5-7
日曜日の午後、今日も今日とてログインの時間です。それでは日課をこなしてからダークエルダートレントの待つ地へと向かいましょう。
空中ジャンプやエテモンキーの相手も慣れてきたので、移動がかなりスムーズになりました。流石に人外の動きは出来ませんが、曲芸風の動きなら出来ると思いたいですね。
さて、肝心のオールドトレントの根ですが、うーむ、やはり私以外にもここへ来て何かをしていますね。何せ、オールドトレントの射程の目印が拡張されているのですから。こう、ぐるっと一周しているので、安全地帯が丸わかりですね。
根が変化する時間から考えるに、深夜に来ているプレイヤーがいるのでしょう。
さて、洞を狙っても上手くいかないのはわかっているので、葉を狙うことにします。
…………
……
一つ問題が発生しました。一度ダークエルダートレントの洞に除草剤を投げ込んだお蔭で、葉の三分の一が減っています。そのせいで、一番近い葉に届かせるのがやっとです。反対側に回ることも考えるとオールドトレントを全て倒してからでないと骨が折れますね。
そういえば、ダークエルダートレントの通常攻撃の射程距離はどのくらいなのでしょうか。洞を飛ばす攻撃に関しては長射程だとわかっています。けれど、トレント系の枝を腕代わりにした打撃の射程距離はわかっていません。そのため、歩いて近付いてみましょう。エリアシールドとヒートボディがあれば根に巻き取られることもありませんから。
オールドトレントの葉っぱ攻撃はエリアシールドで防ぎ、巻き付こうとする根をヒートボディで焼きながら進んでいますが、どうにも進みにくいですね。根によって拘束はされませんが、動きの邪魔にはなるからでしょう。そして、到着してしまいました。ええ、ダークエルダートレントの根本です。このダークエルダートレントは通常攻撃をしないとは……。恐らくはイベント仕様の特殊MOBなのでしょう。
最後に調子にのって触った瞬間。
「あ、まず」
洞が開き、樹皮が飛んできました。オールドトレントの葉っぱを防いでいたエリアシールドを粉砕し、ヒートボディの効果で焼かれながらも私に突き刺さった樹皮の衝撃で後ろへと吹き飛ばされ、HPの大部分を失いながら地面を転がる結果になりました。今まで私を守っていたエリアシールドがなくなったので飛んでくるオールドトレントの葉がヒートボディで焼かれています。けれど、稀に少量のダメージを負ってしまうのでこのまま寝ているわけにはいきません。回復しながら安全地帯へと走った結果、事なきを得ることが出来ました。前に半分くらいで済んだのは距離が関係していたようですね。
とりあえず、今の実験の結果、ダークエルダートレントは対象に取らない限り攻撃してこないということがわかりました。
さーて、どうしましょうかね。エリアシールドがあるのでもっと近くでジャンプをしてもいいのですが、残っている葉が遠くにあるので、成功率が大きく上がるわけではありません。なら、別の方法をかんがえるのもありです。
あの洞の顔も攻撃してからすぐに消えるわけではありません。飛んでくる樹皮をかわしてから除草剤を投げ入れてしまえば、しっかりと狙うことが出来ます。あの攻撃のクールタイムが60秒くらいで、洞はもっと早く閉じるので、ちょっと確認してみましょう。
確認するにしても攻撃を受けて転がってしまっては意味がないので、根の外周部近くまで下がり、横に走りながら識別をします。そうすれば回避できるかも知れませんから。
もちろん、安全のためにエリアシールドとヒートボディは発動してあります。
それでは、よーい、どん。
根の外側なので絡んでこないため、走りやすいですね。この調子ならうまく回避出来るかもしれません。それでは識別をして――。
「ふぎゃ」
一瞬で飛んできたダークエルダートレントの樹皮がエリアシールドを破壊しながら私ごと吹き飛ばしました。けれど、私のHPは減っておらず、エリアシールドだけが破壊されています。弾丸代わりの樹皮はそのへんの地面に突き刺さっているので回収しましょう。
