4-18その1
夜のログインの時間です。午後の段階で、光輪殿以外の特殊施設でも5階に立ち入れるようにしてくれるという話があったので、その報告を受けたいのですが、どこに行けばいいんですかね。流石にイベントに関係している場所だとは思うのですが。けれど、クランハウスで日課をこなしてからナツエドへ行っても反応がなかったので、守り人の里に行くのが一番でしょう。
メニューを操作し、守り人の里へと移動しました。そこで――。
「何奴」
「ふむ、気付かれたでござるか」
おやおや、いつもの忍者さんです。忍びの者が、ただの小娘に気配を察知されるとは、ダメですねぇ。
「気付いたでござる。それで、結果はどうでした?」
「うむ、上手く行ったでござるよ。それと、これは他の御殿の姫巫女より、御礼の品でござる」
そういって渡されたのは中判21枚。つまり、光輪殿の4階でもらった報酬、その7回分ですね。他の階同様、結果を共有した場合、報酬は貰えないと思っていたのですが、思わぬ結果となりました。
「それじゃあ、他の御殿でも同じ様に行けば、姫巫女様に会えるんですか?」
「そうでござる。ただ、悪しき龍の復活を狙う陣営による襲撃が予想されるでござる。注意して欲しいでござる」
「りょーかい。ま、大丈夫ですよ」
襲撃者に関して一つ予想を立てていますし、ヤタと信楽がいれば、先に気付いてくれますから。それではまずは冥府殿ですね。あそこは闇属性ですから、そこを襲ってくるMOBが光属性なら、ほぼ確定でしょう。
目的の特殊施設である冥府殿、ここへ来るのは実は初めてです。何せ、光輪殿しか行っていませんから。ちなみに、この御殿は少し暗いですが、闇属性だからなのでしょう。初めて来たのに信用があるようで、4階までは素通り出来ました。流石にここからは女中のNPCと一緒に行くのですが、通れることに変わりはありません。
そして、通された部屋に後からやってきた闇の姫巫女を見て、驚き……、いえ、予想通りでした。
「そちが、光のが言っておったリーゼロッテかの?」
長い髪で色白の肌のロリっ子という点は変わりませんが、濡羽色の髪と同じ様な色の袴を身に着けていました。袴は立場とかで色が違うという話も聞いたことがありますが、ここでは対応する属性の色となっているようですね。
まぁ、可愛いことに変わりはありませんし、ヤタと信楽を召喚してから膝の上に抱えてしまいましょう。
「うむ、光のが言っておった。そちに捕まると離してもらえんとな。だが、悪くない。そちの肩にいる八咫烏をこちらへ」
口調はまあまあ似ていますが、性格は少し違うようですね。何せ、信楽よりもヤタを欲しましたから。腕の上に乗せてから、嘴をいじって遊んでいます。ちなみに、選ばれなかった信楽は私の頭の上に乗っているので、バランスを取るのが難しいです。それでも、可愛いので全てを許しましょう。
ちなみに、この後襲撃して来た忍者型MOBは当然のように白い靄を纏っている光属性でしたし、闇の姫巫女は闇属性の攻撃をしたので、やはり、そういうことなのでしょう。
時間のかかるクエストですが、はしごが出来ないわけでもないので、まずは雷鳴殿、次に黒鉄殿の順で、姫巫女を抱きかかえに行きました。
その二つは雷と鉄属性なのですが、雷の姫巫女は金髪に黄色の袴、鉄の姫巫女は銀髪に灰色の袴でした。私の髪色が白に近い銀髪ということもあり、鉄の姫巫女はヤタや信楽よりも私になついてくれました。背後から抱きかかえる前に抱きついてきたので、戸惑ってしまいましたよ。ただ、ある一点を見詰めて――。
「そちは膨らみがないのう」
と言われた時はもみくちゃにしてしまいましたよ。
ちなみに、この二つは属性同士の相性関係がありません。けれど、雷の姫巫女を襲ったのは鉄属性の忍者型MOBで、鉄の姫巫女を襲ったのが雷属性の忍者型MOBでした。弱点がつけないのなら、無属性でもいいと思うのですが、色があった方が何かを纏っていると思いやすいからでしょう。
まだ時間があるので、もう1ヵ所くらいいけそうですね。それではどーこーにーしーよーおーかーなー。よし、それでは火炎殿です。何とも暑そうな名前ですが、無闇矢鱈に赤いだけで、内部構造はほとんど変わりませんでした。
