ARMORED DINOSAUR
…キミは、ティラノサウルスの『跳び後ろ回しねこキック』を想像したことがあるか?
「…て、ティラノサウルスの…跳び後ろ回し蹴り…?」
「…今、アタシの中のティラノサウルスのイメージがゲシュタルト崩壊ってるわ…」
少なくとも、俺は今日までそんなモン想像したことはなかったし、見たくもなかった。
ありえねぇだろ、おい。あの幻想的古代存在のティラノサウルスが、「ほわたぁ!」と叫びかねない勢いで、跳び上がってかの大技を繰り出したんだぞ。
むしろ蹴っ飛ばされたアンドドレイクのほうに同情するぐらいだ。
蹴られたアンドドレイクのヤツもやはり呆然として、なにが起こったのか意味不明なていで放電施設のひとつにめり込んだまま思考停止していたのだが、やがて復帰して目に怒りだけを残し、口からメラメラと火の粉を吹き始めた。
「ファイアブレス!?」
「わたしもゲシュタりかかってるから、あえて声を出す。
アンドドレイクはともかく、ティラノサウルスは火を噴かない。
ティラノサウルスは火を噴かない!」
などと実況席が騒いでいる間にアンドドレイクがファイアブレスを放射。
その炎は周囲の雷撃を巻き込みながら直進し、アンノウンとティラノサウルスに直撃した。
「入った!?」
「うちのチビがそんなに甘いヤツかよ。見ろ」
雷をまとわり付かせる爆炎がゆるやかに晴れていく。
まず見えたのは一角獣のような赤いツノ。
それが兜の装飾だと気付く前に姿を現したのは、ティラノの巨体の上半分を覆い尽くすように展開された、バカデカイ円形の盾。
そして体の各所に装着された真紅の鎧。
その盾は左右半円状の鉄扇形式らしく、ガードしていた両腕を開くと同時にガシャガシャと音を鳴らして収納され、トンファーのような形状へと相成った。
そしてティラノサウルス咆哮!
訳すと「効かんぞコラぁ!」という感じになるんじゃなかろうか?
「…騎竜鎧装…アーマードティラノ?」
「…ティラノサウルスは絶滅した…ティラノサウルスは絶滅した…ティラノサウルスは絶滅した…ティラノサウルスは絶滅した…ティラノサウルスは絶滅した…ティラノサウルスは絶滅した…よし」
レヴィアタンのやつが脈絡なくティラノサウルスの絶滅を復唱しはじめた。
…ヤバイなアイツ。さらにゲシュタったか。どうもSAN値がピンチっぽいぞ。
しかしアンノウンのやつはそんなことをまったく考慮しない。
ティラノの頭、角の部分に留まり、アンドドレイクを指差す。
そして、巨大な砲身を肩掛けに、『ティラノサウルスが砲撃』した。
発射された砲弾がアンドドレイクを直撃し、起爆。
アンノウンの能力も加わってか、重爆撃機によるミサイル投下並みの土煙を巻き上げた。
「88mm高射砲――じゃない?
あの口径、アハト・アハトの三倍は…って、ウソッ!?
ちょ、まさかM65 280mm原子砲とか言わないわよね!?」
驚愕するルシファー。
『M65 280mm原子砲』
それは1953年から1963年までの十年間、アメリカ陸軍に核砲弾射撃専用として作成、採用された過去最大級の戦車用大型大砲であり、凶兵器である。
ちなみに88mm高射砲は88mm、8.8cmをドイツ語数字読みで8(アハト)・8(アハト)と呼ばれているらしい。
「レヴィ、おチビに音声繋いで。今すぐ!」
「ん」
――ザザ。
「おチビ! アンタいったいどういうつもりよ!?」
『…? なんの話ですか?』
「とぼけんじゃないわよ! M65なんて持ち出して!」
『M65? ああ、そういうことですか。理解しました。
落ち着いてください、ルシファー。
これは300mm口径の重迫撃砲、原子砲とは別物ですよ?』
「――ッ、紛らわしいのよ、アンタ!」
『照野さん、連続砲撃です。――撃て! 撃て! 撃て!!』
正しくは試製四式重迫撃砲。
第二次世界大戦末期に日本陸軍によって開発されたが、結局採用には至らなかった代物だ。
口径は300mm、砲身の重量は1.5t近くあり、重さ170kg(約人間3、4人分)の砲弾を3km先まで撃ち出す超重量迫撃砲。
ただし、その重さゆえに制御の困難さが目立ち、砲撃射角は50度で一定。
専用の補給車輌も用意しなければならないため、もろもろの理由で試作の域を出なかった破壊力特化の怪物戦車用砲塔だ。
試しに300mmで検索かけたらこれが見つかった。
とはいえ、モノがモノだけに特殊な補給能力と超重量を扱える砲台の両者がそろうと機動性・速射性が大幅に向上し、その凶悪度もまた一気に跳ね上がる。
スーパー系のトライアル機はパイロットを選びまくるという一例だろう。
蛇足情報として、第二次世界大戦期においてイギリスの主力となったカノン砲は口径140mmであったらしいことをお伝えしておこうと思う。
ついでにアンノウンとティラノサウルスと試製四式重迫撃砲のコンボなど普通はそろうはずがないことも忘れずに。
「どっちにしてもエグイし。アンドドレイク、両腕吹っ飛んで瀕死」
照野さんとアンノウンは砲身が焼け付くまで撃ち続け、危険域に入った砲身をあっさりと放棄した。
『いえ、本番はここからです。照野さん、行きますよ』
焦土と化したステージに向かい、赤角を立てたティラノサウルスの突貫が始まる。
倒すなら倒すで、せめて、ちゃんとドラゴン扱いして敬意をもって仕留めてもらいたいものだと俺は思ったな。




