表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/101

80話 逃走と帰還

前半ヴェロニカ、後半佐々倉啓視点です。


2015/5/2 ヒュピに対する佐々倉啓の心情描写を追加。(終わりのほう)



 ****



「あー、まさか1発で消滅するとは。まぁ、アタシの魔力量、生まれたてのスイシア準拠だからねぇ。……いやそれにしたってアタシを負かすのはさすがに異常だけど……っと、悠長にしてると佐々倉啓が飛んできそうだ。《空間創造》」


 魔脈峡谷の地下深く。

 一般人からすればあまりにも濃すぎて固形化を疑うほどの魔力溜まりの中心部。

 魔力に溶け込んでいた意識体の残滓がひとところに収束し、周囲の魔力から魔力体が形成される。

 再生を果たしたヴェロニカは、プルオーバーのセーター姿にポニーテールの妙齢の女性となり、新たな神世界を作り出した。


 神世界はただの異空間ではなく、いくつかの機能が付随する。

 一つが招待。

 招待したい相手に魔力で接触することにより、対象者を神世界に転移させることができる。

 カリオストロを出立した佐々倉啓一行がメロウの神世界に移動した手段である。


 逆に、神世界から外へと転移することができる機能。それが出入り口の新設。

 任意の地点まで魔力を繋げることで、神世界から直接移動することができる。

 佐々倉啓がメロウの神世界からスイシア――ヴェロニカの魔脈の手前まで移動した手段がこれである。


 この二つの機能、ありていに言えばゲートの作成と大差ない。厳密には魔力運用に差があるのだが、現象としては同じである。

 

 ヴェロニカは隠れて移動しなければならなかった。

 そのために転移する必要があった。

 

 ヴェロニカは狙われの身である。

 今はまだメロウやロニーといった、スイシアとヴェロニカの現状を把握している者に限られるものの、すぐにでも長老会が開かれ、全員に情報が共有されるだろう。

 ヴェロニカは危険過ぎた。

 その能力もさることながら、スイシアを表舞台から消し去り、ゆくゆくは世界そのものを壊しつくそうとしている。

 掟のこともあるが、神全体として見てもヴェロニカという存在は放任できないのだ。

 

 ゆえにこそ、ヴェロニカは人目を忍び行動する。

 そのための神世界と転移である。

 

 ヴェロニカの計画はシンプルだった。

 脅威の排除と力の収集。

 すなわち、長老会構成員の各個撃破。 

 神々の最高戦力たる長老会が打ち破られるとき、ヴェロニカを阻むものはなくなる。

 そのときこそ、正真正銘世界の終わりとなるのである。


「ふむ、まずは居場所の特定からかね」


 ヴェロニカは前世の記憶を頼りに、魔力感知によって大陸中の魔脈を感知し、一人目の居場所をあぶりだす。


「………………あぁ、アンタは相変わらずだねぇ。ははは、これはアタシにとっては分の悪い賭けだけどね、アンタは覚えているんだろ? あのときの約束をさ」


 ヴェロニカは2千キロ離れたその魔脈の入り口へと魔力を伸ばしていく。

 音速をもってしても、90分以上かかる。

 それまで何をするでもない。

 ヴェロニカは遠い過去に目を細め、哀しげに呟いた。


「もう何年前か忘れたけどね……約束どおり死をプレゼントするよ。――ルエ」





 ****





 30分はたっただろうか。

 ただひたすら目を瞑り、魔力感覚を研ぎ澄ませた。

 一度倒したヴェロニカさんは、まだ神世界に戻っていない。

 

 ここは僕の異空間。

 空間すらない虚無の中に作られた小部屋。

 空間魔法がない限り、外からの干渉は不可能だ。

 たとえヴェロニカさんでも、接してもいないこの異空間に手出しできなかったと見える。

 そうでなければ僕はヴェロニカさんに勝てなかっただろう。

 僕が勝てたのは、この異空間のおかげでもある。


 僕はこの安全地帯からヴェロニカさんの神世界に僕の魔力を送り、圧縮させたそれでヴェロニカさんの魔力体を攻撃した。

 遠隔攻撃だ。


 簡単に聞こえるかもしれないけど、誰にでもできることじゃない。

 まず、異空を隔てた向こう側の魔力を感知する能力。

 次にこちらの魔力を向こうに送る術。

 そしてヴェロニカさんに不意打ちを成功させる手段。

 この三つが要求された。


 一つ目は要するに魔力感知。問題は異空を隔てて感知できるかどうか。空間に特化している僕の独壇場と願いたいけど、他の神様にも可能なのかな? 不明だ。

 二つ目は《異空間接続》。つまりゲート。

 三つ目は毎度おなじみ【存在希薄】。開戦前に無効化されていた【存在希薄】だけど、戦闘の終盤では再発動していた。ヴェロニカさんが神世界に残っていた僕の魔力を破壊したことで、ヴェロニカさんの魔力感知から僕の魔力が外れたためだ。


