ドレイクVS.ティラノ
「……ふぅ~…」
「おつかれ、ルシファー」
マイクのスイッチを切ったルシファーが深い深いため息をこぼす。
うちのアホは、ずいぶんとまた無茶なことをやらかしてくれたものだ。
不幸の可能性は1%でも存在する段階から叩き潰す。容赦は一切しない。
あのアホ作者は悩んだ末にそれを選んだ。
代償としてこちらがベットしたチップは著作権のほとんどすべて。
残っているのは大罪シリーズのプロフィールぐらいだ。
これだけ出せばさすがにレイズして共倒れしようという勇者は少ないだろう。
代償はすでに支払われている。始まる以前に粉砕した。
今後、たとえ万が一犠牲者が増えたとしても、笑って流してもらえねば代価を支払った甲斐がない。
また、さすがにここまで来れば「毒を喰らわば皿まで」という精神状態であることだし、無事フィナーレを迎えた暁には全著作権を放棄、グレムリンと同様の近代アクマとして智欲の大罪を世に解き放つことも考えているらしい。
それでも代価が足りないと言うなら風呂敷畳んで旅に出るだけだ。
その際はおそらくすべてが無に帰すだろうが、ま、仕方ない。
「……さ、祭りに戻るとしましょーか、レヴィ?」
「ん。バカな主人を持つと苦労するよね」
「ちょっとレヴィ? それだれのこと言ってんのよ?」
「さあ? だれのことだろうね?」
残る結果は全てか無か?
犀はすでに投げられている。
クトゥルー神話より参戦した原初の肉塊ウボ・サスラは、最終的に神の炎ウリエルの手によって焼却され敗北を喫した。
女性陣に嫌われたウボ・サスラ焼き焦がしたことにより、彼にはMVPポイントが入ったらしい。
しかし彼にしてみればそんなものはどうでもよかった。
彼の目的はただひとつ、以前の戦いで受けた、智欲の大罪アンノウンからの借りを返すことのみ。
彼は焼き焦がした肉塊を背に、怨敵智欲の大罪の行方を探っていた。
彼女はウボ・サスラをウリエルへと放り投げたまま、こちらを無視して東の針山避雷地獄へと飛び去ったらしい。
おそらくウリエルの勝ちを疑っていないのだろう。
それでいて奇襲も考えず、勝負を後に回しているようだ。
…追うか? それとも…。
結局ウリエルは魔人化を解き、西の豪風ステージへと飛んでいった。
「――ウボ・サスラ、脱落ぅぅぅぅ!!」
「勝者のウリエルにはMVPポイントが加算されます。ちびちゃんもぐっじょぶ」
ルシファーの実況に観客席、主に女性客が沸く。
レヴィアタンも親指立ててアンノウンとウリエルを賞賛していた。
「っと、レヴィ。九尾と白虎は!?」
「もう終わってるみたい。スクリーン。リプレイ画像。今のと合わせて半々でよろ」
レヴィアタンの指示が飛んですぐ、四方の観客席に設置されたスクリーンがリアルタイム画像からリプレイ画像に切り替わった。
「…ほんと金かかってるよなー」
「幻想だけに夢は魅せないとお話にならない。
信仰心減ったらわたしたち死活問題だから」
「大枚はたいてでも夢魅せろってか? 逆に世知辛いな。
もしかしてやってること遊園地の営業とたいして変わらないんじゃないか?」
「………言いえて妙かも。でもなるべくそーいう話はなしにしよう。
レヴィアタンからのお願いです」
「あ、ああ。悪かった」
「はいはい、シケた話はそれまでそれまで。
白虎は九尾に切り捨てられてリタイヤ、ウボ・サスラはウリエルに焼却処分よ。
レヴィ、スクリーン戻して。おチビが東に入ってるころよ」
「了解。スクリーン。リアルタイムでよろ」
「パッ」と切り替わったスクリーンに話題のアンノウンが移りこむ、のだが、
「…一応、ステージの特性を訊いておこうか」
「…常時ダメージの雷撃地獄よ。耐性ないと上級悪魔でも泣くぐらいの…」
俺、ルシファー、レヴィアタン。三人そろって目をごしごしこする。
「…ノーダメージに見えるのは俺の目が悪いせいか?」
アンノウンのヤツは自身の周囲にバリアを張り、その外側にファンネルとかビットとか呼ばれる鋼鉄の本型機動衛星を三基ほど召還、避雷針代わりにして雷撃地獄ステージを突き進んでいた。
靴の裏にインラインローラーと、外側側面に小型の本型ブースターを装着して、だ。
「さすがは智欲の大罪としか言いようがない。
あのオールラウンダーっぷりはなかなかマネできるものじゃない。
わたしの勘によると、あのバリアはたぶん電気伝導率ほぼゼロの高魔力純水」
「いや、ものは考えようだ! アイツ自身、バリア張ってる間攻撃は――」
とか言ってる間に、その考えを否定するかのようにアンノウンが腰のブックホルダーから一冊の本を引き抜いて投げる。…バリアを素通りして。
「…防水加工じゃないの?」
「ん。たぶん」
「ここでそういう常識持ち出すかよ!?」
非常識なら非常識らしく対処しろよな!
