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Hidden Talent Online  作者: ナート
2章 2体の従魔
36/148

2-16

 土曜日の午後、事前準備はしっかりと整えてあるので、私は意気揚々とログインしました。昨日はログアウトが少し遅かったので、少し寝坊しましたが、午後の予定に問題はありません。

 グリモアはエスカンデの北にある森でアートラータを仲間にしたと言っていました。そして、時雨の情報を聞く限り、森系のフィールドを徘徊しているらしいので、前例に習って北にある森を探すことにしています。ホブゴブリンと戦った後だと聞いていたので、それなりに進む必要がありそうです。もちろん、ヤタは召喚しています。仲間にしてから相性が悪いなんてことがあっては大変なので、事前の顔合わせは重要ですから。

 まずはゴブリンの集団と遭遇しました。前の時点では、シャインやシャドウを二発では倒しきれないことがありました。ある程度は威力も上がっているはずなので、試してみましょう。


「【シャイン】」


 双魔陣を使い二発同時発動しました。結果はすぐにリザルトウィンドウが現れたので、倒しきれたようです。まだ一回目なので、乱数がよかったのか、ステータスが上がったお陰なのかはわかりません。ただ、魔道陣と魔法操作のお陰で基本の射程距離が伸びたので、条件の悪い弓と杖持ちの集団相手でも何とか出来る気がします。

 とりあえず、ミニマップを確認しながら北上し、避けられない集団とは戦います。黒猫が集団でいるとも思えませんから。

 道中、何度か戦いましたが、集団は範囲二発で、単体はランス系二発で倒せるようです。異なる魔法を二発同時に使えるようになっていますし、同じ魔法なら3発同時に使えますが、その機会はないようです。

 まぁ、ホブゴブリンが出てきたら話は別だと思いますが。

 しばらく進んでいると、地面が傾斜を帯びてきた気がします。森から山へと地形が変わりつつあるようです。ただ、北を見る限り、山になっても森は続いています。この辺りが森扱いなのか山扱いなのか、はたまた両方の扱いを受けているのかはわかりませんが、森だと信じて歩むのみです。

 現実では山登りなどしませんが、フルダイブだと精神的に疲れるだけで、肉体的な疲労は感じません。そのせいか、一応は登り続けることが出来ています。

 遭遇するゴブリンの体が大きくなってきても、必要な手数は変わりません。けれど、一際大きなゴブリン、いえ、ホブゴブリンは違いました。


「【フレイムランス】」


最初に遭遇したはぐれの個体がどの程度強化されているのかわからなかったため、フレイムランスを二発同時に発動しました。その結果、かなりボロボロになったようですが、確かに息があります。もう一発撃ち込むと、倒しきれたので、今度は三発ですか。今は、双魔陣といいつつも三発同時に発動出来るので、MPの減りは激しくなりますが、安全に倒せますね。

 その後もしばらく進んでいると、今度はホブゴブリンに連れられた群れと遭遇しました。さて、三発撃ち込むべきなのでしょうけど、ホブゴブリンが引き連れていることがどう影響するのか確認しておきたいですね。


「【シャイン】」


 そういう理由もあって二発同時発動しました。すると、驚きの事実が発覚しました。


「全部残った……」


 かなりボロボロですが、ゴブリンも含めて全てのMOBが生き残りました。どうやら、ホブゴブリンは連れている群れを強化するようです。つまり、群れのゴブリンを倒した後に、ホブゴブリンだけ単体魔法でトドメを刺すということが出来ないようです。


「【シャイン】」


 追加の一発で倒せたので、戦い方を変える必要はありませんが、やはり、MPの消費が問題です。休憩を増やせばいいのですが、そうすると距離が稼げません。まぁ、私の目的は、黒猫を探すことで、この先にある何かではないので、そこまで大きい問題ではありませんが、やはり、動き回る時間が減るのは問題ですね。

 ミニマップを見るに、群れを避けながら歩き周るのは大変ですし、休憩を取るにしても群れが近いと休むのも大変です。ヤタにもゴブリンの丸焼きをゆっくり食べる時間を上げたいですし……、あ。

