幻想にも政治はある
レヴィアタンによる魔王二人の英雄譚にある程度の区切りがつく。
ここだ。ここで対応を間違えちゃいけない。
説明続行6時間コースは断固拒否だ。
「もう一軒行こう」の酔っ払いコースも回避せねば。
他人事じゃないぞ?
これはだれもがほぼ必ずと言っていいほどに通りえる道だ。
考えろ俺。ここで終わらせるんだ!
「………んー、なんというか、あれだな」
『全部ミカエルが悪い』
天使以外、一同合唱。
アンノウンもナイスアシストだ、後でほめてやる。俺一人で言うより流れがいいぞ。
研ぎたての包丁をこっち向けられてもたまらんしな。
うつ伏せ状態で刺殺された、ミカエルくん人形の再現役になるのは絶対にゴメンだ。
ふつーに死ねるからな。俺をだれだと思ってやがる!
今日まで生きてこられたのが不思議なくらいの、ごくごく普通の人間様だ!
悪いがミカエル。ツッコミついでに人柱になってもらうぞ!
反論しようとしたミカエルを、例のハリセン『愚者狩り』をアンノウンから受け取って封殺する。今なら2,30%は持っていけそうだ。
ルシファーへの愛ゆえに、長セリフを言い切ったレヴィアタンにも報いてやらねばなるまいよ。
「おい、ミカエル。
1.お前それでも大天使か? (文字記載『一撃』)
2.神バカも大概にしろよ? (文変『倍返し』)
3.妹ぶった斬ってんじゃねぇよ、ドアホ。(色変『白→黄』)
4.信者混乱させるようなミスしてんなよ。(『猛省喚起』)
5.てか、バカ兄貴マジ死ね。(『半殺し』)」
よっし! 25%確定。
ハリセンの記載文字は『半殺し』だ。
そういえば昨日はルシファーに『猛省喚起』を喰らわせたな。
バカ兄妹が。いろいろとんだ迷惑だ。
とりあえずここでひとつ責任取っておけ。
「ちょっと待ちたまえ! なんだその宝具は!?」
「マスター専用ツッコミハリセン『愚者狩り』です。
ちなみにこれは連撃モード。単発モードよりちょっときついですよ?」
「とても痛いらしい。使い魔で確認済み」
「ちょっと三途の川見て来いやぁ!!」
マスター咆哮、断末魔の叫びを上げるミカエル。
往復五連打のハリセン打撃により、もともとルシファーにやられたまま半病人状態だったミカエルは、改めて三途の川へと旅立っていった。
ちなみにウリエルのヤツは先ほどから我関せずを貫いている。
光に包まれて天へとびちびち昇っていくミカエルの魂も華麗にスルーしてのけていた。
「南無。あ、来た」
ここでちょうどよく注文が届いた。これまたナイスアシスト!
ウェイトレスさんは死に掛けのミカエルを引きつった笑みでちらちら気にしていたが、まあ、無理もないだろう。
だが気にするな。これはしかたのない犠牲というやつだ。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「ん。大丈夫」
「ごゆっくりどうぞ」
やっぱりウェイトレスさん、ミカエルが気になるらしい。
ちらちらと見ている。金髪碧眼ってのもあるが、まあ、目が死んでるしな。
見えてないだろうが実際は口から魂も出ているそうだし。
だがもう一度言う、気にするな!
「じゃあ。食べながらでいいから聞いて」
ミカエルが死んでるのでレヴィアタンが仕切る。
実に妥当な判断だ。俺もウリエルに説明してもらうのはどうかと思う。
お言葉通りに頼んだステーキにナイフを入れながらレヴィアタンの話に耳を傾ける。
「今日来てもらったのは他でもない。あなたたちに頼みがある。
いわゆる政治絡み。智欲の大罪はたとえるなら…んー。
北朝鮮の核兵器のようなもの?
唐突に出現したせいで他の神話体系がぴりぴりしてる。
だから、まったくなんの情報も提示しないわけにはいかない」
「ん? お前ならこのチビの情報、それなりに持ってるはずだよな?」
「肯定する。しかしバカ正直にすべての情報を提示するほど抜けてはいない。
流布する情報は最低限に抑えたいところ。
ついては智欲の大罪に手加減しての武力公開を依頼したい」
「手加減しての武力公開?
デモンストレーションってやつか? 悪魔だけに」
「うまくないですよ、マスター」
「…うっせぇ、悪かったな」
ここにきて無言でカレーをかっ食らっていたウリエルが、スプーンの先端をこちらに向けつつ会話に参加してきた。
「この日本から直通で行けるところに、各神話体系共有の稀有な異空間がありやがんだよ。
おめぇらに行ってもらうとこはそこだ」
「いわゆる中立地帯。この日本のゆるさが生んだ、すべての宗教、神話が共存できる地獄以上の混沌空間。
騒動の起こらない日がない、現代の奇跡が生み出した魔界。
智欲の大罪には、その町のコロシアムで一暴れしてもらいたい」
………大罪悪魔に「混沌空間」だの「奇跡の魔界」だのと言わせる世界が、まさかこの日本にあろうとは。
想像するだに頭が痛くなるな。
できれば行きたくはない、が、さすがにそうもいかんかぁ。
断ったらまた魔王フラグが立ちそうだ。
招待状はもういらんぞ。
かといって魔王城に顔パスの常連になるのも絶対にイヤだ。
「一暴れ、ですか。ところでレヴィアタン、さらっと手加減といいますが、あなたはどの程度の『手加減』を期待しているのですか?」
……そろそろヤバイのかもしれんな俺の耳。
今のアンノウンの発言、「殺さなきゃいいのか?」と聴こえてしまったぞ。
「オーダーとして核弾頭は当然禁止。
細菌兵器とか無茶なのじゃなければ銃器は使ってくれてかまわない。
でも、あっちこっちからクレームがきそうだから、宝具の使用はしないでほしい。
宝貝も同様。編纂callはもってのほかだから、そこもよろしく」
「宝具以外の刀剣、銃器類と基本能力のみの縛りですか。
Overcallは可でしょうか?」
「できれば不可。規模が大きすぎるとよくない。
でもそのへんのさじ加減は任せる」
「ふむ。setcall辺りも加減を考えたほうがよさそうですね。
…照野さんなどの召還魔獣は?」
照野さんに喰われかけた覚えのあるウリエルが、カレーを食べながらもピクリと反応する。
だが、それだけで自制してくれたらしい。
「ティラノサウルスはギリギリ可。
同じくさじ加減を任せる」
「かなり無茶な注文になりますね」
「期待してる」
レヴィアタンがおそらく偽りのない言葉を投げてくる。
こうしてまた俺たち、特にアンノウンは厄介な案件を抱え込むこととなった。
ちなみに、ミカエルの後始末は満場一致(ウリエル込み)でそのまま放置の運びと相成った。
臨死中だけに…合掌。迷わず逝けよ?




