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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第06章 それぞれの戦い編
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第057話 駆け出す * 学校〈ユスラン〉

ユスラン目線。

『第050話 疑念』の続きです。

校舎付近まで寄せた緊急用の馬車に乗って外出するなど非常事態だ。

リュカに何かあったのだろうか。

屈強な御者数名に従って、蒼白な顔つきでリュカが馬車に乗り込むところが見えた。あまりよくない急用か。あれほどの装備を考えると相当遠くまで向かうのだろうか。

最近、まともに口を聞けていないので気にはなっていたのだが、結局声を掛けることが出来ないまま扉が閉められ、即座に動き出した。


そういえば、レイはどうしている?


胸騒ぎがする。辺りを見回したが、やはり長身の派手な赤髪は見当たらない。

授業もちょうど終わった。『王宮』に戻ったか…?



……いや。

もし、リュカの馬車を、追いかけるとしたら。


変な仮説が私の思考を過る。


環境的に、見知った者の多い学校よりも、学校外の方が討ちやすい。


この機会を利用して、リュカを狙い討つ可能性は十分にある。



確かめるのは、今しかない。



考えるよりも先に、教官棟に足を向けて駆けだしていた。


学校の立つ高台より一段下がったところに存在する、住み込みで働く教官のための宿舎だ。

潜入するのは容易ではないが、確かあそこにだけ厩舎があったはず。

すぐにでも駆け出せるように馬を用意しているとするならば、繋げても不自然でない場所はそこしかない。

そして、教官棟から伸びる東通用門へ通じる道。厩舎からこの山を下るにはそこを確実に経由するはずだ。

レイがつかず離れずリュカを尾行するのであれば、すぐにでも向かう必要があると判断した。


ただ私自身、そのような場所を散策しているところを教官にでも見つかった場合、今の段階、説明できる言い訳など持ち合わせていない。

そんなすぐにでも思いつくようなリスクも顧みず走り出した自分には我ながら驚いたが、悠長に考えている時間などないのだ。

私がいなくなっていい時間などほとんどない。恐らく今でも、誰かが『セブシェーン家の子息』である私を探しているはずだから。


だが、もう走り出したのだ。今更だ。


何のために?

それは、リュカのあの笑顔を守るためだ。

自分でもよく分からない、自嘲的な笑いが込み上げてきた。



練習試合の格好のままだったが、とにかく全速力で走った。

乱暴に柵を飛び越え、乾ききっていない泥濘ぬかるみに足を取られながらも疾走した。



レイに対する疑念を確かめる機会は今しかない。


私は、直接、リュカを守ることは出来ない。


ただ、彼に害為す者が身近にいるのなら、私は全力で阻止する。

リュカの直向きな努力を蔑にする権利など誰にもないし、友達として許せないからだ。


しかも、それが、あのレイであるなら、なおさら許すことなど出来ない。


勘が外れるに越したことはない。

ただ、納得したいのだ。

全て、私の愚かな思い過ごしであってほしいと。



舗装された道よりもショートカットするため、雑草の生える砂利で出来た崖を駆け下りる。

するとそこには教官棟が見えた。こじんまりとした佇まいで、『王宮』とは随分格差がある。

教官自らが敷物を干している様子もうかがえることに驚きを隠せないでいたが、そんな珍しい光景に目を奪われている時間もない。

物陰に隠れながら人が集まりそうな共同水路から一旦離れ、食堂の裏手あたりまで来ると、広く開けた場所に誰の趣味かはわからないが小さな畑のようなものがあり、その奥には壊れかけた扉のようなものが見えた。

その先が東通用門に通じる道だろうか。


すると、非番の教官が数名下りてきて雑談しながら近づいてくる気配があった。

とりあえずやりすごすために掃除道具置き場の影に隠れると、彼らは無防備にも色々な話を始めた。

大きくは『王宮』の生徒とその親への愚痴。そして、リュカのことだった。


その時、驚くべきことを聞いてしまった。


「え?学長がリュカを退学にさせるって?」


なんだって?慌てて声が出そうになったが、グッと堪えた。


「副長が止めてるらしいぜ」

「どういう風の吹き回しなんだ?というか、リュカのバックは「学長」ってのに賭けてたのによ」

「お前だけじゃねぇよ、ほとんどの奴は学長に賭けてたって…。まさかの副長はないわな」

「あたりまえだろ。徹底的に潰そうとしてんのに、ホラ、例の別企画」

「あぁ、俺も聞いたアレは相当ヤバいな」

「なんつっても、同行者、アイツだろ?」

「……でも、対象がリュカって考えると、ちょっと興味あるけどな」

「お前、教官失格だな」


アイツが誰を指すのかわからなかったが、レヴィストロース様がリュカを退学にしようとしているとは、どういうことだ。

モヤモヤした気分にはなるが、今は単なる噂だと思ってやり過ごせばいい。

気にはなるが、ここでずっと聞き耳をそばだてている訳にもいかないのだ。


少し遠回りにはなるが、掃除道具置き場から裏手に周って道に出るしかないか。


蜘蛛の巣に絡まりながら、姿勢を低くしたまま裏手に回り、しばらく誰も通らないような隙間を潜り、雑草をかき分けながら走り続け、ようやく壊れかけた扉の周辺に着いた。


すると、数秒もしない間に上から軽快な蹄の音がした。それも一騎だけ。


反射的に重りのような鬱々とした気分が胸のあたりにとぐろを巻いた。

私の愚かな仮説が現実になってしまったからだ。

見なくても分かる。

溜息を漏らして音の方に目をやると、想像通り赤髪を揺らしながら走る一頭の白い馬が迫ってくる。



間違いない。見覚えのある長身の男だ……。



ちょうど練習試合で使用した剣が腰に差したままだったので、それを引き抜いて道に飛び出し、行かせまいと中央で構え行く手を遮った。

「とまれ!」

馬が雄たけびをあげた。

突然の出来事だったが、男は手慣れたように、私の鼻先数センチのところで力強く手綱を引いたのだ。


馬にのる男は、もしかしなくても、あのレイだった。


偶然にしては、あまりにも出来過ぎている。

リュカが学校を離れる隙を狙ったかのようなタイミングで、想像通り彼はここを『馬』で訪れた。


これでどのような言い訳をするんだ。

レイ、お前の裏切りは許せない。



自ずと剣を持つ手に力がこもった。




ユスランvsレイ。続きます。

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