 そうです、そうですよ。ヤタと出会った時の方法があるじゃないですか。

 物は試しということで軽業スキルを活かし、木の枝に……、跳び乗れなかったので、スキルに身を任せるつもりで木の幹を蹴るなどして枝の上に登りました。リアルだったらいろいろな意味で不可能ですが、フルダイブでよかったです。ロックウォールを使って登るよりも、気分的にかっこいいので、今度からはこの方法を使いましょう。では、枝の上に腰掛け、ヤタにゴブリンの丸焼きを上げました。私も減りが早い気がする満腹度を回復させるために、大量に作った焼き魚を食べることにしました。特に工夫したものではないので、極々普通ですね。

 そういえば、ホブゴブリンが率いた群れと戦った後に休憩している時に遭遇したと聞いているので、周囲を見渡しますが、いませんね。残念です。

 さて、MPも回復しきったので、北を目指しましょう。別に北にこだわる必要はありませんが、森の終わりまで行ったら、今度は引き返すつもりです。

 戦闘と休憩を繰り返しながら進んでいると、次第に傾斜が山らしくなってきました。ここはもう山かも知れませんが、木が多いので、森だと思いこんで進むことにしました。

 ホブゴブリンの群れの構成比がホブゴブリンに偏ってくると、ホブゴブリンによる強化は重複するようで、数体生き残るようになりました。まぁ、シャインには三発分のクールタイムが課せられていますが、シャドウは使えるので、一発追加すれば十分です。それにしても、群れとの戦闘が一回で終わっていたので気付きませんでしたが、ディレイも三倍ですね。場合によっては大きく下がる必要があります。

 今後、ホブゴブリンだけの群れと遭遇した場合、何発必要になるのかわからないので、注意してかかりましょう。

 ミニマップを見て単独のMOBに向かうようにしても、それはホブゴブリンでした。それを何度も繰り返していますが、森が終わる方が早かったようです。

 森が終わると、本格的な山が見えますが、とりあえずは開けた場所に出ました。さて、森が終わったので、戻るとしま……、んん? あれは何でしょう。とても見覚えのある物ですが。

 ポータルが何故こんな所にあるのでしょうか。確かに、結構な時間を掛けて移動してきたので、ここにあると便利ではありますが。

 近付いても何か異変が起こるわけでもなく、普通に開放出来ました。ワールドメッセージも流れないので、この景観ポータル・【湖を見渡す祠】は、既に誰かによって開放されていたようです。ちなみに、名前が示すとおり、洞窟の様な祠があり、湖もあるはずなので――。


「綺麗」


 思わず声に出してしまいました。

 今登ってきた山は北へと続く山脈の一部ですが、その東側には湖と森が広がっています。風景を気にせず歩いていましたが、やはり高いところから見渡すと、見えるものが違いますね。せっかくなのでスクリーンショットを取っておきましょう。生憎とプロではないので、今見ているものをそのまま写し取ることは出来ませんが、思い出すのには役に立つはずです。

 ヤタと料理を食べながら時間を過ごしていると肌寒さを感じました。山頂が薄っすらと白くなっている気がするので、雪でも降っているのでしょう。

 始めは引き返すつもりでしたが、いい時間なので、ポータルを使ってエスカンデに戻ってログアウトしましょう。





 夜になりました。いつものようにログインし、一先ずクランハウスを訪れると、ハヅチが何かをしていました。


「こんー」

「おー、今来たのか」

「まぁね。そういえばさ、景観ポータルって知ってる?」


 ログアウト中に流れたワールドメッセージも後から見直すことが出来るのですが、ポータルやダンジョンの発見で流れることがあるので、探すのが面倒になりました。それに、ポータルの開放云々よりも、それに関する補足情報が知りたいので、聞いた方が確実でしょう。


「ん? ああ、あれか。街の開放には関係なくて、街からある程度遠い場所に設置してあるやつだ。一応、近くには高難易度ダンジョンやらクエストやらがあるんじゃないかって言われてる。けど、それがどうした?」


