雨上がりの青き龍
第一章:雨上がりの長祓
先日の「蠱毒事件」から、一週間ほどが過ぎた頃。
極楽寺の街は、ここ数日ずっと冷たい秋の長雨——いわゆる「秋霖」に降られていた。
連日、古民家カフェ「さくらこ」の瓦屋根を叩き続けていた激しい雨音も、午後を過ぎたあたりでようやく静まり、雲の切れ間からやわらかな秋の陽光が差し込んできた。
「ふぁぁ……久々の太陽だな。やっぱり気持ちいいや」
俺——酒井 頼は店先へ出ると、しっとりと濡れた敷石や、雨滴を弾いて輝くイチョウの葉を見上げて大きく深呼吸をした。空気には、雨上がりの土と草木が入り混じった独特の甘い匂いが漂っている。
先日の件でムジナの怪異とやり合った肩の傷は、櫻子さんの特製霊薬と手当てのおかげですっかり塞がり、今はもう小さな絆創膏が一枚貼ってある程度だ。
『頼! 縁側に水たまりができているぞ。滑って転ぶなよ』
軒下の止まり木で、羽繕いをしながらイヌワシのライデンが呆れたように声をかけてくる。
普通の人にはただの鳥の鳴き声にしか聞こえないだろうが、動物の声(生きていても、霊やあやかしとなっていても)を聞き届ける力を持つ俺の耳には、はっきりと厳格な相棒の声として届いていた。
「転ばねぇよ。あ、ライデン、庭の葉っぱ見てみなよ。雫がついてて綺麗——」
「バウッ、ワンワンッ!」
俺が呑気に庭を眺めていたその時、庭の木戸をくぐって、一頭の美しい甲斐犬がしなやかな足取りで駆け込んできた。近所の豪邸で大切に飼われている女の子、武蔵丸——通称ムサリーだ。
『頼〜! あたしの分の焼き立てスコーンは残ってるでしょうね!?』
耳に届くのは、高飛車で乙女な彼女の声。
「お、ムサリー。お散歩か? 櫻子さんがちゃんと取ってあるよ。雨上がって久々の散歩良かったな」
『そうなのよ! ずっとお屋敷の中に閉じ込められてて、あたしの繊細な乙女の鼻が狂いそうだったんだから! ふぅ、やっぱりこのお店の匂いは落ち着くわね……って、ちょっと頼、肩の傷はもういいの?』
「おう、すっかり平気だ。心配かけて——」
俺が笑いかけた、その時だった。
バサササッ!
上空から乱れた羽ばたきとともに、一羽の漆黒の巨大なカラスが庭へ急降下してきた。毛並みが黒曜石のように妖しく光るその姿——龍神山神社に代々仕える神使の烏、『黒曜』だ。黒曜は焦った様な羽ばたきで庭の石灯篭にドサリと舞い降りると、息を荒らしながら俺を見つめた。
『ハァ……ハァ……頼殿か……! 葵様からの言づてだ……!』
黒曜の焦燥に満ちた声が、直接俺の耳に届く。
「黒曜!? 一体どうしたんだ!?」
『どこの何かは分からないが、黒い装束の術師どもが大勢、龍神山神社になだれ込んできた! 葵様が一人で神剣を抜いて食い止めておられる……! 「頼なら黒曜の声を聞き届けて駆けつけてくれるはず」と、某を頼殿のもとへ飛ばされたのだ!』
「何だって……!? 葵が一人で!?」
葵は、極楽寺の山の上にある『龍神山神社』の巫女で、俺の幼馴染だ。
子供の頃、動物と話せる能力が人と違うと思ってなくて、他人に話して他の子供からいじめを受けていた。
葵はそんな時も、俺の能力の事を唯一信じてくれた、まっすぐな心を持った親友だ。
普段は勝気で頼もしい彼女だが、相当力の強いヤツらに対抗しているのか、俺の力を信じて神使を放ったのだ。
「ライデン! ムサリー! 葵の神社で何かが起きてる!」
『ふん、神使のカラスか。案内は任せたぞ!』
