恐ろしいファン
久しぶりの投稿です。
文章を試行錯誤しています。おかしい箇所があれば、指摘していただけると嬉しいです。
「いたぞ!追え!追え!」
夜の街に響く叫び。
男達。剣警隊は建物の屋根を見上げる。
そこに立つ者がいる。
「奴を追え!逃すな」
隊の指揮をとる彼は隊員達に指示をとばす。
「やれやれ。しつこい人達だ」
屋根の上から見下ろす形でシノトは彼らを見る。
今夜もシノトは裏の仕事を済ませ、現在は逃亡している真っ最中だった。
そしていつものように剣警隊をあしらう。
「でも。最近は力を入れ始めてきたな」
仮面の下で小さく呟く。
この頃になって自分こと、笛吹き狐の捜索及び追跡が強化されているのをシノトは感じていた。
シノトの思うところ、前に起きた桜蘭屋と剣警隊の支部長の人身売買の件による。支持率の低下が影響しているのだろう。
(僕を捕らえて信頼を取り戻すって寸法だろうけど)
シノトは屋根を蹴り跳躍。剣警隊の頭上を越え、反対側の建物の屋根に着地。
そして再び跳躍。うさぎに負けず劣らずの脚力で屋根という屋根を跳んでいく。
背後からは自分を見失可能性を恐れた剣警隊の焦りの声が聞こえる。
そうして屋根を渡っていく内に剣警隊の気配が遠のいていった。
(諦めたか・・・いや)
「さっきから私を追ってきていますが、目的はなんでしょうか」
喋った瞬間、シノトは屈んだ。
空気を引き裂く音が頭上で鳴った。
シノトは正面に拳を振るった。
しかし手応えはなかった。まるで落ちてくる紙にパンチした時の感覚に似ていた。
(寸前で後ろに跳んだ)
「いい反応だね」
シノトとは別の少年の声が耳に入ってくる。
身長はシノトと大差ない。
屈託のない笑顔が印象的。そして月光に黄色の髪が綺麗に輝く。
「あなたは」
「名乗ってあげたいのはやまやまなんだけど。君が真の姿を見せないから、こっちも名乗らないよ」
「真の姿?おかしなことを」
キザっぽく鼻で笑う。
「あなたが目の前で見ている私の姿が真の姿だが」
「そう言うか。なるほどね・・・・」
彼はそう呟き、顎に手を当て、思案し始めた。
「どうしてだい?」
思考を中断して彼はシノトに質問を投げかけた。
「どうして、とは?」
「僕が、思考に耽っている間に逃げればいいのに、どうしてだい?」
何で?という動作を見せてくる黄色髪の少年。
「よく言います。私が後ろを向けば、直ぐ様斬りかかってくるでしょう。背中を見せるなど、愚の骨頂」
「うーん。斬りかかるなんて酷いなぁ。こっちはそんなつもりないのに」
心外だなあ、と呟いている彼。だが、シノトは気づいていた。自分を逃がさないとでもいうかのように気配をぶつけてくることに。
その気配を言葉に表すのなら殺気。笑顔の奥に隠れた裏の本性をシノトは見ていた。
「それで、あなたは誰でしょう?私にはファンがいるという情報は耳にしています。しかし。大半が女性。男がいるとは思えないのですが」
「その大半のいる極僅かにいるファンだと言ったら君はどう思うかい」
「それはそれでいいことですね。老若男女問わずの人気。誠に素晴らしい」
「ははは。君は面白いね。ここで仕止めちゃうのが惜しいほどにね!」
「よっと」
声が変わり、敵意がこもった。そしてシノトに向かって跳躍し、刃を振るった。
すかさずシノトは移動して回避する。
「ファンであるなら私の逃走劇を見ていてほしいものですね」
「ファンだからこそだよ」
剣先を向ける少年。
「ねえ。どうしてこんなことをするんだい」
「何?」
不意に掛けられた言葉。あまりの不意にシノトはキザな口調から素の口調で聞き返してしまっていた。
「どうしてこんな回りくどいことをするんだい。犯罪の捕縛なんて剣警隊や風紀組に任せればいいのに」
「簡単ですよ。彼らが暴けないものを私が暴くためですよ」
「本当にそうかい」
「私の言葉が信じられないとでも」
「いや。信じているよ。嘘を言っているようには見えないしね。でも、それだけとは思えない」
見抜こうとする眼光
「ふぅ」
シノトは溜息を吐いて、受け流す。
(危ない。なんて洞察力。いや、直感・・か)
こうでもしないと相手のペースに乗せられてしまう予感がした。
「いやはや。恐ろしいファンがいたものですね。しかし。そろそろ夜明け。人をたぶらかす世界が終わりを告げました。それではご機嫌よう」
後ろを振り返らずに屋根から飛び下りた。
だが、少年は追わなかった。
ゆっくりと手にしていた剣を鞘に戻した。
「これは、楽しい狐狩りになりそうだ」
日の出とともに少年を明るく照らした。
これは、シノトにとって、切っても切れない縁の始まりの出来事である。




