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50話

「今日から世界中が破滅へと走り出す。 勢いよく走り出してしまった欲望はもう止められない。 だけど、あなたが本当に止めたいなら、あなたにはその力がある」


 彼はその名を言われずとも、それが何かは理解している。

しかし、それは本当に正しいのだろうか。

同じ力で対抗する事は可能だが、結局の所は同じ状況になって事態が悪化する可能性も高い。

それでは戦う意味が無い。



『力に力で対抗する行為は間違いじゃない、お前は正しい事から逃げているだけだ』


「あ、それとも今はその時じゃないって耐えてみる? まあ大変な事になるだろうけど」


『もう、戦いは始まってる。 今からでも手遅れなぐらいだ』


 「制御出来ない力で戦うのはごめんだ。 その先に未来はないからな。 俺はそんな馬鹿な選択肢は取らない」


「あはは、カイルってホント馬鹿だねぇ。 何も捨てたくない癖に手が届きそうな全てを守ろうとして、結局、最後は何も守れなくなる。 でもそんなあなたが好きよ、愛してる」


 カイルの唇に自身のそれをそっと触れあわせてから彼女は去っていった。


「あらら、もう行くのか。 まだ時間はあるんだけど……君に選択肢をあげたのかな」



 結局彼1人が残された。

何も出来ない、無力な男だけがその場にポツンと残されて、そんな彼が自分に言い聞かせるように呟いた。


「まだ、諦めるには早いはずだ」


 もう何もかも手遅れに感じられる。

それでも、出来る事はまだあるかもしれない。

上手くいけば……


 そんな希望を抱いて、彼は現地へと向かう。

心に湧き上がる雑音を全力で意識の外へと追い払いながら、魔力の気配がある方へと走った。



「カイル!」


 聞き覚えのある声。

緊急時である事を理解しているらしく、立ち止まる事を要求などせずにカイルに並走してくれていた。


「ミヤ、大変な事になった」


「多分、こっちの方が重大な問題だよ」


「知ってるよ、どうせ内戦だろう」


 答えながら、襲ってきた敵6人を同時に斬り伏せる。

パキ、と6つの剣の折れた音が聞こえた頃には、彼らは既にその場を通り過ぎていた。


「何故、いやどうやって知った? 君はあそこから動けなかったはずじゃ……」


 確かに、あの場ではマトモな情報はほとんど手に入らなかった。

本来であれば。


「ダンテが教えてくれたよ」


「って事は今回も彼女が関わってるのか」


「そうだ」


 たった1人でブレイスの内戦を引き起こした彼女はもう天才なんて次元をとうに超えてしまっている。

言葉として表すならば、バケモノだ。

この力を研究させ、争い合わせた先に何があるのか、彼女が考えている事はサッパリカイルには分からなかった。


「ただ一つ、分かるのは、このままじゃヤバイ事になるって事だよね」


 ミヤは普段と全く同じ口調でそう言いながら、突き出した手から前方に向け竜巻を起こし、風のバリアによって道が完成した。

その先は、カイルが進もうとしていた道ではないのだが彼は余計な事は言わずに一緒に進む事にした。


「だろうねぇ、もう国内は面白い様に荒らされてるけど、兄さん達は即座に戦争を始めたよ」


「あの人は、この短時間に止まったのか?」


 知っている前提で話したカイルに対して、全く戸惑う様子を見せずに答えた。


「止まってない、ただ一時的に壁を作って動けなくしただけだよ。 で、協力すればいいのにみんながお互いに信じ合えないせいで今戦ってる」


「これから、どうするつもりだ?」


「そうそう、僕の任務はカイルを兄さんの元へ連れて行く事。 理由は教えてくれなかったけど、これからに関しての話があるってさ」


「随分と余裕だな」


そう言うからには、彼の作り続けている道はリュウへと繋がっているのだろう。

何を言われるか分からないが、無視も出来ない以上行く以外の選択肢は存在しない。


「今はまだ誰も本気になってないからね、そうなったら、もうこの国だけの問題で済まなくなる可能性もある」


「下手したら、幾らか国が滅ぶな」


 この国の戦力は国内だけにあるわけではない。

中枢が傀儡化されている国は軍を出せと言われればそれに逆らえない。

そうなれば、邪魔な国外戦力を叩くためにそれぞれが動き始めるだろう。

互いに敵が多いのですぐには決着は付かず、泥沼化する事は間違いない。

そして異常時である事からデシアにような危険な力の研究に対しての精神的抵抗が弱まる。

それはきっと彼女の、ダンテの思うツボだ。


「……国が滅ぶぐらいで済めば良いけど」


 世界一の国の中の中枢の人間達。

彼らはそれぞれが一国以上の戦力を個人のみで持ち合わせている。

そんな彼らが力を求めて争い合う図は、ヒトという種にとって決して有益な事ではない。

しかし止めようにもそれが出来る可能性を持つだけの権力者は全てこの争いに参加させられているだろう。

彼らが一声かけて、悪い返事を返す事が出来るものなどこの国には存在しない。


「兄さんは今回の状況を考慮して条件付きでミラ姉さんの安全と自由を約束してくれた。 今は話すなって言われてるから言えないけど」


「彼女はもう……」


「勝算はある、だから、やれることをやろう」


 聞くまでもなく、絶望的な迄に細い橋を何本も渡り続けて、その上で世界が滅ぶ程の幸運に恵まれなければ本当に望む結果は得られないだろう。

それでも、可能性があるのなら。


「そうだな、やれる事はやって損はないはずだ」


 カイルはその考え方が間違いだと、知っている。

手を出す方向を間違えれば、己の身を滅ぼす事になる。

しかし彼女を救う事にメリットはある。

彼女の遺伝子がダンテと同じ物であれば仮に彼女が救われた場合、同じ方法でダンテも救える。

希望を力に変えて、より強く地を蹴り走り続ける先は彼らが通う魔法学校だった。

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