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Hidden Talent Online  作者: ナート
4章 夏イベ!
73/148

4-19

 20日の午後、朝に引き続きお昼も伊織の家でいただきました。伊織の家は和室が多いのでいつもと違った雰囲気を味わえますね。

 なお、日付が変わってからオンメンテがあったらしく、お昼の前に一度家に帰りアップデートだけしておきました。

 それではお祭りの開始です。


 テロン!

 ――――運営からのメッセージが二通届きました。――――

 ――――修理アイテムが二件届きました。――――


 おや、例のシリアルコードですね。入手したアイテムは、ティエラのぬいぐるみとイエローポーションの素材50個分です。とりあえず素材は鞄のインベントリに入れて放置しますが、ぬいぐるみはどうしましょうかね。家では、空いていた場所に置いて、イベントのときに貰ったIDパスを掛けておいたので、こちらでもほぼ使っていない個人スペースに飾っておきましょう。

 そして、修理していた装備を受け取り、日課をこなしてからナツエドへと移動しました。

 オンメンテがあってから、街並みが夏祭り一色になっています。様々な屋台も出ていますが、その全てが小判などで支払うようです。ここに来て報酬と交換するアイテムの消費を要求するとは、やりますね。

 とりあえず祭りの様子を眺めて散歩していると、後ろから声をかけられました。


「リーゼロッテ殿」

「何奴」


 声のする方を見てみると、いつもの忍者さんです。こんな人の多い中に出てくるとはどうしたのでしょうか。


「光の姫巫女さまがお呼びです。まずは里までご足労をお願いします」


 姫巫女様が呼んでいるのに里に行く理由がわかりませんが、何かのクエストのはずなので、行かない理由はありません。

 早速メニューを操作し、守り人の里へと移動しました。少し広い場所で待つよう言われたのですが、すぐにハヅチや時雨達もやってきました。さらに、ザインさん達や、知らない人達もやってきたので、陣営単位で動くのでしょう。


「皆の衆、よくぞ集まってくれた」


 なにやら偉い人のようですが、例に漏れず話が長いのですが、簡単にいえば姫巫女が儀式をする場所へ移動するので、護衛をして欲しいそうです。ただ、基本的には光輪殿の陣営に属しているプレイヤーが主体となるので、私達は陰ながらという名目で離れて護衛します。そういった理由もあり、6人一組で、持ち場を決めるそうなので、私は時雨のパーティーに入り込みました。護衛をするのはいいのですが、あの真っ白な可愛いロリっ子に近付けないのがとても辛いです。

 クエスト自体は専用マップで行われ、どこかへ移動するためのクエストのようです。聞いた話によると、光輪殿に所属したプレイヤーは直接護衛し、守り人の里に所属したプレイヤーは分散してそれぞれの場所を担当するようです。全ての場所で襲撃があるのかはわかりませんが、あるとしても移動する姫巫女様が見えてからでしょう。


「二人共、様子はどうだ?」


 そう声をかけてきたのは地上にいるアイリスです。くノ一風のリッカはもちろん、軽業スキルを持っていることに疑問を覚えられる私も、近くにあった一番高い木に登り様子を見ています。


「……問題、ない」

「うーん、よくわかんない」


 視力を補助するスキルを持っていないため、森しか見えませんでした。


「……来た」


 それからしばらくして姫巫女の一団がやってきたようです。そこそこ短い大名行列のようですが、数ヵ所が騒がしいので襲撃者もいくつかに分かれて襲ってきているようです。つまり、他が襲われているからといって、こちらが襲われないわけではないということです。


「おや、敵襲だ」


 リッカとは別の方を見ていたのですが、私の方が当たりだったようです。さてさて、木の枝をピョンピョンと翔んで移動しているので、あれはもう的ですね。確認してみると、属性を帯びていないので、雑魚でしょう。