火の姫巫女は赤い髪と赤い袴だったので、よくある巫女服に見えてしまいますね。ちなみに、火の姫巫女はヤタと信楽と一緒に追いかけっ子をしていたため、抱きかかえることが出来ませんでした。たとえヤタと信楽が私の背後に回っても近付いてこなかったので、抱きかかえられないように警戒していた可能性もありますが、そんな様子も可愛かったのでよしとしましょう。
後は、水属性の水流殿、風属性の風魔殿、土属性の土壌殿の3ヵ所です。流石にもう1ヵ所へ行くと寝るのが遅くなるので、今日はログアウトです。
金曜日、今日は伊織が来るので、布団を干して回線も用意しておきましょう。
一通りの準備も終えた午後、布団を取り込んでからログインします。
まずは日課をこなし、その後で残りの特殊施設で姫巫女と戯れる予定です。守り人の里の陣営に入ったばかりの頃は忙しいイベントだと思っていましたが、省略できる部分が多く、案外楽に終わりそうです。
水流殿と風魔殿と土壌殿の姫巫女を抱きかかえ、襲ってきた忍者型MOBを捕まえることに成功した後、城の敷地内を歩いていると背後に気配を感じました。
「何奴」
「拙者でござるよ」
いつもの光輪殿担当の忍者さんですかね。例に漏れず顔を隠しているので判断するための要素がありません。まぁ、間違っていたら話が噛み合わないはずなので、このまま進めてしまいましょう。
「どうしました? 里で誰かが呼んでるんですか?」
「お主のお陰で姫巫女とその周囲と陰ながら大手を振って連絡を取れるようになったでござる故、その御礼を言いに来たでござる」
そういえばそんなクエストでしたね。やることが多すぎて完全に忘れていましたよ。
陣営クエストというクエストの達成報酬として大判を1枚手に入れました。その結果、守り人の里への貢献度が大幅に加算され、受けられるクエストが増えたようですが、そちらはハヅチ達に任せてしまいましょう。
言語学のスキルレベルを上げるために不滅の泉で石版と睨めっこしていると、スマホにメールが来たと通知がありました。連動設定をしてあるのが家族と時雨だけなので、そうそう通知はありませんが、どうやら時雨のようです。しばらくしてから来るようなので、ログアウトしましょう。
伊織が来ているので今日の夕食は少し豪華だった気もします。まぁ、泊まりに来るのは久しぶりですからね。
「お風呂ありがとね」
「案外早かったね」
ログインの準備だけしてベッドで涼みながらゴロゴロしていたのですが、流石に長風呂はしなかったようです。
戻ってきても髪の長い伊織は乾かすのに時間が掛かっています。あれが面倒でバッサリ切ろうとしたら滅茶苦茶怒られました。ええ、あの時感じたものが、本当の恐怖だったのでしょう。
「集合時間ギリギリになっちゃったね」
「間に合えばもーまんたい」
何故か知っている中国語ランキングがあれば上位に入る言葉ですよね。まぁ、そうそう使うこともありませんが。ログインするために布団に横になろうとする伊織のために、ベッドの端によって開けたスペースを叩いたのですが、無視されてしまいました。まぁ、まだ寝ませんからね。
そんなわけで、ログインします。……ログインしました。
目を開くとほぼ同時にログインした時雨が横に立っていました。ほぼ同時にログインしたので、当たり前ですね。
「こんー」
近くで寝ている時雨に挨拶をするのも妙な気分ですが、グリモアとモニカが既にログインしていたので、挨拶するべきですね。
「お待たせ」
「あたしもさっき来たばっかりだよ」
「我が魔術で生み出すものがあった故、心配は無用だ」
よく見るとグリモアは刻印をしていますね。時空魔法を取ってテレポートを使えるようにしてくれると私が行ったことない場所へも連れて行ってもらえるので、期待して待っていましょう。
しばらくして全員そろったので、出発する前に簡単な打ち合わせをすることになりました。
「イベントダンジョンの61階からの挑戦になるが、バクマツケンの2体同時出現、ブシドーレムの2体同時出現、クリプトメランコリーの2体同時出現、そして、それが2回になり、3回になる。そのため64階以降はクールタイムにも注意をするように」
ちなみに、70階は全部が2体ずつ出現するのですが、バクマツケンさえどうにかなれば、私の敵ではありません。
「それでは出発だ」
アイリスの号令でクランハウスのポータルから転移しました。ナツエドから歩いて櫓広場へ行き、そこからはメニュー操作でイベントダンジョンへ突入です。
