その銘は愚者狩り
ボロボロになった部屋の中。
スタングレネードの気絶から立ち直ったルシファーと九尾の狐は、そこで自分達が石の上に正座させられていることに気付いた。
より正確に言うなら、座す石は拷問用の表面ギザギザ石製座布団。
手は後ろで縛られ、正座させられた脚の上には二人揃って長方形箱型の石(ひとつ20kg)を抱かせられていた。
ちなみに二つほど。
石の上には習字の半紙が一枚ずつ置かれており、それぞれルシファーが「ケンカしません」、九尾が「迷惑かけません」との文字を墨で書き記されている。
ちなみに名前を書くところには、
マスターの名前代わりに「拒否・即・滅」と小さく…。
目の前には仁王立ちに腕を組み、右手にハリセンを持った智欲の大罪のマスター。
一方、当の智欲の大罪であるアンノウンは、なぜかはわからないが部屋の片隅で小刻みに震えていた。
「お前ら、なにか言うことはあるか?」
「あるに決まってんでしょ! なんのつもりよこれ!」
〈無礼にもほどがあるわ小僧! 万死に値するぞよ!〉
――スパン、スパーンッ!
「ぶっ!?」〈ぬぁっ!?〉
瞬間、マスターのハリセンが風を切り、愚かものどもを打ち据えた。
アンノウンがガタガタ震えだす。
「なにこれ、痛いわよ!?」
〈ありえん! なんじゃこの痛みは!?〉
大悪魔と大妖怪がそろって半べそかきながら一振りのハリセンに恐れを抱く。
「お前らのお仕置き用にとアンノウンに創ってもらったんだよ。
『編纂call』ってやつの特注でな」
その言葉に覚えのあるルシファーが戦慄および絶句。
しかし九尾の方は知らないはずなので、改めて簡単に説明しよう。
智欲の大罪が誇る最強の特殊能力『編纂call』
――それは、過去に存在した特殊な能力を文字通り編纂し、新しく改造した宝具を生成することができてしまう異常すぎるチート能力である。
なお、今回アンノウンが創ってしまったのは、こちら。
『愚者狩り』
マスター専用ハリセン型宝具として智欲の大罪が生み出してしまった、悪夢のさいきょーほーぐ(あえてひらがな)。
併せ持つ特性は下記の五つ。
1.『ボケ殺し』
張り叩くだけの理由がある者に対し、一撃につき対象体力の5%ダメージを肉体ではなく魂魄に与える。(すなわち20ボケで死に至る)
2.『必中』
回避不能の攻撃を対象に与える。投げても有効。
3.『委細貫通』
スキル発動時に使用されたありとあらゆる能力・特性を無力化し、貫通する。
(この際、使用者の全身は同種の防護フィールドに覆われ、無敵化する)
4.『限定転移』
条件を満たした者のところへ瞬時に移動できる。
限定条件・張り叩くだけの理由がある者。
5.『永久不滅』
この世に愚者がある限り!(破壊不能)
要約すると、「ボケをかました相手に対して完全無敵」である。
悪魔、妖怪のみならず、天使も神も、魔王であってもその特性を無力化し、二十発の殴打で容赦なく殺害する、まさにボケ殺しなハリセン。
限定条件下においては神すら凌駕するのだから、もはや伝説になりうる悪夢の凶兵器だ。
ある意味においてエクスカリバーをも超えている。
「さて、ルシファーくん」
「な、なにかしら?」
ハリセンを手にしたマスターが、石を抱かされて動けないルシファーの背後に転移し、そのハリセンを空いた手に打ち付ける。
さび付いたロボットのように「ギギギ」と首をまわして振り向く断罪確定者。
処刑モードに応じてハリセンが変化を始めた。
「1.人ん家入るならチャイム鳴らせよ。(文字記載『一撃』)
2.ここは日本だ。靴脱げアホゥ。(文変化『倍返し』)
3.いきなり出てきてケンカ始めてんじゃねぇよ。(色変化『白→黄』)
4.俺がどれだけ怒ってるかわかってんのか、ドアホ。(『猛省喚起』)
拉致られた分も上乗せしてやりたいが、さすがに勘弁してやろう。
覚悟はいいか、ルシファー?」
20%ダメージ確定。脂汗をだらだら流すルシファー嬢。
「いや、ちょ、ま、は、話せばわかるって」
「わぁかるかあああっ!!」
直後ハリセンによる往復殴打四連撃。
記載された文字は猛省喚起。すなわち「反省しろバカヤロウ」。
ルシファー嬢、口からエクトプラズム(いわゆる魂)をはみ出させて沈黙した。
ちなみにアンノウンと九尾の視界では、魂状態のちっちゃいルシファーが本体に向かって「死ぬな、アタシーッ!」と頭の上で自分をびちびち叩いて叫んでいたらしい。
「わ、私はなんというものを…」
肉体ではなく魂魄に直接作用するため、連撃するとナカミ――もとい、魂が飛び出てしまうらしい。
創った当人であるアンノウンも予想していなかった能力だった。
「さて、待たせたな九尾の狐…いや、タマモくんと呼ぼうか?」
〈な、なにをするつもりぢゃ。言っておくが、この体は――〉
「雫ちゃんのものだな。だからコイツをアンノウンに創らせたんだよ。
俺はお前をボコることを前提にコイツの能力を設定したんだ。
ルシファーボコってお前だけ仲間はずれってのもかわいそうだろ?