 なるほど、つまり、あの祠の中は難しい場所ということですね。それでは猫探しだけに利用しましょう。


「いやー、湖を見渡す祠って解放済みのポータル見付けてね、中々にいい場所だったよ」

「あー、エスカンデの北の方だっけ。まだ開放してないけど、行ったのか」

「マル秘メモ欲しい?」

「今度でいい。今は全員従魔探しで自由行動してるから」


 どうやら皆従魔が欲しいようです。まぁ、せっかくのキャンペーン期間中ですから、探さないわけにはいきませんよね。

 私は今日の分の刻印を済ませ、湖を見渡す祠へと移動しました。目的はもちろん、猫探しです。

 歩き周り、ホブゴブリンが統率するゴブリンの集団を屠り続けました。マップを頼りにはぐれている個体には会いに行くようにしましたが、殆どがホブゴブリンかゴブリンでした。いっそのこと、討伐数を切っ掛けに何かが発生してもいいくらいには倒しました。その結果、得られたものがドロップ品以外に一つありました。


 ピコン!

 ――――System Message・所持スキルがLVMAXになりました――――

 【杖】がLV50MAXになったため、上位スキルが開放されました。

 【杖術】 SP5

 【棍棒術】 SP5

 これらのスキルが取得出来ます。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ……杖術はまぁいいでしょう。何をするのかはよくわかります。けれど、棍棒ですか? これって杖から派生するものでしょうか。どちらかと言えば、棒から派生するものだと思うのですが、それとも、片手杖があるから杖から派生するのでしょうか。まぁ、その辺りは運営次第ということですかね。

 杖術を取得すると、オーラシールドというアーツを覚えました。何でも、MPを放出して、魔法専用の盾を作るそうです。前にアンチマジックアタックとかいう杖で魔法を殴り飛ばして打ち消すアーツを覚えましたが、MPを多く消費する代わりに確実性を増したというところでしょうか。魔法を使う相手と戦うこともないですし、近接戦闘もしないので、ほとんど持ち腐れ状態ですね。

 ちなみに、休憩をする時は、軽業スキルを活かして木の上に陣取っているので、休憩中にMOBに襲われることはありませんでした。軽業スキルの動きに慣れてきたので、木にも登りやすくなりましたし。

 ホブゴブリンが落とす胃石(中)の使い道はオババに聞くとして、何故か落とす薬草と胃石(小)はその内ポーションにしてしまいましょう。

 それにしても、現実の一日、ゲーム内ではかなりの時間を使ったのですが、姿形も見えないとは。

 とりあえず、土曜日はスキルレベルを上げるだけで終わりました。明日は何か見つかることを願ってログアウトです。





 日曜日、6月のキャンペーン最後の休日です。今日で見つからなければ、後は平日なのでそこまでの時間は使えません。それではログインして気合を入れて探しましょう。

 まぁ、まずは日課というか、私の担当である刻印のためにクランハウスへと向かいました。そこで今日の分の刻印をしていると。


「汝、魔法を封じ込めていたのか」

「こんー」


 グリモアですね。慣れた作業なので、目を離しても出来そうですが、場所がずれると面倒なので、流石に一度手は止めました。


「汝、成果はどうか?」

「んー、全然だよ。そっちは?」


 グリモアがヤタガラスを探しているのかは知りませんが、聞かれた以上は聞き返します。


「我は陣を描く技能を磨いている。汝のように天高くある存在を視ることは出来ぬ故」


 おや、空を飛んでいるヤタガラスを反応させるのを諦めたようです。私が木の上に登って識別したことは教えていますが、識別がないのか、出会えていないのか、木に登れないのかはわかりませんが、相談してくれれば答える気はあります。相談されなければ黙っていますが。自分で何とかしたい人もいますから。


