表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hidden Talent Online  作者: ナート
4章 夏イベ!
54/148

4-4

 いつもの様に寝る前のログインの時間です。

 日課の続きをしようと思っていると、クランハウスにいたみんなから料理を頼まれました。何でも長時間の狩りを行っていたため、消耗が激しいそうです。

 しばらく料理を続けているとハヅチもログインしてきました。私よりも遅いのは珍しい気もしますね。ただ、ちょうどいいです。


「ハヅチ、お願いがあるんだけど聞いてくれるよね」

「……内容を聞いてからだ」


 チッ、やはり話を聞かずに安請け合いはしてくれませんか。しかたありません、手は止めずに詳しく話しましょう。


「ナツエドの北側にお城あるじゃん。あそこに入ろうと思ったら、面妖な格好を何とかしろって言われたから、巾着作って」

「……もう少し詳しく教えてくれ」

「んーと、門番さんの話を聞く限り、町人からの信用と、どこからかの許可、格好の三つが条件だってさ。信用は多分フィールドの開放全部。格好は和装のドレスコード。許可はわかんない」


 HTOでは初だと思いますが、いろいろなゲームにおいて稀に特定の場所に入るのに装備を指定されることがあります。今回の場合、和装が条件なのでしょう。街に呉服屋とかちりめん問屋があったので、そこで揃えられますし。まぁ、小物でもいいってかなり緩いですが。


「巾着でいいのか? なんだったら浴衣でも作るが?」

「一応門番のNPCに確認したら小物でいいって言うからさ。浴衣も捨てがたいけど、そっちにするには一新する必要があるし」


 和テイストの外套ならまだしも、ブラウスとスカートを浴衣に変えつつ他の装備に合わせると、ちょっと問題が出てきます。そのため、巾着を選んだわけです。


「そうか。それじゃあ、本当に巾着で行けるか試しといてくれ」

「りょーかい。ちなみに、ちりめん問屋と呉服屋があったから、商売にはならないと思うよ」

「ん? 刻印しないのか?」

「刻印? あー、ウェストポーチの替わりか。別に刻印して売るならやってもいいけど、今のところウェストポーチから替えるつもりないよ」


 和装をするなら考えますが、手で持っていなければいけない巾着を常用するつもりはありません。もし使うとしても鞄の紐に引っ掛けておくくらいなので、変える理由にはなりません。


「わかった。NPC価格みとく。そんで、すぐ行くのか?」


 どうやら諦めてはいないようです。私も売っているのを見ただけでいくらかは知らないので、値段によってはありですね。


「急ぐつもりはないから、夜か明日くらいかな」


 何をするとも決めていませんが、夜のログインの方が時間があるので、出来ればフィールドで狩りをしたいですね。ハヅチが急げと言うなら急ぎますが。


「そうか」


 それだけ言うと狩りの準備が終わるまで巾着の試作品を作ると言って工房へ行きました。それでは、料理をしながら次の話題です。


「そう言えばさ、ナツエドの南西部に鍛冶場とかたたら場とかあったけど、時雨は鍛冶関連のクエスト見つけたの?」

「行ってみたけどまだ全体の納品数が足りないみたいでなかったよ。生産クエが出たのって目安箱型のクエスト掲示板だけだから」

「そっか。それじゃあ、私はエドーレム狩り続けるから、景品が必要なら言ってね。後払いでもいいし」

「ありがとね。そう言えば、イベントフィールドはスキルレベルの上がりがいいらしいから、上げたいスキルを重点的に使うといいよ」

「りょーかい」


 なるほど、だから属性がないんですね。鉄魔法の効きは悪かったのですが、他のスキルレベルを上げればいいですし、バリアを使って受けることも出来たので、やりようはいくらでもあります。ええ、頭の良くなった私なら、何でも思い付きますよ。

