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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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大口真神を祀る物

 さっそく私は慧音先生に現在人里の外で起こっていること、吹雪の発生源である大口真神の事を話した。

 

「ふむ、大口真神を祀れば確かに作物は守護されるのだろう。しかし、悪人を罰するとなれば人間も妖怪も例外ではない」


「そうなんだと思う。だけど里の子供達が里の外に出ちゃったら大変だよ」


「確かにな。しかし、里の何処に祀ると言うのだ?」


「作物を守護する神様だから田んぼの近くとか」


「吹雪の中でか?」


 吹雪の中で祀る何かを置くとなれば大変だ。

 下手をすると命に関わる。

 だけど私は丈夫な半妖、寒さにも暑さにも強い私なら吹雪の中で作業をしても平気だ。


「私がやるよ。それにこのまま吹雪を放置って訳にもいかないでしょ?」


「分かった。私も絢音に協力しよう、まずは何を造るか決めよう」


 社を建てるのが手っ取り早いけど、里の人間に職人が居るけど吹雪の中で作業させる訳にはいかない。

 なら、私と慧音先生でも造れる物と言ったら石像ぐらいだ。


「大口真神様の石像とか如何かな?」


「なるほど、では私は必要な物を揃えよう。絢音は阿求の所から資料を借りてきてくれ」


 私は頷き、さっそく稗田邸に向かった。


 ▽ ▽ ▽

  

 既に先輩から話しを聞いた阿求が私を出迎え……ちょっと興奮していた。


「だ、大丈夫? そんなに興奮したら身体に障るよ」


「平気よ! 何せ里に大口真神を迎え入れる機会が来たんですもの! これで年々悩まされる害獣被害は解消されるわ!!」


 阿求は拳を握って、凄いやる気に満ち溢れていた。

 普段大人しくて物静かなのに、こういう時は行動力溢れ、歳相応な反応を見せるなぁ。

 ふと私はここに先輩が居ない事に気付いて、


「先輩は?」


「里の人間に事情を説明に行ったわ」


「そっか、じゃあ阿求。さっそく大口真神の資料を貸して、できればモデルが載ってるようなヤツ……確か有ったよね? 古い神々の伝記と容姿を伝えた資料がさ」


「……あんた、自警団なんてやって無いで私の補佐役にならない?」


「今は自警団の仕事が楽しいから。……阿求の補佐は、ほらあなたの来世に取っておくのはどうかな?」


「そうね。来世の楽しみが一つできたわ」


 阿求は柔らかく笑って、それから私と阿求は資料室から大口真神の文献資料を取り出した。

 文献資料の詳細を読むと、そこにはしっかりと大口真神の姿を写した資料が載せられていた。

 

「うわぁ! 凛々しい! かっこいい! モフモフだぁ!」


 あまりにも神々しい姿に私が興奮すると、


「これまで歴代の稗田は大口真神の姿を見たことは無いけど、その資料は信用できる人物から譲られた編纂書だから信用できるわ」


 なるほど、稗田のお墨付きならいい石像が造れそうだわ。

 

「じゃあ、この資料は借りてくね」


 改めて思ったけど、貴重な資料を吹雪の中に持ち出して作業をする訳にもいかないか。

 作業は人里の中でやって、完成した石像を田んぼの近くに設置。

 大口真神を迎え入れて注連縄を巻く工程になりそうかな。

 私は資料を片手に作業工程を考え、稗田邸を後にした。

 

 ▽ ▽ ▽


 慧音先生を捜して大広場に到着すると、広場の中心に大きな四角い石と作業道具が置かれていた。

 そして集まる彫刻家達の姿も有った。


「おっ、絢音ちゃんが来たぞ!」


 私に気付いた一人の彫刻家に駆け寄って。


「もしかして手伝ってくれるの?」


 そう尋ねると、彼らは一様に笑みを浮かべて。


「おうよ! 事情は鴉天狗と慧音先生に小兎姫から聴いた。全く里には立派な職人が居るってのに水臭い」


「あー、最初は吹雪の中で作業を想定してたから」


「外の吹雪はなぁ、ありゃあ確かに俺達にやぁ厳しいわな」


 彫刻家の一人が大らかなに笑うと釣られて周りの彫刻家も笑い始めた。

 そんな中、慧音先生が私に近付いて、


「絢音、資料の用意はできたか?」


「うん、阿求から借りて来たよ」


 そう言って私は大口真神の姿を慧音先生に見せた。すると慧音先生は感心した様子を浮かべていた。


「うむ、これはなんとも凛々しい姿だな!」


 そう言って資料を彫刻家に見せると。


「おお、こいつは確かに作り甲斐が有る姿だな!」


「うっし! 早速作業に取り掛かるべ!」


 こうして私達は大口真神の石像造りを開始したのだ。

 資料に載せられた大口真神を参考に石を彫り始め、時折り職人同士の拘りが衝突することも有ったけど……慧音先生の頭突きが人里の空に響き渡ることも。

 作業は順調で、石像造りから4日が経過した頃。

 遂に完成した大口真神の石像を前に私と慧音先生は、


「どうやって運ぼう?」


「うーむ、私も熱中してしまっていたからなぁ」


 完成した大口真神の石像が想像以上に大きな物になって少し困惑していた。

 いや、作業の時に用意していた石が小さいってことで、民家ぐらいの岩を使う事になったけど……その時に気付けば良かったなぁ。

 

「取り敢えず、持ち上がるか試してみる?」


「そうだな、じゃあ絢音はそちら側を」


 私と慧音先生は位置について同時に石像を持ち上げようと力を入れた。

 だけど石像はびくりとも動かない。

 半妖二人で持ち上げられない石像! これは不味いのではだろうか!