いつもの様に出現位置を知らせる印があり、壁役であるモニカを一番前にし、そこから時雨とアイリス、リッカと続き、最後に私とグリモアがいます。モニカが後ろにMOBを流したところを見たことがないので、安心して魔法を使えますね。
「いっくよー」
モニカの合図でカウントが消え、バクマツケンが2体出現しました。それに合わせて【ハウル】を使用したモニカへと向かいました。私とグリモアの魔法では倒すには数発足りないので、時雨達がある程度HPを削っています。さて、それでは閃いてから魔法陣を描きましょう。
「【エアーランス】」
グリモアのと合わせて6本の風の槍が放たれました。タゲを引きつけてくれる人がいるというのはとても助かります。普段なら、襲ってくるMOBへの対処を考えなければいけませんから。
まぁ、1体はすぐにポリゴンとなったので、私は大人しくディレイが終わるのを待ちます。同時発動数の関係でグリモアの方が動き出すのは早いので、後から放った私の魔法がとどめとなりました。
その後、62階と63階は手こずるわけがなく、バクマツケン2体同時出現が2回になろうが3回になろうが、問題にはなりませんでした。そして、70階、3種類のMOBが2体ずつの計6体同時出現です。バクマツケンの相手を時雨達がしている間にブシドーレムから順番に倒していくことで、安全に倒し切ることが出来ました。
やはり、動きの遅いブシドーレムや、そもそも動けないクリプトメランコリーはただの的です。
その後、同時出現数が3体になったとしてもやることは変わらず、80階の3体ずつの同時出現が面倒だったくらいです。
ここが終われば、次は一気に数が増えて6体同時出現です。流石に流れで行く気にはならなかったので、長めに休憩をはさみます。
「さて、どうしようか」
「ふわああぁぁ。流石に一気に行くと疲れるね」
「確かにね。前半なら問題なかったかもしれないけど、後半はMOBも強くなってるからね」
「……うん」
「我は……、すぴー」
「精神的な疲れが出てるね」
グリモアなんて半分寝てますし。
そういえば【魔力増加】がLV50MAXになったという通知が来ていました。このスキルは魔法スキル3個がカンストした時に取得した下級スキルでしたが、結構時間がかかりましたね。これの上位スキルも下級の攻撃出来る魔法スキルのカンストが条件になっているのか、開放されませんでした。
「今日はここまでにするか。イベントはまだ1週間あるし、掲示板の書き込みが正しければ、諦めたプレイヤーも多いそうだ」
諦めたわけではありませんが、今日はここまでとなりました。
私と時雨は明日朝早いので、ちょうどいいですね。
ログアウトする前に、杖の修理依頼だけ出しておきましょう。明日のログインは夜になりそうですから。
ちなみに、代金は不滅の水を要求されたので、大きな樽ごと添付しておきました。
ログアウトしてフルダイブマシンを外し、いつものように軽くストレッチをしましょう。
「手伝おうか?」
「そこまで本格的じゃないし、大丈夫」
「まぁまぁ」
両足を広げ、体を前に倒していると、背中にとてつもなく柔らかいものが押し当てられました。これは間違いありません。伊織の胸です。
「当ててるの? 挑発してるの?」
「柔らかくて驚いてるの」
雑というか、それっぽいことをしているだけですが、ほぼ毎日やっているので、柔らかく見えるのでしょう。……というか、柔らかくて驚いているのは私ですよ。まったく。
「伊織もやる?」
「ちょっとやってみようかな」
伊織も同じ様に体をほぐし始めました。そして、足を開いて体を前に倒しているので、お返しをしましょう。伊織の背中に胸を……、危なくない程度に乗っかりましょう。
「ちょ、ちょっと待って」
「何? 固い?」
「私の方が固くてね。今度からちゃんとやろっかな」
「まぁ、やって悪いことはないと思うよ」
体もほぐしたので明日に備えて寝ましょう。
んん……そろそろ目覚ましが鳴る時間ですね。普段ならここからゴロゴロするのですが、なぜでしょう、動けません。
いえ、正確には、何かに包まれているというか……。
まぁ、目を開けばわかることです。そう思ったのですが、目の前には私には存在しない谷間と呼ばれるものが存在していました。おのれ、伊織め。ここは制裁を加えなければいけません。