 ちなみに、みんなの準備が終わった頃にハヅチも出てきて狩りに出かけていきました。どこで許可を貰えばいいかもわかっていないので、後で確認に行きましょう。






 料理と日課を終えた私はヤタと信楽を召喚しエドーレム狩りをするために西のフィールドへと赴きました。ここでは【閃き】を使用してから【ダークブラスト】と【アイスブラスト】というパターンでエドーレムを倒し続けます。しばらくすると通知が来たのですが、レベルのキリがいいスキルに心当たりが無く、不思議に思いながら確認すると、予想外のスキルレベルで新しいアーツを覚えることになりました。

 ええ、杖術と魔道陣です。どうやら中級スキルはLV15単位で何かを覚えるようです。杖術のLV15で覚えたのは【スペルアタック】というアーツで、杖に魔法を込めて殴ることが出来るそうです。詳しく見てみると、込めた魔法の威力が適応されるようなので、強力な範囲魔法を単体に使うことが出来るということでしょうか。まぁ、近付かれたら負けなので、微妙ですね。

 次に魔道陣のLV15で覚えたのは、【図形理解】というアビリティです。これは魔法陣に使われている図形一つ一つを理解できるという能力です。魔法のフレーバーテキストには魔法陣の属性を示す図形の手がかりがありましたが、それ以外が何を示しているのかはわかりませんでした。けれど、過去に使ったことのある魔法陣であれば、そこに使われている図形を理解できるそうです。

 説明的にはこうですが、追加で今までの魔法を組み合わせて新しい魔法を作れるという効果を持ったアビリティです。ただし、複数の属性を組み合わせることは出来ず、魔道陣のスキルレベル以下で使える魔法からしか図形を流用出来ないそうです。その上、保存できる魔法は各属性1個ずつとなっており、紙に書いて保存していても、取り消してしまうと使えなくなってしまうそうです。

 これ、回復魔法や付与魔法で新しい魔法を作れれば面白いことが出来るかもしれませんね。PTメンバーを回復するエリアヒールを本当の意味でエリアヒールに出来そうですし、付与魔法にも同じことが言えます。それ自体はあまりメリットがあるとは思えませんが、既存の組み合わせとはいえオリジナルの魔法陣を作れるのは楽しみです。後で腰を据えて作ってみましょう。

 それと、図形理解とは別に、おまけと言わんばかりに複魔陣の効果が上がったと書いてあり、同じ魔法陣なら同時に4個描くことが出来るようになりました。違う魔法陣なら3個なので、付与も楽になりそうですね。

 それではエドーレム狩りを短縮できるのか試してみましょう。

 まずは思考操作で閃きを発動し、その後に魔法陣を4個描きます。


「【ダークブラスト】」


 エドーレムの位置で闇が4つ炸裂し、エドーレムの装甲がボロボロと崩れ落ちました。……あれ、まだ生きているようですが、もしかして、動きが機敏になったりするのでしょうか。

 ディレイが早く終わることを祈りながら様子を見ていると、ただの取り越し苦労でした。動きが機敏になるどころか、瀕死の重傷を負っているかのような動きをしています。

 それではディレイが終わるのを待ち、ゆっくりと倒しましょう。


「【アイスブラスト】」


 流石にここまで瀕死の相手に4発も叩き込む気がしなかったので珍しく単発での発動でした。さて、恐らくですが、倒すのに5発必要ですね。閃きがあって5発なのか、なくても5発なのかはわかりませんし、閃きがどこまで上がれば4発になるかもわかりません。なので、ここで3発ずつで行きましょう。

 途中、休憩していて思ったのですが、このフィールドも人が増えてきましたね。エドーレムの数には余裕がありますが、リターンで戻れることですし、少し奥へ行って時間まで狩りを続けましょう。





