―プロローグ―
プロローグです
――愛しき人。愛しき人。
この詩が届いたならば、傍に来て。
夜だけで良い。どんな姿でも良い。
ただ傍に来て。ただ傍に居て。
愛しき人――
美しい狼を見た。月光を反射させる銀色の毛並みを持つ狼。
清水の湖の畔。静かに佇むその姿に、目を奪われ、そして自身の何かが“知っている”と訴えた。
その存在を知っている。
求めている。
ただ唯一の、私の銀狼。
何処までも澄んだ紫の瞳をした銀色の狼は、静かな夜明けと共に、人の姿に変わる。
「愛おしい人」
声が届かない事は知っている。この社から出ればただの音。声には、言の葉にはならない、風を震わせるだけの音。
それでも彼に届いている。
風の震えがふわりと彼の前髪を揺らす時、優しく微笑んでいるのが見えるから。
『ずっと傍に』
そう呟く彼の言葉が届くから。
ここには守る者達も居る。だからこそ、強くなくてはならない。それでも、あなたを求めている。自身の全てで。
何故?
それは、あなたがずっと見ていてくれた。ずっと、傍で。
脆く崩れそうな時も。孤独に寂しくなる時も。そっと傍に居てくれた。
私は天狼。そして禁忌なる子。
地の全てを統べる力を持ちながら、存在自体を消された禁忌の子。
だからこそ、あなたの存在を知らなかった事にする。
この宿命を背負うのは私だけで良い。
私は生良・フィナラム。
現大守の長の娘にして、禁忌の子ゆえ社に閉ざされた、消された存在。
だから歌う。社の結界を出れば、ただの風にしかならなくても。ただ、愛しいと伝えたいから。
唯一、愛した人だから。
そうして今夜も歌えば、銀狼は姿を現してくれる。
――それだけで、良いの。




