第二十一話 ヒヒヒヒヒイッ! 出たぞ、顔を殴れ!
東にある木のダンジョンに辿り着いた私達は、順番が来るまでお互いに世間話的な事をして時間を潰していた。
サイガが掲示板で集めた情報によると、ダンジョンは5つの入り口に分かれているらしいが、その全てのルートは同一の物らしい。
ダンジョンには好き勝手に入ることは出来ず、一定時間が経つと入り口が開き1パーティー若しくはチームが入れるようになるとの事。入り口が5つあるので、先ほどから進むときは一気に進むけれども、進まない時はずっと立ちっぱなしで暇になっていた。
辺りは少し木々の生えた林になっており、此処に来るまでに通った中央のダンジョンは、遠目から見た感じ草原だったので、やはり『木』に合わせているのだろうか。
「じゃあ昨日は生産イベントまで行ったんですね」
「そうなんだよ、やっぱり魔法アタッカーとしては見逃せないイベントだからね」
「アタシはその間ずっと敵と戦ってたけど、ぜーんぜんだめ、もっと強いのと戦いたかった」
「ごめんって、でもパーティーの戦力強化は大切だよね?」
「分かってるわよ」
「あんまり大声で話すなよ、周りに迷惑がかかるぞ」
「「はーい」」
世間話をして分かったことは、基本バレルさんとおーさんが話していて、イマモさんは相槌でちょっと無口、コナコさんがちょいちょい注意しながら円滑に回してる感じだ。サイガは掲示板を見て情報収集中、きっとこれが彼らのいつもの景色なんだろう。ちょっと羨ましいと思う。根っからのボッチという訳じゃないからね、私は。
「それにしても、レオラさんがあの最初にボスをコントラクトしたボス周回の女性だっとはね」
「この子が欲しかったので」
隣を歩く皆の中でナードの頭を撫でる。そうすると他の子もなでれと来るのでなでなでする。
「アタシも早くボス行きたい!」
「このイベントでもボスはいるから我慢しろ」
「はーい」
「情報来たわよ。どうやらボスの強さはそれほど高くないみたいね。経験値的には2陣にはブースト、1陣には半減まで行かなくても得られる経験値が減退しているみたいだわ」
「2陣の応援イベントって事だね、これは頑張らないとね」
「強い敵を斃せば、ブーストなんてなくとも経験値は後からついてくるってアタシは信じてる」
「どや顔してること悪いが、俺たちの番だぜ」
どうやらぎりぎり五組目に入れたようだ。どっかもチームで入るのだろう。最後に装備の点検をする。お爺さんから貰ったネックレスも念のために装備しておいた。
ダンジョンの入り口は扉が設置してある小さな小屋だ。その扉を潜るとそこは室内では無かった、森の中だ。
東のダンジョンは森の迷宮。進めるところと進めないところ、見えない壁がありその壁に阻まれながら進む事になる。
取り合えず歩きながら探っていくことにした。なんでもこの透明な壁は一定時間経つと場所が変わるようで、先人の地図等は当てに出来ないそうだ。
「敵!」
言うや否や走っていったバレルさんの後をモフモフ達が追う。私の役目は基本サポートと魔法だ。
出てきた敵はフォレストウルフが数匹。バレルさんに切られて動かなくなっている。うちの子達の戦いを見たところ、強さは確かにそこそこ程度だろう。因みにフェリはやっぱり私の影かナードの影に隠れるようにしていた。私以上に人見知りなのかもしれない。
「歯ごたえが全然ない! さっさと進もう!」
「歯ごたえは置いといて、私もさっさと進むのは同意するわね。なにせ早ければ商品があるのだし」
サイガも弓を軽く構えながらバレルさんに同意する。私的には商品よりもモフモフがいてくれた方が有難いんだよね。
「此処壁になってる」
「流石に真っ直ぐいけるわけないか、迂回するしかないね」
「ッ」
さっとバックステップで根の鞭をよけるバレルさん。あれがトレントらしい。見た目は木その物なのに根っこがうようよ動いたり、枝がざわざわ動いている。一応経験値の為に【契約】は使うけれども、オークやゴブリンと同じく石のまま眠らせておくの確定かな。
木だけあって【火魔法】には弱かったので、私とフェリそしておーさんの集中砲火で直ぐに斃せた。
しばらく行くと同じくトレントが3体出て来たけれども、2体は足止めして貰って1体ずつ丁寧に斃していったので全く問題なかった。物理攻撃は効きにくいようなので、仕方ないとはいえこのままだとMP的にちょっと不安だ。
「此処にも壁があるわね」
最初の階層は直ぐに次の階層への入り口を見つけることが出来た。入り口はぽっかりと穴が開いており、そこに下への階段があったのだ。階段を下がって出た場所が同じく森という不思議な光景だけれども、気にしないことにした。
2階層も1階層と同じだが、敵の数が多くなり壁も増えた。サイガがここにもあるとぼやいていたけれども、人が歩けば壁に当たると言わんばかりに壁だらけだ。壁に手を置いて進んだとしても、ぐるりと回ってきてしまっただけなので、行き当たりばったりで進むしかない。それでも出口兼入り口には近づいていると思いたいところだ。
「キモッ」
「ホラーかよこわ」
「私もこれはちょっと嫌かしら」
「SS撮っておこうかな」
確かにこれは私もどうかと思う。
ソイツは、トレントでは無かった。人面木、その名の通り木に人の顔がせり出しているような風体だけれども、それだけではない。目がぎょろりと此方を堪えると、樹液を口から垂らして笑いだすのだ、ヒヒヒヒヒイと。なので正直気持ち悪い。