 翌日、金曜日は週末ということもあり、夜になれば更にフィールドが込むかもしれません。そうしたらまた奥へ行くだけですが、どれだけの広さがあるのでしょうか。


「茜、昨日言ってた巾着もう出来たぞ」

「ありがと。でも、もう出来たんだ」


 どんなに早くても夜になると思っていたのですが、もう出来たとは驚きです。


「ま、持ち物装備だからな」

「そうなんだ。それで、対価はどうする?」

「……城へ入るための情報だ。だから、巾着で入れるか確認を頼む」

「りょーかい」


 そんなわけで午後のログインは巾着を受け取ってから城へ入るための条件の確認と魔法陣の作成をします。

 そんなわけでログインしました。


「こんー」

「待ってたぞ」


 いつものようにハヅチが先にログインしていました。すぐに巾着を受け取りましたが、ふむ、この少し暗い赤は、茜色でしょうか。まったく、こういう細かい所に気が利く弟ですが、私に利かせる前に時雨に利かせるべきでしょうに。そんなんだから、いつまでもぬるま湯なんですよ。


「ありがとね」

「そんじゃ、俺は行くから」


 ハヅチはそのままどこかへ行ってしまったので、私は日課を済ませながら城へ入る条件について考えることにしました。まぁ、信用と格好に関しては今の推測で問題ないでしょう。残る一つの許可ですが、何かを許可するのなら、冒険者ギルドが怪しいですね。他に、奉行所とかがあるのなら、そちらも候補に入りますが、今のところそういったものがあるとは聞いていません。

 日課の作業を終え、巾着を持ち物装備として装備してから冒険者ギルドへと足を運びました。どこかに総合案内とかの看板を出していてくれると楽なのですが、とりあえず空いている受付へ向かいましょう。


「すいません。あのお城について聞きたいんですけど」

「はい、何でしょうか?」

「あのお城に入るにはどこで許可を貰えばいいんですか?」


 どう話を切り出そうか考えていましたが、やはりここは直球勝負です。下手にぼかした結果、話が通じなかった。では、意味がありませんから。


「どうやら町人からの信用はあるようですね。それでは、こちらの依頼を達成していただければ、推薦状を用意します。それを城の詰め所へ持って行けば、通行手形を発行してくれる可能性があります」


 ピコン!

 ――――クエスト【城への入場許可】が開始されました――――

 町人からの信用 【クリア】

 役場からの推薦状 【 】

 ――――――――――――――――――――――――


 おや? ドレスコードはどうなったのでしょうか。詰め所のNPCの証言からすると、和風の何かが必要なはずです。それともう一つ、夏イベのクエストはイベントの項目内で完結していると思っていたのですが、何故これだけがメッセージとして表示されたのでしょうか。まぁ、進めていけばわかるはずです。


「どんな依頼ですか?」


 何をするにしろどんな依頼かわからなければ何も出来ません。というか、受ける以外の選択肢はありませんね。


「それではこちらをどうぞ」


 紙を渡されたのですが、すぐにポリゴンとなって消え、メニューのイベントの項目に情報が追加されました。

 そこに表示された内容は、なんと、各イベント素材を100個ずつです。ちなみに、街でのクエストと同等の報酬が用意されているので、中判が6枚貰えます。せっかく数を用意するのですから、少しくらい色を付けてくれてもいいと思うのですが、文句を言ってもしかたありません。クエストは受注したので、素材集めですね。






 本来であれば素材集めに向かうのですが、もう一つ、午後の予定として決めていたことがあります。そのため、私はイベントが行われているナツエドではなく、最初の街、センファストを訪れています。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、静かじゃと思っとったのに、騒がしいのう」


 ええ、いろいろと教えてくれるオババの店へとやってきました。魔法陣の新しく開放されたアビリティについて、わからないことがあったら聞く予定です。


「魔法陣の図形を組み合わせて新しい魔法陣を作れそうだから、奥貸して」

「案外成長したようじゃのう。もう、小娘とも呼べんかのう。陣を作るのはかまわんが、家を壊すでないぞ」

「はーい」


 前に違う呼ばれ方をしたきもしますが、すぐに戻ったので、いつまでも小娘と呼ばれるのでしょう。

 魔法陣は各属性一つずつしか保存出来ませんが、上書き保存は出来るので、部屋を壊さない程度の魔法陣を考えます。

 まずは仕様確認です。図形理解のアビリティを開くと、魔法陣の作成画面が表示されました。

 このアビリティは図形を理解できるとのことですが、魔法陣の図形は属性・形状・行動・効果を表す図形で出来ています。ちなみに、最低限属性さえ描いてあれば問題ないようです。

