなに激昂することか?


「これ、欠陥品?」

「1043号に激しく同意……たぶん、欠陥品」

「僕は欠陥品じゃありません!」


 欽治が太刀を手に取る。

 さっきの戦闘で黒子が投げた太刀をちゃっかり雪が拾っておいてくれた物だ。

 正確には愛輝に刺さった太刀を雪が楽しそうに抜いたんだが……。

 もう、将来はサイコパス確定だよな。

 将来は雪から距離を取るようにしておこう。

 楽しげに殺されたら、たまらんからな。


「欠陥品が壊れた……ここですぐに処理を開始」

「1043号に同意……処理を開始する」


 二人の黒子も抜刀し、戦闘態勢に入る。

 欽治は壊れたんじゃなくて、怒っているんですよ黒子さん。

 

「わぁ……お姉ちゃん大戦だぁ! どのお姉ちゃんも頑張れ――!」


 雪は無邪気に喜んでいる。

 へたすると本物のお姉ちゃん、いやお兄ちゃんがあふんするんだぞ。


「!!! お姉様の期待に応える」

「1043号、違う。自分の活躍にお姉様は期待している」

「違う。1037号に期待している」


 また、黒子同士で口論を始めた。

 

「どっちも違います! 雪は僕に期待しているんです!」


 欽治もいちいち対抗すな――!

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