ふむ、エリアシールドが吹き飛ぶ状況だと私に攻撃が当たらなくとも吹き飛んでしまうとは……。一応これが正しい挙動なのか運営にメールを送っておきましょう。
ちなみに、洞が閉じるまでの時間は30秒くらいでした。残りの30秒で再装填しているのでしょうね。
再び準備をしてと。今度は少し内側に入って根がある場所を走ってみましょう。根が絡んでくるので邪魔をされる形になりますが、どんな感じになるのか試してみたいですから。
それでは、よーい、どん。
「ひゃっ」
今度は首筋に風を感じながらつんのめってしまいました。
走る速度が遅くなったので、当たりどころが変化した結果、私の近くを通ったのでしょう。
前もってちゃんと根を焼いた時にはまだ距離がありましたが、これはもう誤差ですね。ここからでは1分以内に走って除草剤を投げるための位置には着けないので、もう少し近付く必要があります。近付けば樹皮が飛んでくるまでの時間も短くなるので失敗する可能性もありますが、ここで引いては女が廃ります。なので、必要なところまで近付いてやろうではありませんか。
流石にオールドトレントの葉が飛んでくるのは邪魔でしかないので、射程距離ギリギリの位置にコースを作りました。ここからなら余裕で間に合うはずですし。
ええ、余裕で間に合うと思っていました。けれど、そんなことはなく、近付いた分、時間的余裕がなくなり、エリアシールドが破壊されると同時に吹き飛ばされて転がってしまいました。
問題はなかったはずですが、流石に威力が高かったので、転がる距離が伸びたのが原因ですね。ここに来て問題が発生するとは、どうしましょう。
走り込みをしたところで足が早くなることもありませんし、いっそのこと、AGIを上げるスキルを取るべきで……いえ、スキルレベルが上がらないと意味はないでしょう。
うーむ、ああ、そういえば付与をまだ試していませんでしたね。
【ウィンドエンチャント】と【スピードアップ】を重ねがけして試して見たところ、前につんのめる形でエリアシールドが破壊されたので、エリアシールドがなければ上手くいきそうな気がします。ですが、流石に一歩間違えればHP全損は免れないはずなので、慎重かつ手早く行う必要がありますね。
それではエリアシールド抜きで試してみましょう。ここはギリギリですがオールドトレントの射程外です。なら、あの葉っぱが邪魔をしてくることもないでしょう。ヒートボディがあるので飛んできても問題はなさそうですし。
それでは、よーい、どん。
走りながら横を向き、途中で識別を使った瞬間、洞が開き、背後を何かが猛烈な勢いで通過しました。風を感じて少しヒヤッとしましたが、ギリギリ成功です。すぐに方向転換し、開いた洞の顔へと向かいます。走りながら除草剤を取り出し、あとは投げるだ……もぎゃ。ああ、もう、私の体を覆うヒートボディのエフェクトである炎っぽいものに触れた瞬間にオールドトレントの葉っぱ攻撃が燃え尽きるとはいえ、口に入りそうな気がしてとても不快です。エリアシールドを使っていないせいとはいえ、ここまで邪魔な攻撃とは……。
何とかダークエルダートレントの根本までやってきましたが、狙いをつけるのにも葉っぱが邪魔です。結果、除草剤を投げつける前に洞が閉じてしまったので、引き返すことになりました。
方針は間違っていませんし、実行可能なこともわかりました。けれど、障害物があります。なので、ちょっと障害物を排除しましょう。
閃いて、魔法陣を4つ描き、さらに残りのMPを全て注ぎ込みます。
「【エクスプロージョン】」
爆風にあおられながらも帽子を抑えて踏ん張ります。ええ、葉っぱを飛ばすオールドトレントがいなければいいんですよ。ただ歳取っただけの老木め、焼き尽くしてやりますよ。
フハハハハ。
結果的に全体の三分の一くらいは倒したことになるとは思います。
これで押し寄せてくる葉っぱの数が減るはずです。とりあえず、今回はこのくらいでログアウトです。