 最初の属性ですが、その図形はフレーバーテキストに記載されているので割愛します。

 形状は弾に大玉と壁、階段、そして槍です。

 行動は直進・放出・炸裂・螺旋・維持です。一応、方向などの詳細も定義できるので、いろいろと出来そうです。まぁ、自由度が高いと余計に迷ってしまいますが。

 効果はダメージ・回復、ステータスの増加・減少があります。

 使える魔法が増えれば選択肢も増えると思いますが、今はこれを組み合わせるしかありません。最後に完了ボタンを押せばシステムが自動的に陣にしてくれるそうです。まぁ、ある程度のルールを守れば完全手動で出来るようですが、今はやめておきましょう。

 さて、何を作りましょうかね。……うーん、いざ作ろうとすると思い浮かびませんね。高火力で詠唱時間もクールタイムもディレイも短くて消費MPの少ない『ぼくのかんがえたさいきょうのまほう』なんて作れる訳ありませんし……。

 そういえば、今のところ単一の効果を持った魔法しかありません。一部の属性は行動阻害効果や物理防御でのダメージ計算などの効果を持っていますが、あれは属性特有のものらしく、それ用の図形があるわけではないようです。なら、ダメージのある範囲デバフとかあると、便利そうですね。

 物は試しなので作ってみましょう。

 えーと、属性は炎、行動は放出、特殊は……あ、ステータスの増加や減少は属性と連動しているんですね。では属性を地に変えましょう。そして、効果ですが、まずはダメージを入れます。ここで次の工程に行くのであれば、失敗ですが、どうやら効果をもう一つ選ぶことが出来るようです。これは予想ですが、これから先、複数の効果を持った魔法を覚えるということでしょう。

 それでは次にステータスの減少を選びます。そしたら第1段階終了ですね。この状態でも、仮の魔法陣を表示することが出来るので、横に表示しておきましょう。

 次に、魔法の範囲と出力を決めます。

 0%から100%までのメモリが表示され、消費MPをダメージに何%、デバフに何%、範囲に何%使うのかを決めるようです。ちなみに、メモリをいじった際に消費MPを他から取るのか最大値を増やすのか選べるので、最大値を増やす方にしてみましょう。

 範囲の方は別のウィンドウにも表示され、他の魔法と比較することも出来ます。

 頭の中ではウェイブ系のように使うのをイメージしているので、それと同じくらいです。正確な距離を入れなくても、比較対象となるものを入力すればシステムの方で決めてくれるのは楽ですね。

 それでは、試しに威力をグレイブと同じにして、デバフの効果を付与魔法と同じに……あ、付与魔法が単体にしか使えません。これは私が単体付与しか出来ないからなのでしょうか。まぁ、攻撃の方は範囲に出来るので問題ないことにします。ちなみに、消費MPがかなり多いですね。私のMP基準でどの程度使うのかを表示しているのですが、大体40%くらいですね。……まぁ、取り巻きに大ダメージを与えながらも単体に長時間の防御デバフをするための魔法なら連発しないので問題ないでしょう。使い所が微妙どころかないと言ってもいいぐらいですが。

 次は描写時間とクールタイムとディレイです。基準値と現在のスキルとステータスで使った場合の数値が表示されていますが、どれも長いですね。消費MPを追加することで減らせるので、消費MPを私の最大MPの50%まで増やして、クールタイム以外を短くすることにしました。

 それでは最後の工程です。

 これはある意味最も重要な工程です。何しろ、エフェクトと名前を決めるのですから。このエフェクトによっても微妙にMPが変化することもあるらしいのですが、そこまで大きくは変わりません。エフェクトとしてはウェイブ系をイメージしていたのでそれをそのまま流用します。

