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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第四章 レヴィアタンの依頼編
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選手控え室

 明朝九時だ。

 昨日の自由行動は即効コロシアム付近のホテルに部屋をとり、即行引きこもってさくっと終わらせた。

 ゲームの街探索(イベント)画面じゃあるまいし、余計なフラグは絶対に立てんぞ。

 依頼主のレヴィアタンには悪いが、これ以上ヤヤコシイ状況は御免こうむるからな。

 こういうのはさくっと終わらせてさっさと帰るに限る。

 そんなわけで俺は現在闘技場内の参加者控え室、ご丁寧に日本語で「智欲の大罪アンノウン様」と明示された扉をくぐり、パイプいすのひとつに前後逆に座って倒れこむようにダレている。

 アンノウンのやつは部屋の備品らしい、天井からぶら下がったサンドバッグに、紙片で創ったグローブ装備でビチビチ殴っている。

 うっかりフィニッシュにコークスクリューでも極めて、壁までぶち抜かんように手加減しといてくれるとありがたいな。

 万一のときは請求書レヴィアタン宛でひとつよろしく。

 ――コンコン。

 ん? 

 ――ガチャ。


「や」

「…だれだ?」


 はて、どっかで見たような女の子だな?


「いい加減顔覚えて。会うの四度目だし」

「ああ、レヴィアタンか」


 ほんと、改めてみてもどこにでもいそうな女子高生だな。

 そういえば昨日会ったときもこんな感じの服を着ていたような気もするが、んー。会うたびに顔が変わってるような気がするのは俺の気のせいか?


「…ぽ。そんなに見つめられても困る。わたしにはルシファーという心に――

「アンノウン、ちょっと愚者狩り出してくれ」

「ゴメンなさい。実は認識阻害でちょくちょくイメージが変わってたりする」

「…はぁ。それで顔覚えろとか無理あんだろ」


 あー、もう、やだやだ。これだから悪魔は。


「お呼びですか、マスター? おや。だれかと思ったらレヴィアタンでしたか」

「ちびちゃん、やっほー」

「やっほー」


 応じてアンノウンがてこてこ出迎えにやってくる。

 しかしノーテンキなあいさつだな、おい。

 ここがどこで、これからなにするのかちょっとは考えとけよ。


「あれ? ちびちゃん、気のせいか一回り大きくなってない?」

「はい、レベルアップして成長しました」


 いったいどんな体の仕組みしてんだかな?

 相変わらずよくわからないヤツだよ。


「…? よくわかんないけどわかった。

 とりあえずこれ、差し入れと参加者リスト。読みあげとく?」

「ああ、任せる」


 受け取った差し入れをアンノウンに手渡す。


「む。これは…」


 ちっこい手が生八ツ橋を取り出した。

 こいつ、いったいどこでなにしてやがったんだ?

 ……はっ! 京都土産だと!? こいつまさか!


「九尾のやつ手引きしたのはてめぇか!」

「手引きとはまたひどい言いがかり。利害が一致したから誘ってみただけ。

『日本の妖怪枠で参加してみない?』って訊いたら即OKだった。

 事情も知ってたみたいだから、あれはほっといても首つっこんできたと思う。

 そう考えると穏便に済ませたのはむしろ好材料かも。わたしぐっじょーぶ」

「ちょ、やっぱリスト寄越せ」


 奪い取ったリストにざっと目を通す。

 まさかルシファーのやつまで参戦してねぇだろうな?


