インチキだと疑われる
全員の目つきがマジになっている。希望が実現するとはどういうことだろうか?たとえば女子の入学を認めるとか、女子校と合併するとか・・・それもアリってことなのか?これはもしかしてものすごくチャンスなのではないだろうか。
「どうやったらドウラン祭に参加できるんだ?」
それまでロバ爺のことを見下すように見ていたシェイクスが前のめりになった。
「立候補したいものは誰でも参加できる。ただし参加する者の多くは派閥を形成し集団戦を行う。その観点からも1年生ではまず無理じゃな。」
「ちっ」
「まあ人数が増えれば、それだけ裏切りやスパイが入り込む余地が増える。よって人望や統率力もその人物の力とみなすということじゃな。」
なるほど、確かにヒヨっ子の俺達には危険すぎる。下手をしたら、いや下手をしなくても全校生徒の前でタコ殴りにされる公開処刑が待っている。だがしかし、目の前に少しでも可能性があるならそれに挑戦しなくては男が廃る。漢レオナルド、夢のためにいざゆかん!!
「はい!俺立候補します!」
右手のみならず左手も上げてアピールする。しかし、俺のやる気とは裏腹に教室の熱は急激に冷えていた。
「おいおいお前話聞いてたのかよ。」
そう言ったのは双子のモヒカン君だ。足を机の上に乗せあくびをしている。貴族のくせにお行儀の悪いことだ。
「そうだね、いくらなんでも僕も無謀過ぎると思うよ。そもそも1年生と上級生では使える魔法も大きな開きがあるんだ。それに加えて相手は集団戦をしてくるんだぞ。ここは1年我慢してせめて来年参加するのが良いと思うよ。」
なに!ルークにド正論を言われてしまった。うぅやはり無理なんだろうか。俺の考えは無謀すぎるのか・・・だがしかし、ここでチャンスを逃したら、最低でも1年は野郎どもだけで過ごさなくてはならない。そしたら俺のお肌は干からびてしまうのではないだろうか?浜に打ち上げられた魚状態だ。
「ハッハッハッハ。俺は君が参加するのに賛成だよ。入試でどんな手を使ったのか知らないが、インチキで首席になったくせに調子に乗ったその顔。おまけにルーク王子に対しても無礼過ぎるんだよ。俺はどうしても君のその伸び切った鼻がくじかれるのを見てみたい。もし君が出場したら飯ウマだよ、飯ウマ。首席様なんだろ?俺達にその力を見してくれよ!」
くそうシェイクスめ!シティーボーイは口が達者なのか?
「まあ、ドウラン祭は一か月後じゃから決めるのは今すぐでなくともよい。それにもしかしたらルールが変更になるなんてこともあるかもしれない。それよりもな・・・なんじゃったかの?・・・・おおそうじゃ、そうじゃ。今日はこれからみなの実力を直接把握しておくために儂の前で実技試験でもしてもらうぞ。」
「ええ!」
巻き起こるブーイングを気にすることなく、ロバ爺が箱から取り出したのは、手のひらサイズの小さな白い球だった。というか一見すると、幼少期からママンに遊びがてら渡されていたものと同じだ。魔力を流し込むと黒色に変色したり大きさが変わる。今の俺は、寝てても簡単に形を変えることが出来る。
「これはなまず市場に出回らない貴重な石でな、これ1つで大金貨10枚はするんじゃ。幸いここには石が10個ある。みな1つずつ手に取ってみるんじゃ。」
ロバ爺が楽しそうに俺達を見ている。人に物を教えるのが好きなのだろう。全員の手にいきわたったのを見て実演を始めた。
「名前はプリズム石といってな、魔力を込めると黒色に変色するんじゃ。こんなふうにな。」
みるみるうちにロバ爺の手に握られている石が黒色に変わった。しかしみんなの顔には困惑と鼻で笑うような雰囲気が漂っていた。
「魔力なんて誰でも込めることが出来るだろ!」
一際高い女の子のような声に同意するかのように何人か頷いた。