 次に名前です。後から変更することも出来ますが、それを理由に妙な名前を付けることは許されません。

 ロック……、アース……、地盤沈下……、うーむ、ダウンフォースは風のイメージですし……。おや、自動命名ボタンがありますね。効果やエフェクトを参考に候補を用意してくれるようです。それでは押してみましょう。ポチッとな。


 【ソフトウェイブ】


 うーむ、何とも微妙な名前です。防御ダウンなので柔らかくするということだと思いますが、ウェイブをそのまま使ってしまうわけですか。まぁ、他に候補もないのでこれにしましょう。

 最後に生成ボタンを押せば正式決定です。

 その結果出来た魔法陣は地属性の範囲攻撃+単体防御デバフです。これで完成と思いきや、実はもう一工程ありました。ええ、完成は完成です。ですが、あるんです。この魔法陣をスクロールにして他の人が使えば、この性能と使用者のステータスを参照するのですが、ここから先の工程は、私が使ったときのみ効果を発揮する工程です。

 何せ、SPを消費するのですから。

 SPを1つぎ込むごとに、威力・効果が1%向上し、消費MP・魔法陣を描く時間・ディレイ・クールタイムの全てが1%減少します。上限が100なので、つぎ込んでみたくもありますが、この魔法に使う必要はないですね。

 ちなみに、この魔法を削除した場合、つぎ込んだSPが戻ってくる親切設計です。

 せっかく作ったので試し打ちをしたいのですが、ここでするわけにはいきません。試し打ちは今度にして、残りの時間はイベント素材を集めに行きましょう。





 そんな訳でナツエドの東にあるフィールドへとやってきました。ここでは事故防止に【バリア】を使った状態で戦わなければいけません。エドッグには雷魔法の【ライトニングランス】を三発叩き込み、次に【メタルランス】を三発叩き込めば終わります。ただ、前回と違うのは最初の攻撃をする前に【閃き】を使う点です。もともと撃ち漏らしが発生するわけでもないので、必要性はありませんが、スキルレベルを上げることが出来るので、重要なことです。

 まぁ、簡単に倒せる相手なので、気楽に行きましょう。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 ええ、気楽に行ってはいけません。

 何せ――。


「うわ、ちょ……げふ」


 余裕を持ちすぎたのか、ディレイが終わってもすぐには詠唱を開始せず、エドッグの毛並みを見てしまいました。何せ、三毛猫ならぬ三毛犬だったんですよ。それは見てしまいますよ。

 その結果、お腹に体当たりを食らった私はバリアのお陰で何とか体勢を維持できました。とりあえず押さえつけようと思いましたが、私のSTRでは勝てないので逃げられ、距離を取られてしまいました。まぁ、距離を取ってくれるのは願ってもないことです。

 手早く、メタルランスの準備をしましょう。


「【メタルランス】」


 距離を取って警戒していたエドッグを貫き、ポリゴンへと変えました。さて、バリアがボロボロになっているのでMPを供給して直しましょう。


「おーおー、そこのアンタ、油断は禁物だぞ」


 声のする方を見てみると見知らぬ剣士風の人がいました。あごひげを生やして少しおじさん臭いですね。


「ちょっとしくじっただけですよ」

「そうか。なあ、どうせなら俺とPT組まないか? 盾持ちが一人いると戦いやすさが段違いだぞ」

「お気遣いありがとうございます。ですが、休憩を……、いえ、今はここまでにするので必要ありません。それではさようなら」


 今のようなミスをした後は休むに限ります。集中力の切れた証拠ですし。

 街へ戻り、ドロップした皮は全て倉庫に入れ、ハヅチに押し付けてログアウトです。





 夜のログインの時間です。午後の狩りで祭りの食材が85個になったので、続きをしようかと思っていたのですが、よく考えたらエドッグのフィールドにはみんな入れるので、大量にある祭りの景品と交換し、残るは祭りの建材だけです。まだ景品には余裕があるので建材と交換してくれる人を探してもいいのですが、数が微妙なため、ある程度は自分で集めないといけません。

