47話 長老会
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「やっほお。みんなぁ、来たよお」
「よく来てくれたね、フユセリ。感謝するよ。空いている席にどうぞ。……と言っても、最後の一つしかないけどね」
「シアちゃんっ、そんな遅刻魔なんか無視していいの! というかフユセリは来るの遅すぎっ! そんなとろとろ歩いてないで、早く座って!」
「到着は最後だが、時間に遅れたというわけではないのだがな」
「リーガルさん、あの2人はいつもああなんですよ。なにはともあれ、皆さん揃いましたし、それでは『長老会』を始めましょうか」
「議長は今回もメロウであるかよ? たまには他の者がやってもいいと思うが?」
「わたくしも右に同じですわよ」
「……好きにすれば?」
「すぴー。すぴー」
場所は、ロニーの神世界。
囲む円卓はなく、円を作るようにシングルソファが並んでいるだけの簡素な設営。
そこに集うは、そうそうたる面子。
発言の順に見ていけば、妖精女王フユセリ、転生の神スイシア、息災の神ロニー、法則の神リーガル、魔法の神メロウ、夜の神イータ、昼の神コハロニ、死の神ルエ、眠りの神ヒュピ。
なお、「すぴー。すぴー」は寝息である。
「遅れた罰でぇ、わたしがぎちょお?」
「言ったね!? じゃあフユセリが議長! 遅れた罰で議長!」
「ちょっとちょっと、ロニー。それはあんまりだって」
「そうだぞ。フユセリは決まりを犯したわけではないのだ。与えるべき罰などない」
「議長は今回も私でいいですよ? やりたい人がいるなら代わりますが」
「コハロニ、やってみるかよ?」
「それはわたくしの台詞ですわよ、イータ」
「……別に誰でも」
「すぴー。すぴー」
結局、いつもどおりに魔法の神メロウが議長を務めることになった。
「さて、それでは『長老会』を始めますね」
会議の雰囲気はとても軽く、長老会の会員ではないスイシアとリーガルは真面目な顔つきをしていたが、ほわほわとしたフユセリを初め、ぷんすかと不機嫌なロニー、優男スマイルのメロウ、表情の読めない人型ドラゴンのイータとコハロニ、つまらなそうに頬杖をつくルエ、熟睡するヒュピというように、緊張感に欠けていた。
何か危機が起きれば彼らの顔つきも変わるのだが、神にとっての危機がそうそうあるはずもなく、気が緩むのも仕方のない話かもしれない。
「今回の招集は、スイシアさんから掛けられました。とある人間を神格化したいとのことでしたが」
「うん。ボクが異世界から転生させた、佐々倉啓という人間なんだ」
スイシアはこの長老会で、佐々倉啓の神格化を認めてもらおうと考えていた。
長老会というのは、いわば神たちの代表会である。
そこで認められた事柄は、全ての神々に適用される。
もしもこの場で佐々倉啓の神格化が認められれば、佐々倉啓にも「神同士の戦いを禁ずる」という神の掟が適用されることになり、佐々倉啓が他の神から狙われる心配がなくなるというわけだ。
スイシアは、佐々倉啓に与えた能力を説明し、佐々倉啓がリーガルに勝ったこと、それによって他の神に狙われる恐れがあること、逆に他の神を殺してしまう危険もあることを訴えた。
「だから、無用な争いをなくすために、佐々倉啓を神と同格にしたいんだ」
スイシアの説明が終わると、議長のメロウが引き継ぐ。
「現時点での状況を見たいと思います。賛成の方、挙手を」
挙がったのは、フユセリとロニー。
「理由をどうぞ」
メロウが促し、フユセリとロニーが答える。
「だってぇ、わたしの娘がお世話になってるものお」
「シアちゃんの頼みだから」
リーガルは思う。人間の神格化に賛同する理由が、そんなんでいいのかと。
「反対の方、挙手を」
挙がったのは、イータとコハロニ。
「理由をどうぞ」
メロウが促し、イータとコハロニが言う。
「神はステータスかよ? いな、種族であるよ」
「右に同じですわ。人間は人間、神は神。まあ、ドラゴンの神格化なら考えないではないですわよ?」
リーガルは思う。まともな意見が出たと。
「どちらでもない方」
残ったのは、ルエとヒュピ。
「理由をどうぞ」
メロウが促し、ルエとヒュピが応える。
「……好きにしたら?」
「すぴー。すぴー」
リーガルは思う、ヒュピはなぜいるのかと。
「さて、割れましたね。スイシアさん、反対の方に言いたいことは?」
「佐々倉啓は、神に並ぶ力を持っているんだ。それについてはどうするつもりなんだい?」
「放っておけばいいかよ」
「神が異空間に封印されても?」
「負けた神の責任かよ」
「右に同じですわ。それに、人間を神と同列に扱うのが気に入りませんの。人間を神格化する前に、ドラゴンを神格化しませんと」
「……じゃあ、佐々倉啓とドラゴンを戦わせて、勝ったほうを神格化させるというのは?」
「面白いかよ」
「右に同じですわ」
「……反対がなければ、ケイ・ササクラとドラゴンを勝負させ、勝ったほうを神と同列に扱うことでいいですか?」
メロウが他のメンバーに確認する。
「んー? いいんじゃなぁい? もし負けたらごめんねえ、フマぁ」
「シアちゃんがいいんだったら、ロニーもそれでいい」
「……別に」
「すぴー。すぴー」
「リーガルさんは、どうですか?」
「メンバーではないわたしが、いいのか?」
「この際ですし」
「……長老会がそれでいいのなら、異論はない」
リーガルはもとからそのつもりであったし、佐々倉啓がどうなろうとどうでもよかった。
懸念事項はスイシアであったのだ。
スイシアが、かの破壊神ヴェロニカとして、手駒を揃えて力を蓄えるのを危険視していたのだが……。
――本当に、変わったのだな。
かつては壊すことのみに執着していたヴェロニカ。
それが今や、佐々倉啓という1人の人間を守るために、手を尽くしている。
その感慨を、ここにいるメンバー全員が抱いていてもおかしくはないのだが……。
リーガルは目を細めて、とあるソファへと視線を向けた。
そこには、9歳くらいの幼女が、肘掛けに小さな頭を乗せてすやすやと眠りこけている。
――お前はいったい何を思うのだ、ヒュピ。
ロニーは……変わったぞ。
お前も……変わりはしないのか?
「すぴー。すぴー」
くしくも、ルエを除くフユセリ、メロウ、イータ、コハロニの4人が、リーガルと同様の感慨を抱いていたのだが、やはりヒュピは寝息を返すだけだった。
ともあれ、ヒュピのことは今はさておき。
こうして佐々倉啓が不在のまま、彼がドラゴンと勝負することが確約されたのだった。
遅れてごめんなさい……。




