最果てに輝く月
とうとう、ここまで来た。
当物語に於ける智欲の大罪に課せられた、幾重もの制限。
その制約の鎖は、今ここにそのすべてを開放された。
顕現した神は、金色に輝く十三枚の蝶の羽と、同じく金色に輝く十一枚の剣のスカートを身にまとう月の妖精と見まがう大罪悪魔。
手の甲に二つ。腰に二つ。足に二つ。
そして背に六つ、ブースターシャフトを六本に増やし、その先端に魔力光によって繋がる六芒星。
計十二基の本型ブースターを装備した、過去最大の高速機動形態。
見た目自体は先の『月踏剣舞』と大差はない。
だがルシファーの魔王化と同様、受ける圧力が圧倒的に段違いだ。
その姿は、紙片の紙吹『雪』を大量に散らし、
黄金に輝く『月』のブレードを従わせ、
飛び道具に対して無敵を誇るアイアスの『花』弁を身にまとった、
最強の『雪月花』。
魔王ルシファーに続き超越の大罪悪魔。
神化したアンノウンの降臨だった。
そして戦場に舞い降りた流れ星が十二冊のブースターに火を噴かせる。
『世界縫合』にて使用したグレイプニールの紐たちを、己の飛翔に付き従わせて敵対者である邪神を狙う。
まるで黄金の樹木が天へと突き昇るかのような光景を引き連れて、最薄の二刀月を構えたアンノウンが、覇奪の大罪によってハリネズミにされたアザゼルの身体――その隙間を縫い斬る。
その進化したアンノウンの姿に言葉を失うルシファー&レヴィアタン。
特に間近でその姿を見たルシファーは完全に絶句。
通常の天使のそれとは仕組みも形式もまるで違うが、この目に映るあれは間違いなく十二冊のブースター。
さらに月齢のブレードが三十枚、合わせて計四十二枚の推進用兵装。
たとえ見た目にごまかされようと、しかしその姿から受け取る圧力だけは絶対にごまかせない。
「…おチビ、アンタまさか…『エル』?」
大天使…ミカエルやウリエル、元はルシフェルやアザゼルと同様、神の名を語る者――それも中級や上級レベルの代物じゃない。
正直なところまさかありえないとは思うが、最強の危険因子存在として抹消された結果を考えれば、自分やミカエルと同等かそれ以上、神格位の超越天使という可能性もありえるのか?
「ルシファー、時間を!」
「――ッ、わーったわよ!」
遅れてやってきたグレイプニールの大樹に向けて、金棒化させた覇奪でかのゾンビ神を叩き込む。
「術式開放。Overcall『封魔の八卦方陣』最大展開!」
アンノウンの十八番、切り札の多重使用による一点突破。
繰り出されたそれは、先のOvercallによってフィールドをまるごと縫合した、その『グレイプニールの紐』によって描かれた、規模にして一キロメートル四方の極大魔法陣。
智欲の大罪を名乗るあのアクマが、ただ無意味にフィールドを縫合するわけもなく、かの幼女はことのついでに八卦型の…正三角形二つの六芒星魔法陣ならぬ、正四角形二つを組み合わせた八芒星魔法陣をフィールド全域に描き抜いた。
思わず戦慄するルシファー嬢。
いかな彼女といえども忘れ得ぬトラウマ。
アポロ11号召還時の魔法陣でさえもここまでの規模ではなかった。
どれほど凶悪な代物が飛び出すのかと戦々恐々とするルシファーだったが、幸か不幸かその術式はただのゆりかごとしての特性を以って形成し、攻撃性だけはまったくない、防御一点と戦場に散ったアザゼルの遺伝子の抹消を目的とした守護結界となって中央へと収束し始めた。
つ・ま・り。
アンノウンが次に放つ一撃は――。
敵味方を問わず、だれもが智欲の大罪へと注意を向けるその中で、はるか天空から黄金の塊――ルシファーが蹴っ飛ばしたアザゼルの遺体が、アンノウンへと激突してまるごと「圧壊」。
当の智欲の大罪は頭上に本を一冊掲げ持って、あろうことか超重力崩壊魔術――ようするに「ブラックホール」を形成しようとしていた。
「いや、ちょ、ま、え? ウソ!?」
さすがにソレはあまりにもあまりだ。
だが、思わず後ずさりしてしまう彼女たち認識は、それでもまだ甘かった。
――『Overcall install』
それは『智欲の大罪アンノウン』が誇る、最強最後の編纂魔術。
情報の規模も価値も清濁も問わない。それこそ宇宙すらもこの手に。
「……太陽核、形成」
