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40話 冒険者ギルドの魔法訓練(4)

2015/2/1 冒険者を返り討ちにした件に対する佐々倉啓の独白を一部修正。



「3人は、パーティなのか?」


 僕がテノンの弟子入りを断ると、テノンがそう聞いてきた。

 その茶色い瞳は光を失っておらず、まだ諦めていないことが窺える。


「パーティって、冒険者の話だよね? そうだけど……?」


 僕は答えながらも、首を傾げる。どうしてそんなことを聞くんだろう?


「3人のランクは?」

「えっと、僕とニィがEで……、フマもEだっけ?」


 フマを見ると、頷いた。

 テノンは目を丸くする。


「え!? E!? そんなに戦えるのに!?」

「うん。僕とニィは先日登録したばかりで……、フマは、依頼とかあまり受けずに旅してたんだよね?」


 フマは、宿に泊まらなくていいし、食事を取る必要もない。元の体が魔力体だから、生活にお金がかからない。

 だから冒険者家業はしなくてもいいし、当然、依頼を受けなくてもいいから、その分ランクが上がらなかったというわけだ。


 それに納得した後、テノンは言った。


「俺も、Eなんだ」

「……あ」


 そこで僕は、テノンの意図に気付く。

 

「いや、駄目だからね?」

「まだ何も言ってないだろ……」


 僕が先回りして断ると、テノンはむっと口を尖らせる。


「あれでしょ、僕たちのパーティに入れてくれってことでしょ?」

「……俺の魔法が未熟だってのは分かってる。でも、Eランク程度の依頼なら、足を引っ張るつもりはない。一緒についていくだけでもいいんだ。お願いだ、頼むよ」


 テノンの懇願に、僕は少し考える。

 

 テノンが足手まといにならなければ、来たらいいと思う。

 秘密にしていることはいくつもあるけど、昨日の魔脈のような特殊なケースでなければ、その秘密がばれることもない。

 もし、テノンが同行したい理由がニィだったなら、即切ったけれど、魔法の勉強ということだし、いいんじゃないかと思う。


 僕はフマとニィに視線を向ける。

 2人からは頷きが返ってきた。任せる、という意味だろう。


 僕はテノンに向き直る。

 テノンは断られることを覚悟しているようで、顔色が悪い。


「意地悪な約束をしようか」

「……え?」


 僕の言葉に、テノンがきょとんとする。


「まず、僕たちはこの町に長くいるつもりはない。用事を済ませたら、すぐに出て行くかもしれない」


 残る用事といえば……、そういえば、何があるんだっけ?

 昨夜だったか、ティファさんが僕に常識を叩き込むとか意気込んでいたけど、……そっち方面で何かあるかな?

 僕としては、この町はニィとのデートで歩き回ったし、魔脈にも行ったし、特に用事はない。

 ニィも同じだろうし、残るはフマとティファさんの都合とか予定とかそれくらいだろうね。


「具体的にどのくらいこの町にいるかは分からないけど、そういうわけだから、一緒にいられる時間は少ないと思う。

 それと、この町にいるからって、依頼を受けるとも限らない。ギルドの依頼抜きで、昨日は魔脈に行ったし、だからEランクの依頼を受けないかもしれない」


 「魔脈に行った」というくだりでテノンは顔を青くしていた。

 別に、テノンを連れて行くわけじゃないのに。


「ただ、もし、この町でEランクか、あとDも受けられるんだっけ? ギルドで依頼を受けることになって、テノンを連れて行っても問題ないと判断したら、そのときは同行してもいいよ」

「……え、いいのか?」

「説明したみたいに、そうならない可能性も高い。それを承知の上ならね」

「……っ!」


 テノンがにまにまと頬を緩めた。

 僕は一応、フマとニィに視線を送る。


 ニィは特に異論はないみたいだけど、フマはやれやれと首を左右に振っていた。


「こうなる予感はあったさ。ま、オレはいいんだけどさ」

「……なんか引っかかる言い方だね?」

「これから予定がないからといって、それは未定ってだけさ。新たに入らないわけじゃない。ま、ケイの教育にはいいと思うさ」

「……ん? 僕の教育? テノンじゃなくて?」

「テノンは正式な依頼の一つや二つは受けたことあるだろうさ。それに比べて、ケイはゼロ。冒険者としての常識は、どちらが上さ?」

「…………」


 フマが、んん? どっちが上さ? ほら、答えてみるさ? みたいなイラッとくる表情を向けてくる。

 僕は視線を逸らし、テノンを見る。


「あ、ケイ師匠、明日は空いてる?」


 ……ケイ師匠?