何とか手を動かし、もう少しで揉みしだけるというところで伊織に動きがありました。動きに慎重さを欠いたのか、起きてしまったようです。
「ふわぁ……、おはよう」
「おはよう」
まぁ、起きたのなら、抵抗される前にやるだけです。
「はいはい、こうすれば出来ないよね」
既に頭が動き出しているようで、動き終わる前に更に強く抱きしめられてしまい、動くだけの空間がなくなってしまいました。伊織め、これは起きてましたね。まったく、人の寝顔を観察するとは。
「もごもご、いつからこっちに?」
無理やり口を開くと、何かを言っていると気付いた伊織が少し緩めてくれたので、話しやすくなりました。
「10分くらい前かな? 茜って寝付きいいし、起きる時間じゃない限り起きないから」
「ぐすん……、弄ばれた」
「はいはい、そろそろ起きるよ」
しなを作ろうとしていたのですが、確かに起きないといけませんね。この仕返しは後で必ずしましょう。
私と葵と伊織の3人で電車に揺られています。普段はギリギリまで寝ている葵もこういった日はしっかりと起きるので、予定通りに到着しそうです。
目的の駅に近付くに連れ、人が増えていきます。中にはHTOのロゴのTシャツや鞄を持っている人が多くいるので、確実に同じ目的地でしょう。
『次は、タウンサイト・中央、タウンサイト・中央、メイン展示館に御用のお客様は、こちらでお降りください』
さて、Hidden Talent Offline Festivalが行われるメイン展示館がある駅です。乗り過ごす前にちゃっちゃと降りてしまいましょう。
「二人共、はぐれるなよ」
今いる乗客の大半が降りるようなので、流れに乗って移動しないと大変なことになります。ばらばらになると合流するのも面倒ですから。
この駅ビルはイベント関係なく買い物に来る人がいるのですが、流石に早い時間なので今はイベントに来た人しかいなさそうですね。
「アプリ起動しとけよー」
「ああそうだった」
前もって登録はしてあるのですが、起動しておかないと入り口とかで行われる承認の時に余計な時間がかかってしまいます。要所要所で通信をするはずなのに電池にほとんど影響がないって凄いですよね。
「それにしても、暑そう」
「陽射しも凄いからね。だから、ちゃんと日焼け止め塗ってきてよかったでしょ」
面倒だったので塗ったふりで誤魔化そうとしたのですが、私の返答を聞く前に塗られたので、あれは最初っからそのつもりのようでした。
まぁ、しっかりと横向きに塗られたので、腕は大丈夫でしょう。私に塗りたくった本人は後で塗り直すと言っていましたが。
駅ビルを出てメイン展示館へと向かいますが、既に並んでいる人がいますね。あの人達は優先入場のチケットがない人達のようですね。
「ねぇねぇ伊織――」
「やめろ」
面白そうなことを思い付いたので相談しようと思ったのですが、残念ながら勘の鋭い葵に止められてしまいました。まぁ、暑いのでくっつくのはやめておきましょう。
優先入場にも順番があり、葵が拒否した連休時のトーナメント枠は、開始前に入り、いろいろと準備を行うそうです。まぁ、あの枠はイベントに遊びに来るというよりも、イベントの運営を手伝うための枠らしいですから。
私達の街の開放に関わるワールドメッセージを流した時のメンバーの枠にも、ダンジョンの発見に、裏ボスの討伐などあり、運営がある程度入場の順番を決めているようです。私達が今並んでいる場所は街の開放に関わった人達の場所なので、簡単に言うとサウフィフ開放時のレイドメンバーと、その前の中間ポータルを開放した人達ですね。まぁ、中間ポータルの開放はザインさん達らしいので、どのみち全員レイドメンバーですね。ちなみに、他の人が集まっている場所が何の枠かはわかりません。
後は入場開始を待つだけなので、スマホで地図を見ながら葵が行きたいルートを説明しています。
「例の3Dプリンタのコーナー行くか?」
「私は注文してないよ」
「サンプル展示してるらしいよ」
あくまでも運営側が用意したフィギュアなので、CMや最初のPVに出ているキャラを使っているそうです。他にも、MOBも数体用意しているとか。
「まぁ、寄るくらいならいいんじゃない?」
しばらくして入場開始時間になったので、アプリが起動していることを確認します。これ、一人でも起動していなかったり、違う枠の人が紛れ込んでいてもわかるらしいので、本当に謎技術ですね。
