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それは、唐突の事だった。
あまりにも一瞬過ぎて、あまりにも不釣合いすぎて、誰にも何も分からなかった。
煌く。白い輝きが龍城に近づく。そして熱さが広がった。
ゴトッ。
重いものが落ちる音がした。
「……あ?」
己を見た。
(欠けている)
何かが著しく欠けている。
痛みが走る。全身に響くものではない。一部分に追求した痛みだ。
痛覚の原因と思われる場所を見ようとして、けれど見られない。
そこには傷がない。いや、傷のある場所がない。
そこにはない。あるはずのものが、ない。――足が、欠けていた。
体がバランス感覚を失うのよりももっと前に、喉の奥から叫びが上がった。
「ぅぁあああああああああああああああああ!!!!」
雄叫び。慟哭。嘆き。
そのどれでもない、恐怖。湧き上がる不安。全身を震わす、気持ちの悪さ。
――拒絶。
現実の拒絶。
痛みは猛烈だが、それを遥かに凌ぐ、脳。
頭痛だ。何の攻撃も受けていない、無傷の頭蓋の中身が激しく痛む。
眼球が剥き出しているのではないかと思われる圧迫。これ以上ないほど見開かれた目が逸らせずにいる先、――あるはずの龍城の脚。
付け根から甲までの脚。そこには利き脚と同じく、すらりと伸びた脚があるはずである。
(ない。脚が、ない)
理解できない。
それが痛みとなって襲う。
激痛よりも拒絶の痛みが龍城の全てを支配していた。嗅覚、聴覚、味覚、視覚、触覚。五感の全てが役立たずになったように働かない。
龍城の中にあるのは違和感。
そのとき、使用できないと思っていた視界の端に、何かが映りこんだ。
(……吐きそうだ)
不快感に押し潰されそうになる。
気が狂いそうなほどのムカつきは強烈な吐き気をもたらす。
そこにあったのは、雪の白を汚す赤黒い液体。固形化したようなそれの中に溺れる何らか。いや、それは見慣れた景色だ。
殺伐としたアカデミア生活において、戦闘なもはや日常だ。それがない日の方が少なく、戦闘において赤黒い物体を見ることも日常だ。
それは切り落とした相手の遺物。相手の一部。生命の残滓が微かに残る、息絶えようとする残骸。
それを成すことを目的とし、幾度剣を振るっただろう。
宙を舞うのを見た。弧を描く血の線を見た。
雪の中に重みから沈みこむのも詳細まで知っている。その感触も、その様子も、ありありと思い出せた。――敵の身体の一部がただの肉塊となりさがる様子は見慣れていた。
敵の苦しみもがく姿もよく知っている。見慣れた、その日常。
そこには優しさも慈悲もなく、ただ無情に月が見下ろし、ただ青い空が広がり、ただ現実が押し寄せる。
それが、目の前にある。
白一面の視界に、赤が目立つ。
それは酷く慣れ親しんできた形の、よく見知った部分。肉塊になりはてたそれは、――龍城の身体の一部。
そう認識した途端、壮絶な痛みを訴えていた頭がすっきりとなった。
体に走る痛みも遠ざかり、――視界の赤も見えなくなった。
「龍城――ッ!!」
ふと見上げた視線、風がフードを被った敵の素顔を晒した。
そして、(マジ、かよ……)
驚愕と、怒りと、困惑と――安堵をその顔に思った。
吾平は気づいてないのだろうか。それは龍城もよく知る人物が立っていた。