夜のログインの時間です。日課はこなしましたが、ユニコーンは午後のログインの段階で済ませたので、まだクールタイムが終わっていません。まぁ、ログアウトする頃には終わっているので、忘れないようにしましょう。
オールドトレントの群生地へ移動し、さっきの続きをしましょう。上手く行けば今日で倒せるかも知れませんし。ちなみに、木の枝を利用し移動していると、今まで以上にホワイトウルフと戦っているプレイヤーが大勢いました。中には斥候役を担っているプレイヤーが木に登り周囲を確認しているパーティーもいるので、見つからないように迂回したりと少し時間がかかってしまいました。
まぁ、慣れていないのか猿に何かを投げつけられて落っこちていましたが。
目的地に到着し、広がっている根を見ると、変化しているようには見えません。まぁ、誰かがいてもやることは変わりませんね。
作ってあるコースを走って体を慣らし、除草剤を確認してからヒートボディと付与2種を使い、準備を整えます。それでは、よーい、どん。
識別を使って背後に風圧を感じたら、口元を覆いながらダークエルダートレントへと走ります。ええ、口に入りそうになるのなら、口を覆えばいいんですよ。それに、オールドトレントを追加で倒したおかげで葉っぱの量も減っている気がします。
さて、残りの目と口のどちらを狙いましょうかね。流石にないとは思いますが、口を先に潰した結果、目からビームを出されては困るので、もう一つの目にしましょう。
そこそこ高い位置にあるので、空中ジャンプも交えて無防備に開いている目に除草剤を投げ込みました。そこから反撃してくることもなく、着地しながら結果を眺めていると。
『WOOOODDDDD』
体を揺らして周囲のオールドトレントにぶつかりながら目を閉じてしまいました。その後にダークエルダートレントの葉っぱが落ちていき、かなり禿げ上がりましたね。そこから更に幹の方が変化し始めたのですが、ここでゆっくりしているとヒートボディの効果が切れて根に巻き取られる可能性があるので、一度退避しましょう。
安全地帯でダークエルダートレントを確認すると、幹というか、体全体がかなり萎びていますね。水分も抜けてカサカサしているので、よく燃えそうです。まぁ、闇属性なので攻撃するなら光属性を使いますけど。
さて、それでは二回目です。流石に行動パターンが変化するかも知れないので、注意はしましょう。
それでは、よーい、どん。
走りながら識別をし……。
「ひゃっ……うげ」
なんですか今の。今までは背後に風を感じていたのに進む先を樹皮が横切りましたよ。驚きのあまりにずっこけてしまったので、寝そべる形になりましたが、まさか両目が潰れたせいで狙いが大きくそれるようになったということでしょうか。これは思わぬ変化です。……よく考えたら片目が潰れてもよくもまぁ正確に狙えていましたよね。両眼視機能って射撃で狙いをつけるのには重要な機能のはずですが。まぁ、相手はMOBなので関係ないのかも知れませんね。
エリアシールドを発動して識別をしてみた結果、あくまでも命中率が下がっただけで、必ずそれるわけではないようです。つまり、立った状態でエリアシールドを使わず識別して外すのを確認してから真っ直ぐ向かうには、不安が残るということです。
さて、方法を変更しましょう。命中率はかなり下がっており大きく外すこともあるので、エリアシールドとヒートボディを使い大きく外すのを待ちます。もちろん、エリアシールドで受けるともれなく私が後へ転がり、かなりのダメージを受けるので、復帰する頃には洞は閉じているので狙えません。
1回に1分かかるので、多少時間はかかりましたが、見事に特大ホームランをしてくれたので、安心して走ることが出来ました。さぁ、残るは洞の口だけです。ここまで来たら外す方が難しく、除草剤を投げ込み、命中を確認してから安全地帯へと戻ります。
『WOOOODDDDD』