「相談には乗るから、何かあったら言ってね」

「うむ、その時は汝の助言に見合う対価を用意しよう」


 さて、グリモアの話も終わったので、私の話をしましょう。


「ところでさ、グリモアは魔力陣、どこまで上がった? 刻印覚えたら、これ、出来るでしょ」


 私としては、作業を分担出来るようにしておきたいです。そうすれば、グリモアのスキルレベルも上げやすくなるはずです。何せ、結構な量のMPを使いますから。


「我としては汝の成すべきことを奪いたくはない。故に、財を築く時は、汝が行っていないことを行う」

「そっか」


 ふむ、金策方法は自分で見付けるということですか。まぁ、本人がそれでいいなら私がとやかく言う必要はありませんね。

 グリモアは何かを取りに来ただけのようで、またすぐに出かけていきました。私と違い、鞄に入れっぱなしにしていないのか、はたまた鞄に入り切らない程の種類があるのかはわかりませんが、これも、とやかく言う必要はありません。

 今日の分の刻印を終え、MPの回復待ちます。魔法系のスキルが多いため、INTが高く、回復量も多いので、座っていればそこまでの時間はかかりません。けれど、いざ回復待ちをしていると、時間が長く感じます。

 この時間を利用し、スキル一覧でも眺めてみましょう。

 現状、生産スキルを増やす気はありませんし、魔法系スキルも目ぼしい物は……、ありませんね。取得条件を満たしていないものが多く、何のスキルかわからないものがあります。何か魔女っぽいスキルがあればいいのですが。

 おっと、MPが回復しきりましたね。それではヤタを召喚して例の景観ポータルへと飛びましょう。





 見晴らしのいい場所へとやって来ました。ここからの眺めは格別ですね。山を湖の側へと降りても森があるのですが、流石にこれ以上街から遠くなると手に負えないMOBが出そうなので、やめておきましょう。

 やることは変わらないのですが、私の探索スキルよりも相手の隠密スキルのレベルが高いと、ミニマップに表示される光点は薄くなるので、マップを大きくして目を皿のようにしながら周囲を警戒します。途中、どうしてもホブゴブリンと遭遇してしまいますが、倒し方の確立されたMOBなど物の数ではありません。最大MPの四割をヤタの召喚に費やしているので、回復量とのバランスにだけ注意しておけば、何の問題もありません。

 シャインを集中して使っていたため、聖魔法がLV20になり、ホーリーブラストを覚えました。何故に聖魔法は他の魔法と覚える順番が違うのか気になりますが、先にウェイブ系よりも強い範囲魔法を覚えていたお陰で助かった面もあるので、不問にしましょう。実験するためにはぐれているホブゴブリンを見付けて試しましたが、やはり普通のブラスト系でした。

 次からは冥魔法のシャドウを使いますが、きっと次に覚えるのはブラスト系なのでしょう。

 途中、木に登り休憩を挟んでいると、近くに光点が無いにも関わらず、茂みから物音がしました。前のようにプレイヤーキラーなのか、それとも未だ見ぬ何かなのか、待望の猫型MOBなのか、じっと木の上から見ていると、音の主が姿を見せました。


『TANUUU』


 茶色の体に、黒い手足の先、二つの色による縞模様の尻尾、四足を使い歩いていますが、時折立ち上がって周囲を見渡しながらシャドーボクシングをしています。さて、どうしましょうか。……不用意ではありますが、識別してみましょう。


――――――――――――――――――――――――――――――――

【ラ※※ン※※※ター】

――――――――――――――――――――――――――――――――


 スキルレベルのせいなのか、何もわかりません。とりあえずは、便宜上、タヌキと呼んでおきましょう。

 そんなことを考えていると、タヌキが私へと目を向けました。ここは木の上なので、遠距離攻撃かここまで来る方法を持っていない限り、私が襲われることはありません。高い位置から串焼きと焼き鳥を取り出し、タヌキの反応を見ることにしました。目で追うようなことが無ければ、タヌキの好物ではないということです。

 タヌキは両手に持ったラビトットの串焼きとコケッコーの焼き鳥には目も向けず、私が乗っている木の幹へと向かっていきました。


『TANU.TANU.TANU.』


 うわわ。

 先ほどシャドーボクシングをしていたので、まさかとは思いましたが木の幹を殴り始めました。そのせいでバランスを崩し、手にしていた料理を落としてしまいましたが、木の幹に捕まることで、何とか落下を防ぐことが出来ました。

