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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
30/40

深夜の遠吠え

 冬の深夜、妖怪以外は寝静まるこの時間に蝋燭の灯りを頼りに私は、アガサクリスQ先生の新作を読んでいた。

 ページを捲る度に引き込まれる物語と推理、文字が眼を追う度に脳裏に事件の様子が浮かび上がるのだ。


「む〜、犯人は家政婦か? でも今日はこの辺で辞めて次の楽しみにとっておかなきゃ」


 小説内で殺人事件が起きたところで私は、一度本に桜の栞を挿んで読むのをやめた。

 一度に読み切ってしまいたい気持ちが有るけど、長い夜を起きて過ごすのには少々もったいない。

 それに楽しみが有れば1日のモチベーションにも関わるのだ。

 なんて考えていると、外から酔っ払いの声が聴こえ始めた。


「まだまだ飲めるだろ!」


「あやや、もちろん大丈夫ですよ!」


「うっぷ……私はもうダメねー」


 そんなやり取りが……文さんとあとは萃香さんとはたてさんかな?

 夜の人里には妖怪専用の居酒屋、蚕食鯢呑亭が開かれてる。

 本来なら昼間は鯢呑亭として開業してるけど、どんな経緯が有って美宵さんが妖怪専門の居酒屋を開いたのかは実の所分からない。

 だけど今の所は妖怪も節度を護ってるから私達人間は黙認しているのだ。

 というか蚕食鯢呑亭を訪れる妖怪は萃香さんを筆頭に強い妖怪ばかりだからね。

 まあ、私は美宵さんを信じることしか出来ないけど。

 読者の余韻も酔っ払い妖怪の声に消されたところで、私は蝋燭の灯りを消す。

 

「さてと、少し眼を休めようかね」


 眼を閉じると今度は風に乗って、綺麗だけど威厳と恐ろしさを感じる狼の遠吠えが響く。

 かなり響くわね。風に乗ってるとはいえ、里の近くに居るのかな?

 危険かもしれない。私が警戒心を浮かべると隣で眠っていた小兎姫先輩が、


「はっ! 犬耳の絢音の遠吠え!?」


 遠吠えに驚いたのか訳の分からない叫びと共に飛び起きた。

 どんな夢を見てたの? っとは恐ろしくて聞けない。

 聞けば最後、先輩の無茶振りに振り回されるからだ。


「狼の遠吠えみたいだけど、竹林に住む今泉影狼さんのかな?」


「あ〜、あの狼にあんな遠吠えは無理よ。威厳も無いもの」


 確かに影狼さんの遠吠えとは違う。

 思わず納得しちゃったけど、威厳の有る狼って何だろう?


「威厳の有る狼って居るの?」


「此処は幻想郷よ。狼の神様ぐらい居たって不思議じゃないわ」


 なんて話しをしていると、次第に風が強まり小窓を叩き始めた。

 そして小窓を少しだけ開けて見ると……。


「吹雪で何も見えない……!」


 外は一面吹雪で追い尽くされていたのだ。


「……朝の龍神像は1日晴れを指していたわね。深夜と言えどもこうも突然吹雪になるかしら?」


 夜の天候は、冬の星空がよく見えるほどに晴れ渡っていた。

 それこそ雪雲一つも無い満天の星空。

 なのに急に吹雪が発生するなんて事は有るのかな?

 さっきの遠吠えが何か関係してる?


「突然の悪天候はまま有るけど、吹雪の前に狼の遠吠えって私の考え過ぎかな?」


「あ〜、単なる異常気象なのか。それとも偶然の重なりかは分からないわ」


 先輩は眠さそうに欠伸をして、布団を被った。


「何にせよ、朝も見回りだから私は寝るわぁ〜」


 そう言って先輩は眠った。

 考えても仕方ないから私も寝よう。

 この時、私と先輩はまさかあんな事になるなんて微塵も思いもしなかった。


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