中に入り、まずは定番のスタンプラリーの台紙を貰いに行きましょう。何でも、5ヵ所にある看板のキーワードを記入して持っていけば、参加賞が貰えるそうです。スタンプラリーなのに記入式なのは、混雑を予想してでしょう。
「3名ですね。こちら、IDパスです」
キャラ名とゲーム内の顔を印刷したパスを貰いましたが別に付ける義務はありません。ただの記念品ですから。
「ありがとうございます」
それではしまっておきましょう。首から下げるストラップも付いていますが、付ける義務はありません。
会場のあちらこちらに設置してあるモニターには各種PVが流れています。そう、ゲーム開始前のCMやPV、ゲーム内で行われた戦闘を編集したPVが流れています。まぁ、ちゃんと見比べないと誰かがここにいてもわからないでしょうね。
「そういえばさ、ステージイベント、ネコにゃんとかもいるの?」
「いや、流石にいないぞ。前のトーナメントの時は、ポーションの作成依頼があって、そこから動画の配信してるから、話すのには慣れてるって自分で売り込んだらしいぞ」
「何回か面接もしたらしいね」
「ああ、そういえば、その時のポーション手に入れたやつが、ファンクラブのクランでリーダーやってるらしいぞ」
「ふーん、そういえばもう一人ネットアイドルがいたと思うけど、そっちがいるの?」
第二陣の歓迎会で露店をしている時に何とかっというネットアイドルもいたと思うのですが、自称ではないらしいので、ちゃんと仕事として契約しているんですかね。
「今日のステージイベントは開発陣と広報担当くらいで、そういう芸能人系はいないはずだぞ。HTOやってるって公言してる芸能人もいるけど、ホームページには載ってねーし」
「まあ、茜は芸能人とか聞いてもわからないよね」
「うん、興味ない」
まずは後回しにすると絶対に混んでいかなくなるミニゲームコーナーへと向かいます。途中でメインステージが視界に入りましたが、今の段階では今日の予定が表示されているだけです。トーナメント本選出場者の枠で参加したプレイヤーとの対人イベントもあるそうで、その整理券が配布されていますが、いくら自分のキャラで戦えるといっても、私はやりません。
「葵、リベンジしてきたら?」
「いやいや、どう考えてもスキル差がやばいから。前は開始間もないから、少し戦えたけど、今はもう無理だろ」
「葵のかっこいい所、見たかったなー」
伊織もいい感じに乗ってきますね。それでも、一瞬考えるそぶりを見せるだけで、結局参加しないようです。
「二人をほっとくわけにもいかないだろ」
葵はすぐに次へ行こうとしてしまったため、表情は見えませんが、言われた方の伊織は少し嬉しそうにしています。ここですっと消えて二人っきりにすると、逆に迷惑をかけることになるので、大人しく一緒にいましょうかね。
「ミニゲームって何があるんだっけ?」
「三人一組で、立体映像の敵と戦うのだよね」
「剣士と弓使いと魔法使いから選ぶんだよな。スコアによっては景品が貰えるし」
何でも、質量を持った立体映像を投影するというフルダイブとは異なるの技術のゲームらしいのですが、同じ親会社ということでねじ込まれたそうです。今回はぶつかっても少し押されたくらいに制限しているらしいです。
順番が回ってきました。私は選ぶまでもなく魔法使いを担当し、葵が剣士、伊織が弓使いです。それぞれに渡された武器の様に見えるコントローラーを決まった通りに動かすことで、それぞれの職に対応した攻撃が発動します。クールタイムも設定されているようですが、三人分の必要な情報をコントローラーを介して手元に投影することが出来たりと、視覚に専用機材が必要なARとは棲み分けが出来ているようですね、この立体映像。今はまだ土俵くらいの広さの設備の中でしか投影出来ないらしいのですが、理解するのを諦めた方がいいくらいの技術ですね。
ちなみに、ちゃんと攻撃のエフェクトが出るので、見てるだけでも結構楽しいです。
「えーと、上下左右に振るとそれぞれの属性魔法で、このボタンでターゲット変更っと」
属性相性はゲームと同じということで、覚え直す必要はありませんが、機械が認識しやすいように動かなければいけないため、前の挑戦者を見ていた限り、結構失敗する人も多いようです。