 あのタヌキは近接戦闘を得意としているようです。近付かれると厄介ですが、この木がいつまで持つのか不安です。


『TANU.TANU.TANU.』


 何でしょうか。破砕音がした気がします。私は動いていないのに視界がゆっくりと動いているので、気の所為では無いのかもしれません。その証拠に、タヌキは木から離れていました。


「あ、え、ちょ……。へぶ」


 木が倒れるのに巻き込まれると大変なことになるので、何とか枝を蹴り木から離れましたが、受け身が取れるはずもなく、地面に倒れ込むのが精一杯でした。


「いてて」


 痛みは痺れに変換されるわけですが、顔を始め、あっちこっちが痺れます。けれど、ゆっくりしている暇はありません。タヌキの方へ視線を向けると、ゆっくりですが、警戒しながら近付いてきています。識別しても何もわからなかったので、ヤタと同じくらいの強さを持っているとすると、攻撃を受けたらHPがなくなるだけでなく、装備の耐久値が0になる可能性すらあります。

 タヌキは二足歩行状態だと足が早くないようなので、距離を取り続けることは出来ます。けれど、周囲にいるホブゴブリン達には気を付ける必要があるので、逃げにくいですね。

 次は、ゴブリンの丸焼きを取り出しましたが、まったくの無反応です。しかたありません、私の上を飛んでいるヤタに向けて放り投げて食べてもらいましょう。

 残るはサラダとじゃがバターとラクダ肉の串焼きと焼き魚です。サラダとじゃがバターは数が少ないですし、肉は二連敗したので、魚にしましょう。これが熊なら、鮭ということで、魚一択なのですが。

 シャドーボクシングをしながら近付いて来るタヌキと一定の距離を保ち、焼き魚に刺してある串を手にしました。これで反応してくれればいいのですが。


『TANU?』


 私が焼き魚を体の正面からずらすと、タヌキが首を傾げながら目で追った気がします。これは……。いけるかも、そう思った瞬間、一陣の風が吹き抜け、手から焼き魚が消えていました。タヌキがいるであろう背後に振り返ると、タヌキが焼き魚に食らいついていました。小動物というのは多少大きくなっても可愛いものですねぇ。本来のタヌキが何を食べるのかは後で調べるとして、このタヌキは魚を食べると設定されているようなので、このまま畳み掛けましょう。

 秘蔵の焼き魚の大成功品です。これを目の前でちらつかせ、タヌキの視線を弄びます。そして、口元まで持っていくと、大人しく食べ始めました。一度味を覚えた小動物など、私の手にかかればこんなものです。追加で二本食べさせると、通知が来ました。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】を発動することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ふっふっふ、大成功ですよ。そのまま調教スキルのウィンドウが現れたので、【はい】を押しました。ただ、赤い点が頭の上に出ていませんね。焼き魚を食べている様子を見るに、顎の方に赤い点が現れていました。それでは、顎の方をくすぐるように触りましょう。

 こちょこちょこちょ。


 ピコン!

 ――――System Message・従魔イベント進行中―――――――――

 【調教】が成功しました。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 当初の目的とは違いましたが、新しい従魔を仲間にしました。それでは正体を見せてもらいましょう。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 【名称未設定】 種族・ラクーンファイター

所持スキル・【変化LV30MAX】【火魔法LV30MAX】【土魔法LV30MAX】【体術LV30MAX】【隠蔽LV30MAX】【気配察知LV30MAX】【幼体】

なつき度:1%

――――――――――――――――――――――――――――――――


 ラクーンファイターですか。まぁ、シャドーボクシングをしていたり、体術スキルを持っているので、ファイターというのは理解できます。けれど、ラクーンってなんでしょうか。コクーンなら繭なのですが。まぁ後で調べればいいでしょう。