『ちょっと頼! あたしを置いていく気!? あたしの脚力も連れて行きなさいよ!』
俺が懐の桃木剣を確認するように掴んで飛び出すのと同時に、ムサリーが猛然と走り出し、ライデンと黒曜が翼を広げて一気に上空へ舞い上がった。
「頼、何があったのか知らないけれど、悪い気の流れが見えるわ。気を引き締めて行ってきなさい!」
カウンターの奥から出てきた櫻子さんが、緊迫した俺たちの後ろ姿と上空の神使のカラスを見てすべてを察して、呪文を口の中で呟いてから、優しく、けれど力強い声で背中を押してくれた。
「櫻子さん、すぐ戻る!」
俺は短く叫ぶと、雨上がりの濡れた山道を駆け出し、葵の待つ龍神山神社へと疾走した。
第二章:龍神山の神剣
雨上がりの濡れた参道の石段を、息を荒らしながら駆け登る。鳥居をくぐり、境内に飛び込んだ俺たちの視界に飛び込んできたのは——異様な光景だった。
黒い霧のような瘴気を纏った、数頭の巨大な「黒蛇の怪異」と、黒い装束に身を包んだ怪しい術師たち。そしてその中央で、鮮やかな緋袴をなびかせ、一振りの美しい刀を構えて戦う少女の姿だった。
「祓え給え、清め給え……ッ!」
凛とした掛け声とともに、葵が刀を振り抜く。龍神山神社に代々伝わる破邪の『神剣』だ。葵が霊気を込めると、刀身が眩い白銀の光を放ち、襲いかかる黒蛇を一刀両断にして打ち払った!
「すご……! 葵のやつ、相変わらずキレッキレだな……!」
『感心してる場合じゃないでしょ! 敵の数が多すぎるわ!』
隣でムサリーが低く吠える。その言葉通り、切り伏せても切り伏せても、術師が怪しい符を投じ、新たな黒蛇の影を召喚していた。しかも、術師たちの狙いは葵本人ではなく、拝殿のさらに奥にある「龍神の祠」に向けられていた。
「くっ……これ以上、祠には近づかせない……っ!」
長時間の立ち回りで息を乱す葵。息を整えてる隙に、その背後に、一頭の黒蛇が鎌首をもたげて襲いかからんとしていた。
「葵! 背中ッ!」
俺は懐から桃木剣を引き抜き、泥を蹴って葵と黒蛇の間に割って入った!
ガァンッ!
桃木剣の平で黒蛇の牙を受け止め、朱色の符文から溢れ出た神木光で蛇の影を弾き飛ばす。
「頼……っ!?」
「遅くなって悪かったな、葵! 怪我はないか!?」
「ちょ、ちょっとぉー! 遅いじゃない! 危うくもう会えないところだったわよ……でも、助かったわ……!」
緊張の糸が緩んだのか、安堵とため息の声で葵が俺にお礼を言った。
「こいつら、なんなんだよ?!」
「黒蛇会のヤツらよ。全国の呪物や神物を自分達のものにしようと動いてる呪詛師だとか……」
そう葵が言い終わるか否かで、怪異がまたこちらに攻撃を仕掛けてきた。
ムサリーが「ガルルッ!」と激しく吠えて黒蛇の足元を撹乱し、上空からはライデンが鋭い風と羽の刃を繰り出し、黒曜が耳をつんざくような神聖な鳴き声で敵の動きを威嚇し、金縛る。葵が神剣を構え直し、息をふぅーっと吐いて俺と背中を合わせる。
「頼、あいつらの狙いは、うちの神社に眠る『龍神様の祠』よ! 連日の長雨で境内の水気が満ちているこのタイミングを狙って、祠の封印を壊そうとしてるの!」
「なるほどな……! この前の蠱毒といい、やっぱり街の霊脈を狙ってる奴らがいるんだ!」
第三章:目覚めし青龍
だが、黒蛇会の呪詛師は不敵に口元を歪めた。
「ククク……小鼠どもが群がったところで、もう遅い!」
呪詛師が禍々しい黒い宝珠を掲げると、長雨によって山に満ちていた水気が一気に濁り、龍神の祠を包み込む結界へと集束した。
パリィンッ……!
