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「こんなんじゃ駄目だ。こんなんじゃ――」
(追いつかない)
吾平の強さは突き抜けている。それは孤高だ。孤独ゆえに手に入れたもの。手に入れれば孤独を強いられるもの。儚く、美しいその姿は洗練され、削ぎ落とされた全てのものが象った。固くも脆い、ダイヤモンドのような存在。
その、隣に立ちたいと思った。
ならば、同様に強くならなければならない。孤高の強さを“彼女”を守れる強さを――手に入れる。犠牲にすべきは己自身だった。
「――――」
手にした金属は覚悟した心から伝わったように熱を発している。掴んだ指が汗で滑る。
震える手を叱咤し、ゴクリと息を呑む喉を開く。
(手に入れるんだ、強さを。強さを、――吾平を)
「止める事だね」
弾ける様に顔を上げた。動揺が手から金属を取り落とし、それがフローリングに鈍い音をさせて落ちる。その道筋はゴロゴロと音を立てて、やがて靴にぶつかり止まる。
「君が望む結果にはならないよ」
こんなもの、食べてもね。そう言って足元、彼は靴に僅かな衝撃を与えた金属塊――ファラカイナを取り上げる。そして目元に寄せると検分するようにジロジロと全体を見回す。
「……しかも無刻か。君、馬鹿だろ」
通常のファラカイナ使用は宝石を付着させて連想を容易化し、彫刻によってその能力を刻み込む。――そして、舐めることで効果を発揮する。
けれど、その方法は人ならではだ。人でないものならば……そう、サリファンダならば、噛み砕く。だから、人と化物に戦力差が生まれる。体内に交われば交わるほど、ファラカイナは能力を発揮する。それを、人がするのは困難だ。限度がある。
――たとえ、より強い力を得ることが出来ても、金属塊を飲み込むことは禁忌だ。
飲み込むことだけに問題があるわけではない。ファラカイナの強制力に、酔う。
「目的意識もない“戦闘意欲”は君の望むことなんかちっとも気にかけない。あるのはただ、目の前の餌を貪り食らうことだけ。――君は守りたい者に手をかける。弱者を嬲る。人の意志を超えてそれは動き出す」
無刻――導を刻み込まずにいるファラカイナ金塊のことだ。
方向性のないそれは彫刻による強制力がないため、現象能力が増大する。囚われない思考は武器の型を意のままにし、使用者の思考をトレースする。
(けれど、同時にそれは酷く負担を強いる行為でもある)
すべての意識を振り絞り、ファラカイナにのみ意識を集中させる。そうでなければそれは現象として成り立たない。水が掌から零れ落ちるようにして、其れはいとも邯鄲いてからすり抜けていく。流動する流れを押し留め、型に嵌める。堰き止めるのが思考、意識の役割だ。
「……君は中毒者どころか、サリファンダそのものになってしまうかもしれない」
失笑したのはどちらだったか。
ただ、月を背にした者だけは自嘲気味に哂う。
「それでも――躊躇っていたら、いつまでも弱いまんまだ」
「一つ、面白いものをあげよう」