 下ではリッカから正確な情報を受け取った時雨達が迎撃体制を整えていますが、ここは私の間合いです。閃きを使い、魔法陣を4つ描きます。

 そして、発動待機してから射程内に入った段階で放ちます。


「【ライトニングランス】」


 放たれた4本の槍が一瞬で距離を詰め、襲ってきた忍者の一人に命中しました。

 まっすぐこちらに向かってきますし、見てから避けられる様な魔法ではありません。落ちる途中で他の木に隠れてしまったのでどうなったのかはわかりませんが、落下ダメージもあるはずなので、倒しきれなくとも瀕死にはなっているでしょう。


「多分まず1体」


 ちなみに、降りれないわけではありません。ただ、視界がひらけていた方が狙いやすいのでここにいます。ええ、このゲーム内ではよく木に登っていますから。

 その後は、地上にいる時雨達が危なげなく倒すことが出来たので、私達の担当区域では姫巫女の一団が襲われることなく通り過ぎて行きました。

 これで大判10枚とは随分と楽なクエストですね。

 この後いつもの忍者さんを捕まえて話を聞いたところ、これから毎日、午後には姫巫女様の移動を護衛し、夜には儀式の護衛をするそうです。ただ、そのたびに護衛を募集するので、いなくても問題はないとか。さらに、私達は外周で護衛をするので、襲撃者を逃すと、それぞれの陣営の姫巫女の護衛担当のプレイヤーが苦労するそうです。


「さて、何しよっかな」

「全員は揃ってるけど、時間も中途半端だよね」

「うーん、何かをがっつりやるには、ちょっと足らないぞー」


 襲撃してくる忍者型MOBの数が少なかったためか、モニカが物足りなそうにしています。


「なら、イベントダンジョンの続きをするか? 81階からだが、まだ何とかなる範囲のはずだ」


 ここでグダるぐらいならとアイリスが案を出しました。確か次はバクマツケン6体の一斉出現でしたね。倒せない相手ではありませんが、骨が折れます。

 まぁ、否定する気もなかったので、そのままイベントダンジョンへ挑戦することになりました。いざとなれば不滅の水でゾンビアタックが出来ますから。





 81階は31階と構成が同じなので、あの時と同様にモニカとグリモアがペアとなり、後はそれぞれがバクマツケンと一対一で戦います。事前準備でバリアを展開し、出現直前に閃き、出てきた瞬間に魔法陣を描き始めます。バクマツケンはエドッグと違い全体的に重いのでマジックスィングでの飛距離に不安が残りますが、だめならだめでその時考えるしかありません。


「【ライトニングランス】」


 雷属性による行動阻害効果があっても、フィールドと違い、最初からこちらへ向かってきているので、ディレイが終わる前に体当たりを受けてしまいました。

 バリアのお陰で吹き飛ばされはしませんが、このままではまずいですね。


「ふぎゃ。あ、まずい、助けてー」


 ディレイは終わったのですが、その頃には完全にバクマツケンの間合いです。前に戦った時と同様に押し倒され、噛み砕かれるのを待つ状態です。

 この体勢では格闘スキルも武器スキルも使えそうにありません。バリアの効果があるので魔法は使えそうですが、魔法陣を描く時間もなさそうです。


「【マジックランス】」


 いきなり無色なのに光る槍が10本飛んできました。この声は時雨ですが、さてはて、無魔法を取ってたんですかね。

 流石に魔法使いと魔法も使える前衛職では威力が違うようで、倒すには至りませんでした。それでもタゲを奪うには十分のようで、私に伸し掛かっていた力が消えました。

 すぐに起き上がりながらバクマツケンが遠くへ行く前にアーツを発動します。


「【マジックスィング】」


 多少体勢が不安定だとしても当たればいいんです。その結果は、杖の振りからは想像できない勢いでバクマツケンが吹き飛びながらポリゴンになりました。

 さて、時雨への追求は後にして、誰に加勢するべきか確認しましょう。えーと、アイリスと時雨は順調に戦っています。あれは邪魔してはいけませんね。モニカとグリモアペアも問題なさそうです。最後にリッカですが、凄いですね。動き回りながら弓で削っているのですが、目だったり、喉だったり、開いた口の中だったりと、まさしく弱点ばかりを狙っています。時間はかかりそうですが、一人でも倒せそうですね。