境内全体に、ガラスが割れるような甲高い音が響き渡る。龍神の祠に施されていた古く強固な封印が、ついに打ち破られたのだ!
「しまっ……! 龍神様の祠が……!」
葵が悲痛な声をあげる。祠の扉が弾け飛び、外で渦巻いていた黒蛇会の禍々しい瘴気が、一気に祠の中へ雪崩れ込もうとした——その瞬間。
ゴワァァァァ……ッ!
祠の奥から、押し寄せる黒い邪気を吹き飛ばすほどの、凄まじい「清らかな水煙」と「紺碧の光」が爆発した。雨上がりの濡れた風が旋風となって駆け巡り、祠を侵食しようとしていた瘴気もろとも、黒蛇の怪異たちを一気に押し流す様に消滅させていく。
光が強すぎて直視出来ず、思わず顔を背けて目を閉じる。
光の渦が収まった祠の前。そこに立ち尽くしていたのは——鮮やかな青い髪と、引き込まれるような紺碧の瞳を持つ、10歳ほどの幼い男の子だった。水色の狩衣のような装束を纏い、頭部には小さな二本の透明な角が生えている。
「……む。長い眠りであったな……」
幼くも凛とした声が響く。少年は小さな手で口元を覆うようにひとつ欠伸をすると、ゆっくりと周囲を見回した。
そして、境内に立ち込める黒蛇会の不快な瘴気を感じ取り、紺碧の瞳をすっと細めて敵を冷たく睨みつけた。
「……久しい目覚めだというのに、なんとも生臭く不快な気が満ちておる。無礼な人間どもめ」
少年が軽く手をかざすだけで、渦巻いていた黒い気がパチパチと音を立てて浄化されていく。
一通り敵を警戒し、境内の様子を注視していた少年だったが——その視線が、桃木剣を構えて葵の背に立つ俺の姿に留まった瞬間。
ハッと息をのむ音が聞こえた。
少年の紺碧の瞳が大きく見開かれる。
瞳に映る俺の姿と重ね合わせるように、少年の脳裏に千年前の記憶が鮮明に駆け巡っていた。
──激しい炎の粉が舞う中、血を流して倒れるかつての主の姿。
魑魅魍魎との戦いの中で、自分を庇い攻撃を受けてゆっくりと目の前から消えていく場面。
──差し伸ばされた手に届かず、冷たくなっていく主を前に、ただ絶望して叫ぶことしかできなかった己の無力さ。
姿形は違えど、その魂が放つ清らかな波長は、間違いなくあの日失った大切な存在のそれだった。
(……ああ、間違いない……この波長、この温もり……!)
溢れ出す感情を抑えきれず、幼い少年の瞳からポロポロと大きな涙がこぼれ落ちる。
『……主……?……ライ……なのか……!?』
千年前、守れずに散っていった大切な存在。その面影と、いま目の前で桃木剣を構える頼の魂が完璧に重なった瞬間——少年の胸を支配していた激しい悔恨と恐怖が、絶大な「確信」へと昇華した。
(そうだ……巡り会えた。某の主、某のライに……!)