トレントよりも攻撃力耐久力共に高いこいつは、しかし顔がある場所の防御力はたいして強くなかったので、トレントに思うようにダメージが出せなかったうっ憤を晴らすように皆で顔面を殴り続けていた。後ろから見ている身としては狂気以外の何物でもないよね、怖い。
そんなこんなで3層目。この階層は先ほどの2つと違い、広いフィールドをどこにでも行けるのだけれども、トレントの持つ鍵をドロップしないと次の階層に行けないという面倒な場所だ。
此処まで来るのにも結構時間が掛ってしまっているので、次の階層に行けたら休憩を挟むことに決まった。
メニューのイベント時間を見ると、確かに結構な時間が経ってしまっていたようだ。集中していて気が付かなかった。
「でた」
ドロップしたのはイマモさんだった。
もう何体目のトレントか知らないけれど、手当たり次第に戦って戦って漸く出た。契約石も出たけれども、今のところ使うつもりはない。
4階層は5階層のボスに向けてのセーフティーエリアになっているとの事だった。中に入ると丁度私達の前に入ったパーティーがボスに挑むようで、階段を下って行くところだった。
「はぁ、疲れたね」
「雑魚でも戦えるだけまし」
「お前等は元気だよな、話すの怠いぜ」
「他のダンジョンも基本は5階層目がボスみたいね。一応私の推測を信じてくれた人が東に集まって列をなしているみたいだから、ぎりぎり長蛇の列に捕まる前に来られたみたいね」
「じゃあ早めにクリアしないとその列に捕まる可能性があるって事?」
「そうなるわね、ボスクリアしてから休憩にしましょうか」
あんまり休憩できなかったけれども、直ぐに階段を下へ。
辿り着いたところには大きな木が描かれている扉があった。此処がボスへの入り口らしい。
「ボスはビッグトレント、攻略法はトレントと同じね」
此処に来てまた私のMPを吸い取るのかこのダンジョンは。
仕方ない、魔法で行こう。
扉が開くと共に一瞬の閃光、どうやらフィールドが移動したようで周りにサイガ達の姿はない。その代わり目の前には蠢く根と大樹。名前はビッグトレント、情報通りだね。
「いつも通りよろしく皆」
私とフェリ以外が駆けていく。ナードは盾を持っていない。やっぱり殴る方が好きそうだったのでやめたのだ。あれはタイムを縮めるための一時的な措置という事で。
フェリと一緒に魔法を投げる。フェリは【狐火】も織り交ぜていたけれども、状態異常に中々掛らないので普通に魔法を使っている。
ビッグトレントのHPが半分を切った時、パターンに少し違和感を感じて全員後退の指示を出す。それが良かった、木から硬い実が降り注ぎ避けるのに精いっぱいになってしまったのだ。私はある程度慣れているのけれども、詠唱で体が止まると当たってしまうので仕方なく回避に専念した。
少し削れてしまったモフモフ達のHPを回復。実の雨は既に止んでおり、攻撃を再開した。
HPが3割を切った時にも同じ攻撃があったが、皆学習しているのかモーションに違和感を感じて各自迎撃態勢に入った。
基本は根の攻撃と上から枝ごと押しつぶしにくる攻撃、ざわざわしてから枝を飛ばしてくる攻撃。この3つだ。
最後はフェリの火魔法が当たり散っていった。
ボスが粒子になって消えると共に、その粒子の真ん中にあった小さな光の玉がお爺さんから貰ったネックレスに吸い込まれて行った。
何か意味があるのかと思ってアイテムボックスに入れてみたが特に変化は見られない。よく分からないのでそのままにしておこう。順番通りにボスを斃せば光が全部集まって凄いパワーになるかもしれないし。王道的にはそうだよね?
トレントの粒子が完全に消えると、奥に上への階段が現れた。そこを進むとダンジョンの入り口とは反対側に出た。
「ごめんなさい、お待たせしました」
サイガ達は既に待っていたので謝罪をして合流。
「大丈夫よ、私達も殆ど同時だったから。取り合えず休憩は次の南のダンジョンの列に並びながらにしましょうか」
という事で歩きながらお互いのボス戦の状況を確認。
被害はあまりないようで流石ゲーム慣れしているなと思うほどだった。
サイガの調べだと、ボスのHPはプレイヤーのレベルで少し上下するようなので、今後も待たせてしまうかもしれないけど、頑張ってタイムを縮めていこう!
南のダンジョンはそこまで並んでおらず、これならば直ぐに入れてしまいそうだった。空も暗くなってきており、寝ずにプレイするならともかくある程度睡眠をとるならば南のダンジョンをクリアし終わって丁度いいぐらいだろうか。
話し合いの結果、並びながら少し休み、4階層のセーフティーエリアできちんと休んでからボスを斃してその後就寝という事になった。寝られるような場所は掲示板の情報でも見つかっていないので、草原で寝ころびながら寝る事になるらしい。
でも虫やらなにやらは草原にはいないそうなので、ある意味フカフカの布団で寝られるようなものだ。それに私はモフモフと一緒に寝るので最高の気分で寝られるだろうしね。
お読みいただきありがとうございました。また、ブックマークや評価でランキングにも入れていただきありがとうございました。落ち着いてきましたのとブックマーク数を見まして、感想受け入れに致しましたので、宜しければ誤字脱字を教えていただけると有難いです。出来ればどの辺りにあったかも教えて頂けると助かります。作者は豆腐メンタルですので、もしご感想ご質問等を頂けましたら、ご返答は後書きにてとさせて頂きます。個人様宛はちょっと色々と怖いので。




