第二話 元カノ、距離が近い
「で? どうだった?」
昼休み終了直前。
ニヤニヤしながら机に肘をついてきたのは、大和だった。
「何が」
「白石の弁当」
「……普通」
「その顔で?」
「どんな顔だよ」
「めちゃくちゃ嬉しそう」
「うざすぎ」
俺が睨むと、大和はけらけら笑った。
「いやでも意外だわ。白石って別れたらバッサリ切るタイプかと思ってた」
「……俺もそう思ってた」
ぽつりと漏らした瞬間。
隣の席で、結衣のシャーペンが止まった。
しまった、聞こえたか。
でも結衣は何も言わない。
ただ少しだけ、表情が曇った気がした。
そのまま五時間目が始まる。
……が、全然集中できない。
隣にいる結衣との距離が近すぎる。
肩がたまに触れるし、教科書をめくるたびにシャンプーの甘い香りがするしで、心臓がずっと落ち着かなかった。
付き合ってた頃なら平気だったのに。
別れたあとだからこそ、妙に意識してしまう。
「神崎、ここ解いて」
不意に結衣がノートをこちらへ向けてきた。
「……え?」
「数学」
「いや、お前普通にできるだろ」
「今はやる気ないの」
なんだその理由。
けれど断る空気でもなく、俺はノートを受け取った。
「あー、これ公式違う」
「どこ?」
「ここ」
赤ペンで指した瞬間。
結衣の顔がすぐ近くにあった。
「っ……」
「なに」
「近い」
「玲斗が顔赤いだけじゃない?」
「うるさい」
からかわれてる。
絶対わざとだ。
付き合ってた頃、結衣はたまにこういうことをしてきた。
俺が照れるのを見て楽しむみたいに。
でも。
「……前より反応かわいくなった」
「は?」
「別れたら耐性なくなった?」
「誰のせいだと思ってんだ」
そう返した瞬間。
結衣が少し黙る。
教室のざわめきが遠く感じた。
「……ごめん」
小さな声だった。
その一言に、胸が締め付けられる。
別れた日のことを、思い出す。
雨の駅前。
お互い感情的になって、ちゃんと話し合いもしないまま終わった。
たぶん今でも、俺たちはあの日を引きずってる。
「……別に」
俺は視線を逸らしながら答えた。
「俺も悪かったし」
「……うん」
そこで会話は途切れた。
でも、気まずさは前より少しだけ薄れていた。
放課後。
帰り支度をしていると、結衣が鞄を抱えながらこちらを見る。
「玲斗」
「ん?」
「明日も弁当いる?」
心臓が跳ねた。
「……作る気なのかよ」
「嫌ならやめるけど」
そう言いながら、どこか不安そうに俺を見る。
その顔をされたら。
「……いる」
「そっか」
結衣はふっと笑った。
その笑顔が、付き合い始めた頃と同じで。
俺はまた、期待しそうになる。
終わったはずなのに。
もう一度、この距離をやり直せるんじゃないかって。