千年の孤独を打ち破るように、少年の小さな身体から圧倒的な霊気が爆発的に鳴動した。
溢れ出た紺碧の霊光は、溢れる水のように頼の全身を優しく包み込む。それは魂の奥底まで届くほど温かく、そして二度と何者にも奪わせないという神気そのものだった。
自身の霊気が完全に復活し、ライの魂と再び固く繋がったことを確信した少年は、力強く涙を拭った。
少年は俺達を守るように前に躍り出ると、
「急急如律令!」と呪文を唱えた。
黒蛇会の術師たちに向けて澄み切った水風の結界を大きく展開させる。
そして、二度と過ちを繰り返さぬよう、その紺碧の瞳で力強く敵を睨み据えた。
「二度と……二度とお前をこの手から失わせるものか……ッ! 某の主と、この街を傷つけさせはせん!」
第四章:三位一体の破邪
「ひ、ひるむな! 龍神とて覚醒したばかりの小僧だ! 殺せ!」
呪詛師の叫びとともに、残った黒蛇の怪異たちが一斉に襲いかかってくる。
「龍神様! 俺たちも戦う!」
少年が俺の声を受けて力強く答える。
「ライ! 某が水と風の障壁を張る! 葵、その神剣で前衛を払え! ライ、お前の桃木剣で核となる邪気を挫け!」
「任せてください!」
「おうッ!」
少年が小さな手をかざすと、澄み切った『水風の結界』が展開され、黒蛇たちの毒気をパチパチと音を立てて浄化していく!
「破邪の光よ……清め給えーっ!」
葵が神剣を閃かせ、結界に阻まれた黒蛇たちを一刀両断にする!
「ムサリー! あいつの足を止めろ!」
『言われなくても! 乙女の足腰をナメないでよねっ!』
ムサリーが呪詛師の足元へ噛み付いて体勢を崩した瞬間、俺は一気に間合を詰め、掲げていた黒い宝珠へ桃木剣を叩きつけた!
バシィィィンッ!
「なっ……我が術式が……破邪の気に……撃ち砕かれるだと……!?」
桃木剣の金の光が爆発し、黒い宝珠が粉々に砕け散る。黒蛇の怪異たちは悲鳴をあげて消滅していった。
「くそっ……覚えておれ……! 龍神の目覚めなど、我が『黒蛇会』の計画の序章に過ぎん……!」
宝珠を破壊された術師たちは不穏な笑いを残しながら、黒い煙となって逃走した。
『フン、逃げ足だけは速い奴らめ……!』
上空から舞い降りた黒曜が、黒蛇会の去った闇を鋭い眼光で睨みつける。
そして頼と葵の方へ向き直ると、羽を大きく広げて深く頭を下げた。
『頼殿、助太刀感謝する。
……葵様、怪我がなくて何よりでした』
烏が声をかけても、何を言っているのか分からない葵は、首を傾げながら、
「黒曜、知らせてくれてありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
と烏に向かって優しく声をかけると、黒曜は境内と壊れた祠を静かに見渡した。
『某はこれより、境内に残った瘴気の浄化と、黒蛇会の再襲撃に備えて山全体の警戒に当たります。……葵様、頼殿、どうかお気をつけて』
『ふん、カラスの分際で真面目なヤツだな。無理して落ちるなよ』
ライデンの軽口に、黒曜はフッと喉を鳴らすと、漆黒の翼を力強く羽ばたかせて龍神山の深い森の中へと飛んで行った。
第五章:さくらこでの居候と新たな誓い
激しい戦いが終わり、静けさを取り戻した龍神山神社。
「ふぅ……勝った……のか?」
「ええ……とりあえず……頼、みんな、本当にありがとう」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、辺りを見回してた葵がバラバラに壊れてしまった祠を見ながら青ざめた。
「どうしよう……封印は元に戻ったけど、祠がこんなに壊れてちゃ、アオ様(龍神様)がお休みになる場所がないわ……。大工さんを呼ぶにしても、時間がかかるし……」
困り果てる葵の横で、少年は俺の服の裾をキュッと掴んだまま離れようとしない。
「某はどこへも行かんぞ。ライのそばにいる。ライのいない祠など、何の価値もない」