「……お願い」


 そう思っていたのですが、私の視線に気付いたリッカから救援要請が来たので魔法陣を4つ描きましょう。クールタイムの問題で閃きは使えませんが、二人でタコ殴りにすれば問題ないはずです。

 もうすぐ魔法陣が描き終わるのですが、リッカが動きを変えました。


「【エアーランス】」


 上手いこと1ヵ所に留めるように攻撃してくれていたので、風の槍を当てることに苦労はありませんでした。そもそもに生き物の弱点に多くの矢を受けていたせいもあり、ほんの少し残ったHPは武器を短刀に持ち替えたリッカの攻撃でなくなり、バクマツケンの体がポリゴンとなり散りました。


「……ありがと」

「いや、私が手を出す必要なかったよね」

「……」


 目をそらされましたが、どうやら当たりのようです。まぁ、頼まれたのですから、詮索はやめましょう。


「全員無事のようだな」

「はいはーい、一名危なかったです」

「そうだな……。モニカ、3体いけるか?」

「うーん、火力も上がるからいけるよ」

「それじゃあ、次から同じ構成の時は3人で頼む」

「よろしくね、モニカ、グリモア」

「わかったよ」

「汝がいれば、あの様な犬ごときに手間取ることはなかろう」


 バクマツケンへ向けて気合を入れていますが、手間取っていたようには見えないんですよね。

 ちなみに、次の敵はブシドーレムですが、敵というほどの相手ではありません。ただの的ですから。

 82階83階と順調に突破し、次は84階でバクマツケン再びです。今回はモニカが3体引き付ける必要があるので、最初の位置取りが重要です。モニカの背後で他の出現位置に近付かないようにしなければいけません。

 カウントがギリギリになってしまいましたが、何とか納得のいく位置取りが出来ました。まぁ、最初はグリモアと最大火力で1体を狙い撃ちにしたので、元気なのは2体ですね。

 そこから私は4倍のディレイがあるので、少しお休みです。


「【ライトニングランス】……【ライトニングランス】」


 グリモアは魔術書と魔法陣を使うことで連続して魔法を放つことが出来ます。その間隔が短くなっているのは、魔法陣のスキルレベルが上がっているからなのでしょう。


「【ライトニングランス】」


 グリモアの攻撃で弱っていた1体を倒したので、次は別のバクマツケンを狙います。モニカが上手いこと立ち回っているので、邪魔をしないように狙い、動きを鈍らせます。

 まぁ、流石に複数人でかかればバクマツケンは敵ではありませんでした。私とグリモアの攻撃間隔の違いも理解して動いているモニカは凄いですね。

 一度戦い方を理解すれば、後は同じことを繰り返すだけです。その結果あっという間に90階へと到達しました。まぁ、90階に挑む前に長めの休憩をとりますが。


「さてさて時雨、さっきは助かったよ」

「随分前に貰って、使う機会なかったからちょうどよかったよ」

「グリモアが作ったの?」

「いやいや、リーゼロッテから貰ったんだよ」


 おや、どういうことでしょうか。私が時雨にスクロールを渡した記憶は……。


「覚えてないんだ。まぁ、3ヵ月前だからしょうがないか。トーナメントのエキシビジョンの前に頼んだじゃん」

「あー、そんなことあった気がする」


 詳しく聞いてみると、源爺さんと戦うのに使おうと思っていたらしいのですが、使い慣れていない余計なものを使う隙などなく、インベントリの肥やしになっていたそうです。せっかくなので補充するか聞いたところ、テレポートなら欲しいと言われましたが、あれは作れませんし、他のはグリモアが作れるということで断られてしまいました。

 最後にバクマツケン・ブシドーレム・クリプトメランコリー6体ずつの3連戦の打ち合わせをしたのですが、6体目を倒したら次が出てくるので、私とグリモアはディレイに注意しなければいけません。