「――いまなんつった、おチビ!!??」
あの幼女悪魔、ブラックホールの中で正真正銘、幻想としてではなく、宇宙に現存するルールを用いて真正の太陽を創ってやがるのだ。
理由はさっぱりわからないが、核にした本へと向かって雪月花、月齢三十本の月がひとつ残らず内部に吸収されていく。
アンノウンは本気も本気だ。
そして彼らに逃げ場はない。
この世界、「魔王からは逃げられない」というのはお約束中のお約束だが、その肝心の魔王でさえも逃げられない。
「水素紙片、投入。核融合、開始。――っ!」
重力球の内部で発生する大爆発。
アンノウンの本が彼女の最終奥義たる紙片をinstallされて、まさしく太陽のごとく燃え上がる。
核融合の圧力はアンノウンの制御する球体を圧して急激に膨れ上がり、わずかに発生した亀裂から焔を噴き出す。
「…重力制御、最大。放射層、対流層、光球、彩層の形成…完了。
コロナ急速生成…認識。太陽フレアの発現を確認。
……行きます!」
思わず「来ないで!」と叫びたくなったルシファー&レヴィアタン。
語らねばなるまい。
我らは『智欲の大罪』というものを、事ここに至るまで、いまだに見くびっていたのだということを。
このたび、当物語の作者によってこの戦技を成立させられているルールは、安易かつお手軽な通常の常識、幻想によるものではまったくない。
そんな安全なモノのためにわざわざ著作権の放棄などやりはしないのだ。
すなわちこれは、既存の理から発生したものではなく、まったく別の危険な思想、常識外の理を以って生み出された太陽。
そしてその前提とされる条件は、「天動説及び、地動説を無価値と断ずること」にある。
動いているのが太陽であれ、地球であれ、生命体が生存できる環境を維持できさえすれば、そのどちらが動いていたところで大差は無いと言い切ることから始まっているのだ。
そもそもこれは、観測地を太陽の位置に設定すれば、みなすべからく『天動説』、観測位置がそれ以外なら、すべからく『地動説』であるというだけの話という暴論も暴論。
故に必要な材料として求めたのが『月』。魔術として作成するには月齢三十枚すべて使うのが理想的とし、同時にアンノウンは太陽を月のように、生態環境のない星の周りを周回させることを思いついた。
適正な距離さえ保てていれば、動いているのが星の側でも太陽の側でもかまいはしないのだから。
そして第二、第三の地球を量産する…という論なのだが、これは最終的に作者によって却下された。
その理由は熱量の管理。
どのような理由であれ、第二の太陽が登場した時点で地球はその影響を受け、バランスを崩す。
はっきり言って、地球温暖化レベルの厄災では済まないだろうという結論に行き着いた。
推測される危険度は『終末核戦争』レベルかそれ以上。
言ってしまえば地球の焦熱地獄化だ。迂闊に手を出せば火傷じゃ済まない。
それでもというのなら、素人による推定安全距離は、生成サイズが『太陽>人口太陽』の場合、(太陽の放熱距離×遠心力×速度+地球・太陽間距離)のこれ以上と想像した。
まず真っ先に太陽の放熱が宇宙のどこまで届いているのかを正確に把握し、さらに細かな距離や熱量の計算が必要となってくることが予測される。
サポートに重力エネルギーの研究も必須となるだろうことは想像に難くない。
生成時に発生するだろう衛星規模の核融合爆破による衝撃波への対処も十分なものが必要になる。
まあ、実現するのは何千年、何万年単位となる神レベルの偉業なのだろう。
しかし、智欲の大罪なら世界のひとつやふたつ、滅ぼしかねない未来を所持していてもおかしくはない。
そして今ここで、この瞬間に、神を焼き殺すための武器とする分には、そんな小さな理由はまったくもって完膚無きまでに関係ない。
必要なのはただ一点。「世界を滅ぼせるルール」であることただそれだけ。
それこそたとえ論理に欠陥があったとしても、結果として世界が滅ぼせるだけの現象を起こす代物であればそれで十分。
刮目して見よ。智欲の大罪を舐めてくれるな。
人工太陽の構築はだれもが『不可能』と笑うだろう。
それは主に材料が賄えないからに他ならない。
だが、その材料を『地球一点で賄わねばならない』などとは誰が決めた?
