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Hidden Talent Online  作者: ナート
2章 2体の従魔
35/148

2-15

 週の始まりである月曜日、相変わらずの雨です。昼休も後半になっているので、伊織と教室でゆっくりしていました。


「雨、多い」

「梅雨だからね。それで、7月のアップデートの簡単な告知来てるよ」


 おや、前回のアップデートというか、オチールとのコラボや、従魔関連はもっとギリギリだったと思うのですが。


「従魔のキャンペーンの終了もあるから、早めに告知してるみたい。それに、7月中旬に第二陣の追加もあるってさ」

「……そういえば、新型VRマシンって、使い道多いから、ゲームのためだけに販売出来ないとか聞いた記憶が」

「そうそう、だから、基本的にソフトはVRマシンとのセット販売しかないんだよね」


 四月の終わりにサービス開始でしたが、新規プレイヤーの追加まで約三ヵ月かかるとは、会社として大丈夫でしょうか。ゲームを続けている立場としては、運営の懐具合が心配になります。


「それで、新規プレイヤーと一緒に遊ぼうキャンペーンだってさ。新規プレイヤーの経験値ブーストで、新規プレイヤーとPT組んだ場合には、既存のプレイヤーにも多少のボーナスがあるんだって」

「新規プレイヤーと一緒に狩りにいけるプレイヤーってそうそうプレイしてない人だよね」


 私ですら中級スキルを取得しました。なら、最前線のプレイヤーを除いても、大半は中級スキルを持っているはずです。新規プレイヤーがすぐに追い付くくらいだと、問題があるので、そこまでの経験値ブーストではないはずです。

 まぁ、知り合いの育成ついでに多少の経験値が貰えるというくらいなのでしょう。


「それと、葵がアクセサリスロット開放したから、試しに何か作ってみるって言ってたよ」

「そうなんだ。じゃあ、布押し付けて、何か作ってもらうよ」


 ちょうど絹の糸が大量にあるので、何かしらは作れるでしょう。というか、既に押し付けていましたね。どうするかは決めていませんでしたが。


「後は、追加MOBの情報、結構増えたらしいよ。茜のヤタとかグリモアのアートラータは、徘徊型MOBじゃないかって言われてるよ」

「徘徊型か。特定の種類のフィールドにでも出没するの?」


 私はフィールドの種類を問わず徘徊していますが、徘徊型ならそういう風に組まれているはずです。各地の草原とか、山とか、森とか、水辺とか、そのMOBがいてもおかしくないフィールドを転々としているのでしょう。


「そういうこと。まぁ、アートラータは森での発見例が多いんだけど、森とか山とかは出現してもおかしくない種類が多いから、暫定的だけどね」


 まぁ、動物型は、緑か水がある場所にいるのが大半ですからね。けれど、まったく違う場所にある同じようなフィールドでの目撃例があるのなら、徘徊型で間違っていないでしょう。


「そういえば、アートラータの種族って何?」

「掲示板のと同じなら、シャノワールだと思うよ。森林系の徘徊型MOBで、すばしっこいんだってさ」


 そのまま黒猫という意味ですね。そこまで大きくない個体で動き回られたら大変です。絶対に敵対はしたくないですね。


「ところでさ、従魔を出してると、従魔イベント発生しないとかないよね」

「大丈夫、5体召喚して、テイマーを名乗ってるプレイヤーもいるから」


 5体ですか。未召喚がどれだけいるかはわかりませんが、とんでもない強運というか、どれだけの時間フィールドを徘徊したのでしょうか。まぁ、黒猫のためにフィールドを彷徨うつもりの私が言えたことではありませんが。


「維持が大変そうだね」

「ほんとね」


 そろそろ予鈴がなるので、話はここまでです。今週は魚を集めて焼き魚を大量に作るつもりです。週末には森に篭もるので。





 夜になりログインしました。ウェスフォーが開放され、多くのプレイヤーの金策が上質な茶色い皮から絹の糸へと移り、鞄の為の買い取りが減るかと思いきや、今まで他の地方にいたプレイヤーの一部がオアシス周辺へと移ったらしく、大して変化しませんでした。つまり、ヤタを召喚しながら刻印をし、尚且つ焼き魚の大成功を狙う日々が始まりました。