 それでも、苦戦することなく90階を突破し、夜に儀式の護衛クエストを受けることを約束しログアウトしました。





 光の姫巫女の儀式の護衛クエストまでまだ少し余裕がありますが、ログインの時間です。まずは忘れない内に守り人の里を訪れ、クエストの受注をしなければいけません。


「何奴」


 チッ、いませんでした。しかたないので護衛クエストの説明を受けた場所まで行きましょう。


「おお、リーゼロッテ殿、もしかして光の姫巫女の儀式を護衛してくれるのでござるか?」

「そうでござる」

「では、時間が来たら連絡するでござる」


 さて、クエストを受注したので、時間が来るまでクランハウスで日課をこなすことにしました。

 他のみんなもクエストを受注してからクランハウスへやって来ましたが、私はハヅチと時雨のイベント報酬についての会話に巻き込まれていました。


「今交換出来るのは、素材とスキルレベル上昇券だけか」

「交換出来るのはね。イベント終わってからいろいろ追加されるけど、今のところわかってるのは、各種工房関連と装備切り替え欄と補助装備の課金枠くらいだよ」

「この課金枠、大判100枚ってする人いるの?」

「正直、あったら便利だろうけど、優先して取るかと言われれば、取らねーな」


 補助装備の枠はスキルレベルを上げていけば増えますし、装備切り替え欄もどこかのクエストで増やすことが出来ます。まぁ、課金枠なので損はないですが、優先順位は低いですね。


「ところでさ、このイベント後の分で解放済みと未開放と開放不可ってのがあるけど、イベント中の行動で選べるのが変わるってことかな?」

「陣営も関係あるみたいだし、そうなんだろ」


 開放不可の中身は気になりますが、取れないものの数を数えてもしかたありません。ここは解放済みに期待しましょう。


「上質な魔木の数が足りなかったらそれは交換するとして、杖にいい素材があればいいんだけどね」

「下級悪魔のドロップ必要なら付き合うけど?」

「うーん、時雨達は行ったの?」

「あそこはリーゼロッテがいないと裏ボス出せなかったし、素材の転売も面倒だから行ってないよ」


 ハヅチは少し行ってみたそうにしていますが、今なら簡単に倒せそうですね。


「せっかくだし、もっといいの探したいよね。同じ素材じゃ面白くないし」

「ま、イベント後に考えればいいよな」


 そろそろ時間なので話を打ち切り、守り人の里へと移動、午後と同様に時雨のパーティーに潜り込みました。

 そこから更にイベント専用フィールドへと移動させられたのですが、ここは前に光の姫巫女の儀式を遠巻きに護衛した場所のようですね。マップの一部が埋まっていますから。

 今回も光の姫巫女の近くには光輪殿の陣営に参加したプレイヤーがいるらしく、私達は遠巻きにパーティーごとに分散して警戒にあたっています。


「二人共、様子はどう?」


 そんなわけで私とリッカがまた木に登っています。ところどころに高い木があるのが邪魔ですが、視界を完全に塞がれるわけでもないので、問題はないでしょう。


「……敵影、ない」

「静かだよ」


 姫巫女様の方を魔力視で見てみると、とてつもなく凄い光の魔力が渦巻いているのがわかります。なんだかすごい勢いで魔力視のスキルレベルが上がっている気がしますが、これは気の所為ですね。ちょっとしか上がっていませんし。

 そして、やって来ましたよ。


「……大群」

「闇属性の小だよ」


 ものすごい数ですが、これは突破されるのが前提の数ですね。つまり、光輪殿の陣営のプレイヤーにもある程度任せろということです。こういうのは質より量のはずです。そこで、みんなに付与魔法をかけてから閃きを発動し、魔法陣を4つ描きました。


「【シャイン】」


 新しい範囲魔法を覚えていないので、威力という面では心もとないですが、弱ったところを時雨達に倒してもらうつもりです。なるべく広範囲に攻撃するために発動地点を重ねずに並べたので、結構な数にダメージを与えることが出来ました。


