このコンティニューはどこかおかしい10
ルーシィさんがやけに笑顔になっている。
俺をどこかへ連れて行きたいみたいだが、その場所を教えてくれる気配がない。
「ちみ、寝言で妹って連発してたけど……もしかしてシスコンな訳わけ?」
寝言で妹って言ってたのか。
なんか、すごく恥ずかしい。
妹の存在など知らないのに、謎の声が妹を守れだの何だの言うからなぁ。
「いえ、そんなことは……そもそも妹なんていないし……」
「ふぅん……ちみ、昔どっかで見たことあるような気がするんだよねぇ」
「え? 俺は……その別の世界からの転移者で……」
「ああ、あの装置の被害者ね。それはご愁傷さま。ん――、やっぱ見たことあるんよねぇ……ちみの母親の名前って何?」
「おふくろですか? 神薙海未ですけど……」
「海未ですって!? ちょっ……! えっ!?」
ルーシィさんが俺の母親の名前にやけに食い付く。
おふくろは普通の人だぞ、マイペースな人だったが。
「その人の顔って……写真なんて持ってるわけ……無いよねぇ?」
「いえ、ありますよ」
「あるのっ!? ちょっと、見せるわけ!」
どうしたんだろう?
元の世界からの唯一の相棒、スマホを取り出し電源をつける。
バッテリーが無くなりそうだったから、ずっと電源を切っていたが入ってよかった。
「家族で旅行に行ったときの写真です。こっちに写っているのが俺のおふくろですけど……」
「シィーちゃんじゃない! やっぱ、ちみ見たことがあると思ったわ!」
えっ……シィー?
いや、海未だって言いましたが……それより、俺を見た?
「これは確かにシィーさんじゃ! リュージくん、いったい君は?」
「他人の空似じゃ無いんですか?」
「それは無いわけ。写真でも彼女のオーラは隠しきれていないし、ちょっと魔力を与えると顕現するわけね」
ルーシィさんが家族写真に向かって魔力を当てる。
「ほら、ちみのお母さんの正体よ」
「えっ!?」
写真を見て俺は言葉を失った。
母の髪が綺麗なコバルトブルーになり、瞳の色も綺麗なエメラルドグリーンだ。
それに頭に天使の輪っかじゃないのか?
まさか幽霊……んな馬鹿な?
いやいやいや、俺のおふくろは生きている。
「シィーちゃんはね、女神なわけ。大海の女神シィー、それがちみのお母さんの正体なわけ。んでもって、あっしの幼馴染」
「ああ、間違いない! 突然、いなくなったユーナの母親じゃ」
その話が本当だとするとユーナが女神を名乗っているのって、半分は本当のことなのか。
確かに改めて、おふくろの顔を見るとどこかユーナに面影がある感じがする。
それに母親が同じってことはあの夢で謎の声から聞いた妹って、まさかユーナのことなのか?
「ちみ、少し血を貰うわね」
いてっ!
俺の人差し指をルーシィさんが突然くわえ、傷口を舐める。
なんか、すっげぇエロい感じがするんだが……。
「やっぱり……」
「ルーシィ様、もしや、リュージくんは……」
2人で話を進めないでくれ、まるで頭が追いついていけない。
「ユーナちゃんが生まれた数日後にシィーちゃんは息子と一緒に突然いなくなった」
「えっ?」
「ちみの血からシィーちゃんと謎の魔力を感じたわ。間違いないわけね」
「では、やはり……」
「ちみにも神の力、信力はあるわけ。ユーナちゃんより弱いけどね」
「まさか、リュージくんが! ユーナ、ユーナ……良かったな!」
「い、いやいやいや……ちょっと待ってください! 頭がついていけないんですが! そもそも信力ってなんですか?」
俺が本当はこの世界の住人で、おふくろと一緒に日本へ来た?
赤ん坊のころなんてまったく覚えていないから、何とも言えないけど話がぶっ飛びすぎている。
「ま、受け入れるまでは時間がかかるかもね~。ジョン、確かシィーちゃんの息子の名前ってドレイクだったわけ?」
「ええ、シィーが海龍神様の継承者にすると言って、大それた名を付けたのを覚えています」
海龍神の継承者?
幼いとき聞かされた龍を識る者と繋がる部分も……あるよな?
それにしても、俺の本名がドレイク?
今の神薙龍識のほうが良いな。
「もし仮にルーシィさんの言う通りだったとして、何でおふくろは日本へ来てしまったんですか?」
「ん~、これは憶測だけど心当たりはあるわけ」
「何ですか?」
「あっしと同じよ。この世界の間違ったルールを潰すわけ」
えっ……なんかものすごく大それたことを言ったような気がするのは俺だけか?
「間違ったルール?」
「ルーシィ様、いけませぬぞ!」
「ジョンはもう下がっていいわけぇ」
「……わかりました。もはや、何も言いますまい」
「ちみのことリュージって呼べばいい? それともドレイク?」
「……リュージでいいです」
「ほいほい。んじゃ、リューくんね。この世界の勇者歴・魔王歴って知ってる?」
リュー君って、幼馴染のあいつがつけたニックネームなんだよなぁ。
まさか、その呼び名で呼んでくる人が現れるとは。
「ええ、おじさんから聞きました。ほぼ100年周期で勇者と魔王が支配する時代が変わるとか……」
「なんで、100年周期かわかる?」
「えっ……いや、まったく検討が付きません」
「ヒューマンの寿命はあっしたちエルフと比べるととても短いわけ。長命でも100年ちょい……」
「まぁ……そうですね」
「だいたいね、魔王を倒した者を勇者、勇者を倒した者が魔王なわけなんだけどぉ」
「さっきも言っていた二代目、三代目となにか関係が?」
「せいか~い! 今回の勇者歴は孫の代まで続いているけどぉ」
「魔王が弱いからでは?」
「そこじゃないわけぇ。どっちの陣営も自分の子孫にぃ、世界の行く末を任せるって言う考えのせいでぇ、こんな終わることのない争いが起きちゃってるのぉ」
素晴らしい政治家の息子が必ずも素晴らしい政治ができないのと同じで、勇者の子だからと言って英雄的行動が取れるとは限らないってことを伝えたいのか?
……違うんだろうな。
勇者そのものが世界を統一するところに問題があるのだろう、魔王も然りか。
「んまぁ……争いは簡単に無くなるわけが無いわけでぇ」
何がしたいんだ、この人は?
「あっし的には勇者と魔王っていう存在さえ無くなってくれたらぁ、あとは力技で行けると思うわけでぇ」
「えっと、整理させてください。簡単に言ってしまうとルーシィさんや母さんの目的は勇者や魔王に世界を統治させず、全種族が共存していく世界を作ることっていう感じですか?」
「そそそ! 本当に簡単に言ってしまうとねぇ。問題は一種の洗脳と言ってもいい教育のもとで育った人たちなわけでぇ」
確かにユーナも理由が曖昧な状態で魔族っていうだけで嫌悪している節はあったよな。
歪んだ教育か……どこの世界も子どもの頃に刷り込まれると簡単に取り除くことはできないものなんだな。
歴史なんて特にそうだよな……昔、戦争を起こした側と起こされた側じゃ教わる内容がまるで違うもんな。
やられた側なんて憎しみの連鎖が教育を通して続くわけで……はぁ。
なんか、元の世界と何ら変わらなくて嫌になってきたな。
「んじゃ、リューくん。準備するわけ」
「さっき言ってた場所に行くのですか……まさか!?」
「リューくん、察しが良いじゃない! 魔界よぉ!」