 確認のために交換会をしている場所へ向かうと、まだ大量に交換希望者がいました。中には100個単位の交換を希望しているプレイヤーもいるので、クランやパーティーメンバーの分も集めているのでしょう。

 都合よく建材を食材か景品と交換したい人がいました。


「すいません、景品50個を建材50個と交換して欲しいんですけど」

「はーい。それじゃあ、申請しますね」


 おや、女性でしたね。頭の上に出ている看板に気を取られていたので気付きませんでした。送られてきたトレード申請に祭りの景品を50個入れ、相手が建材を50個出したのを確認し、トレードを成立させます。これで、残り必要数は建材25個です。

 それでは残りを集めに行きましょう。

 向かった先は南の大門から出た場所にあるフィールドで、【エドレント】が出現します。エドーレムは動きが遅かったのですが、こちらは動けないのでブラスト系のただの的です。その上、ドロップする木材はゴンドラ作成クエストに使うので、炎魔法は使わないでおきましょう。

 どうせ短時間で終わるはずなので、空間魔法のレベル上げも兼ねてバリアを張り、閃きを使ってからエアーブラストとアイスブラストでエドレントを倒していきます。

 ………………

 …………

 ……

 すぐに集め終わってしまいました。思った以上に早かったのですが、これで冒険者ギルドへ行けば推薦状が貰えるはずです。

 冒険者ギルドでクエストを受けた時のNPCの元へ向かい、イベント素材3種類を100個ずつ納品しました。


「ありがとうございます。それでは報酬と推薦状です」


 報酬は中判6枚なのですが、手持ちには5枚の中判があるため、自動的に中判1枚と大判1枚になりました。大判はイベント報酬を貰うのに使うのですが、ラインナップと必要枚数は知りません。そのうち公開されるはずですが、ある程度は集めておくべきでしょう。

 町人からの信用よし。

 冒険者ギルドからの推薦状よし。

 和風の小物よし。

 これで条件を満たしたはずなので、いざ詰め所へ向かいましょう。そう思ったのですが。


 ピコン!

 ――――クエスト【城への入場許可】が進行しました――――

 呉服屋かちりめん問屋へ向かおう 

 ――――――――――――――――――――――――


「詰め所へ向かう前に、紹介するお店へ向かうことをお勧めします。貴女ならそのままでも入れますが、きっと何かの助けになるはずです」


 うーむ。クエストの順番からして行けと言われているので、向かう以外の選択肢はありません。クエストは事前準備はしても道順を飛ばしていいものではありませんから。

 とりあえず、ちりめん問屋へ向かいましょう。お髭のご隠居と知り合えるかも知れませんし。

 そんなわけでちりめん問屋を訪れました。ここは簡単に言えば小物屋ですね。巾着やら風呂敷やら手ぬぐいやらも扱っているようです。


「本日はどうされました?」

「冒険者ギルドの人に詰め所に行く前に行けって言われました」

「そうですか。では、こちらをお持ちください」


 そう言って渡されたのは何でしょうか。呪符でしょうかね。識別しようとしても弾かれるので、何かわかりません。それがすっと私の中に入って消えると、メニューのヘルプと装備の項目が光りました。


 ピコン!