「……【アローレイン】」


 リッカも私と同じ様に弱ったMOBを増やすことを優先したようです。とても器用に私の攻撃範囲とずらしていますから。

 グリモアも手当たり次第に範囲魔法をばらまいており、モニカは【ハウル】でタゲを取っているはずなのに、すぐに忍者型MOBが儀式の中央へと向かっていってしまいます。

 どうやら、光の姫巫女が行っている儀式が、常時ヘイトを稼いでいるようですね。

 それなら話は早いです。


「【ファイアストーム】」


 ヘイトを気にする必要がないのですから、とにかく範囲魔法をばらまいて、少しでも多くのダメージを与えます。始めは属性相性を気にしていましたが、やはり、覚えるのが後の魔法の方が基本的に威力が高いようで、範囲魔法の中心部にいたMOBは倒せました。まぁ、シャインの中心にいたMOBもちょっとした追撃で倒せたので、属性相性もばかにできませんが。

 ディレイが終わるたびに範囲魔法をばらまいているのですが、流石にMPが心もとなくなってきました。珍しくMPポーションを使っていますが、範囲魔法の乱発はキツイですね。

 私達の背後にいる光輪殿の陣営のプレイヤー達も派手に戦っているようです。流石にここで私達が手を抜くとあちらが瓦解する可能性もあるので、手は抜けません。まぁ、MPがなくなったら何も出来ませんが。

 下からも悲鳴に近い声が聞こえますが、私には何も出来ないので時々回復と付与の更新だけして、基本的には自分で何とかしてもらいましょう。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 果たして何分戦っていたのか、消費したMPポーションの数を確認すればわかると思いますが、知らない方がいいこともあります。光の姫巫女がいると思われる場所では注連縄が巻かれた大岩があったはずの場所から白い光の柱が出現していました。忍者型MOBの増援もなくなったので、もうそろそろ終わると思いたいですね。

 おや、一際巨大な……山くらいの大きさの忍者型MOBが現れましたよ。もちろん黒いオーラを纏っています。そして、見た目以外にも違いがありますね。


「闇属性の中だよ」


 普通の忍者の属性値は下から2番めの小で、この大きな忍者は3番目の中です。つまり――。


「【ホーリーブラスト】」


 光属性によるダメージがより多くなるということです。まぁ、属性分の威力も上がっているはずですが、私の装備は水属性なので、相性面でのダメージ増加はありません。なら、気にする必要はありませんね。

 忍者といえば素早いはずですが、流石に大きすぎるようで長所である素早さが死んでいます。ちなみに、全部で4体出現しており、東西南北に一体ずつ配置されています。担当箇所はランダムなので、ハヅチ達とは離れていますが、クランチャットの方で情報共有はしていますし、属性は伝えてあるのでなんとかするでしょう。


「君達、ちょっと情報交換をしたいんだが」


 知らない人がやってきました。どうみても剣士なので、巨大忍者へ攻撃を仕掛けるには時間がかかりそうな立場の人ですね。

 こちらは同じ立場のアイリスが受け答えをしています。

 何となく漏れ聞こえる会話をまとめると、出現していた普通の忍者型MOBは全て通り抜けて背後のプレイヤー達がなんとかしているはずのようで、今はあの巨大忍者を待つばかりです。まぁ、魔法の射程内には入ってきているので、完全に暇だというわけではありません。

 後は、こちらからの情報提供で属性の話をしていますが、あれは見ればわかりますよね。そのため、大した情報は交換出来ていないようです。

 情報を増やそうと魔力視で観察しても、何処かだけ属性が違うとか、魔力が薄いとか、濃いとか、そういったことはなく、きっと膨大なHPを削り切るしかないのでしょう。まぁ、クエストの内容的に私達は突破される役目なのでしょうけど。

 さて、突然ですがスキルレベルは戦闘が終わらないと上がりません。MOBが集団で襲ってくる場合は、その集団との戦闘が終了した段階です。つまり、あの巨大な……少し縮みましたかね? とりあえず、あれが最後のMOBならあれを倒すことで戦闘が終了するので、そこでようやくスキルレベルがあがります。連戦しているとスキルレベルが上がらないという仕様はほんとひどいですね。

 私達が突破されるのが決まっているのなら、スキルレベルの低い魔法から集中的に使うまでです。


「【メタルランス】」


 一番低いのはこれです。まぁ、雷魔法と鉄魔法は範囲魔法をまだ覚えていないので、ボール系をばらまいていましたが、残るMOBは1体なのでこれを使っても問題はないでしょう。忍者というのは紙装甲だと相場が決まっているはずですし。流石に闇属性は使う気になれません。

