第86話 それぞれの、これからの、
「アキーラくん!無事だ、った……の、かい?何これ。」
ゾフィーが頭にはてなマークを大量に浮かべながら、俺と、俺の腕に満面の笑みで抱きつく邪神……リサを見てそう言う。
うん。気持ちはわかるよ。
『アキーラ……アンタもしかして。』
フレイヤはもう何となく理解したみたいだ。長年やりあっただけはあるね?
褒めてねーぞ。お前のせいだぞこれ。
「アキ様、えっと、これは……はっ!修羅場!?」
そうだけど、そうじゃない。
こういう時だけ変に刺さるこというのやめて?
「僕は関係ない。僕は関係ない。僕は関係ない。」
おい、現実逃避すんなよレオ。
お前のせいでもある。もう一度言う。お前のせいでもある。
「まぁ、何だ、こうして世界は救われた、ってことで。」
「ねー?アキーラさん、これからどうしますか?私はいつでも、大歓迎ですよ?」
邪神との会話が一番噛み合ってるのも、それはそれで腹立つな。
お前らはもっと俺に寄り添え。
邪神は離れろ。ソーシャルディスタンスだ。守れ。
『はぁ……まぁ、アンタらしいっちゃアンタらしいけどね?……大丈夫、なのよね?』
「わっかんねーよ、でもどんだけ斬っても死なねぇし、なんなら喜んでるし。その上でもう世界に興味ない、俺と殺し合いたい、だぞ?もう斬る意味もねぇよ。」
「あ〜ん、アキーラさん?そんなこと言っちゃ、ダメよ?ちゃあんと、構ってね?」
「はいはい、適当に殺してやるよ。」
「うふふ♪ぎゅー!」
こいつキャラぶっ壊れてんなぁ。
「ってことだから、帰ろう。もう、戦いは終わりだよ。」
こうして俺は邪神から世界を救ったのだ。
なお、世界に俺は含まれていない。
「アキーラさーん!待ったー?」
「待ってねぇよ。来んなや。」
満面の笑みで抱きつこうとしてくる邪神リサを八つ裂きにする。
あの死闘から1ヶ月。
もはやシュタットの街で俺たちのことを気にする奴はいない。
「お前さぁ、3日に1回って自分で言ったのに毎日来んなよ。」
「だってぇ、アキーラさんを感じないと、退屈なんだもの。」
「知らねーよ。もっと世界に目を……いや、向けなくていいや。俺だけを見てろ。頼むから。」
「はーい♪」
「はぁ……。」
こうして俺は特大の地雷を抱きしめる日々を過ごすのだった。
地雷は毎日爆発してるよ。俺が抱きしめてるから被害はない。俺以外は。
「あ、アキーラくん。探したよ!」
「おおゾフィー。今日の飯は?」
「そんなことより、槍スキルの調子はどうだい?」
「いや、100になってからは変化なしだよ。」
「うーん、やっぱりただの槍じゃダメなのかな?アキーラくんの槍をエルザに作ってもらわないと……。でもエルザも狙って作れないみたいだし……。」
「おい、そんなことより晩飯は?」
「ああ、今日はコカトリスのポトフだよ。腕によりをかけて作るから、期待しててね?だ、ん、な、さ、ま♪」
「おお、コカトリス!!……ん?それって食べて大丈夫なやつ?石化抵抗とかあがらない?」
「じゃーねー!エルザのところ行ってこよーっと!」
「おいこら、無視すんじゃね……逃げ足早すぎだろ。」
邪神を倒して帰った後、俺はゾフィーにプロポーズされた。今まで散々引っ張ってきたが、全部の厄介事が片付いた今、改めて結論を出せと、迫られたのだ。
もちろん借金で揺すられたりとかはしていない。していないったらない。
「あ、そろそろエルザ迎えに行かねーとな。二人とも放っとくと寝ずに働くからなぁ……。」
工房の終わりが近付いても、炉の火を落とさないのだ。
最近は俺が迎えに来るのを理解して、そうしてる節がある。
そして迎えに行かないと本当に剣を打ち続ける。究極のかまってちゃんになってしまった。
「エルザー、おるかー?」
「はーい!アキく……リサもいるじゃん。」
「はぁーい♪お邪魔虫でーす♪」
「わかってんならアキくんに引っ付いてんじゃないわよ。」
エルザは強い。なんと言ってもリサを八つ裂きにして、俺を神にした剣を打った人間なのだ。
邪神だろうがガンガンいく。
まぁある意味、邪神邪神してるリサを知らないからかもしれない。
なんだ、邪神邪神って。
「あ、エルザ。今日の晩飯はコカトリスのポトフらしいぞ。」
「え……?コカトリスって、可食部あったっけ?」
「ゾフィー!!テメェこらふざけんなよ!!どこだ!!」
あいつやっぱりやってやがる!多分俺の晩飯だけだ!エルザと自分のは普通のだ。あいつはそういう奴だ!