 ちなみに、名前をつけると召喚コストが適用されるので、ここで名前を付けるのはやめておきましょう。決して名前が決まっていないわけではありません。ラクーンファイターの召喚コストが最大MPだった場合、ヤタで四割を使っているのに、追加で五割持っていかれてしまうので、残りは一割、何も出来なくなってしまいます。ちなみに、名前を付けないと、何もしてくれないので、ノーコストで運用は出来ません。

 ラクーンファイターを送還し、リターンを発動しました。





 エスカンデから冒険者ギルドを経由し、クランハウスへと入りました。誰もいないようなので、ラクーンファイターの名前を設定し、召喚しましょう。


「【召喚・信楽】」


 ステータスを見ると、最大MPを二割五分、STRを二割五分持っていかれました。ヤタの召喚コストと合算すると、最大MPに関しては六割五分を持っていかれていることになります。この状態では戦闘が出来ないので、同時召喚してフィールドに出ることは出来ません。

 まぁ、そんなことは些細な事なので、ヤタを肩に、信楽を膝の上にのせ、この二体の従魔を愛でましょう。従魔といえばモフモフと答える人がいますが、それについては否定しなくとも、それだけではないと声を大にして言いたいです。まぁ、信楽はモフモフですが、ヤタはモフモフではありません。ただ肩に乗せているだけで満足出来る貴重な存在です。

 膝の上に乗せた信楽ですが、時折顎の方をくすぐるといい反応をしてくれます。やりすぎると嫌われてしまうので、程々にする必要はありますが、信楽の様子を見て判断しましょう。

 ヤタと信楽を愛でていると、いい時間になったので一度ログアウトです。





 夕食の後、葵から、何人かのクランメンバーが従魔を手に入れたという話を聞きました。


「へー、後で見せてもらおうかな」

「夜のログインで集まるから、一段落してるんなら来いよ」

「なるほどなるほど、私のヤタも見たいと。それじゃあ、参加するよ」


 まぁ、信楽を仲間にして満足した部分もあるので、夜まで猫探しをしなくてもいいでしょう。いざとなったらグリモアに頼んで愛でさせてもらえばいいのですから。

 そんなわけでログインしました。普段であれば、街のポータルから移動する合間に召喚するのですが、今回に関しては、クランハウスに着いてから召喚します。


「こんー」

「あ、リーゼロッテも来たね。それじゃあ、全員揃ったから、皆召喚しよっか」


 時雨の合図でグリモアとリッカと影子が召喚の準備に入りました。


「まずは我が。【召喚:アートラータ】」


 これはもう皆が知っている黒猫です。時雨が言うには、シャノワールという徘徊MOBらしいですが、笑顔が特徴的な猫です。


「次は私かな。【召喚・クロスケ】」


 時雨が呼び出したのは何と二本の尻尾が特徴的な黒い狐です。艶のある黒とは、綺麗な毛並みですね。


「僕も呼ぶよ。【召喚・白】」


 次は影子ですか。影子が呼んだ従魔を見た瞬間、私は一歩下がってしまいました。何せ、前に襲われると思い、見付けると同時にリターンを発動したMOBの色違いですから。まさか、エスカンデの東側の奥にいる黒い狼の色違いらしき白い狼を呼び出すとは、驚きです。


「……【召喚・ゲシュペンスト】」


 何でしょう、このMOBは。鷹のようですが、透けています。名前の通り、幽霊のように見えました。


「それじゃあ。【召喚・ヤタ】【召喚・信楽】」


 最後に私がヤタと信楽を召喚しました。ヤタに関しては驚かれませんでしたが、まさかのタヌキということで、信楽は視線を独り占めしています。ヤタは自然と肩に止まってくれるので、私は信楽を抱きかかえるだけです。


「うぉー、みんな羨ましいぞ。私もゴーレムを仲間にしたかったのに、何食べるかわからなかったんだよ」


 モニカはそんなことを言っていますが、ゴーレムは錬金とかで作る方ではないのでしょうか。

 私としては幽霊のような鷹のゲシュペンストに興味がありますね。触るとどうなるのか、というか、触れるのかがとても気になります。


「リッカ、触っていい?」

「……信楽」

『TANUU?』


 ふむ、交換条件ですか。その条件、飲みましょう。私は抱えていた首を傾げている信楽を渡し、リッカの頭の上にいるゲシュペンストに手を伸ばしました。触れるとわずかに抵抗はありますが、そのまま中へと入ってく感触がありました。やらかしたと思い、思わず手を引いてしまいましたが、ゲシュペンストは私をただじっと見つめるだけなので、何ともないようです。