 どうやらあれはダメージを受けると縮むようですね。まだブラスト系は当たりますが、そのうち当たりにくくなるでしょう。

 小さくなったせいで一度に攻撃できる前衛の数も減っていますし、移動速度も上がっています。ただ、歩幅が短くなっているので、劇的な変化ではありません。始めは山くらいの大きさだったのですが、今は高い木の上にいる私と目が合うくらいの大きさです。


『NINN』

「うわわ」


 突如、身にまとった闇のオーラの一部を苦無へと変化させ、投げつけてきました。その巨体に似合った大きさの苦無は私とリッカがいる辺りを木っ端微塵にするのに十分な大きさです。そのため、私とリッカは急いで飛び退きましたが、私はリッカと違って後衛職なので、STRもAGIも低く、狙った枝へ跳んでも飛距離が足らないようです。どうせならもっと近くの枝を狙うべきでした。


「げふ」


 痛くはありませんが、落下ダメージと同時に全身を痺れが襲いました。これが痛みの代わりなのはわかっていますが、どうにも長引いてますね。おっと、木の高さと防御力の低さが影響して深刻なダメージになっていますよ。まぁ、回復よりも木の破片が降ってくるので、逃げるのが先ですね。

 逃げながら見てみると今度は黒いオーラの短刀を手にしています。どうやら、あのオーラは武器になるようですね。まぁ、武器だけだと思いこむと、足を掬われるものです。

 というか、私を狙っていませんかね? もしかしなくても、ヘイトを稼ぎすぎたのでしょう。どうせ光の姫巫女を狙うからとモニカもヘイトを集めるためだけのスキルの頻度を減らしていたようですが、近くにいるプレイヤーを狙うときにはヘイトを参照するという当たり前過ぎる仕様が頭の中から抜けていましたよ。


「うわ、ちょっ。……【ハイヒール】」


 流石にHPの低い私が瀕死の状態を放置するのは危険すぎるので回復します。どうせ一撃でHPが全損するなんて言ってはいけません。まだわかりませんから。

 流石に背後に回っても後ろに戻るようなことはしないようですが、闇のオーラから小さい苦無が生成され、何度も飛んできます。避けられないわけでもないので、後ろをついていきながら魔法をぶつけようとしていたのですが、小さな苦無がかすった瞬間、それを形作っていた闇が膨張し私の視界を闇で塗りつぶしました。


「ひゃっ」


 闇という不定形の物体に視界を塞がれているため、引き剥がそうにも掴むことが出来ません。特にデバフを示すアイコンが出ているわけではないというのが厄介です。何とか動き回ることで闇から逃れましたが、これは用心しなければいけませんね。


「大丈夫か?」


 完全な前衛職のため、追撃に参加していなかったアイリスに心配されてしまいました。時雨と一緒に紙装甲の私達が危ない時に手を貸してくれていましたが、流石に今のは予想外だったようです。


「何とか」

「とりあえず、ここまでだな」


 そこそこ縮んだのですが、10メートルくらいの身長を維持しています。私達が追撃をやめなければいけない理由は場所の問題です。巨人の忍者型MOBの下にある白く光る線の内側に入れるのは光輪殿の陣営の人だけだという設定があるそうで、そこを通るだけで忍者型MOBの闇のオーラが弱々しくなりました。つまり、守り人の里に所属している私達はあそこを越えることが出来ません。