「あはは、まぁ、アキくんは大丈夫じゃない?それより、これどう?」
エルザがそっと差し出す槍を見つめる。
鑑定っと。
鉄の槍
稀代の名匠エルザが魂を込めて打った槍。通常の鉄の槍とは比較にならない性能を有している。
「……ダメだな。強いけど。」
「やっぱダメかぁ……。うーん。」
「ま、あんま気負いすぎんなよ。ゾフィーが試したいって言ってるだけだからな。さ、帰ろうぜ、我が家へ。」
「それでもさ、ゾフィーのお願いだし、聞いてあげたいよ。せっかく、同じ人を支えることを選んだんだし。」
「そういうもんかね?」
「そーゆーもんなの……ほら!」
そう言って、両手を広げるエルザを優しく抱きしめる。
ゾフィーや他の人がいるときはあんまりだが、これでエルザは寂しがりなのだ。ことあるごとにハグを催促してくる。
ちなみにエルザとも結婚している。
ゾフィーが俺にプロポーズしたのを見て、その場でエルザからもプロポーズを受けたのだ。
俺にはどちらか一人を選ぶなんて無理だった。
そのことを素直に伝えたら、何故か二人で相談して三人で暮らすことになった。
二人で相談したのだ。俺は蚊帳の外である。
まぁこれが我が家のパワーバランスだ。うちの嫁が幸せならそれでいいのだ。
「そういえば、そろそろかな?」
俺の耳元でエルザが思い出したように言う。
「ああ、そうだな。早ければ神国に入ってるかな?」
フレイは神国へと戻った。
ここに居てもいいと言ったが、ここは自分の居場所ではないと固辞したんだ。
彼女は自身の信仰に生きることを決めた。
それを、邪魔することは、俺たちにはできなかった。
きっとフレイは今も、あの、騒々しさでみんなを救っているのだろう。
「ま、みんな大人だからな。俺と違って、立派だよ。ほんと。」
「うーん、アキくんは、もう少し自己評価を……いや、そのままでいっか。」
「なんだそりゃ、ま、帰るか。明日は早いしな。」
「えっと、レオさんの、出立だよね?」
「ああ、ようやく路銀が貯まったらしいからな。この前は俺が見送ってもらったと思うと、感慨深いな。」
「うん……そうだね。よしよし。」
「なんだよ。」
「んふふ、なんでもないよ?」
「ああ、ずっと無視されてる……これはこれで、素敵よ、アキーラさん……♪」
お前はもういいよ。早く死ね。
『忘れ物はない?』
「はい、大丈夫です、フレイヤさ……フレイヤ。」
翌朝、街の門に俺たちは集まっていた。レオの旅立ちを見送るためだ。
「それでは、お世話になりました。アキーラさん……あなたがいなければ、きっと僕は諦観に包まれた日々を送っていたと思います。本当にありがとうございました。」
「よせよ、先輩。俺はあんたのおかげでやれたと思ってるぜ。」
レオに手を差し出す。
これ以上言葉はいらないだろう。
俺たちは同じ女神に巻き込まれ、同じ女神を打倒せんと戦った同士なのだから。
『アキーラ、ホントにアリガトね。』
「おう、クソ女神。力を取り戻すまでは、あんまり無理すんなよ。」
『しないわよ、アンタじゃあるまいし。アンタも、ワタシが戻るまで邪神に寝首かかれるんじゃないわよ。』
フレイヤは、レオに付いていくことを決めた。
本人は自分の力を取り戻すために世界を回るのだ、と言っていたが、どっから見てもレオへの贖罪だろう。
みんなわかってる。レオも、俺も。
「……またな、フレイヤ。」
『……うん。またね、アキーラ。』
乗り合い馬車が、出発を告げる鐘を高らかに鳴らす。
それに反応して、レオは俺たちへと改めて頭を下げた。
「それではみなさん、ありがとうございました。これから何があっても、みなさんと出会えたことを、僕は忘れません!」
「おう、気負わず、自由にな。」
『じゃーねー!アキーラ!』
「迷惑かけんじゃねーぞ、クソ女神ー!」
『ああっ!?なんだコラー!!』
「ははははっ、気をつけてな!元気で!」
『……げんぎでねー!!あぎーらああ!!』
はは、ひっでぇ鼻水。相変わらず、閉まらねぇなぁ。
「行っちゃったね。アキーラくん、寂しい?」
「辛かったら、いつでも抱きしめてあげるから!」
「ありがとな。大丈夫だよ、大丈夫……。」
寂しくないといえば、嘘になる。
でも、みんなで選んだ結果なのだ。
「さーてと、今日は何すっかなぁ!」
「まずは上げられるスキルを全部上げないかい?」
「ちょっとアキーラの剣貸してくれない?もっかい、ちゃんと見たい。」
「アキーラさん?頑張って静かにしたご褒美が、欲しいのだけど……?」
「あああああ!もう!」
台無しだよ!まったく!!
女神に騙され異世界へ!貰ったチートは欠陥品の詰め合わせでした。〜雑魚い俺には努力が必須ですが、大成するのは間違いなさそうです〜
完




