巫女との決着
次の日、シノトは昨日のことがずっと引っ掛かっていて考え込んでいた。
(なんで、剣警隊があんなことしているんだ?そもそも、なんで、辻斬りを探さなかったんだろう?)
シノトが机に寝ながら考えていると、
「すいません」
「えっ、はっ、はい!?」
シノトは驚き、おもわず、返事を突っかかってしまった。
「そっ、そんなに驚くことはないでしょう」
そこには、少し不快といった表情を浮かべている黒髪の美少女、桔梗がそこにいた。
(なぜ?)
シノトははじめに辻斬りの問題と同じくらいに疑問に思った。
学院でも上位の生徒である人が僕みたいな落ちこぼれになんの用だろう?
「狐空さん、今日の放課後、私の道場に来てくれませんか」
その言葉に教室の空気が張りつめたのをシノトは感じた。そして、後からくる鋭い視線もヒシヒシと背中にしっかりと感じていた。
「えっと、それは珠依さんの道場ですか?」
「そっ、そうです。二度は言いません!でわっ。失礼します」
突然、頬を少し赤らめて言った。
「つ、伝えましたから」
桔梗はそう言うと早足で自分の席へと戻っていってしまった。シノトはただ、呆然とその後ろ姿を見送っているのだった。
そんなシノトにアキトは
「やったな!応援してるぞ」
意味の分からない言葉を掛けた。
その後、案の定シノトは再び、男達から袋叩きにされるのであった。
学院が終わり、シノトは桔梗に連れられながら彼女の家にむかっていた。
(なんなんだろう?一体)
「珠依さん、どうして、珠依さんの道場に僕を連れていくんですか?」
「着いてから説明します」
「はあ」
シノトはますます困惑した。
そんな会話していく中で目的地に到着した。
目の前には立派な瓦屋根の門が建っていた。
(すごい)
感嘆しながら、シノトは家の中へ入っていった。門をくぐると目の前に美しい日本庭園とお屋敷が現れた。まるで、平安時代にタイムスリップしたような光景であった。
「こっちです」
桔梗についていき、道場の中に入った。
道場に入ったシノトは改めて聞いた。
「珠依さん、そろそろ答えてくれませんか。どうして僕をここへ呼んだのか」
「わかりました」
そう言うと桔梗は壁に何本も立て掛けてある木刀の一本を手にとった。
「もう一度、勝負してほしいのです」
「えっ、でも僕はあの時に敗けたはず」
「いえ、私はあの決闘を認めません」
「いえ、でも・・」
「お願いします!」
ついには、桔梗は頭をさげて懇願してきた。
「あなたが隠す事情は知りません、詮索もしません!ですが私はあなたと立ち合いたいのです!どうか!」
(困ったなあ)
シノトはそう思うのと同時に思っていた。
女の子が頭をさげて願っているんだ。それに応えるのが男のつとめだと。
少し考え込んで、
(ごめん。おじいちゃん、父さん)
内心で謝る。
シノトは口を開いた。
「わかりました」
自然と口から言葉がでてきていた。
「ほ、本当ですか!」
「はい、ただし、どんな結果になっても知りませんよ」
「はい、かまいません」
桔梗がこれまで見たことがない程の笑顔で答えた。シノトはその笑顔に一瞬、ドキッとした。
こうして、炎の巫女と落ちこぼれの二回戦が始まった。
道場の中は静けさにつつまれていた。
両者とも、お互いに木刀を構え、相手を伺って膠着していた。
構えていた桔梗はシノトを見て内心驚いていた。
(すごい気迫、学院の時とは天と地の差だわ)
自分の体をその場に縫い付けてしまうような気がした。
(全力でいかないと)
決意を改めた。
そして、数分がたった時、動きがあった。
意外にも先に動いたのはシノトであった。
俊足と言われる程の速さで桔梗の間合いに入り抜刀した。
「くっ!」
桔梗は反射的に木刀でシノトの抜刀を防いだ。それと同時に木刀がぶつかり合う音が響いた。
速い、まさかあんなに速かったなんて。
桔梗は再び、驚かされていた。しかし、それと同時に桔梗の顔には自然と笑みがこぼれていた。
何十分たっただろうか、今だに木刀の打ち合う音が響いていた。
「はあ!」
気合いとともに桔梗は横凪ぎに振るう。しかし、シノトは後ろに数歩さがり回避する。
「く、」
桔梗はおもわず、呻く。だが、内心では感動していた。
「すごいです。やっぱり、あなたはすごいですね狐空さん」
「ありがとうございます。珠依さんみたいな綺麗な女性に言われると嬉しいです」
その一言に桔梗は一瞬、虚を憑かれ、頬を多少紅く染める。
「狐空さん、意外とお言葉が上手ですね」
「えっ、もしかして気にさわるようなこと言ってしまいましたか」
「いっいえ、ただ・・・」
「?」
桔梗が急に顔を伏せ、言葉が小さくなっていった。シノトはその様子に首をかしげた。しかし、桔梗はすぐに顔あげた。
「なんでもありません。さあ、狐空さん決着をつけましょう」
「はい、いいでしょう」
シノトは自分の手にある木刀を強く握り締めた。
桔梗は腰を落とし抜刀の構えをとった。
(どう受けますか?)
桔梗は、挑むようにシノトを見据える。
シノトは彼女の構えを見て、シノトは一息吐き、同じように、抜刀の構えをとった。
(やはり、すると、あの時の〝技〟を)
桔梗はシノトが以前の決闘に使った。投擲技を警戒した。
(でも、ここはあの時のように砂煙は起きない。それに、さすがの私も一度見た技はみきるだけの実力はあります)
数秒の膠着が続き、そして、動いた。 今度は両者同時であった。両者は少しずつ、相手の間合に入っていく。しかし、桔梗の方が間合に入るのが速かった。
(抜刀術は鞘から抜きながら相手を斬る一撃の技、決まれば、相手を一刀で倒すことができます。そして、抜刀の勝負になった場合・・・)
相手より早く抜刀するか、相手の抜刀を避け、抜刀するかの二つです。
シノトに迫りながら、桔梗は木刀を抜刀した。刃はシノトの体に迫っていき切り裂き勝負が決まる。
はずだった。
「え?」
桔梗の抜刀した刃は空を切り裂いていた。
(き、消えた)
桔梗が呆然とした直後、背後で何かが着地する音がして桔梗は慌てて後ろを振り返った時には抜刀された木刀が首筋に当てられていた。桔梗は今の状況に呆然としていたが一言だけ呟いた。
「私の敗けです」
こうして、炎の巫女と問題児との二回戦は終わった。