 ――――クエスト【城への入場許可】が進行しました――――

 城の詰め所へ向かおう 

 ――――――――――――――――――――――――


 クエストが進行しましたが、とりあえずメニューの確認です。装備とヘルプは両方を表示することが出来るの見てみると新しい項目が増えていました。

 なるほど、システムの追加があるからメッセージとして表示されたわけですか。

 追加されたのは装備切り替えというもので、非戦闘時に装備を一括で切り替えることが出来るそうです。今までは一括で切り替えるには、装備を修理してもらって返ってきた時に一括で装備をするくらいしか方法がなかったのですが、属性別にセットを作っておくことも出来るので、いろいろと楽になりそうですね。

 まぁ、増えたのは1個なので、夏仕様ではない通常の装備を登録しておきましょう。

 装備の切り替え枠は、クエストで増やすことが出来るそうですが、もう一つ方法があります。ええ、課金です。クエストが面倒ならお金を払えということですね。まぁ、クエストで増やす枠とは別枠なので、実装分で足りないと思うのなら、課金しろということかもしれません。

 ちなみに、イベントが終わると、最初の開放のクエストはセンファストで発生するようになるらしいです。イベントで開放した人には発生しないので、一つ多く開放されるということはないそうです。

 残念ですね。

 それでは、クエストの続きをしましょう。

 城の詰め所の場所はマップに表示されているので道に迷うことはありません。

 北のお城の周りにあるお堀、そこを渡るための橋の近くに目的の場所がありました。


「たのもー」

「何奴。……ふむ、おなごがこの様なところに何用か?」


 ハヅチに作ってもらった巾着がきいているのか、面妖な格好とは言われませんでしたよ。冒険者ギルドでも言っていましたが、やはり問題はないようです。


「城に入りたいんですけど、許可、貰えませんか? あ、これ、推薦状です」


 イベントの項目が光り、推薦状を実体化出来るようになったので取り出して渡します。


「ふむ、冒険者ギルドからの推薦状か。何々……、ふむふむ、……なるほど」


 詰め所のNPCが推薦状を懐にしまい、奥へと向かいました。出来れば何か言ってから行って欲しいです。

 そして、何かを手にして戻ってきました。


「これを受け取れ。城への立ち入りを許すが、全ての場所に入れるわけではない。また、何か問題を起こせば、すぐに没収する」


 そう言って渡されたのは城の絵が描かれている絵馬の形をした手形です。……城に城のMOBでもいるんですかね? まぁ、イベントの項目に格納されたので、気にしなくてもいいでしょう。

 それでは待ちに待った城へ足を踏み入れましょう。

 橋にいるNPCに対し、わざわざ取り出した手形を見せつけながら進みます。そして、城の門をくぐり、私は一つの事実を思い出しました。

 ……何しましょう。

 ええ、城に入るのが目的で、入ってどうするかを考えていませんでした。しかも、どこまで入っていいのかも聞いていなかったので、もう一度橋を渡り、門番らしきNPCに確認することにしました。


「たのもー」

「どうかしましたか?」


 おや、手形を持っているせいか、少し丁寧になっていますね。今までどおり、「何奴」ってのを期待していたのですが、残念です。やはり、期待に答えてくれるNPCはオババだけですね。


「この手形を持ってると、どこまで入れるんですか?」


 一番大きい本丸と思われるのは五階建てですが、他にも建物が多いので、案内図が欲しいところです。


「その手形であれば、全ての一階に入ることが出来る。まぁ、それぞれの責任者から許可が貰えれば、立ち入れる場所も増えるだろう」


 なるほど、そういう仕組ですか。要するに、権力者に裏書きしてもらえということですね。その辺りはクエスト次第だと思うので、歩き周ってクエストを探しましょう。

 本丸には殿様とかいそうなので、姫様がいる場所を探したいのは山々ですが、まずは地形を把握しないと見当もつけられません。まぁ、城内の配置がわかってもつかないとおもいますが。

 ここは迷路を抜けるときの定番である壁に左手を付けて歩くを実践します。マップには表示されていても、実際に行かないと、何かはわかりませんから。

 城内をぐるっと周っているわけですが、城というか日本庭園というか……。何やら大事そうな物が入っている雰囲気を醸し出している蔵とかもありますよ。何せ、門番さんが立っているんですから。ええ、近付いたら警戒された気がするので大人しく退散するふりをして物陰から近付いています。


