表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生でストーリー変わったので……本来の主人公に転生した俺はスローライフを満喫するために元悪役を全力で応援します  作者: 製本業者


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/43

1. やっぱり俺って、実は主人公じゃ無かった?

だが、何かがおかしい。

転生して数ヶ月が経った頃、俺はふと気づいた。


「……ん? 待てよ。

なんか展開が違くね……?」

世界の空気感、周囲の人たちの態度、そして何より物語の進み方が、ゲームで見ていたそれと微妙にズレている。


いや、微妙どころじゃない。

これは……完全に別物だろ。


最初の違和感、それは「前日譚イベントの欠如」だった。

本来なら、ヒロインと運命的な出会いを果たすはずのサイドイベントが――ごっそり無い。


例えば、街道で浮浪者が旅人の親子を襲うイベント。

「あ、これだ! ヒロインとの出会いイベント!」

ゲームとはシチュエーションが違ったけど、流れとしてこんなストーリーがあった。親子で無く女の子が襲われていたのを助けたんだった気がするが、そんなのは些細な違い。

テンション爆上げで飛び込んだ。

救えば、再登場してメインヒロイン昇格……そんな流れを夢見てた。


でも、現実はクソ厳しかった。


その浮浪者、めっちゃ強ぇの。


一見ただの浮浪者風情かと思ったのに、踏み込みの鋭さと間合いの詰め方が、明らかに素人のそれじゃなかった。

こっちは武器の扱いも怪しいレベルで、ぶっちゃけ立ち回りも我流の応急処置。初手でビビって動きが鈍った俺に、いきなり鋭いナイフのような突きが飛んできた。


「っ、速っ……!」


ギリギリで身を捻って躱したけど、腕に擦過傷――その瞬間、背筋に冷たい汗が走った。

こいつ、中ボスクラスじゃねぇか……!


それでも、逃げたら終わる。

俺は足を踏ん張って木剣を構え、渾身の突きを繰り出した。


「せいやっ!」


……手応え、なし。

いや、かすったくらいはした。けど、まるで効いてる様子がない。


逆に浮浪者の拳が唸りを上げて飛んできて、次の瞬間には視界がグラついた。

殴られた? 蹴られた? わからない。気づけば地面に転がってて、口の中に血の味。


「マジかよ、こいつ……」


それでも、なんとか踏ん張った。距離を取りながら、足捌きで隙を窺う。

何度か木剣を振り抜き、何発かは当たった――はず。

体勢を崩させた場面も一度あった。けど、それ以上にはならなかった。


向こうは手加減なし、こっちは必死の応戦。

たぶん、周囲から見たらそこそこ戦えてるように見えたかもしれない。


でも、俺の体感は――


一方的にボコられてる、それに尽きた。


体が重い。息が切れる。

そして何より、相手の動きが見えない。


このままじゃ、死ぬ――

頭の奥で警鐘が鳴る。


そういや……後からヒロインが語ってたストーリーでは、自分を川から助けてもらったって言ってただけで、旅人の親子だなんて一言も触れてなかったんだよな……

まさかコレって、メインイベントでも何でもない、ただの事故フラグ?


……うそだろ、そんなルート外のアクシデントで、異世界転生して即退場なんて……笑えねぇって……!


