幽ノ坂 冬火、異世界へ。
私、幽ノ坂 冬火は、自宅で全身鏡を見ている。
友達が一人もいない学校に楽しく通学する為だ。
それでも女の子として、見た目のエチケットは最低限重要だろう。
誰も私なんか見てないだろうけど……ふへへ。
私の見た目は、黒い垂れ幕のような長髪を高くツインテールし(ラビットスタイルと言うらしい……カースト高め女子から盗み聞きした)、ちょっと冷めたような目の中に、ガーネットのような真っ赤な瞳がきらりと光っている。
肌は幽霊のように無垢白。
ここまで言えば、なんか結構美少女なんじゃね?とか思われそうなんだけど、それが私の罠である。
私はそんな感じで、なんでも見透かすお嬢様みたいな見た目をしているのに、実は滅茶苦茶ひょうきんで、訳の分からないギャグとかが無限に湧き出す、変人ちゃんなのだ。
この見た目のせいで周りからはちょっと絡みづらそうと避けられてるのに、知らない人に空気も読めずいきなり自作のギャグをしてしまったりする。
例えば……
「ホイットニー……」
私は、鏡を見ながら、両手を狐の様にして、体を直角に曲げ、口をすぼめて見せた。
……
と、こんな感じのギャグを、いきなり披露するのが私だ。
……今の、お母さんとお姉ちゃんに見られた。
ま、いいや。
私は、私。
meはme。
明日は明日の風が吹く。
服を買うならネットが一番。
よし、学校行こ。
私は家を出た――
あー、行きたくないなー。もっと広くて、自由な世界で生きたいなーと思いながら。
道端の小石に八つ当たりキックをかましながら。
小学生達の群れに、陰キャと小馬鹿にされながら。
うるさいですねー。
今にビッグになっちゃうもんねーだ。バーカバーカ。
しかし私、幽ノ坂 冬火は、もうそろそろでフリーターかニートになってしまうかもしれない。
混沌としたこの世界で、二次元ばかりに救いを求め、高校三年生にもなるのに、進路と言う、現実から逃げ続けてしまっていたからだ。
でも、言い訳もさせて欲しい。
だってもう、この世界おかしいんだもん。
最近とんでも無いニュースが、連日狂ったみたいに流れている。
と言うのも、都会のある街の上空に、とても大きい天国の扉のような、未確認物体が突如現れて、未知の生命体が退屈なこの世界に、なだれ込んできたのだ。
今までフィクションだった事が、ノンフィクションとなり、世間は大いに焦っている。
私はというと、常識が変わって、もう働かないで良い世の中になっちゃたりして?
と、怠惰の化身のような考えをして、さらに毎日夜遅くまで遊び惚けている。
昔から思ってたんだよね、一回の人生ぐらい、ゲームやアニメの主人公みたいに生きたいって……
まっでも、あり得ないから、たぶんフリーターかなんかかな。
つまんないのー。
もっかい小石キックー!ごめんね、小石さん。
と、油断させて、キックー!
ふふっ!
私は学校に行きたく無さすぎて、遠回りな道を通っていた。
その時だった――
あ、魔法陣。
綺麗に書いてるね。
あれやりたいかも。ケンケンパー。
私は、古代文様な文字が刻まれた複数の魔法陣の上を、何故か躊躇無く飛んだ。
まるで吸い込まれているみたいだった。
「ケンケンパーっと……」
なんか、最初のケンの時、光ったような……
と、最後のパーの時思った。
そして、最後のパーを踏んだ瞬間だった……
目の前に信じられない程大きい、腕が何本も生えた、異界の賢者のような存在が現れた。
「……人よ……禁術が視えたのか?」
やば、バケモノに食われる。
引っ張たらビーってなるやつ、出さなきゃ!!!
ダメだ。あれ、指でくるくるして、川に落としたんだった。
てか、禁術って何?
「あの……はい……芸術に吸い寄せられるタチでして……」
これで、無理ならホイットニーいっちゃうか。
でも、高一の自己紹介の時に、ホイットニーしたせいで、今のぼっちの私があるからな……
「すまぬ、人よ……ヌシは、もう戻れぬ……」
腕が沢山の賢者が言った。
「はい?」
聞き返す私の体が、段々足先からホログラムのように消えてく。
「ちょちょちょちょ、な、なんですかこれ!?」
私は死ぬ程焦り、駒のようにくるくる回り出した。
「時間が無い……一つだけ述べよう……ん?」
賢者は私の瞳を覗き込んだ。
やだ、賢者さん……二重じゃん……
どうでもいいわ!!!!!
そして何故か、急に顔色を変えて、クククと笑い出した。
「ど、ど、どうしたんですか、腕沢山おじさん?」
私は、もう下半身が全て消えた状態で、うわああと馬鹿な声を出して叫ぶ。
これでも真剣に怖がってるのだ。
「そういう事か……ほほ……数奇なる宿命よ……」
賢者はえらく楽しそうに笑う。
「え!?何!?早く言って下さいよ!てか、私どうなっちゃうんですか?」
私はもう肩から上しかない。
賢者は、真剣な顔に戻り、私の瞳を見つめて言った。
「其方の力は解放された……生きよ……他の世界で」
……
「ええ……」
漠然……
……わたし、これ死んじゃうのかな?
……いやでも今、生きよって言ったし。
……というか、意識が遠のいて、思考が上手く出来ないよ……
もう、自分の鼻も見えないよ。
いつも見て無いけど。
こんなことなら……
こんなことなら……
……
あれ、あんま後悔無い……
……私、空っぽ過ぎ……ハハ。
最後に見た、賢者の顔はとても誇らし気だった。
――
――
「う……うう……」
私は、再び意識と感覚が復活し、そっと目を開き、立ち上がった。
「ここは……」
私は辺りを見渡す。
その圧倒的な光景に、何も考えれず、ただぼーっと見惚れていた。
その光景は……
おばあちゃん家の近くにある巨大な海ぐらい、広い大草原だった。
全てが風にそよいでいる。
空の雲だって、いつも見ている雲の何倍も大きい。
さらには……
「竜だ……」
青々と揺れる草原に、特大な影を落とす竜が、飛行機みたいに当然に飛んでる。
「私……もしかして……」
私は、ゴーゴーと古のような風の音色の中で、一人立ち尽くす。
「異世界来ちゃったのかな……?」




