第二十話 文化祭襲撃
嵐ヶ丘高校の文化祭――。
笑いと歓声に包まれたその日、血と暴力が校舎を覆うことになる。
朱雀会が仕掛けたのは、吉田の知略による“消耗戦”。
嵐ヶ丘の戦力を削るための襲撃だった。
秋晴れの文化祭。校門前には焼きそばやたこ焼きの匂いが漂い、生徒たちの笑い声が響いていた。普段は喧嘩と緊張が渦巻く嵐ヶ丘高校も、この日ばかりは少し柔らかな空気に包まれていた。久里鬼は両手にフランクフルトと焼きそばを持ち、みさに笑われながら食べ歩いている。鷹鬼は模擬店の前で涼しい顔をして、ただ周囲を観察していた。
その空気を切り裂くように、校門が乱暴に開け放たれた。十数人の不良たちがなだれ込み、怒号が響く。朱雀会の下っ端だった。
「嵐ヶ丘のクズどもォ! 吉田さんの命令だ、片っ端から潰せ!」
一瞬で歓声は悲鳴に変わり、生徒たちは逃げ惑った。
松浦はすぐさま反応した。
「やっぱ来やがったな……俺がやってやる!」
テコンドー仕込みの蹴りがうなりをあげ、最初の一人を校舎の壁に叩きつけた。続けざまに回し蹴りで二人目を吹き飛ばす。だが三人目は背後から椅子を振り下ろした。肩に直撃し、松浦は膝をついた。
「くそっ……!」
それでも食いしばり、血走った目で立ち上がる。全身に痛みが走る中、最後の力で後ろ蹴りを放つと、鈍い音と共に男は崩れ落ちた。松浦はよろけながらも立ち、歯を食いしばった。
「俺は……弱くねぇ……!」
辻もまた、文化祭展示の教室で襲われていた。二人組の朱雀会が嘲笑いながら囲む。
「お前みてぇなヒョロ、秒で沈むわ!」
「俺だってやってやる!」
辻は机を蹴り飛ばして一人にぶつけ、その隙に渾身の膝蹴りをもう一人の鳩尾に突き刺した。男が吐血して倒れるが、残った一人に押し倒され、顔面を殴られる。
「ぐっ……はぁ……!」
血を吐きながらも腕を絡め、必死に首を締め上げる。男は暴れるが、辻の気迫に押され次第に力を失い、やがて白目を剥いて崩れた。辻は肩で息をしながら立ち上がり、拳を震わせた。
「俺は……もう逃げねぇ……!」
校舎裏では菅野が立っていた。十数人の朱雀会の雑魚が一斉に襲いかかる。
「嵐ヶ丘の王も堕ちたもんだな!」
「あいつには負けたが、俺を舐めんじゃねぇ!」
菅野の拳が火花を散らすように振り抜かれると、三人まとめて吹き飛んだ。頭突きが骨を砕き、肘が鳩尾を抉り、蹴りで男たちが宙を舞う。まるで獣の咆哮のような圧力で、菅野は雑魚を寄せ付けなかった。生徒たちはその光景に震え、口々に叫んだ。
「やっぱ菅野は怪物だ……!」
そして校庭中央。鷹鬼と久里鬼が肩を並べた。
「俺たちの学校を荒らしたツケ、払わせてやる」
久里鬼が拳を握りしめる。
「雑魚をいくら並べても結果は同じだ」
鷹鬼は冷静に呟いた。
敵が一斉に突っ込んできた瞬間、久里鬼の拳が一人の腹をえぐり、鷹鬼の蹴りがもう一人を宙に舞わせた。二人が同時に動くたびに、敵は倒れ、地面に転がる。残党が逃げ出す頃には、校庭には朱雀会の屍が散乱していた。
嵐ヶ丘の文化祭は、笑いと歓声から一転し、血と怒号に染まった。だが、吉田“インテリ”の姿はなかった。
「……来なかったな」鷹鬼が低く呟いた。
久里鬼は歯ぎしりしながら吐き捨てる。
「チッ……最初から戦力削りかよ……!」
松浦と辻は血だらけのまま頷き、菅野は唇を噛みしめていた。
吉田はまだ動かない。だが確かに、この文化祭襲撃は彼の策略――嵐ヶ丘の力を少しずつ削るための消耗戦だった。
鬼たちはまだ知らなかった。これは嵐の序章に過ぎないことを。
文化祭を襲撃した朱雀会。
嵐ヶ丘の精鋭はそれぞれ勝利したが、吉田は姿を見せなかった。
それは単なる試し――嵐ヶ丘を削り、消耗させるための作戦だった。
鬼は二つ。
だが、その先に待つのは朱雀会の本当の牙。
嵐ヶ丘の嵐は、まだ序章にすぎなかった。