それが必要だと言うのなら、アステロイドベルトを砕け散らせ、火星でも冥王星でも真っ二つに叩き割ればいい。それこそが『智欲の大罪』という『言葉』に刻まれた真骨頂。
その『名』に宿る真の恐ろしさ――『危険すぎて抹消されたアクマ』の真髄を、今こそここに思い知れ。
『不可能の理由』を探し続ける器小さき矮小なる愚者たちよ。
己がいまだ『進化を可能とする者』なのだということを知覚しろ。
そして『不可能』を嘲笑え。
これこそ叡智を司る大罪悪魔、『可能性の塊』たる智欲の大罪がその究極。
世界を破滅させかねぬ常識破りの非常識奥義。
論理が先か、はたまた戦技が先かもすでに不明。
神と運命の領域を往く前人未到の幻想絶技。夢の辿り着く果て。
人工太陽の鉄槌『最果テニ輝ク月』だ!
己に残るすべての命を賭し、神をも討ち滅ぼす理の鉄槌を天高く振り上げるアンノウン。
それに対してもっとも素早く応じたのは、ルシファーでもレヴィアタンでもなく、討滅対象である邪神アザゼルだった。
かの邪神は己を捕らえるグレイプニールの大樹を、あえて自爆することで離脱。
武器、触手、爆薬と、己の持つすべての力を以って、智欲の大罪を討ちに飛び上がった。
これに一泊遅れて動いたルシファー。
アンノウンを狙う触手を覇奪の大罪によって残らず切り伏せんとする彼女だったが、その切っ先が触手に切り裂いた直後にまたしても自爆。
爆風を受けて右腕と覇奪を弾かれ、一時的攻撃不能状態に陥る。
残るは左手の鉤爪と足の十爪のみ。
アザゼルが放った武器類はレヴィアタンのミズチが対処しているが、それでも本命であるアザゼルだけは抑えられない。
この瞬間、覇奪を勢いのままに放棄して、己が身を盾に飛び込むと覚悟を決めるルシファー。
そして己が主の覚悟を受けて取った覇奪の大罪。
自らルシファー右腕との接続を解除し、鎧と鉤爪だけを置き土産に衝撃すべてをその刀身に受け止め、地上のレヴィアタンへと当てをつけて吹っ飛んでいく。
アンノウンは鉄槌を掲げ、
ルシファーは己が身を盾にせんと飛び込み、
レヴィアタンは投擲された武器をすべて落とし、
ベルフェゴールはその能力特性故に決死の相手には通じず、
覇奪は刀身にヒビを入れ、
アザゼルは全身全霊を賭して突撃を挑む。
この、場に集う誰にも余裕のない状況を打破したのは、意外なことに一振りの日本刀だった。
覇奪を失い、致命打を覚悟で飛び込んだルシファーの右手に、まったくの予想外――青白い焔をまとった日本刀が投げ込まれる。
確認の暇などない。
即座に刀を斬り降ろすルシファー。
予想外の奇襲。青白い焔と鋭い斬撃に苦悶の声を漏らすアザゼル。
そして本命たる太陽は墜ちる。
ルシファーに斬られてよろめくアザゼルの姿を追い、漆黒に覆われた真紅の宝玉を従えたアンノウンが全てのブースターを180度全開、本自体が焦げ付くほどのオーバーブーストで飛び込む。
手にする指先から血と紙片と蒸気をたなびかせ、かの邪神の胸をめがけ、幾度となく噂された『神殺し』の宝玉を叩き込む最強のアクマ。
……そして世界は、夕焼け色に染まった。
自分の作者Lvを最初の頃と現在を並べて確認してみたくなった今日この頃。
『最果テニ輝ク月』は大変危険ですので、覇奪の大罪と同種の『著作物』扱いとさせていただきます。
ご利用の際は「現象・理論・責任」の三点セットでお持ち帰りくださいませ。




