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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第三章 九尾巫女の厄日編
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『細かいことは?』と幼女は問うた

 貧乏学生のお部屋で、西洋は傲慢の大罪悪魔ルシファー様と、

 東洋は九尾の大妖狐玉藻の前様がエンカウントしました。

 …なにその超展開。

 一触即発の空気が漂う。

 互いにジリジリと距離を測りながら、ネコのケンカ開始直前に似たムードが場を支配している。

 少なくとも俺には背後のイメージ画が猪突猛進の獅子と小ばかにするきつねに見えるな。

 …しかし、ここでの戦闘はやめてくれよ、ほんと。

 壊れた家具はアンノウンがいれば修復できるかもしれない。

 だが家賃上がったらどうしてくれる?

 その辺は下手にアンノウンに頼るとニセ札掘りかねないんだぞ。

 想像するだに頭が痛くなる。

 一般人の視点ってものを少しは理解しろよてめぇら。

 そんなに俺を警察のご厄介にしたいのか!?

 ケンカしたいなら結界でもなんでも作ってさっさと消えてくれ。頼むから。


「この巫女なによ? アンタのコレ?」


 ルシファーが小指を立ててみせる。

 恋人かと訊いているわけだが、訊きかた古いな。

 一世代前のオヤジかよ。


「そんなわけねーだろ」

〈この波動、ただものではなさそうじゃの〉


 雫ちゃんに乗り移った九尾が、ルシファーに差し向ける形で鈴のいっぱいついた棒を取り出す。

 なんだあれ。見たことはあるような気がするな。


「あれは『神楽鈴かぐらすず』ですね。

 神や仏を呼び、招くための祭具です。

 この場合は挑発でもしてるんでしょうか?」

「あわ、あわわわわわ」


 ご説明どうも。ついでに雫ちゃんがこの状況に泡を食っているが…

 こっちについてはご愁傷様としか言いようがないな。

 ルシファーの登場は俺にも予想外だった。


「よくわかんないけど、上等よ、アンタ。

 アタシにケンカ売ってただで済むとは思わないことね」

〈カカカ、威勢がいいのう、小娘。

 お主がどこのだれであろうと興味もないが、こうして相見あいまみえたからにはやるべきことはただひとつよ〉


 …やば。こういう口上が出るときって、大抵すること決まってるよな。


「こほん」


 アンノウンが咳払いをひとつ。――あのチビ、まさか!?


「『細かいことは?』」



「殴ってから考える!」/〈殴ってから考える!〉



 やりやがった、あんのクソガキッ!!

 この状況下でそれは言っちゃあならんだろうが!

 発破をかけられたルシファーと九尾が、俺ん家の畳を弾き上げながら拳を重ねてぶつかり合っちまったよ。

 ヒトん家で衝撃波が見えるような肉弾戦、繰り広げてくれてんじゃねぇぇぇぇぇ!


「てかそれ、雫ちゃんの体だから!」

〈カ~カッカッカ♪ 妾の力に耐えられるように遺伝子配列組み替えてやったわ♪〉

「ちょぉ! ウチの体になにしてくれはるん!?」


 嗚呼、雫ちゃんもほんとうにご愁傷様。

 てめぇら二人そろって慰謝料請求すんぞコラぁ!!


「なんかよくわかんないけど、手加減無用なわけね。

 出なさい、五火七禽扇(ごかしちきんおう)!」


 ルシファーがウチに初めて来たときにたしか持っていたような気がする朱塗りの扇子、それを武器として取り出し、開いて構えてみせた。


〈小娘、貴様、それをどこで!?〉

「知り合いが借金のカタに手に入れたっつーのをかっぱらったのよ!」


 …ここで単純な計算式をひとつ。

 Q.ルシファーの知り合い+借金のカタ。ここから想像される答えはなに?

 A.…たぶんヤクザの親分。

 さらにアンノウン先生からのご解説です。


「『五火七禽扇(ごかしちきんおう)』は七種の鳥の羽根で作られた五種の火を放つ扇子せんすです。

 中国の『封神演義ほうしんえんぎ』に登場する神器で宝具ではなく宝貝パオペイと呼ばれていますね。

 持ち主の名は妲己だっき

 かつて中国の一王朝を滅亡に導いた希代の悪女と呼ばれた狐憑きつねつきさんです。

 今の雫さんが大体そんな感じです。

 ついでに、この狐さんはその後いろいろあって日本に渡り、九尾の狐として猛威を振るったという諸説があります。インドや北朝鮮にも放浪してアジアを好き勝手に旅してまわった逸話もあるらしいですよ」


 ちょっと待て、おい。つっこみどころが満載だぞ。

 とりあえずなにやってんだよ九尾の狐。

 自分の得物イメージを借金のカタに取られてんじゃねぇよ。

 それとルシファー。ヨーロッパ発祥の大悪魔さまがナニ持ってんだよ。

 わざわざ中国の神話からかっぱらってやるなよ。

 お前らいくらなんでもフリーダムすぎんだろう。

 現代におけるファンタジーさんたちは一体全体、この世でなにをやってくれてんだ!?

 少なくとも、今は俺の部屋が大ピンチだがね!

〈返せ!〉「イヤ!」と騒ぎながら俺の部屋を破壊しまくるルシファーと九尾(バカふたり)

 砕けた畳、破れたふすま、電球が一個破損した蛍光灯。

 壁に亀裂が走り、窓が割れ、そしてちゃぶ台がルシファーのかかと落としを受けてまっぷたつに折れた辺りで、俺の堪忍袋の緒がぶちりと切れた。

 アイツラ、ただじゃ済まさん。


「…おいチビ。ちょっと耳栓とサングラスよこせや」

「は、はい、マスター」


 すぐさま要求したものを「call」するアンノウン。

 ついでにこちらの意図をしっかりと読み取ったのか、もうひとつ、この瞬間一番ほしかった鋼鉄製の「小型パイナップル」をよこしてくれた。

 ムカツクので刺さったピンは口に咥えて引き抜く。

 暴れる二人に背を向け、目を閉じて肩越しに「それ」を放る。


 ――カッ!!


 …閃光。爆音。



『スタングレネード』

 別名フラッシュバンとも呼ばれる非殺傷手榴弾。

 手に持って投げる爆弾である。

 携行用の安全装置としてピンやキャップが常に取り付けられており、これを取り除くと数秒で爆発する。

 このタイプは強烈な光と音によって対象範囲を制圧する非殺傷兵器ではあるが、心臓に病を持つ人物がその効果範囲にいた場合、対象がショック死する危険性があるので使用時には注意が必要である。


「…まあ、この二人は心臓に毛が生えてそうですから、問題はありませんね」


 予想違わず、爆心地からは目を回したおバカ二人がそろって倒れていた。

 それぞれ五火七禽扇が九尾の頬を歪ませ、

 神楽鈴がルシファーの大口につっこまれている。

 そして、見事にブチ切れた智欲の大罪がマスターたる彼は言う。


「おいアンノウン。今から言うモノ、ちょっと創ってもらおうか」


 それは世界を変える一言…

 だったのかもしれないし、そうじゃなかったのかもしれない。

 少なくとも、ヤバイ代物だったことだけは間違いなかった。

なんだかんだで母親役が最強なのが世の常だったり。

嗚呼、拳骨が怖い。

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