 もちろん、魔力付与を覚えられそうなクエストのことは覚えていますが、焼き魚の数を揃えてから挑戦しましょう。一度で済めば楽なので。

 ただ、際限なく大成功を狙っていると、集中力が保たないので、一日に焼く数に30個という制限をかけました。多い気もしますが、ウェスフォーでのクエストが予想通りなら、10個消費してしまうので、多めに用意しておく必要があります。


「リーゼロッテ、ちょっとお願いがあるんだけど」


 毎日クランハウスに引き篭もっていると、時雨を含めた数人のクランメンバーに料理を頼まれました。一応、手数料代わりに私の分もくれるのですが、台所を作ってあるのですから、自分で作った方が、確実でしょうに。まぁ、大成功品は全て渡しているので、私の分はあくまでも満腹度用です。

 途中、料理人がLV10になり、乾燥というアビリティが開放されました。その結果、干物や干し肉が作れるようになりましたが、わざわざ保存食のような物を作ろうとは思いません。

 ちなみに、昇華も大量に行ったので、錬金術もLV10になりました。そこで覚えた融合というアビリティですが、複数のアイテムを融合し、一つのアイテムにすることが出来るそうです。これは、昇華と異なり、違う種類のアイテムも一つに出来るので、ある程度の自由が利くそうです。まぁ、魔石を鞄に融合出来るとは思いませんでしたが、これからは錬金術の融合で作りましょう。同じ物を作るにしても、複数の方法があるわけですか。なら、逆に複数の異なるスキルを使って一つの物を作ることも可能でしょうか。私は、手持ちのアイテムを一つ、スキルを使って加工し、センファストのある場所へと向かいました。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、騒がしいのう」

「いやー、ちょっと聞きたいことがあってね。これで調合したら、どうなるの?」


 そう言って一つのアイテムを見せました。


――――――――――――――――

【乾燥させた薬草】

 薬草を乾燥させたもの

 余計な水分が飛んでいる

――――――――――――――――


「ほう、上手く乾燥させおったの。これはいい素材になるぞい」

「それじゃあ、教えて」


 移動しながら考えていました。これが成功して、もし、未発見の方法だった場合、誰を盾にするかをです。リコリスには魔力付与を任せたので、これ以上は危険です。というか、リコリスの所属するクランに料理スキルを持っている人がいるのか不明なので、活用出来なければ意味がありません。生産スキルなので、生産クランなら複数人で協力すれば作れますが、そういうクランに所属している以上、自分達で見付けて欲しいものです。なら、別の所にしましょう。まぁ、そうなると、候補は1ヵ所しかありませんが、料理スキルどころか、調合スキルを持っているかも不明です。結果次第では、考えていたことも無駄になるので、オババから教えてもらいながら作ったポーションの結果を確認しましょう。


――――――――――――――――

【濃いイエローポーション】

 黄色いポーション

 HPを55秒かけて16%回復

 中級スキルを持っていると回復量が10%に落ちる

――――――――――――――――


 ちなみに、これは見せる用なので、使った道具は普通の物です。次に、MPを込め、リコリスから貰った生産道具を使うと、そちらはHP・MP共に50秒で回復するようになりました。つまり、これもやり方次第で短縮可能ということです。ちなみに、クールタイムは回復に費やす時間と同じなので、時間当たりの回復量が僅かに上がりました。見せる用と自分用の二つも工程短縮とレシピ再現に登録したので、乾燥させた物を準備すれば、いくらでも作れます。

 実験は成功したので消去法で上がった候補にメッセージを送っておきましょう。さて、今日はここまでですね。





 黒猫を従魔にする作戦の決行前日の夜、私はウェスフォーの南側にある定食屋へと足を運んでいました。インベントリには焼き魚の大成功品が大量にあるので、条件は満たしているはずです。ならば、件のNPCに発見してもらえるまで歩き周るだけです。

 そういえば、NPCの外見を聞いていませんでしたが、やはり、職人風の外見でしょうか。

 定食屋の前を行ったり来たり、中に入ったり出たりとかなりの不審者ですが、中々お目当てのNPCの目に止まりません。どうしたものかと考えていると、全身を覆うように外套を身に着けながらも、覚束ない足取りの人が目に入りました。ここは砂漠地方なので、NPCは強い日差しを遮るような服装をしていますが、あそこまで念入りなNPCは他に見かけません。