流石に吐き出すようなこともなく、一気に葉っぱが減っていき、見える限りですが、全滅したようです。ちょっと確認の為にヤタを召喚し、憑依眼を使って見てみましょう。
『KAAA』
「ヤタ、お願いね」
上空から見て見る限り、葉っぱは一枚もなく、枝は完全に萎れており、周囲のオールドトレントも枯れようとしている様に見えます。この状態でどんな攻撃をしてくるのかはわからないので、ヤタを送還し、エリアシールドとヒートボディを使って安全に気を配って最後の攻撃です。
今使える光属性で一番威力のある攻撃はフラッシュボムなので、閃いてからフラッシュボムの魔法陣を4つ描き、光の玉を4個抱えてダークエルダートレントの根本まで歩いていきます。
流石に攻撃してくるような体力はないようで、無防備な姿を晒していますね。随分と手こずらしてくれましたが、これでとどめです。
光の玉を4個、全て足元へと落とし、衝撃で光が広がりました。
光の中にいると眩しいので目をつむっていますが、瞼を貫通してくる光でかなり明るいのがわかります。光が収まったので目を開くと、2枚のリザルトウィンドウと共に地球儀のようなオブジェが出現していました。
ダークエルダートレントを倒すと周囲のオールドトレントも倒したことになるようで、片方には上質な炭を64個入手したと書いてあります。元々の所持数と合わせると100個になるので、それだけの数のオールドトレントがいたことになりますね。
それだけのだだっ広い空間に今はポータルらしきオブジェクトがぽつんとしています。このまま放置するわけにもいかないので、さっさと開放しましょう。
ピコン!
――――World Message・新たな中間ポータルが解放されました――――
プレイヤー【リーゼロッテ】によって【魔の森】が解放されました。
当該ポータルを登録することで、転送先として利用可能になります。
――――――――――――――――――――――――――――――
うん、まぁ、予想通りですね。
それでは後回しにしたもう一枚のリザルトウィンドウを確認しましょう。実際は後回しにしたというよりも、ドロップ内容から見て見ぬふりをしたと言った方が正しいのですが、ずっと放置するわけにもいきませんね。
それにしても、この【老樹の苗木】って何なんでしょう。エルダートレントを育てろというんですかね。老冥樹ではないので闇属性ではないと思いますが、杖の材料にするにしても、新しくしたばかりですし。
ちなみに、識別をしてみると、MOBにはならないことだけはわかります。
――――――――――――――――
【老樹の苗木】
エルダートレントの残滓
地に植えても動くことはない
――――――――――――――――
この通り、しっかりと書いてありますから。ダークが消えているのは、変異したけれど、子孫には受け継がれないとかそういったところでしょう。
木材としても、苗木としても使えるそうなので、土地を持っていれば育てられそうです。私は植物を育てるなんてことはしたくはありませんが、育てることでいい木材が手に入るのなら、一考する余地はありますね。
問題は誰に聞くかですが……。
ハヅチ:リーゼロッテ、何した
おや、クランチャットですね。まぁ、隠していましたから。
リーゼロッテ:話すと長いけど、ポータル開放したよ
ハヅチ:まぁ、今度詳しく聞く
リーゼロッテ:今度詳しく話してあげるよ
さて、ハヅチの相手も終わったので、この苗木をどうするか考えましょう。木材なのでシェリスさんが一番詳しそうですが、まかり間違って素材にしてしまう可能性があるので、やめておきましょう。
育てるにしてもそれなりの土地が必要ですが、私が知っている人で土地持ちの人となると……。
ふむ、あの人ですね。
そんなわけで一度クランハウスへ戻り、冒険者ギルドを経由してセンファストのとある場所へと向かいました。何だかポータルの方が騒がしかった気もしますが、きっと気の所為ですね。
目的の場所ですが、相変わらず禍々しい店構えをしています。飾りの一つ一つはおしゃれなのですが、配置のせいでどうしてこうなってしまうのでしょうか。