「げ。ウリエル」

「ルシファーは実況席で参加予定。

 今はVIP待遇のアザゼルとメフィストフェレスの相手してもらってる。

 ウリエルは天使枠で入った。なんだかんだでミカエル重傷だし」

「えーと、このリンドドレイクってのはなんだ? モンスターか?」

「そ。ドラゴン枠で入ってきた」

「ドイツ・イギリスからの竜ですね。

 ワニ頭にやじりのように尖った尾が特徴のリントヴルム。

 その翼がないタイプの竜種です。

 白色コーカソイドのリントヴルムは幸運を呼ぶと云われていますね」

「運営側の本音として言わせてもらうと、バランス調整がすっごく難しい。

 ぶっちゃけ強力すぎるのを呼びすぎると観客の身の安全が保証できない。

 有名どころに大衆の面前で負けられても困るし。

 残念だけど、中国枠で参加表明いただいた闘戦勝仏・孫悟空殿や闘神ナタクさまはお断り願った。

 先手を打って太上老君たいじょうろうくん玄奘三蔵法師げんじょうさんぞうほうしに話をつけておいて正解だった。

 正直ルシファーや九尾をお仕置きするアナタの姿にかなりデジャブった。

 ま。その代わりといっちゃなんだけど、中国神話からは白虎がでてる」

「四聖獣の一匹かよ」


 いらん話はスルーだ、スルー。


「この『ウボ・サスラ』ってのはなんだ?」


 訊いた瞬間、アンノウンが無表情ながらイヤそうな気配を漂わせた。


「クトゥルー神話からの参戦。あまり思い出したくない外見。説明を拒否。

 個人的意見でわるいけど、真っ先に処分してほしいとオーダーを出したい」

「了解しました。可能な限り秒殺します」


 …とりあえず、婦女子には不評なやつらしいことはわかったな。


「あと、レアなところで、液体金属水妖メタルスライムが出されてるから。

 がんばって倒して」

「また経験値高そうなヤツだな、おい」

「涙滴型で顔のある子ですか?」

「残念ながらちがう。ふつーに妖怪」


 これでアンノウンにタマモにウリエル。

 竜一匹にトラ一頭、よくわからんのに経験値キャラで計七匹か。


「さすがにもういないだろうな?」

「ん。北欧神話を筆頭その他からの参加者はでてない。

 ま。代わりにVIP席がすっごいことになてるけど。

 えーと。オーディンでしょ。インドラでしょ。

 アマテラスに、ゼウスにアザゼルにルー、オシリス、ミカエル…」

「いや、もういいから」

「ん。まあ、そんなわけで、もはや闘技場コロシアム世界会議サミットが行われそうな勢い」


 また頭が痛くなる話だな。

 すでにルシファーとミカエルで魔王サタンフラグが立ってんだぞ?

 この上余計な神話モノなんか心底いらんわ。


「私が闘っているあいだの、マスターの身の保全はどうなっていますか?」

「問題ない。実況役のルシファーと、解説役のわたしが請け負う。

 一緒に解説席に座ってもらうから」

「ちょっとまて、聞いてねぇぞおい!」

「ん。今はじめて言った。不服?」

「不服に決まってんだろが!」

「んー。………」


 あごに指をあてて考え込むレヴィアタン。

 残り時間とその間に呼べる心当たりでも計算してるものと思われた。


「…しかたない。わかった。

 マンモン呼ぶから待――「よろこんでお願いしますレヴィアタンさま!」


 レヴィアタンが携帯取り出した瞬間、口が動いた。

 ヤクザの親分と隣り合わせで座れるものかよ!

 なんつー最悪な答えを出してくれてんだ、レヴィアタン!


「…? よくわからないけどわかった。まかせて」

「…マスター。この世界、ヤクザ(マンモン)より恐ろしいのがたくさんいるんですけど」


 うるさいな。それでも俺は一般人視点なんだよ。わるかったな。


「ほかに聞きたいこと、ある?」

「では勝利条件を」

「ん。基本は殲滅でOK。

 でもルールを外れた場合はわたしとルシファーも出る可能性がある。

 ま。最悪の場合だけど」

「ふむ」

「最悪、ね」


 観客席から孫悟空が飛びこんできたり、とかか?

 いや、VIP狙ってテロとかありえるのか?


「ま。なるようになる。警戒はするけど、今から気にしてもしょうがない」

「…そうですね。むしろ半端なのが来ても返り討ちでしょう」

「最後にわたしから激を一言。

『滅んででも勝て』…(わたしのお財布のために)」

「おい待てコラ! 今なんつった!?」


 今言ったよな? 言ったよな!?

 ぼそりと「わたしのお財布のために」って。


「ちょっとお前、荷物あらためさせろや」


 俺がレヴィアタンを羽交い絞めにしてる間にアンノウンが彼女の手荷物バッグをごそごそ漁りだす。


「いや。痴漢。やめて。だめ。あ。あぁ」

「む。発見しました」


 レヴィアタンががっくりとうなだれたので開放した。

 アンノウンの小さな手には、財布から発見したらしい一枚の紙切れが握られている。


「トトカルチョですね」

「そういやファイトマネーに関しては聴いてなかったなぁ。

 おいレヴィアタン。どうなってるんだ?」


 問い質しても顔を背けて答えないレヴィアタン。


「…そうか。アンノウン、没収だ」

「はい、マスター」

「ああ。そんな…」


 アンノウンから受け取った紙きれを自分の財布に押し込む。

 ヘタに見るとコイツの同類になりかねないし、後で確認するとしよう。


「さて、そろそろ行くとするか」


 モチベーションがごっそり削られたレヴィアタンを立たせて案内をまかせる。

 すっかり気力が死んでたぞ、アイツ。

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