「何奴!」


 索敵範囲が広いですねぇ。完全に死角のはずが、枝も踏んでいないのに振り向かれましたよ。とりあえず、誤魔化しましょう。


「道に迷いました!」

「そうか。では、これをやろう。祭りの時期は客人が増える。そのため、城内の者は案内用の地図を持っているのだ」

「あ、どうも」


 予想外すぎたので地図を受け取りつつも呆然としてしまいました。せっかく歩きながら見て周ろうと思っていたのに、地図を手に入れて……、いえ、歩く必要はあるようです。本丸やいくつかの建物だけ名称がかいてありません。蔵や詰め所や炊事場などは書いてあるので、重要な場所なのでしょう。まぁ、暗にここへ行けと言われているようなものですね。それでは、ここから近い炊事場へ行きましょう。そんなあからさまなのは後でいいんですよ。

 ちなみに、地図はマップに取り込まれてしまったので、手元には残っていません。

 ここから近い炊事場は食堂が併設されているので、偉くないNPC用の場所だと思われます。もう少し本丸に近い炊事場は、将軍用とか、そんなのでしょう。


「たの――」

「ほらどいとくれ」

「邪魔だよ」


 残念なことにNPCでごった返していました。これは戦場というやつですね。少し待ってみると少しずつですが人が減り始めました。それでは手の空いた女中さんを捕まえましょう。


「すみません。ここは人手が足りてますか?」

「あら、祭りのお客さんじゃない。手伝ってくれるの?」

「ずっとは無理ですけど」

「そう、じゃあ、手伝ってくれる時に来てちょうだい。いつでもいいわ」


 イベントの項目が光り、炊事場での手伝いクエストを受注しました。詳細を見ると、内容が2つあり、料理スキルを持っているかどうかでかわるそうです。簡単に言えば、厨房か雑用かということです。

 他のクエストの確認もしたいのですが、城内での報酬の相場を確認しておきたいので一度試してみましょう。

 詳細画面にある開始ボタンを押しましょう。ポチッとな。


 ピコン!

 ――――クエスト開始――――


 視界内に大きくメッセージが表示されました。それが消えると手順やら決まりやらと一緒に、隅の方に時計が出現しました。では、指示の通りに動きましょう。えーと、まずは厨房――。


「ちょっとちょっと、これを付けなきゃダメよ」


 そう言って渡されたのは割烹着です。しかも、クエスト専用の装備切り替え欄も一時的に追加されています。えーと、持ち物装備と武器と外套と腕と頭は装備禁止ですか。今の装備からそれらが弾かれたものが自動的に登録され、外套部分に割烹着を、頭部分に三角巾を装備することになるので、特に細かい作業はいりませんね。

 料理道具は備え付けのを使うことになるのですが、一つの物を作るのではなく、一つの工程を担当するので、私は延々と野菜を洗っています。生産スキルの自由度は、高い方に合わせるという調整が入ったので現実と同じ様に作れるようにもなっています。そのためこういったことも出来ますが、前の方法でやれば必要のない工程なんですよね。まぁ、数をこなせば担当する工程が変わり、報酬が増えると期待しましょう。

 それにしても……冷たいです。

 長時間洗っていると手がかじかんできますね。動きも鈍くなるので、アイコンは出ていませんが何かしらの状態異常になっていていもおかしくはありません。というか、無駄に手のこんだことをしていますねぇ。

 時計のカウントが0になると――。


 ピコン!

 ――――クエスト終了――――

  報酬:小判1枚

 ―――――――――――――


 終了のメッセージが表示されました。今回の報酬は小判1枚ですか。まぁ、フィールドで食材を集めるのと時間的にはあまり変わりそうにないですね。これはどちらかと言えば生産プレイヤー向けのクエストですね。まぁ、ここまで来るのは大変そうですが。

 クエストが終わり厨房から出るとクエスト用の装備切り替え欄が消え、身に着けていた装備ももとに戻りました。

 とりあえず、時間的にもちょうどいいので今日はログアウトです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