キューピット・グッズの扉をくぐり、セルゲイさんの姿を探しますが、カウンターにはNPCがいるだけです。
「すいません、セルゲイさんいますか?」
「店長は今、席を外しています。約束はありますか?」
「あー、ないです。ちょっと相談したかったんですけど、伝言とか頼めませんか?」
一応フレンドリストでリコリスのログイン状態を確認しましたが、今はいないようです。約束がないなら今からしてしまえばいいと思ったのですが、上手くいきませんね。
「それでは伝言を承ります」
一枚のウィンドウが表示されました。録音と文章の二通りの伝言方法があるようです。録音は楽しそうですが、ここは大人しく文章にしておきましょう。
えーと、『苗木を手に入れたのですが、育てる場所に心当たりはありませんか?』っと。
これで後は返事を待つだけです。まぁ、ログインしていなければ返事が来るのは明日以降ですね。
「あ~ら、今話題になってるリーゼロッテちゃん、いらっしゃ~い。さっきの今でそんなの持ち込むと、関連性を疑われるわよ」
店を出ようとしていたのですが、奥から筋骨隆々の漢女が出てきました。相変わらず、野太い声に、爆心地にいたのではと思わせるアフロヘア、周囲に青髭を持つ分厚い唇、そして、優しげでつぶらな瞳をしていますねぇ。
とりあえず他に人がいないことを確認してと。
「まぁ、関連してますからね。それで、顔の広そうなセルゲイさんなら育て方とか育てる場所とか知ってるかなと思って」
「……そ、そ~なの。頼ってくれるのは嬉しいわ。で~も、生産クランに聞いた方が、確実じゃないのぉ?」
「木工と調合系なら知ってる人いるんですけど、農業は知らないので」
今更ながらエステルさんなら自前の薬草園くらい持ってそうな気もしますね。ただ、木を植えると薬草に日が当たらないとかで断られる可能性もありますが。
「そうねぇ~。うちにも畑はあるけど、木は育ててないから、アドバイスは出来そうにないわよ」
「そうで……、畑あるんですか?」
「ええ、あるわよ。主にリコリスちゃんがポーション作るのに必要な素材を植えてるわ。うちの子達が交代交代にお世話してるし」
ほう、いいことを聞きました。
「セルゲイさん、苗木の世話、委託出来ません?」
そうですよ。出来ないのなら出来る人に頼んでしまえばいいんですよ。
「そ~ねぇ、畑はリコリスちゃんの仕切りだから、本人に聞いてみないと」
「そうですか、リコリスからOKを貰えばいいんですね。わかりました。しっかりと口説き落とさないといけませんね。……ええ、しっかりと」
「リーゼロッテちゃん、無理強いはダ・メ・よ」
ひっ。
何でしょうか。今、背筋がゾワッとしましたよ。とりあえず、リコリスを口説き落とす方法について、無意識に何か思いついたはずですが、それ以外の方法にしましょう。なーに、リコリスならちゃんと対価を用意して頼めば引き受けてくれるはずです。
「あー、それでセルゲイさん、リコリスのログインってどんな感じですか? 時間の取れる頃合いを話せる範囲で教えてくれると助かるんですけど」
「そ~ねぇ。今月に入ってからは、週末が基本って言ってたわよ。平日もたまにいるけど、落ちるのは早いわ」
ふむ、リコリスは小柄ですから、そういうことなのでしょう。今日は日曜なので次の土曜日までお預けですね。ログインした時用にメッセージだけは送っておきましょう。
苗木を手に入れたので、相談に乗ってくださいっと。よし、これで完璧です。
「セルゲイさーん、頼んでたの受け取りに来たにゃ」
おや、このキューピット・グッズにお客さんのようです。私の用件は終わっているので、邪魔になる前に出ましょう。
「にゃ? リーゼロッテさんにゃ。お久しぶりにゃ」
「あ~ら、二人共、知り合いなの?」
……うーむ、この特徴的であからさまなキャラ付けの語尾に猫装備は確か。
「ネコにゃんさんでしたね。会ったことあるのは片手で足りる数ですけど」