「……物理透過、ある」

「それ、強くない?」


 詳しい条件はわかりませんが、物理透過とは名前だけみるとかなり強いです。まぁ、その分、魔法に弱かったりしますが、今は気にせず触りましょう。先程は中に入る感触と視覚からの情報に驚いて気付きませんでしたが、随分とひんやりしますね。夏場には重宝しそうです。


「ちょっとちょっと、二人共、こっちきてよ」


 私とリッカがお互いの従魔を触って満足していると、時雨の方から声がかかりました。そこにはグリモアのアートラータと黒い狐であるクロスケと白い狼の白に群がっている皆の姿がありました。やはり、モフモフは強いようです。しかたないので、私も信楽を連れて仲間に入りましょう。

 ………………………………

 …………………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 従魔を愛でながら他の皆が何をしていたのか聞きました。ほとんどがバラバラに動いていたようで、目的のMOBが決まっていない場合は、目撃情報を共有したり、従魔探しを手伝ったりしていたようです。ハヅチを始めとした男子は、結局調教スキル自体を取っていないそうです。まぁ、仲間にしたいと思うようなMOBが見付かったら話は別のようですが。


「それにしても、何回死んだの?」

「僕もわからないです。ブラックウルフ目当てでゾンビアタックしてましたけど、まさかホワイトウルフをテイム出来るとは思っていなかったので」


 影子も無茶をしますねぇ。フルダイブでゾンビアタックなんてするとは思いませんよ。

 ちなみに、装備は初期装備にしていたそうです。まぁ、死に戻りで耐久値が一気に減りますから、場合によっては破損して消えてしまいますもんね。

 この後も、皆でゆっくりと愛でながら渡された食材を使って料理をしました。私がヤタに大成功品を上げ、これからは信楽にも上げるという話をしたら、同じことをしたいと思ったそうで、不可抗力ですが、皆のMOBの好物を知ることが出来ました。

 しかし、時雨さんや、油揚げなんてどこで手に入れたん?

 私、作れませんよ。

 この後もゆっくりと過ごし、ログアウトしました。





 月曜日になり、従魔キャンペーンも今週の金曜までとなりました。土曜日には、7月に入るということもあり、7月からの詳細が発表になりました。

 前から言われていた第二陣の追加が、7月15日となり、完全に中高生の夏休みを狙った日程になっています。そこから7月中は新規プレイヤーと遊ぼうキャンペーンとなっているため、前から公表されている通り、条件を満たした場合に経験値の増加が行われます。後は、8月からはキャンペーンではなく、夏祭りイベントというものが開催されるようですが、まだ名前だけで何もわかりませんね。

 その情報を昼休みに伊織と一緒に見ていたわけですが、伊織は何か言い難そうにしています。


「さっきからどしたの?」

「えーとね、いや、でも……」


 こんな調子でさっきから小骨が喉に引っかかった感じがします。こうなったら無理矢理にでも聞き出しますか。


「さっさと吐くか、胸を好きにさせるか、さっさとしろー」


 そう言いながら怪しげな手の動きを見せつけると、胸をかばいながら口を開きました。


「えーと、ロイヤルナイツってクラン覚えて……ないよね。まぁ、最前線のクランでザインさん達と同じくらいの影響力を持ったクランがあるんだけど、傘下に入らないかってしつこくてね。どうやって断ろうかって、葵と相談してたの」


 おや、随分と面倒臭そうな所が絡んで来ていますね。ザインさん達と同じくらいの影響力となると、ザインさん達を間に入れても騒ぎが大きくなるだけな気がします。

 まぁ、簡単な方法がありますね。


「クランまるごとブラックリスト」

「……初手でそれ言うと思ったよ。トップはまともそうだったから、あんまりそれしたくなかったんだけど、向こうにもそれを躊躇しないメンバーがいるって警告してあるから、収まると思うんだけどね」