 まとめると、劣勢だった僕は異空間に退避し、神世界に魔力を送り込み、有効化した【存在希薄】によって不意打ちを決めた。

 ちなみに攻撃一発で沈んだのは、ヴェロニカさんの魔力量が少なかったから。おそらくヴェロニカさんはシア様の魔力をそのまま引き継いだんだろうけど、シア様の魔力量ってそんなに多くなかったんだよね。ニィよりいくらか多いくらい。いや人と比べたら天と地の差だけど、リーガルさんより少ないって言えば神様の中での立ち位置がなんとなく分かると思う。


 なにはともあれ、生き延びることができたのは幸運だった。

 ヴェロニカさんの能力は初見殺しの要素があった。


 「破壊」の権能。

 発動までのプロセスは実体化と同様に、魔力を消費してその地点に現象化する流れなんだろう。

 凶悪なのはヴェロニカさんの魔力に囲まれている状況だ。

 ほとんど予備動作なく破壊できるってのがやばい。

 もし僕が《加速空間》を発動させていなければ、「魔法の類まで破壊できる」性質を理解する間もなくやられていた可能性がある。

 

 あれを防ぐには、「破壊」が届かない異空間に逃げるか、《固定》した空間のような障害物を設置するか、あるいは能力発動の起点となる魔力空間から遠く逃げなければならない。

 異空間に逃げるのは現実的だと分かった。

 障害物の設置は今の手札だと厳しい。ヴェロニカさんが本気を出せば僕の設置速度より「破壊」速度に軍配が上がりそうだ。

 ヴェロニカさんの魔力空間から逃げるのも難しい。あのレベルだと魔力解放するだけで半径キロメートル単位だからね。逃げていたら戦いにならない。

 

 ただ、異空間に隠れれば次も勝てるかというと分からない。

 僕の異空間は、不思議な言い方になるけど必ず僕の近く(・・)にある。

 というのも、《異空間連結》で常に僕の近くにあるよう持ち運びをしているから。

 そうしないと、例えばカリオストロで《異空間作成》をした場合、僕が次の町にいってもその異空間はカリオストロで作成した座標のちょっとずれた場所に置き去りになる。

 魔力感知で認識できない距離にあるのは何かと不便だ。

 

 だから、ヴェロニカさんとの戦闘中、僕の異空間はある意味ヴェロニカさんの近くにあった。

 近いとはいってもそれは4次元上の距離で、3次元上では隔絶されているから普通なら干渉できない。

 でも、仮にヴェロニカさんがその隔たりさえも「破壊」できるとしたら?

 僕は最悪を考慮しないではいられない。

 相手は破壊の神様なんだ。加えて、世界を壊そうとしている。世界を壊す手段があるのなら、異空の壁を壊すこともできそうじゃない?

 さっきの戦闘では無理みたいだったけど、この先再戦するとき、どうなるか分からない。

 だから対抗策――新しい空間魔法を開発する必要がある。


 新魔法として何が考えられるだろうか?


 例えば、一度に複数層の固定した空間を生み出すとか?

 そうすればヴェロニカさんの破壊速度を上回る障害物を生み出せる。

 攻撃に専念できる。


 いや、そもそも一度で複数の魔法を発動できないんだろうか?

 試してみよう。

 

 僕は体を覆うように2層の圧縮魔力を展開。

 そのどちらにおいても《固定》をイメージして実体化させる。

 すると、展開した魔力が消費され、そこには変化のない空間が取り残された。


 失敗。

 いや、何かコツがいるのかも?

 あるいはそういう、魔法を同時発動させる魔法が必要?

 それともアプトやギフトが必須?


 考えても答えは出ない。後でニィとフマに聞こう。

 その前に。


 体を覆う圧縮魔力の層を1層だけ展開。

 その層の中に2層の固定をイメージ。

 成功するビジョンを強く、強く、思い描く。


 ……よし、よし、いける。

 確信を持てたところで念じる。


 ――《多重固定》。

 

 新しい空間魔法。

 実体化による魔法発動により、展開していた魔力が消費され、2層の固定された空間が残された。

 成功だ。

 《固定》を2回発動させるのに比べて展開が速い。

 ヴェロニカさんの「破壊」が物理障壁に阻まれるなら、これでヴェロニカさんの「破壊」対策になる。


 ただし懸念事項が二つ。

 ヴェロニカさんは発動中の《加速空間》を自動破壊した。

 一つの魔法を破壊できるのなら、一つの魔法でいくつの固定空間を多層展開しようとも一撃で破れることになる。

 