「いや、ちょっと待って。弟子入りを認めたわけじゃないからね?」

「俺が勝手に呼んでるだけだよ。ケイ師匠は、俺のこと、弟子として認めなくてもいいから」

「……いや、体面というものがあってね」

「あ、ニィナ師匠、明日の予定は?」


 テノンが僕をかわしてニィに迫る。こ、ここまでしたたかだとは思わなかった……。

 

 ニィは、師匠と呼ばれてちょっと誇らしげにしている。むずがゆくはないらしい。

 

「フーマ、明日って何か予定あった?」

「いや、今のところはないさ」


 それを聞いたテノンは、4人でギルドの依頼を受けようと持ちかけてきた。

 僕は断りきれずに、結局了承してしまう。

 フマが、それみたことかとからかう視線を向けてきたけど、無視しておいた。


 テノンがあまりにも僕らに執着しているように見えたので、その理由を聞いてみると、4(フォール)使いの話が出てきた。


「なんでも、すれ違うだけで相手を殺せるようなすごい魔力を持った凶悪な妖精と、見た目は可愛いのにその妖精と負けず劣らず凶悪な女の子が、4(フォール)の魔法を使えたらしい。

 別に、自分と比べるつもりはないけど、でも、それを聞いてじっとはしてられないだろ?」


 つまるところ、テノンは触発されたようだ。


 「凶悪」かどうかはともかく、噂はきちんと広まってくれているらしい。まあ、本人を前にして気付いていないんじゃ、噂を広めた意味もないかもしれないけどね。ニィが冒険者に絡まれないようにするためだったから、ニィが噂の少女だと認識されないんじゃ、効果はない。


「ちなみに、その当人たちに弟子入りしようとは思わなかったの?」

「話を聞く限りじゃ、あまり近づきたくないな。自分に非があったのに、相手の冒険者をぼこぼこにしたとか、町中で周りの被害を気にせず魔力を解放したとか、人格が疑われるな」

「…………」


 あれ? なんか悪い尾ひれがついてる……。

 ま、まあ、あくまで噂だしね。しょうがない。

 4(フォール)が使えることを自慢したいわけじゃないから、あえてここで教える必要もないかな? 黙っとこう。


 それから僕たちは、やることを終えたので、片方のグループと合流するべく訓練場を歩いていく。

 向こうのグループは防御魔法の(ウォルール)を練習していたけど、魔力が少なくなってきたのか、休憩している。


 僕らが訓練場の中央付近を通過しようというときだった。


 隣の壁の向こう側から、大きな魔力反応があったかと思うと、壁が砕け、一抱えあるような岩塊の集合となってこちらに飛んでくる。

 まるで、土砲クレイド・キャニトールの散弾のようだと一瞬思う。

 だが、それらはちょうど僕らの位置に飛んできているため、放っておくとかなりマズい。

 僕は咄嗟に魔力を操るも、詠唱が間に合わない。

 ……仕方ない、実体化を使おう。


 僕は目の前に魔力で壁を作るのと同時、「魔法」ではなく「実体化」によって《固定》を発動させた。

 ブロック状の破片たちが、僕らに届くことなく、見えざる何かに弾かれ、砕かれ、あるいは方向を変えられ、辺りにちらばる。


「固定」

 

 ワンテンポ間に合っていないけど、一応呟いておいた。

 もしも追及されたら、なんとか誤魔化そう。


「おいっ、アレックス! やり過ぎだって!」


 見れば、壁だったものの残骸の中に、どこかで見たような髭の中年男が横たわっている。

 そしてできたてほやほやの壁の穴のほう見やれば、そこから、こちらも見覚えのある金髪青年が現れた。


 どちらもチェインメイルを装備しており、髭の中年男は剣を、金髪青年は槍をそれぞれ手に握っている。


「うわぁ! グレッグさん、すみません! ……あれ、きみたちは……?」


 アレックスと呼ばれた青年が、僕らに気付き、何かを思い出すように目を細める。


「ん? どうした? ……あ、嬢ちゃんじゃねえか」

「ああ、やはりあのときの」

 

 2人とも思い出したようだ。

 僕も遅ればせながら思い出す。

 ニィとデートをしているときに出会った2人組みだ。


「お? もしかしてあんたが、もう一人の4(フォール)使いか?」


 グレッグと呼ばれた中年男が、そう言いながらフマを見る。


 僕はテノンのほうを窺う。

 テノンは状況が飲み込めていないようで、困惑顔を浮かべている。


 んー、これはばれたかもね。



更新が遅れてごめんなさい。


魔法訓練の話、思ったより話数を取ってる……。

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