開戦
クロム星系側のゲート前、三百体に迫る数のアディード軍のゴーレムが群がってゲートから獲物が出てくるのを待ち構えている。その大半は知能の低いゴブリン等の下級妖魔が操るイミテーションゴーレムだが、中にはゴブリンの上級種やインプやディヴァルの操る高品質のゴーレムやアディードに与する人間のパペットも混ざっている。
ホブゴブリンのカーンとゴブリンシャーマンのクーリラは複座式のゴーレム・ファントムに乗り、部下の乗る十数体のイミテーションゴーレム・ゴーストを率いてゲートまでやって来た。
「おーおー、凄ぇ数が集まってら。皆さんヒマだねー」
ファントムのコックピット前席では、カーンがジェルーンの埋め込まれた操縦桿を弄びながらゲート前の光景を呆れたように見る。
「まっ、情報によると、相当な大物がゲートを抜けて来るらしいからね。この辺を縄張りにしてる氏族がこぞって兵を派遣して来たんだろう」
後席のクーリラは名の知れた妖魔のゴーレムを視認しては、指折り数えている。
「なあクリよ、俺たち、こんな後ろの方でのんびり見物してていいんか?」
「今回の大物が出てくるって情報の拡散され方は不自然だ。おそらく敵さんが意図的に流したんだろう。獲物を集めるための撒き餌だな」
クーリラは最前列まで飛び出したくてウズウズしているカーンをたしなめる。
「んじゃあ、あのゲートの真ん前に群がってる奴らは?」
「準備万端整えて来た敵さんに一網打尽にされるだろうな。だが、こっちもこれだけの大軍だ。かなりの数が残って、乱戦になるだろう。俺らは、その乱戦に乗じて敵のボスを討つ」
「なるほどなるほど、その手でいきますか。おっ、ゲートが光りだした。そろそろ出て来んぞ」
カーンがクーリラの解説に感心していると、ゲートが起動してリングの内側の空間が光の粒子で満たされ始める。ゲートの前に群がっている妖魔たちは奇声をあげ、各々の機体の武器をかまえた。
ゲートに光が満たされて数分、光の境面がゆらぎガンダルフがソーノ星系より遥かな空間を越え、艦首よりゆっくりとその姿を現し始めた。
「ゲート抜けます、敵影多数確認」
ガンダルフのブリッジにレベッカの緊迫した声が響き、魔導砲のトリガーを握るディックは素早く妖魔の最も群れている方向に照準わ合わせる。
「‘ハドゥ・ヴォルト’!」
ディックがトリガーに埋め込まれたジェルーンに手を当てて呪文の最終文節を唱えると、ガンダルフ艦首の半透明のドームに光が集まり、その光は凄まじい破壊の力となって前方に溢れ出す。光はそのまま奔流となり前方に拡がっていき、攻撃態勢に入っていたアディードのゴーレムの群れを呑み込んでいく。数秒後、ゲートよりその全身を現したガンダルフの前方、光の奔流が過ぎ去った跡には何十ものゴーレムの残骸が漂っていた。
「状況確認、急げ!」
ガンダルフのブリッジにアムラの声が響く。すぐさま偵察用の使役魔が射出され、アルスとレベッカはレーダーと使役魔からの情報の分析を進めていく。
「今の魔導砲で、この宙域の敵勢力の約6割を撃墜。敵は残り150体弱、残った敵はまだほとんど動きを見せていません」
「元々指揮系統もへったくれもない妖魔どもだ。何が起きたかわからずに戸惑っているだけだ。すぐに我に返って襲いかかって来るぞ」
レベッカの報告を受けたアムラは前方のスクリーンに映るアディード軍の動きを目で追いながら、今度はジムに問いかける。
「推進機関の魔力はどうなってる?」
「さっきまで魔導砲にまわしていた分の魔力が供給され始めました。現在の出力は約30%、100%まで回復するのに15分ほどかかります」
「回復するまでの間、回避行動はとれるか?」
「なんとかやってみます」
ジムの答えを聞いたアムラは、今度はアルスとレベッカに指示を出す。
「アラゴルン、ボロミア、ギムリ、レゴラスの各艦にガンダルフを中心に十字陣形を取らせろ。それからハンガーユニットのハッチ開け、機甲部隊出撃だ」
「了解ッス」「1番から4番ユニットまで全ユニットのハッチ開きます。機甲部隊は随時発艦してください」
ガンダルフに続いてゲートを抜けてきたアラゴルン以下4隻の戦艦は、即座に出力の落ちたガンダルフを護るように十字陣形に陣形を組み換えた。
そしてガンダルフではハンガーユニットのハッチが開き、上部の1番ユニット・フロドからはドラゴンを先頭にペガサスとグリフィンが、左舷の2番ユニット・メリーからはランスと2体のバトルアックスが、下部の3番ユニット・ピピンからは2体のバリスタが、そして最後に右舷の4番ユニット・サムからは6機のビークルアーマーが飛び立ち、それぞれ隊列を組んで戦場へと散って行った。
ガンダルフに続きアラゴルン以下4隻の戦艦からもそれぞれ5~10機程のパペットやビークルアーマーが発艦して隊列に加わる。各機が出揃ったところで、ドラゴンより魔力に乗ったアーサーの大音声が発せられ、星海の戦場に響く。
《敵は統率を失った妖魔どもだ。一機当千の諸君が後れをとる相手ではない。パペット、ビークルアーマーの各小隊及びペガサス、グリフィンでそれぞれ10体以上の敵を墜とせ。この戦いで我がラグティウスの名を一気に敵味方に知らしめる。いいな!!》
アーサーはそこで一拍おくと、ドラゴンの大剣を高々と振り上げた。
《各人の武運を祈る、散開!!》
檄を飛ばしたアーサーはそのままドラゴンを妖魔の群れに突入させた。そして機甲部隊の各機もドラゴンに続き、獲物を求めて妖魔の群れに斬り込んでいくのであった。