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平凡男と危険すぎて抹消されたアクマ  作者: 折れた筆
第一章 ルシファー強襲編
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金髪乙女と暴走のアクマ

 その瞬間、ルシファーは己が致命的なミスを犯したことに気付いた。




 悪魔は己の感情に素直だ。

 その時のルシファーも、自身の感情に逆らわず、男の胸を貫いた。

 それは悪魔にとって至極当然の行為。

 ルシファーも呼吸をするように、それをやってのけた。


 異変はすぐに起きた。

 突き刺した男の胸から焔が噴き出し、爪を半ばから焼き焦がした。

 ほぼ同時、「それ」に呼応するように湖が爆発を起こした。

 ルシファーは直感した。

 地雷を踏んだと。


 悪魔は契約に真摯だ。

 どんなに噓吐きな悪魔でも、自身の力の増大に関する契約は真摯に守る。

 契約の上っ面でどれだけ嘘を重ねても、その一点だけは堅守する。

 そして、一度成立した契約への横槍には逆鱗に触れられた竜のごとく怒り狂う。

 特に、女性型悪魔が男性型に対して行った契約にはけして触れてはならないと云われている。

 竜も尻尾を巻いて逃げ出すほどの大激怒を体感する羽目になる、と言い伝えられているからだ。

「やっちまった」じゃ済まされない脅威が、もうすぐここにやってくる。

 しかも相手は智欲の大罪アンノウン。

 並みの天使や悪魔なら百柱、二百柱から束になってかかろうとも屍の山が築き上げられるのは想像に難くない。


 ルシファーは全力を以って事に臨む覚悟を決めた。

 その時は、まだ致命的ミスだとは思っていなかった。



 接敵一合目から爪剣をすべてへし折られた。

 目の前を飛ぶのは、先ほどまでの緑髪黒目の幼女悪魔ではない。

 全盛期と思われる、二十歳前後の赤髪赤目の成人女性態。

 開戦当時に彼女が仕掛けた時の右腕のように黒い肌に全身覆われた、存在するだけで周囲の空間を黒く侵食して破壊する、夜闇の悪魔だった。

 服装にも変化が見られた。

 幼態では白のワンピースに経文を書いたようなデザインだったが、成人態においては漆黒のイブニングドレス。

 腕、脚、腰と、各所に鎖が巻き付き、その先端には小型の本がアクセサリー化している。

 明らかに武器の一つだった。

 X字の翼は角度を水平方向に少し変えてさらに伸び、本は倍の八基。

 さらに上下に向けて翼が増えて、計六枚羽の本十基。

 しかもその内、内部の六基は常に180度の魔方陣展開のうえ、その六基が魔力光で繋がって六芒星を形成している。

 目にした瞬間寒気がした。


「んなろーーーーーー!」


 ルシファー魔方陣十基同時展開、


「重複call ケルト神話・ディルムッド『魔槍ゲイ・ジャルグ』。call call call」


 を、すべて発動前に貫き打ち抜かれた。

 しかもそのすべてが同じ槍、ケルト神話にてディルムッド・オディナが愛用していたと言われる「どんな魔法も効かない赤槍」魔槍ゲイ・ジャルグ。


「嘘っ」/「同ページcall『神剣モラルタ』」


 同じくディルムッド・オディナの「一太刀で全てを倒す」という神剣を手に切り込んでくるアンノウンを、折れた爪に火花を吐かせながら斬り流す。

 躊躇ちゅうちょせずアンノウンの攻撃範囲から離脱。


「ありえない! なんなのよ、アイツ!」


 英雄級ユニーク武具の分裂所持など、もうチートどころの話じゃない。

 エクスカリバー十本とかやられたら、バランス崩壊だ。

 とはいえ、そんなイカサマが平然と起こるのが戦場で、それをやってのけるのが悪魔の所業。

 問題は、それをやれるだけの能力とキャパシティ。

 智欲の大罪はその両方を備えていた。