 それでもあの4体のMOBの行末を見届けないといけないようです。

 まぁ、私達の戦いを見ていたはずなので、しっかり倒してもらいましょう。


「さっき落ちてたけど大丈夫?」

「いやーあれは危なかったよ」

「まったく。いくらフルダイブだからって危ないことしないでよ」

「あはは。あんな攻撃してくるとは思わなかったよ。心配してくれてありがとね」


 時雨にはいつも苦労をかけますね。


「ごめんね、リーゼロッテ。あたしがヘイト管理しくじったから」

「いやいや、私が調子に乗って乱発したせいだから気にしないで」

「でも……」

「それに、狙われなくても背後にいるだけで苦無が飛んでくるから、どっちにしろ危なかったし。気にしすぎだよ」


 今回のはモニカのせいではありませんし、誰かのせいにする気もありません。ここは無事に乗り切ったと喜ぶ場面です。

 みんなで集まって巨人の忍者MOBの討伐を見物していましたが、光の柱に近付くと自動的に柱からの迎撃が始まるようです。流石に、それだけで倒せるような攻撃ではありませんが、光輪殿所属のプレイヤーが1体、また1体と倒し、4体全てを倒しきりました。

 その直後に、スキルレベルが上がったことによる通知が来ました。

 新しい魔法を覚えたのは聖魔法と嵐魔法と治癒魔法だけです。使ってない冥魔法はしかたありませんが雷魔法と鉄魔法はもう少しのようですね。

 聖魔法ではホーリーバインドという魔法で、試しに近くの木に使ってみると、光の輪っかが木を締め上げました。ただ、ダメージを与える魔法ではなく、拘束系の魔法のようですね。効果時間がクールタイムと同じくらいですが、拘束された相手がもがけば拘束時間も短くなるようです。どうせなら連発してより強固な拘束が出来るとなから面白そうなのに。

 次に嵐魔法ですが、エアプレスという空気で上から押しつぶされる魔法で、効果は他の魔法スキルと同様に、風属性攻撃力を上昇させ、土属性攻撃力を低下させるフィールド魔法です。つまり、動きにくいだけでダメージはありません。

 そして最後に治癒魔法ですが、ここでようやく待ちに待った状態異常回復魔法です。リカバリーといい、身体系状態異常を回復するようで、今分かる範囲では毒・麻痺・沈黙・病が回復対象です。ですが、クリプトメランコリーのフィールドでは役に立ちそうにありませんね。……いえ、回復してもまたなるので、スキルレベル上げにはなるかもしれません。やりませんが。


「皆の衆、一度里へ戻るでござるよ」

「何や――」

「それじゃ、戻ろっか」


 おのれ、時雨め。

 クエスト達成のアナウンスと共に、視界が暗転し、守り人の里の広場へと移動しました。そこで報酬として大判10枚を手に入れました。

 明日の午後には闇の姫巫女の護衛クエストがあるのですが、時間的に私は出かけているので都合があいません。その話をすると、時雨も目的のない散歩についてくるようなので、アイリス達は4人で参加するそうです。移動の護衛に関してはそこまで難易度が高いわけでもないので大丈夫でしょう。

 ちなみに今のクエスト、龍の封印を強化するためのクエストだそうで、忍者さん達の話から察するに、失敗したり、封印の強化が足りないと、とんでもないことになるそうです。まぁ、ラスボスが強化されるのでしょう。


「それじゃあ、今日はどうしようか」


 今のクエスト、少し長いので時間はかかりましたが、落ちるにはまだ早いです。そのため、アイリスがどこかへ行こうかと考えているようです。ちなみに、葵達はイベントダンジョンへ向かっています。


「私達もイベントダンジョンに行く?」


 特にやることも決まっていなかったので、イベントダンジョンに挑むことになりました。次は91階なので、バクマツケン6体との2連戦ですね。しかも、倒したらすぐに次が出現するという鬼畜仕様です。


「ねぇグリモア、ホーリーバインドまだ持ってないの?」


 あれがあればバクマツケンも倒しやすいと思うのですが、今まで使っていなかったようなので、まだ持っていないのでしょうか。


「うむ。我は四属性を多用するため、他の魔法はそこまで伸びておらぬ」


 なるほど。光と闇が弱点のMOBも通常フィールドでは見たことありませんから、優先順位が低いのでしょう。まぁ、何を上げるかはグリモアの自由なので深く追求するのはやめましょう。


