ガールミーツガールの終焉!
「さくら。別れよう、あたしたち」
蒼依のたったその一言だけで、わたしのガールミーツガールはあっけなく終焉を迎えた。
高2の4月。春休み明け最後のデートで蒼依はわたしにそう告げた。いつかこんな日が来るってなんとなくわかっていたけど。蒼依からそう切り出されるまではこの関係を続けていたかったから、わたしから別れようなんて絶対に言わなかった。
「……うん」
だけどわたしはその気持ちを押し殺して首を縦に振るしかなかった。だって蒼依は何も悪くない。悪いのは全部わたしなんだから。
「付き合ってから色々あったよね。毎日楽しかった」
「そう……だね」
蒼依は夕焼け空を見上げながらさっぱりした表情で言った。
ならなんで別れるなんていうの? そう聞いてやりたかったけど、わたしにそんな資格はないから。
生まれて初めてできた恋人だったのに。これまで16年間生きてきた中で初めて、心の底から愛おしい、大切にしたいと思えた人だったのに。
なにがいけなかったのかな。どうしてこうなってしまったのか反省する暇もないまま、わたし達の新学年は本格的に始まってしまう。そんなわたしの煮え切らない表情を見たからか、蒼依も顔を曇らせた。
「ごめんね、さくら。こんな終わり方で本当にごめん」
「蒼依は悪くないよ」
それでもわたしは、彼女からの悲しい提案を笑って受け入れるしかなかった。お互いにこれ以上傷を重ねないように、痛みを増やさないように。それがわたしと彼女にとって最善の決断だと信じて。
「それでも、ごめん。さくら」
「だから蒼依が謝ることなんか」
蒼依のごめんの連呼にだんだんと腹が立ってきて、視界も蜃気楼みたいに歪んできた。
蒼依はもうわたしの涙をその指先で拭ってはくれない。それどころか、悲しみに暮れるわたしを抱きしめてくれることすらしてくれない。わたしを直視せずに、遠くを眺めて視線を逸らしている。
もう最後なんだから思い残すことのないようにと、わたしは勇気を振り絞った。
「ねぇ、最後に1個だけお願いしてもいい? ……キスしたい」
「……わかった」
わたし達はバッグを放り捨てて、最後にお互いを激しく求め合った。背の高い蒼依の唇に届くには、わたしがいつも背伸びをしないといけなかった。つま先だけで立つのも、もうこれで最後なんだ。
この時間が終わらないでほしいと思いながら唇を重ね合った。それだけでは足らず、お互いの舌を絡ませあった。わたしの口内で踊る蒼依の舌の感触を絶対に忘れないようにと、わたしは身体に深く刻みつけた。
1分近くとは思えないほど濃密な時間のあと、お互いの唇を繋いでいた透明な糸がぷつりと切れた。
「じゃあね、さくら。バイバイ」
蒼依はわたしとは逆方向に歩みを進め、一歩ずつわたしから離れていく。デートした日の帰り際には、いつも「また明日」と言ってくれていた蒼依。
あの一言のおかげで、またすぐに会えるって不安にならなかったのに。最後には「また明日」とは言ってくれなかった。
こうして、わたしは半年近く真剣に交際した蒼依と別れた。蒼依と一緒にいる間は、自分を嫌いであることを忘れられたのに。まるで時計の針が止まったかのように、わたしのガールミーツガールはあっけなく終わってしまった。
一人暮らしのアパートに帰って、誰もいない部屋に「ただいま」とあいさつする。返事はなく、虚しい気分になるだけだった。明かりのない暗闇の中でバッグを下ろすと、どっと悲しさが押し寄せてきた。
「……あんなに好きだったのに」
大粒の涙がフローリングにぽろぽろと零れ落ちていき、わたしはうずくまって涙が枯れるぐらい号泣した。
自分の半身を引き裂かれるような、身が焦がれるほどの痛み。初めての失恋の味は、これまで味わったことのないほど辛く悲しいものだった。




