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自警団の半妖少女  作者: 藤咲晃
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夢か現か、それとも?

 メリーさんを連れて香霖堂に到着すると、彼女は興味深そうに辺りを見渡して。


「かなり古い物ばかりなのね」


 メリーさんが居た外の世界では香霖堂の外に置かれてる物は相当古い物らしい。

 此処に在る物は外の世界で忘れ去られた物ばかりだから無理もないのかもね。


「店主が気に入った商品の殆どは非売品になるから、買えない物が多いんだよね。そこに置いてある信楽狸とか」


「商人というよりは趣味人?」


「だいたいそんな感じかなぁ。でも道具の用途が一眼で判る能力を持ってるから、分からない道具を拾ったら此処に持って来るのも有りかな」


 以前私が拾った折り畳みができる機械は、そのまま霖之助さんの商品棚に並ぶ事になっちゃったけど。

 

「鑑定はタダなの?」


「うん、基本無料だよ」


 入り口で立ち話も何だし、早速入ろう。

 そう思って私が店のドアを開けると……霖之助さんが文さんを押し倒していた。

 私と呆然とする霖之助さんと目が合う。

 そして霖之助さんから冷静に視線を逸らして辺りに移す。

 倒れ掛けた棚、散乱した商品と特に慌てた様子も無い文さん。

 なるほどっと理解した私は手を叩いて、


「どんな経緯かは判らないけど、事故には気を付けないとね」


「理解してもらえて助かるよ」


 私は冷静な方だけど、他の人は面白がるか誤解しちゃうからなぁ。

 私が一人納得していると立ち上がった霖之助さんと文さんがメリーさんを一眼見て、非常に驚いた様子を浮かべた。

 あぁ、そりゃあ驚くよね。あんまりにも似てるからさ。


「紫かと思ったけど、彼女は今は冬眠中のはず……絢音くん、彼女は一体?」


「外の世界から迷い込んだ外来人かな……でも迷い込み方は菫子さんと似た境遇」


「菫子くんと? なら彼女は自分の意思で此処に来たというのかい?」


 私が如何なの? っと視線で問いかけるとメリーさんはゆっくりと口を動かす。


「違うわ。たまに眠っていると勝手に幻想郷に来ちゃうみたいなの」


「あやや、菫子さんは御自身の意思で幻想郷に出入りしてますが、どうやら複雑な事情が有るようですね」


 此処はメリーさんが見ている夢の世界。その可能性が私の頭に過ぎるけど、私にとって此処は現実。

 確かに現実だけどメリーさんの見る夢と現実の境界は何処に有るんだろう?

 さっきはメリーさんに現実と言ったけど、私が想像してる以上にメリーさんが抱える事情は深刻なのかもしれない。


「それで香霖堂に出入りしてる菫子さんを尋ねて来たんだけど、今日は来てないみたいだね」


「彼女がいつ来るかは僕にも分からないさ。何せ此処は待ち合わせ場所として場を提供してるに過ぎないからね」


「それなら菫子さんと連絡を取る手段は無いんですか?」


「生憎と僕には無いよ」


 むー、それじゃあ此処で待ち合わせしてる人物が来るまで菫子さんとは会いずらいってことか。


「どうするのメリーさん? 菫子さんが来るまで待ってみる?」


「うーん、正直足もくたくただからそうさせてもらおうかな。醒めるのが先か、待ち人が来るのが先かになるけど」


 そっか、今はメリーさんは眠った状態だから現実のメリーさんが目覚めたら帰っちゃうのか。


「じゃあ念の為に菫子さんにメッセージを残しておいたら?」


「……いえ、少し確認したい事が有るだけだから」


 メリーさんが確認したいことって何だろう?

 まぁ、そこは本人の問題で私が過度に干渉すべきじゃないんだろうなぁ。


「ところで文さんは先から大人しいけど、頭でも打ったの?」


「おや? 絢音は私が毎度お騒がせする妖怪に見えてるのですか? それは心外ですね、私も空気を読む事が有るのです」


「え、この人も妖怪なの?」


「彼女は鴉天狗の射命丸文さん、幻想郷で最速を誇る新聞記者だよ」


 メリーさんに文さんを紹介すると、彼女は文さんを人間だと思っていたのか驚いていた。

 すると驚いたメリーさんを文さんがカメラで一枚の写真を撮った。


「外来人、幻想郷の妖怪に驚く! これは記事になりそうですね!」


 そう言ってカメラから先程撮影されたメリーさんの写真を取り出しては、ひらひらと見せる。

 カメラから出てきた写真にメリーさんは驚きを隠せないようで、


「どんな原理? カメラの構造的にそのまま現像できる機能は無いはず……?」


「文さんのカメラは不思議だよね」


「あやや、これも企業秘密ですよ。では! 私はこれで失礼させてもらいますよ!」


 そう言って文さんは店を出て行った。

 私とメリーさんがそんな文さんを見送ると霖之助さんが一つ咳払いを。

 何かと振り向くと、


「ところで絢音くんは何か用が有って来たのかい?」


 用件を言われて、私は先輩に頼まれた事を伝える。


「薪を二十束ほど買いに」


「薪を二十束? 薪を湿気でダメにさせてしまったのかい?」


「ううん、先輩が色々とまたやらかしてね」


 というのも先輩がチルノを捕まえて来たのが事の発端で、牢屋に閉じ込められて怒ったチルノが薪を凍らせて駄目にしてしまったのだ。

 なぜ寒い冬なのにチルノを捕まえたのか。通り道にチルノが居たからと先輩は供述していたけど。

 