 いえ、そもそも吹雪いている里の外に運び出す以上、視界不良で下手をすれば石像に潰されちゃう!


「……困ったね」


「あぁ、困ったな」


 私と慧音先生が途方に暮れると、彫刻家の人達がへへっと笑いながら。


「どうでい、俺達の力作は! ちょっとやそっとじゃあ飛ばされないぜ!」


 そんな事を言っていた。

 この人達は一体何処から重い石を見つけて運んで来たんだろう?


「作業前の石はどうやって運んで来たの?」


「おお、そいつは鬼のお嬢ちゃんが運んでくれたんだよ」


 そう言って彫刻家は振り向く。

 そこには瓢箪を片手に酔っ払いった様子の伊吹萃香さんと、酔い潰れた文さんとはたてさんに先輩の姿が。

 

「いやぁ〜いい仕事振りを見せて貰ったよ!」


「えっと、いつから酒盛りを?」


「ん〜、4日前ぐらいかな!」


 かわいい笑顔でそんな事を述べる萃香さんに、私は地面に倒れ伏す先輩達に同情した。


「……あ、あやねぇ……同情するならみず、を」


「はぁ〜、分かったから石像に吐かないでよね?」


 折角の石像を先輩達の嘔吐で台無しにされるわけにもいかない。

 だから私は急いで水を用意して、先輩達に水を飲ませた。


「誰かこの人達を自警団の詰所で寝かせてあげて」


 私は近場の人々にそう頼むと、彫刻家達によって先輩達は自警団の詰所に運ばれて行った。

 そして萃香さんに私は近寄りって、


「萃香さん、この石像を田んぼの傍に運ぶ手伝ってくれませんか?」


 もちろんタダでお願いを聞いて貰おうとは思っていない。

 それに鬼である萃香さんが人里の人間の前でタダで使われる事を良しとはしないだろう。


「なにぃ〜? 鬼のわたしをタダで使おって言うのかい?」


「猿酒をお礼に差し上げます」


「猿酒〜? 珍しい酒を持ってるじゃないかい」


「以前、撃たれた大猿を助けた際に」


「分かったよ、それで手を打つとするよ」


 良かった。もしも猿酒で駄目だったら夜な夜な酔い潰れた萃香さんが壊した物件。その話しを霊夢さんに伝えなきゃならないところだったわ。

 萃香さんは片手で大口真神の石像を持ち上げ、


「じゃあ案内を頼むよ絢音」


 私は注連縄を持って萃香さんを里の外まで先導した。

 里の外は相変わらず吹雪で視界が悪いけど、私は自身の記憶を頼りに萃香さんが見失わないように進む。

 程なくして、事前に許諾を得ていた渡辺さんの田んぼに到着して。


「此処です!」


「あいよ!」


 萃香さんは軽々と石像を置いた。

 これで大口真神が石像に宿ってくれれば良いんだけど。

 もうそこは賭けになる。

 私は吹雪の中、大口真神が近付くのを待つ。

 着物が吹雪で濡れ、時間ばかりが過ぎ去る。

 傍には萃香さんが付き添ってくれてるけど……。

 どれぐらい時間が経過しただろうか?

 本当は来ないんじゃないのか? そんな不安が募る中。

 ずっしりとした足跡が吹雪の中から響く。

 吹雪の中を見上げると、そこには巨大な大口真神の影が見えた。

 

「これが……」


 巨大な影に私は圧巻に駆られ、そんな言葉を呟いていた。


「随分久し振りに見たなぁ。……今夜は祝酒だぁ!」


 えっ? まだ飲むの? 

 隣で瓢箪の酒を飲む萃香さんからこっちを見据える大口真神の影に、私は視線を移す。


「大口真神様。どうかこの石像に宿り、吹雪を収めてください」


『……我が石像。よい、気に入ったぞ半妖の娘。これから我は人里を害獣から守護しよう』


 はっきりと聴こえた大口真神様の声。

 やがて影は石像に吸い込まれるように消え、先程まで吹雪いていた吹雪は一瞬で止み、空は晴れ渡った青空が広がっていた。

 神様が石像に宿る瞬間を初めて見た。私は神秘的で大変貴重な体験をしたんじゃないのかな?

 

「あっ、注連縄を巻かないと」


 こうして私は石像に注連縄を巻いて、無事に大口真神様を祀る事に成功した。

 

「お疲れ、約束の猿酒を忘れないでよ」


「分かってますよ。その前に御供え物をあげなきゃですから」


 さっそく私達は新しく祀られた大口真神様に御供えを捧げ、この日の夜は人里で萃香さん達と小さな宴会が開かれたのだ。

 ……気が付けば私の目前は酔い潰された人里の人々が転がり、石像の前では楽しげに宴を続ける萃香さんの姿が。

 それから人里は2日ほど静かで二日酔いに悩まされるうめき声が響き渡るのだった。

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