第二十一話 松浦、罠に落ちる
文化祭で雑魚を倒し、確かな成長を感じた松浦。
双天鬼と共に戦えることが誇りであり、自分も一員だと信じ始めていた。
だが、その未熟な自信が朱雀会の罠に絡め取られる。
それは吉田“インテリ”の計算ずくの一手だった。
秋の夜風が吹く公園。街灯の下、松浦は汗を滴らせながらシャドーを続けていた。
「まだ足りねぇ……俺はもっと強くならねぇと……!」
文化祭での戦いが頭に焼き付いていた。双天鬼が余裕で敵を薙ぎ倒す横で、自分は必死に血まみれになりながらようやく敵を倒した。悔しさと誇りが混じり合い、彼を突き動かしていた。
膝が震え、呼吸が荒くなっても止めなかった。蹴りを繰り返し、拳を叩き込み、声にならない叫びを吐きながら鍛え続けた。
「俺は……俺はもうただの取り巻きじゃねぇ! 双天鬼の仲間なんだ!」
その時――低いエンジン音が闇を切り裂いた。
「……ッ!」
振り返ると、数台のバイクが円を描くように彼を囲んでいた。エンジン音が響き、ヘッドライトが松浦を照らす。
「へっ……嵐ヶ丘の松浦だな」
「双天鬼の腰巾着。ちょうどいい、吉田さんが欲しがってんだ」
朱雀会の下っ端たちが笑いながらヘルメットを脱ぎ捨てた。
松浦は歯を食いしばる。
「腰巾着じゃねぇ……俺は、俺自身の力で戦えるんだ!」
突っ込んできた一人の顎を、松浦の回し蹴りが正確に捉える。バキッと音がして、男は白目を剥いて崩れ落ちた。すかさず二人目の鳩尾へ前蹴りを突き刺し、三人目を肘打ちで倒す。
「どうだ! 俺だって戦える!」
息を荒らしながらも、松浦の瞳は燃えていた。だが、朱雀会の連中は笑っていた。
「なるほど……まぁそこそこはやるな」
「けどよ、相手はまだ十人いるんだぜ?」
次の瞬間。背中に鋭い痛みが走った。鉄パイプが肩に叩きつけられ、骨に響く衝撃が体を貫く。
「ぐっ……あ、ああっ……!」
膝をついたところに、複数の足が容赦なく降り注いだ。腹を蹴られ、顔を踏みつけられる。松浦は必死に腕でガードしながらも、血が口の端から滴り落ちた。
「クソッ……まだ……俺は……!」
朦朧とする意識の中で立ち上がろうとする。だが、頭に拳が叩き込まれ、視界が揺らぐ。
「倒れねぇ……俺は……双天鬼の仲間なんだ……!」
それでも声を絞り出し、最後の力で蹴りを放つ。だが敵には届かず、逆にロープで腕を絡め取られた。
「暴れるなよ、坊や」
「吉田さんの前に引きずっていってやる」
松浦は必死に抵抗したが、十人の力には抗えなかった。血と汗にまみれたまま、バイクの後ろに縛りつけられ、無理やり連れ去られていく。
夜の公園には、散らばった血の跡と、倒れた鉄パイプだけが残された。風に揺れるブランコのきしみが、不気味に響いていた。
成長を信じ、強さを求めた松浦。
だがその未熟な自信は、朱雀会に利用されただけだった。
彼は無残にも拉致され、双天鬼を誘き出す餌とされる。
吉田“インテリ”の狙いは明確だった。
――嵐ヶ丘の力を、一人ずつ削り取ること。