──視界が、ぶれる。


足がもつれ、膝が地面に触れた。

ああ、もう限界かもしれない。

一発は入れた。何度か避けた。手応えは、ゼロじゃなかった。

でも、それでどうなるってんだ。


浮浪者は息ひとつ乱さず、俺の前に立っていた。

皮肉な笑みすら浮かべている。こっちは泥と血にまみれ、片膝をついて、呼吸すらままならないのに。


「くそ……」


立ち上がろうとする。でも足が、動かない。

もはや俺ができるのは、目の前の子供に手を伸ばして、ただ庇うことだけだった。


頼む。誰か──


その瞬間、鋭い風が斬り裂く音と共に、空気が一変した。


「そこまでだ!」


声が響いた。凛として、力強く、それでいて若い。


目を向けると、夕陽を背にして現れた二つの影があった。

ひとりは、武骨な佇まいの剣士。

そしてもうひとりは──俺と同じくらいの年に見える、美しく整った顔立ちの少女……いや、少年か。

目深に被ったローブのせいもありぱっと見、少女と見間違えるほどの涼やかな目元に、細身の剣を携えた姿。


「っ……少年?」


俺が呆然とつぶやくより早く、彼らは動いていた。

まるで舞うような動きで駆け出した少年は、俺と浮浪者の間に一閃を走らせた。


「ぐっ……!」


浮浪者が一歩、後退った。

それまで微動だにしなかった奴の足が、ほんのわずかとはいえ揺らいだのだ。

初めて見せる動揺の色。──やっぱ、あの一撃、かすったんだな。

自分で思っていたより、俺もちゃんと戦えていたのかもしれない。


その隙を逃さず、剣士の男──たぶん父親か、師匠なんだろう──が静かに前へ歩み出た。

構えも何もいらない。ただその存在感だけで、空気が一気に張り詰める。

浮浪者はもう戦意を失っていた。


俺は、それを……ただ、眺めることしかできなかった。


二人は俺もろとも、敵を一掃した。

旅人の親子は、ほっとした表情で何度も頭を下げていた。

助けられたのは、あくまで彼らだ。俺はというと──まあ、泥と血と敗北感にまみれたまま、川辺で鼻血垂らして半泣き。


けど、ひとつだけ──唯一、俺が主人公っぽかった瞬間があった。


戦いの最中、逃げ遅れた子供が足を滑らせて、川に落ちかけたんだ。

反射的に、体が動いてた。

全力で走って、倒れこむように地面に手を伸ばして──指先ギリギリで、その小さな手をつかんだ。


「うわっ……っ!」

ぐっと引き上げたその勢いで、俺の肘も膝も泥に突っ込んで、もう泥まみれ。

水が跳ねて顔にもかかるし、木剣は川に落ちて流されるし、絵面は最悪だったけど……


それでも、その子は俺を見上げて、小さく「ありがとう」って言ったんだ。


……なあ、あれ、ちょっとだけ、かっこよかったよな?

なあ、そうだろ? なあってばさ……!


──なんて自己満足も束の間。


その子はすぐさま立ち上がると、美少年剣士の方へ駆け寄っていった。

キラッキラの笑顔で、「ありがとうっ!」って全力感謝。

声のトーンからして、明らかにテンションが違う。

……うん、そりゃ、そうなるよな。


そんな少年剣士が何気なく俺に声をかけてきた。

「怪我は……大丈夫か?」

その声音が妙に落ち着いていて、生前含めたら年齢が上のはずな俺が一瞬返答に詰まったくらいだ。

「……ああ、なんとか、な」

「無理はするな。剣の扱いが未熟なのは見ていてわかる。命が惜しいなら、まず体を鍛えた方がいい」

ぐさっ。めっちゃ正論だし、普通にいい奴だし。

けど、それが逆にきつい。主人公のはずの俺が、見た目美少女に説教される図。


いや待て、こいつほんとに美少年なのか……?

……美少年でした……


「ねえ、お兄ちゃん、大丈夫?」

旅人の子供が、もう一度こっちを見た。

「さっき助けてくれたとき、すごく……怖かったけど、嬉しかった」

「あ、ああ……そっか、よかった」

頬がほんのり赤い。まさかのフラグ立ったか……?

と思ったけど、次の瞬間。

「でも、あのお姉さんの剣さばき、すっごくかっこよかったよね!」

え? やっぱそっちかよ……

「そうだよな、やっぱかっこよくなくちゃ……」

「やっぱりそうか……。

でも、お兄ちゃん、結構かっこよかったよ」

「そ、そうか……」

そう返すのが精一杯だった。

まあ、美少女って誤解してるみたいだから、憬れってのが強いのかな?

その後、旅人親子は剣士親子に護衛を依頼し、そのまま去っていった。


残されたのは――俺ひとり。


ぽつーん。


「……やっぱ、俺、実は主人公じゃない?」


その時ばかりは、本気で思った。

筋書きから、外れすぎてる。


ヒロインとの出会いは横取りされ、助けるはずだった子どもは別の誰かに救われ、自分の見せ場は川辺で鼻血を垂らして倒れるだけ。


何より、自分の実力が、致命的に足りていない。


この世界は、誰かが勝手に俺のレベルを上げてくれるRPGじゃない。

誰かに期待するんじゃなく、自分でやるしかない――そう、痛感した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