「ホッホッホ、そうじゃな。じゃあダックス。そなたからやってみるのじゃ。」
「俺の背が低いからって舐めるなよ!こんなもの子供だましもいいとこだ。」
フードを被ったダックスが憤慨しながら魔力を込めた。するとプリズム石は、確かに変色をはじめたがロバ爺の球と比べるとまだまだ白い。どちらかというと灰色に近い。
「真っ黒にならないのは上手く魔力が練れていない証拠じゃな。」
「なにを!魔力練度なんて誰がやったってそんなに変わるわけないだろ!ぐむむむ。」
踏ん張り過ぎて、フードの影で見えにくいがダックスの顔が赤くなっている。その後全員の様子を見ていたがみんな灰色にしかなっていなかった。たしか俺は3歳ぐらいで初めて触った時に真っ黒になって割ってしまったんだが。
・・・俺が知っている石とは別の石なのだろうか。不安になってきた。そりゃそうか、うちは貧乏だからそんな貴重な石を買えるお金なんてあるはずがない・・・なんだ別物か。
「ほれほれ、ボーっとしとらんでお主もやってみるのじゃ。」
「あ、はい。」
恐る恐る魔力を練る。すると一瞬で小さな玉がバスケットボールぐらいの大きさになった。もちろんどこからどうみても吸い込まれてしまいそうなレベルの真っ黒だ。ロバ爺よりも黒いかもしれない。
「あれ?」
いつものようにできてしまった。ということはやはり同じ石なのか・・・貧乏なママンがどうやって手に入れたんだ?まさか盗んだ物を俺に与えていたのか?
「ホゲっ!??なんじゃそれ!?」
シワシワのたれ目が見開かれ口は半開きで固まっている。俺がやるのを横目で見ていたクラスメイトたちも口が開きっぱなしだ。
ザワザワザワ
ようやく口を開いたのはシェイクスだった。
「なんだそれは!入学試験の時のようにインチキしやがったのか!?お前の石にだけ細工してあるんだろ!どれだけ目立ちたがり屋なんだ!」
とんだいいがかりだ。しかも今は軽く魔力を練っただけだぞ。
「え?インチキなんてしてないけど。逆になんでシェイクスのはそんなに白いんだい?俺は3歳で初めて触った時に真っ黒になって割れてしまったんだけど・・・」
「ホゲっ!?なんじゃと!?」
あれ?ロバ爺がさっきよりも固まっているぞ。
「き、貴様~!俺の事をバカにしているのか!!」
むむ?バカにしたつもりは全くなかったんだが・・・純粋な疑問を聞いただけだったのだが・・・何が気に障ってしまったんだ?
「そもそも底辺学校といえども、貴族でも王族でもないお前が首席の時点でおかしいに決まってるだろ!入学試験のあれもまぐれに決まってる。どうせ何かの演出装置を仕掛けてたんだろ。あの時はまんまと騙されたが今回はそうはいかないぞ!」
ザワザワザワ(インチキ?あいつインチキしてたのか?)
「・・・そんなこと言われてもな。」
「俺も今年の首席さんがどんだけやるのか気になるな。不正で主席が決まったんじゃ納得いかないしな。」
「やめなよテッド。初対面なんだしそんなケンカ腰に接したらいけないよ。僕もまあ気になるけど。」
双子のテッドとケビンがシェイクス陣営に加わった。アレだなアレ、ケビンはさんざん保険をかけておいてから、なんだかんだ最後に自分の意見を言うタイプの奴だな。
「もし本当に実力があるなら今すぐ俺と決闘してみろ!受けないってことは自身が無いってことだろ。」
「今?」
「もちろんだ。お前に時間を与えたらまた小賢しいインチキを働くだろ!」
・・・う~む。困った奴だ。ロバ爺は止めるどころか先ほどから固まったままだし。他の生徒も興味ありといった表情で止めようとしない。ルークはやれやれといったかんじだ。
「分かったよ。」
「よし、そうと決まれば闘技場まで来い!」
ブックマークありがとうございます!ポチッとな(@^^@)
今日から令和ですね。個人的にはもっと面白い小説が書けるようになりたいです。