このコンティニューはどこかおかしい9
何もわからない、何も考えられない。
体を貫かれたはずなのに痛みを感じない。
あまりに大きすぎる傷は痛みを感じないというが、本当だったんだ。
「……ジ!」
「リュ……さ」
仲間の声が遠くなっていく。
俺の血が辺りに広がって…………。
………………。
真っ白い……すべてが白い空間に俺はいるのか?
自分の手足が、いや身体が無い。
魂だけってことか……俺は死んだのか?
何も無い真っ白な世界……これがあの世というやつか?
もうどうでもいい。
頭もないからか考えたくても考えられない。
感情もやけに落ち着いている。
そうか、身体が無いとこうなるのか。
思考も感情も身体があってこそのものなんだ。
俺はこの先どうなるのか、そんなこともどうでもいい。
「考えることを辞めてはダメ」
なんだ……真っ白い空間に声が響く。
「考えることを辞めると貴方が無くなってしまう」
俺が無くなる?
死んだあとはすべて消えるだけなんだな。
「だから……しっかりと……自分を持って!」
自分を持ってって……ん、俺ってどんな姿をしていたっけ?
俺の名前、あれ?
何を考えていた?
ついさっきまで覚えていたことも忘れている?
なんだ……これは?
怖い……怖いという意味は理解できるのにどんな感情だった?
消えて無くなることが凄く嫌だ……少しでも抵抗しないと。
「思い出して、私の大事な……」
誰……だ……。
うっすらと俺の前に青い形をした丸いものが現れる。
「龍を識りなさい。貴方の名前は龍識……」
そうだ……俺の名前は……龍識だ。
おふくろが言っていた。
名前の由来が龍を識る者と言う意味だって。
どういう意味なのかは、いつまでたってもわからなかったよな。
元の世界じゃ龍なんて想像上の生き物なんだから。
「私が貴方をいつでも守ってあげる……貴方は貴方の大事な妹を守ってあげなさい」
妹……妹などいない。
俺は一人っ子のはずだ……。
顔の知らない親父と優しいおふくろの間に産まれ俺は育った。
今の親父はおふくろの再婚相手で、俺と今の親父の間に血の繋がりは無い。
俺の本当の親父はここにはいないって、おふくろから聞いたことがある。
妹は……普通に考えていないはずだ?
俺は一人っ子だ。
記憶が消えていく影響で思い出せないだけなのか?
「しっかりと自分を持ちなさい」
謎の言葉に無意識に従うようにいろいろなことを思い出そうと試みる。
「そう……その調子……」
俺は高校二年生……人と無駄に関わるのは面倒である時、屋上で昼寝をしていたら異世界にいた。
そこから俺の日常は大きく変わってしまったんだ。
危ない目に何度も遭ったが、心のどこかで楽しんでいる俺がいた。
そうか……俺は元の世界に戻ることばかり考えていたが、いつの間にかこの世界が好きになっていたんだ。
個性豊かな仲間との冒険、初恋の人、農業も意外と悪くなかったよな。
スローライフも悪くないが、あのうるさい奴らの相手もなかなかに楽しい。
まだだ……まだ、消えるわけにはいかないんだ!
「さて……時間ですよ。龍識……貴方がこれから考えることは目の前の人が教えてくれるでしょう。……娘のこと……しっかり守ってあげてね」
「おふくろ!」
……こ……ここは?
目を開けると見たことのある天井が見える。
ここはユーナの家だ。
「やぁっと起きた」
すごくやる気のない声が耳に入る。
「貴女は……」
「ちょっとぉ……覚えてないとかあっしのこと、あぼーんしちゃったのぉ?」
「ニーニャさんのお母さんのルーシィさん……」
「そうよ~」
「えっと、あの……」
「ちみね、1か月も寝たっきりだったのよぉ」
1か月!?
体感では数時間くらいしかないのだが……あれ?
胸に大きな傷跡があるが、しっかり閉じている。
痛みも無い……?
「ちみは運が良いのねぇ。まさか、チート? ウケる――」
「ルーシィさんが俺を?」
「町にイチキタしたときはマジで驚いたわ。そこら辺、死体だらけだし町の女の子は誰一人いないし」
「誰一人って……ユーナたちは?」
「町の男の死体以外は生存者はだ――れもいなかったのよ。ちみ、以外はね」
「俺以外……連れ去られたのか?」
「ちみも死にかけだったけどね――。いやぁ、マジ勘弁って思ったけどニーニャの知り合いだしぃ」
ルーシィさんに聞くと、町の診療所にある医療器具などもすべて取られていたようで、仕方なく町はずれのユーナのおじさんの家まで運んで来てくれたようだ。
「で――、何があったのか生き証人の口から聞かせてね。ニーニャもいないし」
「俺はスリードって奴にやられて……町は……勇者一行の仕業なんだと思います」
ルーシィさんの表情が変わる。
何か、マズいことでも言ってしまったか?
「ちょっと、ジョン呼んでくるから」
おじさんはいるのか、良かった。
ユーナが連れ去られたとしたら、また心配をかけてしまうな。
「おお、リュージ君! 無事でよかったよ」
「おじさん……すみません、俺」
「何があったのか聞かせてもらえるかい?」
「ええ」
俺は一連の出来ごとをおじさんとルーシィさんに伝えた。
ユーナたちのことは過去の経験から首都に連れ去られた可能性が高いことも予測ではあるが漏れることなく伝えることにした。
「そうかい……まさか勇者様が……何でこんなことを?」
「ふぅ……」
ルーシィさんが大きなため息をつく。
何百年も生きているせいか、この程度のことというレベルなんだろうか?
「ジョン――。あっし、いつも言ってっけど、勇者の子が勇者なわけ無いしぃ!」
「ですが、ルーシィ様。あの力のおかげで魔界の侵攻から助けられているのも事実です」
「言い訳ウザいしぃ、ちみも同じ考えなわけぇ?」
「いえ、俺は……少なくとも俺が知る勇者はとてもあんな奴では無いと思います」
「いしし、よくぞ言った! ユーナちゃんの推しメンだけはあるってわけねぇ」
ユーナは関係無いが勇者のイメージとかけ離れているのは確かだ。
「ついでに聞くけど、魔王についてはどう思ってるわけ?」
「ま……魔王ですか? 会ったことないし……あんな勇者がいるくらいですから、見てみないと判断できませんね」
「絶対悪とは結び付かないということで良いわけぇ?」
「一般的にはそうかもしれませんけど、俺は……やっぱり見てみないと。勇者が勇者をやっていない現実があるわけですし……」
「リュージ君、魔王は悪そのも……」
「ジョン、黙ってるわけぇ」
「す……すみません」
この町の長老だけあって、おじさんもたじたじになっている。
「気に入った! ジョン、この子ちょっと連れていくわ――」
「え……急にそんな! まだリュージくんも完全じゃないようですし」
連れて行く?
どこにだ?
「えっと、首都……ですか?」
「いししし、内緒!」