「片手というか、実際に会ったにょは……」
「あー、確か、7月の第二陣歓迎会の露店で会いましね」
「7月……あ、あのお婆さん、やっぱりリーゼロッテさんだったにゃ」
そういえばあの時は蜃気楼の腕輪で変装してましたね。まぁ、知られたところで困ることはないので気にする必要はありません。
「ネコにゃんちゃん、こ~れ、頼まれたものよ」
「すぐ行くにゃ。リーゼロッテさん、ちょっと頼みがあるから、少し待っていて欲しいにゃ」
それだけ言うとセルゲイさんと何かやり取りを始めました。
……頼みですか。聞く理由も聞かない理由もありませんが、特に用もないので少しくらいなら待ちましょうかね。ここの小物、全体を見ると邪悪ですが、個別に見る限りはいいものですし。
………………
…………
……
「お待たせしたにゃ」
「あ、終わったんですね」
「そうにゃ。セルゲイさん、カフェコーナー借りるにゃ」
クランメンバー用だと思っていた扉を開けて奥に入っていったネコにゃんさんの後を追うと、そこにはセルゲイさんの手によらないと思わしきカフェコーナーがありました。現実時間では夜なので従業員はNPCしかいませんが、寛げそうな場所ですね。
「ここはあちきのおごりにゃ」
「そうですか。それでは水を」
「にゃんでにゃ」
貸しても借りない主義なので自分の分は自分で頼みます。あ、緑茶があるのでこれにしましょう。
ネコにゃんさんも何かを頼むとすぐに頼んだものがやってきました。緑茶が注がれている湯呑には魚の名前が書いてありますね。こういうのを見ると、全部読めるか確かめたくなります。
「リーゼロッテさん、話してもいいかにゃ?」
「どうぞ。ずずず」
そういえばネコにゃんさんとしっかり話すのは初めてですね。猫耳に猫髭に猫の手に、靴も猫風でしたね。後は座っても長い尻尾がチョロチョロしているのが見えます。現実でも脳波を測定して決まった動きをする猫耳があるのですから、フルダイブならパーツを増やすくらい簡単そうですね。機械部分がいりませんし。髪は短いですが三毛色なので手が込んで……お金がかかってそうですね。
話し始める前に喉を潤すために飲み物を手にしましたが、あの猫の手でよくマグカップを持てま……あ、取っ手が持てないので両手で掴んでますね。
「実はにゃ。――」
にゃがい話を……長い話を簡単に言うと、新規登録制限の解除と共に多くのネットアイドルやらVR系の配信者がHTOを始めると表明し、ちゃくちゃくと準備が進んでいるそうです。始めはネコにゃんさん一人の独占市場だったのも影響しているかもしれないとか。自称ネットアイドル候補生しかいなければ、ライバルはいないと思いますよね。第二陣で一人増えましたが、そちらはセミプロとかいうよくわからないくくりですが、私にはわかりませんね。
ちなみに、新しい人の中には最前線のプレイヤーに元々のファンがいたりするらしく、早い段階からあちらこちらのフィールドに行けるよう手助けをして貰っているとか。
「それで、リーゼロッテさんに頼みがあるにゃ」
「聞くだけはするので続きをどうぞ」
「ありがとにゃ。リーゼロッテさんにはレギュラーとして動画に出て、あ、あちがうにゃ、流石に無理にゃのはわかってるから、席を立とうとしにゃいで欲しいにゃ」
聞くだけはすると言ったので、最後まで聞くつもりでしたが、ただ湯呑を置いただけなのに勘違いをしたようです。まぁ、勘違いを正す必要もなさそうですね。
「流石にそんにゃ虫のいい話は無理だってわかってるにゃ。だから、一度だけ、動画に出て欲しいにゃ」
「内容と報酬しだいですね」
「にゃ? てっきり取り付く島もにゃいと思ってたにゃ」
「聞くだけはすると言ったので」
断るのは4文字を口にするだけで十分ですから。
「それはありがたいにゃ。といっても、内容はさっき考え思いついたんですけどにゃ。是非とも、さっき開放したばかりのポータルへ連れて行って欲しいにゃ。誰も知らない中間ポータルへの道案にゃい動画、これは注目されるにゃ」
