どうせ悪い方やろな
プルルルルル。プルルルル──ピッ!
「もしもし」
『……荻野だな!?落ち着いて聞けよ!?大変なことになってるんだっ!!』
電話を掛けてきたのは俺のクラスメイトだ。
「いや、まずはお前が落ち着けよ」
『えっと、二ノ宮楓が事故に遭ったんだ。病院へ運ばれたんだが、間もなく息を引き取ったらしい』
「………え?」
……。
……。
……。
親に無理を言って引越しを先延ばしにしてもらい、葬式に行った。
俺に同情してくれるクラスメイトも多々いた。
どうやら俺と楓さんの仲は意外と広まっていたらしい。
でも、その同情はかえって鬱陶しかった。
別に同情してもらうことが嫌なんじゃない。
皆、本当のことを知らないからだ。
事故の原因は聞いた話によると、楓さんの前方不注意だったらしい。
そして事故に遭う前、彼女はいつも考え事をしていたという。
俺はすぐに悟った。
自分のせいで彼女が死んだのだ、と。
俺が酷いことを言ったばかりに彼女は傷ついて……。
そんなことがあったことを知らないクラスメイトは、俺に優しく話しかけてくる。
心がズタズタになった。
もう何もかもが嫌になって俺は逃げ続けた。
逃げ続けたはずだったのに。
それなのに、俺はまた同じ過ちを犯してしまった。
千堂里佳。
「……嫌われただろうな」
もっと最初から冷たくしておけば良かった。
引越さなくなったことで、少々浮かれていたのかもしれない。
誰かに恋をするなんて許されないと分かっているのに。
いつの間にか深い場所まで踏み込んでしまっていた。
ならば、その場から引き返せばいい。
たったそれだけのこと。
ふと時計を見ると8時半過ぎだった。
学校に間に合いそうにないし、今日は何もする気になれない。
こういう日は寝ているに限る。
『風邪引いたんで休むわ』
送信、と。
里佳さんは学校に来てるのだろうか。
それとも俺のように休むのかな?
……。
……。
何また彼女のこと考えているんだ、俺は。
もういい、寝よう。おやすみなさい。
一方その頃、教室ではこんなやりとりがあった。
ブブー……ブブー……。
「カズっち。オナラするならトイレでしてきなさい」
「違うわ!ケータイ震えただけや!分かってて言っとるやろ!?」
「それで誰から?」
紫苑は事あるごとに一也をからかう趣味がある。
今日も今日とて一也は弄ばれていた。
「はぁ……。えーっと、裕樹が風邪引いたんやと」
「裕樹君も?」
「ん?まさか千堂もか?」
「うん。風邪引いたって、さっき電話で」
一也はため息を一つ。
「……ったく二人して同じ嘘つきよって」
「考えられるのはサボってイチャイチャしてるか、喧嘩して互いに会いたくないかね」
「あいつらの性格からして、どうせ悪い方やろな」
「同意見ね」
「ここは一つ、俺が一肌脱いだろか」
「ここで裸になるの?」
「んな訳あるかいっ!」
──夕方。
寝るには眠気が足らず、食欲はなく、動く気にもなれない。
何をするにも気力が起こらない。
でも、何かしていないと里佳さんのことを考えてしまう。
昔、失恋をした女性が死ぬまで詩を書き続けるのに没頭したという。
少しでも気を紛らわせるために。
挙句、教科書に載るほどの詩人になるとは皮肉な話だ。
聞いたときは馬鹿馬鹿しく思えたが、今は分からないでもない。
……。
……。
……。
分からないでもない?
それって俺が失恋したって思ってるってことだよな……。
分かりきっていたことだが、改めて思う。
俺は里佳さんが好きだった、と。
もしも……もしも願いが一つ叶うとしたら何と願うだろう?
楓さんが事故に遭う前まで時間を戻すだろうか。
里佳さんと出会う前まで時間を戻すだろうか。
楓さんとの記憶を俺の中から消すだろうか。
里佳さんとの記憶を俺の中から消すだろうか。
あるいは二人との記憶を消すだろうか。
……。
いくら考えても無駄だ。だってそれは『もしも』の話。
だから今俺は苦しんでいるのだ。
どんなに願っても『もしも』なんてないのだから。
ピンポーン♪
珍しく思考に耽っていたところに水を差さされた。
最近やけに来客が多いなぁ……って言っても2回だけか。
あいにく誰とも会いたくないので無視することにした。
ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ポンピーン♪
しつこい。
しかも最後の音が何故か微妙に変だった。
このまま鳴らされ続けるのも非常に鬱陶しいが、意地でも応じたくない。
布団にくるまってピンポン嵐が止むのを待った。
……。
……。
……。
どうやら諦めてくれたらしい。
ブブー……ブブー……。
右足の太腿のあたりが規則的に振動する。
すぐにケータイが震えてるのだと気づき、ポケットから取り出して開く。
どうやら誰かからメールが来たようだ。
『From:大原一也
件名:マンション1階、自動ドア前より殺意を込めて(-_-#)』
「……」
内容を見ずにメールを削除して自動ドアの開スイッチを押した。