「ちょっとアオ様!? 神様がそんなワガママ言わないでください! 頼、あんたからも何か言いなさいよ!」
「言われてもなぁ……俺に言われても……神様にワガママって……(笑)」
俺と葵が無駄なやり取りを交わしていると、参道の石段からトントンと足音を響かせて買い出し袋を抱えた櫻子さんが上がって来て、煙管を手にクスッと微笑んだ。
「あらあら、派手にやったわねえ。祠、台無しね。あなたは……はじめまして、龍神様」
少年の顔の高さに屈みながら、優しい眼差しを送った。
「……む。お前は誰だ? ライの母か?」
「ええ。古流陰陽師の酒井櫻子と申します。葵ちゃん、祠の修繕ならあたしの方で腕の立つ大工を手配しておくわ。……だから龍神様、祠が直るまでの間、うち——カフェ『さくらこ』にいらっしゃいません?」
櫻子さんはそう言うと、買い出し袋から紙包みを取り出し、少年の前に差し出した。
「それに、うちに来れば美味しい甘味が毎日食べられますよ?」
包みを開けると、香ばしい醤油と甘いタレの匂いが漂う『みたらし団子』が顔を覗かせる。
少年はゴクリと喉を鳴らし、一口パクリと頬張ると——10歳ほどの瞳をキラリと輝かせ、タレを口元につけながら満足げに頷いた。
「決まりだ! 某の霊力が戻るまで、ライの家で世話になる。……あらかじめ名乗っておこう。某の名は『アオ』という。龍神山の水気を司る者だ」
「アオ、か。よろしくな」
そして、翌日の昼下がり。
カフェ「さくらこ」の小上がりでは、賑やかな会話が繰り広げられていた。
「ライ! この『くろっふる』というサクサクした餅はなんだ! 某にあと三つ献上しろ!」
「『某』とか言いながら現代スイーツに即落ちしてんじゃねえよ! あと、さっきからなんで俺のこと『主』とか『ライ』って呼ぶんだ? 名前知ってたのか? 昨日会ったばかりだろ?」
俺が尋ねると、アオは口元に生クリームをつけたまま、クリームの付いたフォークを振りかざして当然のように胸を張った。
「初対面なものか。お前の魂の気配は、千年の時が経とうと忘れん。漢字の書き方は知らぬが……某の主の名は、昔も今も『ライ』なのだからな」
「……魂の気配、か」
アオの真面目な瞳に、俺は少し照れくさくなり、視線を外して苦笑いした。
そこへ毎朝の様子見で駆け込んできた葵がワントーン高い声で叫んだ。
「ちょっと頼! アオ様(龍神様)になんて下俗なお菓子をあげてるのよ! 神様なんだからもっと清らかな精進料理とか……!」
そう言いながらも、アオから「葵、一口食せ」とフォークを差し出されると——
「えっ……んんっ!? 美味しい……っ!」
あっけなく即落ちした。
足元ではムサリーが
『あたしの分の特製ジャーキーは!?』とおねだりし、軒下のライデンも
『我には高価なナッツを寄こせ』と鳴く。
「お前ら全員、俺をなんだと思ってるんだ……!?完全にいきものがかりだろ!」
文句タラタラの俺の横で、煙管をくゆらせていた櫻子さんが、ふぅと紫煙を吐き出して場を締めた。
「ふふ、賑やかでいいわねえ。……でも頼、浮かれている場合じゃないわよ。今回の件で、極楽寺の霊脈を守る大結界に大きな穴が空いたわ」
「……む。ヤツらが引いたのは、霊脈の満ちる次の『満月の夜』に合わせて総力をぶつける準備のためのようだ。何を起こすつもりかは分からぬが、厳重に用心せねば」
アオが神の鋭い瞳で呟き、葵も引き締まった表情で頷く。
「神社の神剣と、頼の桃木剣……そしてアオ様がいれば、どんな企みだろうと跳ね返せるわ!」
「ああ。葵もアオも、この街も……必ず守ってみせる……」
俺は痛む肩を回して、懐の桃木剣をそっと撫でながら呟いた。
美味しいお菓子の匂いと、迫り来る満月の夜の予兆。
俺たちのあやかし便利屋に、不穏な影が霧のように覆いかぶさり、確実に手を伸ばしていた。