わからないか? コイツは魂に直接作用する宝具だ。
そして、『ボケていない相手には無効』だ。
ここまで言えば意味はわかるな?
…さあ、お仕置きの時間だ」
戦慄する九尾の狐。
この凶悪なハリセンは、宿主である巫女にまったくダメージを与えないままに九尾のみを始末する。
相手が低級霊でも大妖怪でもおかまいなし。
祓う対象は悪魔でも神でも代用可。
つっこみどころを20個見つければ、その時点で昇天確定。
冗談抜きで神をしばき殺せる究極のツッコミハリセン。
とんだ除霊兵器が生み出されたものだ。
「1.〈ちょ、ちょっと待てぃ。後生ぢゃから本気で待ってくりゃれ。
おい小娘、さっさと起きぃ! すたんなんちゃら程度でいつまで寝とるんぢゃ!〉
ハリセン持った俺が罪状を読み上げようとしたところで九尾があわてて己の襟首引っつかんでガタガタゆらし、本体である雫嬢をたたき起こしにかかった。
「…きゅぅぅぅぅ」〈頼む、後生ぢゃから起きとくれ!〉
目を××にして気絶する雫ちゃんと、泣き喚きながら宿主を起こす九尾。
表情がころころ切り替わって、改めて見るとおもしろいな、この組み合わせ。
「――はっ!」
お、雫ちゃんが起きたようだ。
〈起きよったか! 雫よ、くわしい話はあとぢゃ。
いますぐ神主――お主の父親に通達を入れぃ〉
「え? ええ? 通達? あ、もしかして電話?」
〈ほれ、早ぅ早ぅ〉
命の懸かった九尾が「急げ急げ」と雫ちゃんを急かす。
当の雫ちゃんはまだ頭がハッキリ回っていないのか、言われるままに電話をかけてみせた。
「あ、もしもしぃ、おとーさん? ………うん、ちゃんと着いとるよぉ。
子供扱いせんといてぇ」
〈貸せぃ。聞こえておるか、神主、妾ぢゃ。………ええぃ、そこまでぢゃ。
今は火急の用があるでな。
主の娘子が妾を祓うか祓わんかの瀬戸際なのぢゃ。
礼はよいから早ぅ説得せぃ。よいな! よいな!?〉
…なんか雲行きが変わってきたな。
「あ、おとーさん、ウチ代わったよ? ………え? え、嘘ぉ、なんやのそれ?
どゆこと? ………ちょ、おとーさん正気?
なんでウチがそないな目に遭わなならんねん!」
「マスター、私、今なんか『骨折り損のくたびれもうけ』的な結末を予想してしまったのですが…」
言うな、アンノウン。
「ちょぉ、おとーさん! おとーさん! もしもし? もしもーし??」
…切れたな。
「親父さん、なんだって?」
「………」
〈妾から説明してしんぜよう。
この娘子の父親あてに、嫁入りの支度金代わりに金銀財宝を賜ってやったのよ。
つまるところ、この巫女はすでに妾の嫁ということよ!
話はすでについておる!〉
「…つまり、実の娘を金で売ったわけだな。神社の神主が」
「で、九尾の狐の寄り代人生、というわけですか。
とんでもない嫁入りもあったものですね」
「てかお前、借金のカタに得物もってかれたんじゃなかったか?」
「その時はうっかり茶巾を持ち忘れただけぢゃ! あの盗人め!
金子もって戻ったときにはとうに逃げ去った後ぢゃった!
ああ、忌々しや!!」
「………」
雫ちゃん、無反応だけど心折れてないか?
〈理解したなら、さっさとその目ざわりな扇を妾の前からどかさんかぃ!〉
九尾の狐がどや顔で命令を下してくるのだが、こんなとき、どんな顔をするべきなのだろうか?
…うん、たぶん笑えばいいよな?
笑顔でハリセンを振り上げよう。
「迷惑かけられた事実に変わりはないわっ!!」
ハリセンの雨が降るその日、俺は九尾の狐に「正座」と
「土下座」を仕込んだのだった。