「ずずず」
「報酬はあちきに出来ることにゃらにゃんでもするにゃ」
「……今、何でもするって?」
「そのネタ、やるにゃ?」
「一応拾っただけです」
このネタはやらなければいけない気がしたので、拾いましたが、流石にモフらせてもらうのを対価にする気はありません。ネコを愛でたいのなら、グリモアに頼めばいいことですし。
「そ、そうかにゃ。それで、リーゼロッテさんはにゃにが望みにゃ?」
「ネコにゃんさんから貰う意味のあるものって何でしょうね」
「……やりづらいにゃ」
「そうですか」
そんなこと百も承知です。交渉では相手を優位に立たせてはいけないと聞いた記憶が無きにしもあらずですから。
「ところで、リーゼロッテさんは報酬ににゃっとくしたとして、この依頼、受けてくれるにゃ?」
「断る」
ほら、4文字です。もしこれがハヅチ達をテレポートでポータルに連れて行った後なら、連れて行くだけはしたかもしれませんが、ネコにゃんさんは私がテレポートを使えることを知らないはずですし、ネコにゃんさんを最初の一人にする理由はありませんから。
「……ちなみに、理由を聞いてもいいにゃ?」
うーむ、正直に言うとテレポートが使えるのがバレますね。他にも理由はあるので、そっちにしましょう。
「面倒なのと、案内する程の力量がないからです」
猿の相手には慣れてますが、猿相手に戦えるかわからないプレイヤーを連れて行く余裕はありません。ネコにゃんさんは身軽な可能性はありますが、木の枝を使っての移動が出来るかはわかりません。そしてなにより、面倒ですし。
「そ、そうかにゃ。出来れば、移動ににゃにが必要か教えてくれると嬉しいにゃ」
「ロックウォールと虚空移動が出来れば楽ですよ」
「土魔法と跳躍の中級スキルかにゃ。土魔法はにゃいけれど、虚空移動は出来るにゃ。にゃにせ、猫っぽいからにゃ。それに、瞬動との組み合わせもあるから、身軽にゃ動きには自身があるにゃ」
……瞬動ですか。瞬歩とか縮地とか言ったりするあれですよね。何となくですが、進化元の想像が付きます。さらに言えば、虚空移動と瞬動で複合スキルとか出そうですし。
後で誰かに進化元の取得方法を聞いておきましょう。
「残念だけれど今回は諦めるにゃ」
今ですね。
「まぁ、案内は断りましたけど、マップデータくらいなら、売ってもいいですよ。目的地がわかっているのといないのでは、進みやすさが違うと思いますし」
私の言葉を聞いた瞬間、ネコにゃんさんの目が光った気がします。気の所為だとは思いますが、まさかこれが狙いの可能性も……、まぁ、ないでしょう。
「本当かにゃ?」
「ええ、ですが、相場を知らないので、このマップデータにいくら出すかはそちらが決めてください」
このマップデータ、索敵系のスキルレベルに応じて自分を中心とした一定範囲が記録されます。けれど、移動した高さは考慮されないので、木の枝を利用して移動していたことに気付かれることはありません。
「そうくるかにゃ。最前線の一つのマップデータにゃ、安くはないけれど、基本的に踏破率で上下するにゃ」
「ほぼまっすぐ行ってるので、踏破率は低いですね。何ならMOBデータも付けましょうか?」
「にゃ? ブラックウルフとホワイトウルフ以外にもにゃにか出てくるにゃ?」
ほう、エテモンキーは知られていないわけですか。そういえば、上から何かが降ってくることは知られていても、何による攻撃かは知られていないらしいですね。全員が全員知らないわけではないと思いますが、ネコにゃんさんは知らないようなので、商品価値はあるようです。
「買ってからのお楽しみです」
「わかったにゃ。じゃあ、500,000Gでどうにゃ」
「……そんなにするんですか? 踏破率かなり低いですよ。とりあえず、先に渡すのでそれ見て決めてください」
100,000Gいけばいい方だと思っていたのですが……、流石に思っていた額の5倍はダメですよ。そんなわけで現物をしっかり確認してからにしてもらいましょう。