「アンノウン選手、バリアと衛星ビットで雷撃を防ぎつつ、一冊の本を射出!
その先にはこのエリアのボス、アンドドレイクの姿!」
「ドラゴン対幼女アクマ。これは見もの」
アンノウンの投げた本に雷が落ちて激しく放電、発光現象を起こす。
数瞬後、そこに現れたものは…。
「…照野さんじゃネェカ…」
アンノウンの召還ペット。恐竜ティラノサウルスの照野さん。
アンドドレイクに対して「なんじゃこらワレぇ」とでも言わんばかりにガンをつけて咆哮し、突撃していく。
アンドドレイクもアンドドレイクで「やったるわコラぁ」と言わんばかりに叫び返して、同じく突進。
「アンノウン選手、ここでティラノサウルスを召還!
アンドドレイクと巨体同士でぶつかり合ったぁっ!!」
緑と茶褐色の怪獣対決。
アンノウンは照野さんのそばに浮遊して、応援している。
「…おおぉ。大迫力。」
それぞれ巨体を活かしてガツンガツンと頭突き合戦。
吼えるわ叫ぶわ威力高いわで、愚直な割りにびりびり来る。
アレ一発でビルぐらいは平気で崩れそうだ。
両者互いの体に噛み付きあってぐいぐい押し込んでいくのだが、いかんせんどちらも体の硬いこと硬いこと。
業を煮やしたアンドドレイクが体当たりを重視して電撃塔にティラノを叩き付ける。
あごの力が弱まった瞬間に距離をとり、尾を振っての叩き付け。
それを見て取ったアンノウンが同じく尾による打ちつけを指示。
打撃音というより、大火力の砲撃音に近い衝撃が鼓膜を弾く。
そしてアンノウンの指示がさらに飛ぶ。
その瞬間、俺たちは奇跡を目撃して目を点にした。
…。
………。。
………………。。。
…解説の言葉が思い浮かばねぇ。
いや、起きた現象はわかるのだが、言葉にしようと思ったらタチの悪い冗談としか思えなくて口にすることをはばかられるのだ。
正直なところ、奇跡にしても頭悪すぎて言葉にならない。
「…て、ティラノサウルスの…跳び後ろ回し蹴り…?」
…とても頭の痛い奇跡だった。
繰り出したのが動物扱いの生き物なのだから、跳び後ろ回しねこキック、に、なるのだろうか?
その光景は何年経ってもふと折を見て思い出してしまいそうな感じで、できるならいますぐ記憶を消去したかった。
…キミは、ティラノサウルスの『跳び後ろ回しねこキック』を想像したことがあるか?
こ、ここまでやれば…。
この状況で精神状態をニュートラルに保てるほど図太い神経はもっていませんので、以降はまだ微調整状態の話を一日一本で切りのいいところまで出して、その後冷却期間を置こうと考えてます。