「茜は使える属性で弱点をつける相手を狙ってくれ。1体にこだわらなくていいから」
「りょーかい」
「伊織は任せた」
「うん、わかったよ」
全部で5戦なのですが、制限時間もあるのでゆっくりはしていられません。それでは、大きなモニターに表示さられたMOBとのバトル開始です。
最初は小手調べと練習も兼ねてなのか、無属性の敵が1体です。こういったゲームはなるべく大きく動かした方が認識しやすいようなので、大きく一定の速度で動かします。ゲーム同様に左手で杖を持っていますが、私は右利きなので、ずっと動かすのが辛いですね。まぁ、杖を振り回すのはいつも左手なので、慣れている手でやった方がいいかもしれませんが。
葵は通常攻撃と必殺技を上手く織り交ぜています。クールタイムの管理もしっかりしていますね。伊織は弓を担当しているのですが、弓のように引く距離で威力が変わるとのことで、思った以上に高性能な機械のようです。
始めの方は攻撃の失敗もありましたが、慣れてくれば簡単ですね。コントローラーを動かしながら、次に使える魔法を確認し、狙うMOBを決め、魔法が発動したらすぐにMOBを変更する。こんな感じで少し先を考えていれば、スムーズにいきます。
そして最後に出てきたボスは大きなゴブリンです。属性が受けた攻撃によって変わっていくようで、属性を確認してから攻撃しなければいけません。
えーと、まずは水属性なので、土魔法を使って、魔法が命中すると土属性に変わりました。そのため、風魔法で攻撃しますが、今度は風属性に変わりました。属性が関係するのは魔法使いを担当している私だけなので、葵と伊織に影響は出ません。とりあえずこのまま弱点をついていきますが、どうやら今回のボスは受けた魔法の属性に変化するようです。それがわかれば、属性を確認せずに魔法を使うための動作に移れます。
魔法が一周する頃にはクールタイムも終わっているので、魔法が使えずに止まることはありません。
最後は葵の必殺技で終わり、【WIN】の文字が表示されました。軽く汗をかきましたが実際に体を動かすのも楽しいです。
「見事にボスを撃破した三人に拍手をー」
並んでいた人達がスタッフに言われ、拍手をしてくれました。こういう場合は、にこやかに笑いかけながら手を振ってお返しをするものです。ですが、数人は急に顔を背けましたね。……ああ、伊織も手を振っているのですが、凄い揺れてますよ。
さて、終わったのにこの場を専有するわけにもいかないので、社交辞令の後はすぐに場所を開け、スタッフにコントローラーを返します。
ボスを倒し、尚且、そこそこのいいタイムだったので、クリア報酬にはタイトルロゴのステッカー付きのシリアルコードとHTOのキャラのデフォルメされたぬいぐるみを人数分貰いました。この女神風のキャラ、何処かで見た覚えがあるのですが、どこでしょう。
「ああ、キャラメイクの時のNPCか」
「ティエラのグッズも少し出てるよね」
そんな名前だったとは思いますが、まさか手狭くグッズ展開をしているとは知りませんでした。ただ、マスコットとしては扱っていないらしいです。
「すみません、ちょっとお時間よろしいですか?」
報酬を貰うと広報担当の腕章を付けた人達が近付いてきました。ゲームを終えた人へのインタビューですかね。
私と伊織は葵の顔を見て、全てを任せることにしました。
「要件によりますけど」
「私達はHidden Talent Onlineの広報担当をしています。今はミニゲームをクリアした人達にインタビューしてるんですけど、受けていただけますか?」
もう少し詳しく聞いてみると、後で行われるステージイベントでこの映像を使うらしいです。まぁ、どちらでもいいのですが、どうしましょうかね。
「どうする?」
「任せた」
「んー、葵に任せるよ」
任された葵は私と伊織を見て何かを考えています。そして。
「やめときます」
「そうですか。失礼しました」
葵が断ると、広報担当の人達はすぐに引きました。まぁ、断られるのも想定の内なのでしょう。
この後は近くにあるスタンプラリーの看板を目指します。えーと、ここのキーワードはセンファストですか。これ、残りも街の名前かも知れませんね。まぁ、記入欄の問題もあるので、実際に見に行くべきですね。
さて、次はどこでしょうね。