 知識を司る悪魔としての英雄知識と、それを現実に顕す再現能力と複製能力。

 キャパシティは大罪悪魔の特性、「その属性において、どれだけの不幸を世に撒き散らしたか」が力に加算される罪業カルマカウントに依存する。

 これまでにありとあらゆる『知識』によって不幸を被った、動物・植物・海洋生物・微生物・昆虫・惑星環境がまるごとアイツに力を貸すのだ。

 絶滅した動物たちはもちろん、歴史に虐げられたすべての名も無きものたちがアンノウンの味方をする。

『七大罪なんかあの子のTotal killカウントに比べりゃかわいいもんよ』

 まったくだ。あれはもう、大罪だの原罪だのを超越している。

 揃ってはならない条件が揃った「国士無双」の「Rストレートフラッシュ」の「777ジャックポット」。

 紛うことなき「神殺しの悪魔」だ。

 危険過ぎて抹消されたというのも十分過ぎるほど理解した。


「call 兵器・ガトリング『M61バルカン砲』」

「んなっ!?」


 口径20mmの六銃身。

 戦闘機用に開発されたガトリング砲が召還され、容赦なく火を噴いた。

 時代を一気に蹴り飛ばしたようなこの所業に、もはやデタラメ以外の言葉が思い浮かばない。

 てゆーか、銃弾ビシビシすっごく痛い!


「なめんなぁぁぁ!!」


 銃弾の雨と土煙を振り払い、左右で展開した魔方陣を頭上で纏め上げて一極集中、闇属性貫通螺旋弾。


「あぁたぁれぇぇぇ!!」

「重複call ギリシャ神話・ペルセウス『アイギスの盾』。call call call」


 アイギスの盾、別名『イージスの盾』。

 英雄ペルセウスがメデューサを退治した際に用いられたという伝説の鏡の盾が十枚から量産される。

 放出した魔力弾は、正面の盾が受けている間に上下左右から別の盾たちに押し潰され、一瞬で圧死させられた。

 貫通弾が一秒すら保たない。

 さらに残る盾がこちらに向かってギラリとメデューサの特殊能力、「石化の邪眼」を発動。

 このアイギスという宝具には、退治したメデューサの首を飾り付けられて強化されたという伝承がある。

 これら邪眼系能力は魔力付与的な暗示に近い。

 高位存在であれば逆位相の魔力をぶつけてレジストも可能だが、それでも一瞬呼吸が止まるのは避けられない。

 そして、その瞬間は見逃されない。


「並列call 伝説・ドラキュラ『ヴラドの串』、北欧神話ほくおうしんわ・フェンリル『戒めのグレイプニール』」

「――あっ、ぐっ、あぁっ」


 ルーマニアの伝説、串刺し公ヴラドの木串が右翼、左手、左足、右腕、左翼、右脚と貫いていく。

 次いで北欧神話における神殺しの魔狼、フェンリルを縛り付けたという、グレイプニールの紐によって十字に結びつけられた木串が背後から叩き付けられ、衝撃に肺から酸素が奪われる。

 その隙に紐が巻きつき、全身を絡めとられ十字架に拘束、磔にされた。

 どうやって背後から、と思い観ると、アンノウンの五指にグレイプニールの紐が繋がっている――人形使いのスキルだ。

 武具知識のみならず技術系知識にも死角なしときた。


「call 異端審問いたんしんもん・ジャンヌ『火刑台かけいだい』」


 智欲の大罪の進撃はまだ続く。

 今度はオルレアンの乙女と呼ばれた英雄、ジャンヌ・ダルクが処刑されたという火刑台を、すでに炎上した状態でルシファーの足元からせり上げた。


「call 封神演義ほうしんえんぎ哪吒太子なたたいし火尖槍かせんそう』」


 締めは体内の氣を炎として放出するという、中国はナタ太子の紅蓮の槍。

 ルシファーに止めを刺すべく、焔の槍の投擲体制に移る。



 しかし、アンノウンはそこでピタリと動きを止めた。

 瘴気に黒く染まった顔に、一筋のヒビが走っていた。

第9部掲載にてアクセス数500に達しました。感謝。

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