「何? トップがわざわざ勧誘に来たの?」

「……ピラミッドで会ったドレスアーマーの人のクランだよ。多分覚える気なかったと思うけど」

「うん、そんなことあった気もしなくもないよ」


 私からは関わる気がないので、まったくわかりませんね。





 平日の夜は溜まりに溜まった食材を使い、ゴブリンの丸焼きと焼き魚の大成功品に挑み続けました。魚は買う必要がありますが、釣りスキルを取る気もないので、問題ありません。

 そんなことを続けていると、週の後半になり、シェリスさんからメッセージが送られてきました。中には、第二陣の追加後に、生産クラン主導のフリーマーケットを開催しようという話があるそうです。現時点ではクランショップを開いている全てのクランに連絡をしているようですが、私の所属するクランに関しては、私を口説き落とした方が確実だと思ったのでしょう。ただ、目的はインベントリの刻印してある鞄とウェストポーチだと思いますが、未だに第一陣ですら持っていないプレイヤーがいると聞いています。そこに、第二陣だけに売り出したとしても、第一陣も買いに来るに決まっているので、あまり意味がありません。

 そう思いながら最後まで読んでいくと、どうやら目的はインベントリではなくスクロールの方だったようです。スクロールに関してはクランショップに並べていないので、私に話を通さないと、何のことだと言われかねませんね。まったく、早とちりはいけませんよ。

 それにしても、新規プレイヤー向けのフリーマーケットですか。私は装備の更新をほとんどしていないので、使い古しの装備というものが、外套くらいしかありません。まぁ、あれも売れるような物ではありませんし。まぁ、スクロールに関しては、時間もまだあるので、考えておきましょう。





 金曜日になり、6月の最終日、今日が終わると従魔キャンペーンも終わります。猫型のMOBに関しては、グリモアが仲間にしたので、後悔はありません。信楽は可愛いですし。

 7月には期末テストもあるので、またしばらく休止しますが、フリーマーケットで何をするのか考えておきましょう。

こんばんは

これで2章は終わりとなります。

次の3章もある程度書き上がってからの投稿になります。


プレイヤー名・リーゼロッテ

基本スキル

【棒LV30MAX】【剣LV15】【武器防御LV5】【格闘LV13】

【火魔法LV30MAX】【水魔法LV30MAX】【土魔法LV30MAX】

【風魔法LV30MAX】【光魔法LV30MAX】【闇魔法LV30MAX】

【魔法陣LV30MAX】【魔力操作LV30MAX】【詠唱短縮LV30MAX】

【錬金LV30MAX】【調合LV30MAX】【言語LV30MAX】【料理LV30MAX】

【鑑定LV30MAX】【再精LV30MAX】【発見LV24】

【跳躍LV30LVMAX】【索敵LV30MAX】【隠蔽LV30MAX】

【毒耐性LV3】【麻痺耐性LV1】【沈黙耐性LV1】【睡眠耐性LV1】【幻覚耐性LV1】

【調教LV12】


下級スキル

【杖LV50MAX】

【治癒魔法LV11】【付与魔法LV20】【無魔法LV11】

【聖魔法LV20】【冥魔法LV13】

【炎魔法LV17】【氷魔法LV11】【地魔法LV10】

【嵐魔法LV10】【雷魔法LV11】【鉄魔法LV11】【空間魔法LV39】

【魔力陣LV50MAX】【魔力制御LV50MAX】【詠唱省略LV12】

【錬金術LV13】【調薬LV11】【言語学LV4】【料理人LV13】

【識別LV26】【魔力増加LV34】【魔力視LV24】

【軽業LV7】【探索LV19】【隠密LV19】


中級スキル

【杖術LV2】

【魔道陣LV2】【魔法操作LV2】


称号スキル

【探索魔法】【魔術】【筆写】


【残りSP118】

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