 もう一つの懸念は消費魔力量。

 2回の《固定》より《多重固定》2層のほうが消費魔力は大きい。

 僕の魔力量は人の中でも少ない。魔力の貯蔵に裏技はあるのだけど、それはともかく、魔力量は少ない

 それでも空間魔法を発動できるのは【空間魔法:Ex】による最適化と【魔力操作:Ex】での魔力圧縮による効率化のおかげだと感覚的に理解している。


 魔力量が足りないのに魔力圧縮でどうして空間魔法を発動できるのか疑問に思ったこともある。

 これに関しては一つの仮説を立てていて、魔力量=魔力体積×魔力密度なんじゃないかと思ってる。

 で、魔力体積=魔法の発動範囲、魔力密度=魔法の強度ではないかと考えている。

 そして、多くの魔力量を必要とする大魔法というのは、発動に必要な魔力密度(魔法強度)が大きいんじゃないかと。 

 だから僕の場合、範囲は極小だけど魔力圧縮によって魔力密度を上げることで、空間魔法を発動できている、と。

 これなら矛盾はない。だけどこういう疑問が湧く。


 魔力圧縮できれば誰でも大魔法が使えるんじゃないか?

 

 これの答えとして、魔力圧縮は一般的に難しいと考えられる。

 そもそも【魔力操作】のレベルが低いと魔力を体外で動かすことさえ容易でない。

 ギルドの魔法訓練を見ていてそう確信した。

 ましてや、魔力圧縮は夢のまた夢だろう。

 

 ちなみに、それではどうして一般に、魔力密度ではなく魔力量に着目されるのか。

 答えは、魔力量の多い人ほど体内から取り出した魔力密度が高く、魔力密度に着目する理由も切っ掛けもないから。

 感覚的には人という共通の器に多くの魔力を詰め込んだら、詰め込む魔力が多いほど(魔力量が多いほど)、単位体積あたりの密度が大きくなる(魔力密度が大きくなる)のだと思う。

 一般に魔力圧縮は扱えず、そもそもその概念が普及していないから、魔法の発動に必要な要素として魔力密度より魔力量に目がいくのだろう。


 なにはともあれ、僕が空間魔法を扱えるのは【魔力操作:Ex】のおかげというわけだね。

 あと【空間魔法:Ex】も何かしらの恩恵をもたらしていそうだけど、魔力圧縮による効率化と切り離して検証できないため、詳細は不明。

 

 ……脱線したけど、いくら補助があったとしても僕の魔力量が少ないのは事実。

 魔法の連発は厳しいものがある。

 そこにもってきて《多重固定》は燃費が悪い。

 ヴェロニカさんとの再戦ではそれがネックとなる。


 他の対策としてはヴェロニカさんに破壊できない空間を作ることも考えられるけど、その空間をイメージするのは難しいし、そもそも魔法そのものを破壊されるからこの方法は期待できない。


 ……今考えられるのはこんなところかな。ヴェロニカさん対策は今後も検討するとして。


 僕はまぶたを持ち上げる。光のない異空間。何も見えない中、呟く。


「《転移》」


 魔脈の入り口に戻ってきた。森だ。背後には山がそびえている。魔脈あるところに山あり? どうでもいいか。


「えっと、なんか忘れてるような……あ! シア様のこと聞きそびれた……」 


 うっわ、聞かないといけないこと忘れるとか……。

 いや、世界を壊すってくだりで一気に緊張したのは認めるけども。

 さすがに忘れちゃいけないでしょうよ。


 眉根を寄せて腕組みをする。シア様は存命か?

 ヴェロニカさんは一つの人格だから、多重人格みたいに人格が交代しただけで、シア様は眠っている可能性は大いにある。

 でも、「破壊」の能力で亡くなっている可能性も……。


 それを思うと胸にぽっかりと穴が空いたように息苦しくなる。

 立ちくらみがする。


 ……ない。きっとそれはない。

 ヴェロニカさんはシア様の意思を尊重している節があった。

 それに僕のことを見逃そうとしていた。

 きっと、そういうのを後回しにする。

 身内や気にかける相手を積極的に排除しないはず。

 

 だから、まだだ。

 まだ決まったわけじゃない。

 シア様は生きている。

 ヴェロニカさんを止めればそれで済む。


 そうだ、止めないと。

 世界を壊させるわけにはいかない。


 さて、どうすればいい?

 一つは、ヴェロニカさんをどうにかして無力化すればいい。

 でも、どうにかして、ってのがハード過ぎる。

 どうするんだ? って話だよ。


 もう一つは、ヒュピちゃんを目覚めさせること。

 これが一番だろうね。

 そのためにはヒュピちゃんと話し合う必要がある。

 目を覚まさないヒュピちゃん。会話をする方法……心当たりはある。


 ヒュピちゃん。

 自信のなく、何かに怯えるようだった女の子。

 まるで自分がそうであるかのように、「死にたくなったのか?」と僕に尋ねてきた女の子。

 ヴェロニカさんの件を抜きにしても、ヒュピちゃんとはじっくり話し合い、彼女の背負い込んでいるものを軽くしたいと思う。 


 ……ところで、早く戻らないとね。

 ニィとフマに心配を掛けている。

 というか、こうして表に出てるんだからそろそろ向こうからアクションがあっても……と思ったらきた。


 僕はメロウさんからの招待を受け、神世界に転移した。


 

遅くなってすみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