「君、ちょっといいかい?」


 目元しか見えず、口元が隠れているためくぐもった声しか聞こえず、性別の判断が難しいですね。まぁ、お目当てのクエストかはわかりませんが、何かが発生したのは間違いないでしょう。


「何ですか?」

「恥ずかしながら、ここ数日何も食べてなくてね。君からいい匂いがするものだから、声をかけてしまったんだ」


 なるほど、これは間違いなくお目当てのクエストでしょう。しかし、数日何も食べていない設定なら、売れるであろう魔力付与済みの装備とは関係ないのでしょうか。


「これが欲しいんですか?」


 疑問は尽きませんが、クエストを進めてみないことには始まりません。焼き魚の大成功品を一つ取り出しながら確認をしましょう。


「そう、そうなんだ。それが欲しいんだ。もちろん対価は支払うよ。僕の持つ技術で」

 何ともやっつけ仕事のように金欠設定を思い出したようですが、お金ではないということは、可能性が上がりましたね。


「わかりました。それで、何個欲しいんですか?」


 ピコン!

 ――――クエスト【魔力付与を学ぼう・2】が開始されました――――


 ナンバリングクエストですか。まぁ、見落としがないことがよくわかるので、文句はありません。


「そうだな。その手にしているのと同じものを10個欲しい。それだけあれば、しばらくは食いつなげる」

「そうですか。では、手持ちがあるので渡しますよ」


 そう言うと、クエストウィンドウに、焼き魚の大成功品を10個納品するかというウィンドウが出現しました。そこで【はい】を押すと、インベントリから対象のアイテムが10個消えました。その内の一つがNPCの手の中に現れ、齧りつきました。


「もぐもぐ……、ごくん。ふう、助かったよ。それじゃあ、お礼をするから着いてきてくれ」


 性別不明のNPCが歩き出したので着いていくと、石でできた家へと到着しました。扉自体は普通の家のようですが、中は店になっているようです。これ、一目でお店とわからないからお客が来ないのではないでしょうか。こんな隠れ家風の店を探すのは大変ですよ。大昔のRPGじゃないんですから、家に押し入ってツボなんて割りませんし。

 家に入ったので、日差しを避ける必要がなくなったため、砂まみれの外套の中から現れたのは、中々にメリハリのある身体をした女性のNPCでした。髪は短く切りそろえているため、ボーイッシュな印象を受けます。まぁ、服装は露出過多ですが。


「それじゃあ、始めようか」

「えっと、体で払ってくれるんでしたっけ?」

「……間違ってないけど、あくまでも僕の技術を教えるんだからね」


 何やら呆れた表情をされましたが、そのまま奥へと歩いていきます。そこは、作業場のようですが、中心に魔法陣の描かれた作業台が目的の場所なのでしょう。その作業台を間に挟むような位置で立ち止まりましたから。


「さぁ、こちらへ来てくれ。これから僕の持つ技術を教えよう。まずはこれを見てくれ」


――――――――――――――――

【大きな布の外套】

  大きな布の外套

 耐久:100%

 防御力:▼

――――――――――――――――


 とても普通の品でした。特別何かを言うことがない程の品です。


「見ましたよ」

「そしたら、次はこれだ。小さい魔石を使い、この外套に魔力を流し込む」


 露出過多なNPCは手首のスナップを聞かせて魔石(小)を外套に叩きつけます。すると、魔石が砕け、中に込められていた魔力が外套へと移りました。前にも鍛冶屋で見た光景ですが、スキルがないと絶対に出来ない光景ですよね。


「さ、結果を見てくれ」


 結果はわかっていますが、確認しないことには進まないので、大きな布の外套を識別しました。


――――――――――――――――

【大きな布の外套】

  大きな布の外套

 耐久:100%

 魔力付与:100%

 防御力:▼

――――――――――――――――


 やはり、魔力付与です。これは、布用の魔力付与のようですが、動きには金属の時との違いはありませんでした。


「見ましたよ」

「どうだい。これが、魔力付与だ。布に魔力を纏わせる技術だ。これは身に付けた者の力量に応じて身を守る力を強くする。込められた魔力を使い切ったら、新たに付与する必要はあるが、君には役立つだろう。さ、まずはこれを読んでくれ」


 そう言いながら新しい外套と魔石(小)を準備し、一枚の羊皮紙を渡されました。ええ、識別しなくてもわかりますが、一応識別しました。そして、その結果は、【ラーニングスクロール・魔力付与(布)】でした。描かれている魔法陣を個別に調べることは出来ないので、大人しく使っておきました。


 ピコン!

