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46話 剣の神ケイニーの問答(2)



「今、安心しなかったか?」


 ポキ。


 枯れ枝でも折れるような軽い音が、僕の足元から鳴った。

 そう思った瞬間、足から力が抜け、草の中へとひざまずく。


「え?」


 振り返って足を見れば、すねから先が変な方向に――。

 

「ッ、がぁぁあああああ!?」


 熱した鉄を押し当てられているような灼熱と激痛。

 折れた折れた折れた痛い痛い痛い!


 僕は自分の両足がなぜ折れたのか分からない。

 ヤックは槍を振っていないし、ケイニーはフマのもとにいたはずで……。


「あんたが一番怪しいんだよ。ケイ・ササクラ」


 ケイニーの声が近づいてくる。

 そんなことはどうでもいいッ! 足がぁッ! 僕の足がぁッ!


「《治癒(ヒール)――4(フォール)》」


 ニィの声が傍から聞こえたかと思うと、お湯に浸けたような心地良さが両足を覆う。

 灼熱と激痛が治まっていき、振り返ればニィが僕の足を治療していた。


「あ……ありがとう、ニィ」

「もうあの黒い防御はなしだぜ? 出そうとすれば、そこの女を容赦なく攻撃する」


 ケイニーが忠告していたけど、僕は構わずニィごと魔力障壁の中に取り込む。


「《接続》」

「かは」


 再びゲートが展開し、闇に包まれる。

 そのとき、ニィが息を吐き出した。

 

 僕は魔力感知に集中し、それを悟った。

 微量の魔力を纏った何かが、ニィの腹部を貫いている。

 ……剣だ。ニィの胴と同じくらい幅のある……。

 

「ニィ!? 早く治療して!」

「……抜、かな……と……」


 ニィが両手を伸ばして剣を掴んでいる。

 おそらく、引き抜こうとしている。

 そうか、刺さったままだと治癒しても治らないんだ。

 しかし刺さったままの剣はびくともしない。

 ケイニーの魔力が、剣を操作している。


 僕は咄嗟に、高圧縮した魔力を目にも留まらぬ速さで剣にぶつけた。

 ケイニーの剣から、ケイニーの魔力が消失する。

 ニィが剣を引き抜いていき……ニィの腕では抜け切れなかった。刀身が長すぎる!


 僕はニィに刺さっている刀身の部分だけ、魔力で覆う。


「《転送》!」

 

 剣の中ごろだけ外へと送り、剣先と柄の部分だけその場に落ちる。

 

「《()……――4……(フォ……ル)》」


 自分が治癒魔法を使えないことに、これほど怒りを感じたことはない。

 僕は歯噛みしながら、ニィが回復するのを見守った。


「……ケイニー、どういうつもりだ?」 


 僕は外に音を拾うための小さなゲートを開き、異空間を通してこちら側へと接続する。

 ケイニーのあけらかんとした声が、聞き取り穴から伝播する。


「俺は忠告したぜ? 防御すれば、容赦なく攻撃するってな」

「それが攻撃の理由になるのか!?」

「ああ、なるさ。おかげであんたの手の内が見えたんだからな?」

「そのためだけに、ニィを!?」

「俺が話すからよ、あんたは少し黙ってろよ」


 まずい……まずい!

 ニィの安全は確保できた。

 でも、おそらくケイニーは確信してしまった!


「リーガルの兄貴はよ、魔法を好まないという、数少ない仲間だったんだ。だからよ、魔脈同士が近いってのもあったが、それなりに交流はあったんだ。

 そんなリーガルの兄貴が、突然いなくなった。それは自主的にか? 強制的にか?

 自主的なら、俺たちに声掛けくらいはするだろうよ。それくらいの仲ではあったんだからな。

 それがなかったっつうことはだ、強制的に連れ去られたんだろうぜ。

 そしてリーガルの兄貴に最後に会ったのが、あんたたちだ。

 特にあんた。空間系統の魔法を使うな?

 この黒い穴の中は……異空間だ」


 ケイニーがゲートの中に入る気配。数秒後、出てきて続ける。


「んでもって、あんたの魔力操作。俺の魔力を消し飛ばせたってことは、やり方次第じゃ神にも通用するな?」

「…………」

「どこへ連れ去った?」


 ザグッ。


 外で、地面を抉る音。

 ケイニーが僕のゲートに向かって大剣を振り下ろしている。


「なあー、答えろよー。もうタネはばれてんだぜー? 隠せてねぇんだからよー」


 ザグッ、ザグッ、ザグッ。


「リーガルの兄貴はどこにいるんだよー? 早く話せよー」


 ザグッザグッザグッザグッザグッ。


「おいー、なに黙ってんだよー」


 ザグザグザグザグザグザグザグザグザグ……。


「早く喋れよこのクソヤロウがぁッ!」


 ドガンッ!


 僕の足元に、クレーターができる。

 足場を咄嗟に固定したため、落下は防げたけど、数メートルの大穴ができているらしい。


 僕が言うべき言葉を見つけられないでいると、ニィが代わりに答えた。

 

「事情があって、スイシアの神世界にいるわ」

「……スイシア? 誰だそれ」


 ニィは、本当のことを告げようとしている。

 それはまずい。僕の力が神にも通用すると認めることになる。

 でも、だんまりを続けても黙認と変わらない。

 僕はニィに任せて事態を見守る。


「転生の神、スイシア。

 リーガルは、スイシアを敵視していた。その決着をつけるために、スイシアの神世界に留まっているの」

「……ははぁ、なるほどね。俺たちに相談もせず1人で向かったと? そんな根も葉もねえ話をいったい誰が信じるよ?」

「……私たちが知っていることは、もうないの。私たちのほうからはスイシアと接触できないし、あとは、リーガルが帰るのを待つしかないわ」

「……そうか。まあ、あんたたちが実際に知らない可能性もあるわけだが……そんなことはこの際どうでもいいんだ」


 ドガンッ!


「とりあえずよー」


 ドガンッ! ドガンッ!


「リーガルの兄貴を連れ去った奴らをよー」


 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!


「一度殺さねーと気が済まねーんだわー」


 ヒュン。


「へ?」


 なぜか、僕のゲートが切れていた。

 光が差し込み、そこからケイニーが顔を出す。


「だから、死んでくれや」


 大剣が僕の首元に吸い込まれた。

 

 僕は驚きで頭が真っ白になり、魔法どころか、実体化すら発動させられない。


「ケーィッ!」


 ニィの悲痛の叫びとともに、死神の鎌が僕の首元に接触する。

 瞬間、僕は死の味を思い出していた。



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