戦々恐々異世界訪問
ミカエル、というよりレヴィアタンから依頼を受けて、約一日が過ぎた。
都合にして十二時間。それがアンノウンの戦術変更に必要な時間だった。
この間、アンノウンはほとんどまる投げだった宝具・兵装紙片を再分類及び最適化するために、以前ミカエルたちと戦ったときのように再びの紙片整理をひたすらやり続けた。
人類の現実・幻想を問わず宝具と兵器の類を選別する。
言い換えるなら、人類の戦争史をひたすら選り分け続けたと言ってもいいのかもしれない。武器マニアでもないと苦行もいいところだ。
しかしそこまでしてもアンノウンの戦力は半減したと考えるべきなのだろう。
なにせ、宝具に編纂callが使用不可、Overcallに魔獣召還が使用制限の縛りだ。
どう考えても戦力大幅ダウンだな。
しかしそれは『普通に考えたら』だ。
もう一度言う。『普通に考えたら』だ!
あのチビ、まだチートを隠し持ってるような気がするんだよな。
まさかRXナンバーを筆頭とする有人機動兵器とかは出さないとは思うのだが、ゼロ戦やティーガーI(通称タイガー戦車)ぐらいは平気で出してきそうだし。
…うーむ。………(想像中)。
――いや、ないない。さすがに大和とか召還して、飛行艦隊の結成は規模がでかすぎるから!
……ん。ごほん。
まあ、そんなわけで危機感がどうしても沸かないのな。
…忘れておこう。
ああそうだ、一応現実逃避用に携帯電話用のゲームアプリでも落としておくか。
そのうち必需品になりそうでものすごくイヤだが。
町の座標情報は昨日のうちにレヴィアタンにもらっていた。
いわゆるVIP用の転移カードというやつだ。
それも、空港を通さずに直接町へ転移できるようなやつ。
悪用されて薬物とか持ち込まれそうだよな、コレ。
あと俺が気になるのは大学の単位だな。
留年したらどう責任とってもらおうかとそれとなく訊いてみたが、そこはさすがに悪魔だな。
「裏工作は得意」と自慢げに言い放ちやがった。
それでいいのか世界?
とりあえず今回の依頼は「ボランティア」として俺の履歴に記載されるように手配してくれるそうだよ。裏からね。
ファンタジー世界の戦争を未然に防ぐようなボランティアって…。
そういう人材は確か――いや、考えるまい。
俺はごくごく普通の人間だ。だからせめて現実方面でもちゃんと報酬弾めよ?
「ボランティア」扱いだから、なんていいわけは聞いてやらないからな?
…そして現在。
レヴィアタンからもらったカードを用い、俺とアンノウンは自宅からその「奇跡の魔界」とやらに転移した。
俺たちが出現した場所は、おそらく町外周に架けられた石橋の上なのだろう。
左右に町を囲う掘りが見られるから、たぶん間違いない。
そして、その橋の行く先を見れば、たっっっっかーーーーーーい壁。
下は石造り、上はおそらく強化ガラスで造られた、高さ二、三十メートルはありそうな街を守る外壁だ。
どこぞのドラゴンでも飛んでくる…いや、たぶん逆だな。
ヤバイ魔物はむしろあの壁の向こう側に居るんだ。
おそらくあの壁が守っているのは街じゃない。内じゃなく、外だろう。
ようするに、今から俺は獣の檻の中にのこのこと入っていくわけだ。
イヤだなぁ。
「と、いうわけで、やってきました異世界」
「俺は心底来たくなかったがな」
気力充実のアンノウンに、気分的にげっそりやつれた俺。
その理由は現状況はもちろんだが、アンノウンの方にもある。
…このチビ、今朝起きたら一回りでかくなっていやがった。
だいたい三歳児から四歳児ぐらいに。
どうも昨日のぶっ続け紙片整理で、またひとつレベルが上がったらしい。
てか、レベルアップボーナスが歳ひとつっておかしいだろ!
責任者出て来い! ほんと頼むから!
…はぁ。俺がなぜやつれているかわかるだろうか?
このチビ、こんなに無軌道に成長するってことは、保育所にも幼稚園にも預けられないってことだ。
想像してみてほしい。
一年たたずに成人するような子供がいたら不審に思わないだろうか?
もはや逆不老長寿物語だ。
問題解決のために引越しは確定さ。さよなら諭吉さん。
いや、もう、どうでもいいや。考えたら負けだ。
こうなったらもうなるようになれ。
悪魔にかけられた迷惑は悪魔に解決してもらおう。たのむぞレヴィアタン。
「それで? これから一体どうすりゃいいんだ?」
「あ、レヴィアタンから『こっちに着いたら読むように』と、手紙を預かっています。
…どうぞ」
件の手紙をペーパーナイフと一緒に手渡してくる。
一家に一匹アンノウンってぐらい便利だな、ほんと。
レンタル料金が命がけで割に合わないことこの上ないが。
『あなたがこれを読んでいるとき、わたしは死んで…いないと思うけど。
まあ、死んでたらルシファーによろしく言っておいて』
「ふざけんなッ!」
思わず手紙を地面にたたきつけた。
天使も悪魔もほんとバカばっかりだな。
俺がたたきつけた手紙をアンノウンが拾う。
好きにしろとジェスチャーしたところ、改めて読み始めた。
「えーと、一日目は自由行動ですね。
てきとうに町を歩きまわってケンカに首つっこんでいれば問題ないそうです」
それ、一般人からしてみればとんでもない問題行動なんですけどね!
「二日目に町の中央にあるコロシアムに朝九時入場。
衣食住はVIPカード出せばどうにでもなるそうです。
あ、町中で見せびらかせば向こうからケンカのタネがやってくるそうですよ。
盗まれないように注意、と書いてあります」
「つまりあれか? 使うときはケンカを覚悟しろと? このカード」
頭が痛くなる。なんつうもん渡してくれてんだ、レヴィアタン。
「あ」
「今度はなんだよ?」
「『おやつは三百円まで』と」
「ふ・ざ・け・ん・なっ!!」
ほんとロクなのいないな、天使も大罪悪魔も!
「続きがあります。『おやつは三百円まで…と、いうのは冗談。
経費はマンモンが出すことになってるから上手に使って』」
「資金源ヤクザかよ!!」
迂闊に使えねえ!
「『あと、居るだけで問題起こしてくれそうな適任者を見繕っておいたから現地で合流よろしく』」
「もういやだ! 今すぐ帰らせろ!!」
踵を返して立ち去ろうとするものの、振り返ってもゲートがない。
あるのはただひたすらにのどかな、なにもない平原風景だけだ。
「どこに行こうっていうんだい?」とあざ笑うかのようにムダに青い空が忌々しいことこの上ない。
「マスター、このVIPカード、入国手続きなしの直接転送ですよ?
ちなみに出国ゲートはコロシアム付近だそうです」
「チクショウ、ハメられたあああっ!!」
悪魔を信じた俺がバカだった!