マル秘メモを2枚渡し、しっかりと確認してもらいます。
「確かに踏破率は低いにゃ……、エテモンキーにゃ?」
「ええ、奥の方で何かを投げつけてくる猿型MOBです。動きが素早いですし、尻尾も使うので厄介ですよ」
「そうかにゃ。ありがとうにゃ。これが代金にゃ」
そう言ってトレード申請に表示された金額は500,000Gでした。まさかと思って確認すると、そこそこある胸を張って口を開きました。
「猫に二言はにゃいにゃ」
「そうですか。では、ありがたく」
「こちらこそにゃ。それで、フレンド申請してもいいかにゃ?」
「どうぞご自由に」
すぐに申請が来たので、受理しておきました。仮にもアイドルが一般人とフレンド登録してもいいのかという疑問は残りますが。まぁ、フレンドなしでMMOをやるのは不可能ではありませんが、難しいでしょう。
「今日は付き合ってくれてありがとうにゃ」
そう言って去っていくネコにゃんさんを見送った後に、セルゲイさんに挨拶をしてクランハウスへと戻りました。まぁ、ユニコーンを召喚してログアウトするだけですが。
プレイヤー名:リーゼロッテ
基本スキル
【棒LV30MAX】【剣LV30MAX】【武器防御LV6】
【格闘LV30MAX】【銃LV30MAX】
【火魔法LV30MAX】【水魔法LV30MAX】【土魔法LV30MAX】【風魔法LV30MAX】
【光魔法LV30MAX】【闇魔法LV30MAX】
【魔法陣LV30MAX】【魔術書LV30MAX】【詠唱短縮LV30MAX】
【錬金LV30MAX】【調合LV30MAX】【料理LV30MAX】
【言語LV30MAX】【鑑定LV30MAX】
【気功操作LV20】【魔力操作LV30MAX】【再精LV30MAX】
【発見LV30MAX】【跳躍LV30LVMAX】
【索敵LV30MAX】【隠蔽LV30MAX】【気配察知LV20】
【毒耐性LV3】【麻痺耐性LV1】【沈黙耐性LV30MAX】
【睡眠耐性LV1】【幻覚耐性LV1】【病耐性LV10】
【知力上昇LV30MAX】【魔法威力上昇LV3】
【鷹の目LV30MAX】【梟の目LV30MAX】
【調教LV30MAX】
下級スキル
【杖LV50MAX】【体術LV1】【闘技LV1】【魔銃LV1】【片手剣LV1】
【治癒魔法LV46】【付与魔法LV50MAX】
【炎魔法LV50MAX】【氷魔法LV48】【地魔法LV48】
【嵐魔法LV50MAX】【雷魔法LV48】【鉄魔法LV48】
【無魔法LV48】【聖魔法LV50MAX】【冥魔法LV45】【空間魔法LV50MAX】
【魔力陣LV50MAX】【魔法書LV10】【魔力制御LV50MAX】【詠唱省略LV25】
【錬金術LV32】【調薬LV25】【料理人LV25】
【言語学LV31】【識別LV32】【魔力増加LV50MAX】
【看破LV30】【魔力視LV45】【軽業LV50MAX】
【探索LV45】【隠密LV45】
【閃きLV50MAX】【魔力貯蔵LV26】
【遠望視LV5】【魔眼LV3】【霊視LV1】【憑依眼LV6】
【召喚LV2】
中級スキル
【杖術LV46】
【強化付与LV7】【弱体付与LV5】
【火炎魔法LV1】【炎熱魔法LV2】【暴風魔法LV1】【風圧魔法LV1】
【時空魔法LV3】【神聖魔法LV2】【閃光魔法LV2】
【魔道陣LV46】【魔法操作LV46】【魔力運用LV3】
【立体機動LV2】【虚空移動LV2】
【博識LV1】【熟知LV1】【魔力許容量増加LV1】
称号スキル
【探索魔法】【魔術】【魔法】【筆写】
【残りSP243】
Tips
ネコにゃん非公式ファンクラブ【応援するにゃん】
ネコにゃんによって非公式ながら公認されているファンクラブ
非公式なのでネコにゃん自体に直接の関わりはないので、ネコにゃんからの依頼に対して拒否権は持っている
なお、クランリーダーは最初のイベントであるトーナメントでネコにゃん特製ポーションを賞品に選んだ者が務めている