「小兎姫くんは相変わずのようだね。薪の件は了解したよ、それで他にも買い物は有るかい?」


「何か珍品は無い? 売られてるヤツで」


「此処に在る物はどれも珍品さ……ふむ、彼女が欲しがりそうな物は……」


 霖之助さんは倒れた棚から、何かの文字盤を取り出した。


「これは古代文明に使われた粘土板さ!」


 文字から何か感じるけど、読めないし特に持ってて危険性も無いのかなぁ。

 私が粘土板を観察してると、


「それ、古代メソポタミア文明の粘土板よね。全部発掘されたってニュースにもなってたんだけど、漏れが有るって知ったら世間は驚きね」


 メリーさんの発言に霖之助さんは納得した様子で頷いた。


「なるほど、道理で同じ粘土板が見付からないわけだ」


「その粘土板はメリーさんから見ても危険性は無いよね?」


「特別な境界が見える訳でもないから大丈夫よ」


 そっかぁ、特別な境界は無いのかぁ……境界?

 私と霖之助さんはメリーさんの単語に聞き間違いが有ったのかと、お互いに顔を見合わせ再度メリーさんに視線を向ける。


「えっと? メリーさんって境界が見えちゃう? あの目玉が沢山付いてる不気味な境界の裂け目を」


「えっ? 私が見えるのは結界の裂け目、現実と幻の境界だけよ」


「境界を見る能力……つまりメリーくんの能力が影響して一時的に幻想郷に?」


「蓮子の推測ではそうなるのかなぁ。最近この能力も扱えるようになりつつ有るし」


「どんな事ができるの?」


 興味本位で尋ねるとメリーさんは顎に指先を当て、


「現実と幻の境界を利用して、精神だけを人工衛星に長距離移動したりとか」


 なにその能力? つまり境界を繋げてちゃってる? 

 もしそうなら紫さんと似た性質の能力じゃない。

 

「驚いたな、紫と似た能力を持つ人間が居るなんて」


「顔がそっくりで能力も似てる。紫さんの親戚か何かの?」


「私に日本の親族は居ないわよ」


 じゃあ偶然なのかな? うん! 考えても分からないから偶然ってことにしよう!

 これが幻想郷で長い息するコツだ。


「そうなんだ。じゃあこの話は一旦お終い! 霖之助さん、この粘土板はいくらになるの?」


「それは歴史的資料として価値も高いと分かったからね。3円になるよ」


 おっと相当な値段だなぁ。

 でも先輩から預かった予算内か。


「え? 3円って……あっ、幻想郷の通貨レートは違うのね」


 うーむ、メリーさんの様子から絶対に3円で買えない価値有るものだと思う。

 でも幻想郷で3円となると結構な金額になるんだよね。


「あまり大金を持っても使い道が無いから構わないさ」


「幻想郷でお金の使い道が増えれば良いんだけどね」


 そう言いつつも私は3円を霖之助さんに手渡した。

 そして粘土板を受け取って、


「あっ、薪の支払いも済んで無かったね」


「……絢音くんは霊夢達と違ってちゃんとしたお客様として来るから嬉しい限りだよ」


 霖之助さんがそう苦笑気味に述べると、店の奥に向かった。

 霊夢さんと魔理沙さんは基本ツケで買い物をしてるからなぁ。でも霖之助さんもあまり商売をする気は無い趣味人みたいなものだし。

 そんな事を思い浮かべてる矢先に、二十束の薪を持って来た霖之助が床に置いて、


「全部で40銭だね」


「はい、これで丁度よ」


 そう言って40銭に手渡す。

 これで私の用事は済んだけど、菫子さんが来る様子は無い。

 このままメリーさんを置いて帰る訳にもいかない。


「メリーさんはまだ幻想郷に居られそう?」


 そう質問するとメリーさんは額に冷汗を浮かべ、


「いつもならもう起きてもおかしくないはずなのに」


 不安から声を震わせていた。

 現実のメリーさんが目醒めなければメリーさんは帰れない。

 となると目覚めるまでの間、彼女を自警団で保護する必要が有るかも。

 でも精神が不安のままはあまり良くないなぁ。

 私はメリーさんの手を握り、


「大丈夫、今は寝坊してるだけだよ。あなたが起きるまで側に居るから」


「え、えぇ、ありがとう絢音」


 私とメリーさんは暫く香霖堂を物色していると、それは突然起こった。

 ふと振り向くと先程まで隣で手を握っていたメリーさんの姿は何処にも無かったのだ。

 霖之助さんの方を振り向くと彼も驚いた様子で、


「まるで幻でも見ていた様な気分だ」


 幻……確かにメリーさんは泡沫の幻だったのかもしれない。

 だけど、私の手に残る温もりは確かに紛れもない現実。

 彼女は確かにそこに居たのだ。


「メリーさんとはもう少しお話ししたかったけど、今度会える時の楽しみにしとっておこう」


 いつかまたメリーさんが夢を見れば会えるかもしれない。

 そう信じて私は荷物を持って人里の帰路に着いた。

 

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