「そっか。まぁ、これがあってもバクマツケンとのタイマンはしたくないね」


 そんなわけで、イベントダンジョンのある櫓広場へと出発しました。





 櫓広場でグリモアとモニカと共に作戦会議をしてからイベントダンジョンへ入り、バクマツケンの出現位置に合わせて位置取りをします。

 バクマツケン6体の出現と同時にまずはグリモアと共に1体へ集中攻撃します。


「【ダークランス】」


 いつものように【閃き】を使ってから魔法陣を4つ描きました。同時発動数の関係で私の方がディレイが長引くため、その後のグリモアの追撃で1体目を倒すと、そのバクマツケンが出現した位置から再出現しました。そのバクマツケンがモニカへ向けて走り出しますが、私のディレイが終わり、次の魔法陣を1つ描きました。


「【ホーリーバインド】」


 この魔法、ターゲット指定なので助かります。座標指定で罠として使えても面白そうですが、残念ながらそんな機能はありません。

 狙ったのはもちろん新しく出現したバクマツケンです。この魔法、クールタイムは長いのですが、ディレイは短いので、すぐに別の魔法陣を描くことが出来ます。まぁ、攻撃するのは最初に出現した方ですが。

 拘束された対象がもがくことによって効果時間が短くなるので、逃れようとして拘束されてるのが嘘のように暴れていますね。同時に相手にする数が少ない方がモニカの負担も少ないようで、違いがわかりませんが、やりやすいようです。

 次の1体を倒すころにはホーリーバインドの拘束を破り、バクマツケンがモニカへと襲いかかっています。流石にクールタイムと同じだけ拘束することは出来なかったので別のバクマツケンを拘束することは出来ませんが、ここでグリモアは拘束を振りほどいたバクマツケンを狙っています。ここでは合計12体出現しますが、同じ出現位置からは2体しか出現しません。しかも、後から出てきたバクマツケンを倒した場合、バクマツケンの追加が行われません。つまり、倒す順番を工夫することで、同時に相手をする数を減らすことが出来ます。そのため、最初に出現した内の1体はずっと残っています。

 そして、無事に私達6人はバクマツケン12体を倒すことが出来ました。

 流石にクエストで長時間拘束された後なので93階までで終わりにして、ログアウトです。

プレイヤー名:リーゼロッテ

基本スキル

【棒LV30MAX】【剣LV21】【武器防御LV5】【格闘LV24】

【火魔法LV30MAX】【水魔法LV30MAX】【土魔法LV30MAX】【風魔法LV30MAX】

【光魔法LV30MAX】【闇魔法LV30MAX】

【魔法陣LV30MAX】【魔術書LV30MAX】【詠唱短縮LV30MAX】

【錬金LV30MAX】【調合LV30MAX】【料理LV30MAX】

【言語LV30MAX】【鑑定LV30MAX】

【気功操作LV1】【魔力操作LV30MAX】【再精LV30MAX】

【発見LV30MAX】【跳躍LV30MAX】

【索敵LV30MAX】【隠蔽LV30MAX】【気配察知LV7】

【毒耐性LV3】【麻痺耐性LV1】【沈黙耐性LV1】

【睡眠耐性LV1】【幻覚耐性LV1】【病耐性LV10】

【知力上昇LV30MAX】【調教LV30MAX】


下級スキル

【杖LV50MAX】

【治癒魔法LV20】【付与魔法LV36】

【炎魔法LV33】【氷魔法LV33】【地魔法LV33】

【嵐魔法LV33】【雷魔法LV29】【鉄魔法LV28】

【無魔法LV33】【聖魔法LV32】【冥魔法LV29】【空間魔法LV50MAX】

【魔力陣LV50MAX】【魔法書LV9】【魔力制御LV50MAX】【詠唱省略LV19】

【錬金術LV15】【調薬LV23】【料理人LV23】

【言語学LV15】【識別LV30】【魔力増加LV50MAX】

【看破LV17】【魔力視LV35】【軽業LV21】

【探索LV36】【隠密LV36】

【閃きLV25】【召喚LV1】


中級スキル

【杖術LV27】【魔道陣LV27】【魔法操作LV27】

【時空魔法LV3】


称号スキル

【探索魔法】【魔術】【筆写】


【残りSP200】

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