 ――――System Message・アーツを習得しました―――――――――

 【魔力付与(布)】を習得しました。

 付与魔法から選択することが出来ます。

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 さ、覚えましたよ。次に、付与魔法から魔力付与(布)を選択し、露出過多なNPCが準備していた布に魔石(小)を手首のスナップをきかせて叩きつけました。


――――――――――――――――

【大きな布の外套】

  大きな布の外套

 耐久:100%

 魔力付与:100%

 防御力:▼

――――――――――――――――


 結果はこれです。成功ですが、失敗する理由はありません。さぁ、次へ進みましょう。


「一発で成功させるとは、さすがだね。……なーんだ、君は魔力を操るすべを身に着けていたのか。なら、小さい魔石がなくても出来る方法を教えよう」


 そう言って今度は新しい外套を取り出し、手を当てながらの魔力付与を見せられました。私も同じことをしましたが、やはり、失敗する理由はありません。


「これで、もう君に教えることはない」


 ピコン!

 ――――クエスト【魔力付与を学ぼう・2】をクリアしました――――


「ありがとうございました」

「たまには買い物に来てね。僕の胃袋のために」

「気が向いたら来ますよ」


 さて、店のラインナップを調べますか。ノーサードでは、魔石が売っていたそうですが……。やはり、ここでも売っていました。ただ、価格が500Gなので、ここでは買いません。ちなみに、魔石(中)はなかったので、やはりここで買い物をすることはないようです。他の商品は普通の布製品なので、現地人のコスプレをする以外の使い道はなさそうです。

 それでは、クランハウスへ……、エスカンデから入りましょうか。明日のこともありますし。





 クランハウスへ戻ってきました。もちろん、定食屋付近をうろつくために送還していたヤタを召喚しなおしています。それでは、魔力付与をしてしまいましょう。今の私の装備は、【魔女志願者の帽子】・【魔女志願者の手袋】・【魔女志願者のブラウス】・【魔女志願者のスカート】・【魔女志願者のブーツ】・【魔女志願者の外套】の6個です。帽子と外套は綿で作ってはいますが、そうは見えないのは、ゲームならではですね。それでは一つずつ魔力付与をしていきます。そういえば、布に対して付与するようですが、皮で作られた装備でも付与出来るのはありがたい仕様です。まぁ、材質に拘って名称が違ったのは大昔のことらしいので、そこは気にしないでおきましょう。


「お、リーゼロッテ戻ってたのか」


 全て終えて一休みしていると、クランハウスの入り口から声がしました。


「ハヅチこそどうしたの?」

「今日は全員自由行動だからな、ちょっとクエストをやってたんだ」

「へー、私と同じだね」

「……そ、そうか」


 ふむ、あのウェスフォーでのクエスト一覧は見ているはずなので、私が何をしてきたのかはわかっているのでしょう。それではあのマフラーに試してみましょうか。


「それじゃあ、ちょっとそのマフラー貸して」

「やっぱりか。てか、予想通りだったのか」


 そう言いながらも口元を隠しているマフラーを手渡してきます。そういえば、他のプレイヤーが装備した状態での付与が可能かどうかも試してみましょう。

 魔力付与を行い、ハヅチに返しながらも、反対の手で忍者服に手を触れます。


「どうした?」

「【魔力付与】」


 いつもの様にMPが減りました。ただ、他人の装備を識別するには相手の許可が必要なので、どうなったのかはわかりません。


「装備状態でも出来るんだな」

「自分のに出来るかは確認したけど、人のに出来るかはわからなかったんだよね」


 これはこれで便利ですね。大きく分ければバフに分類されるからでしょうか。とりあえず、遠距離で出来るかはわかりませんが、魔力付与を行っているNPCは全員手で触れて行っているので、そういうことにしておきましょう。


「ほれほれ、次はどれにして欲しい?」

「とりあえず渡すから全部頼む」

「チッ」


 おちょくりがいがありませんね。もう少し面白い反応をして欲しいものです。ハヅチが装備を地味なものに変更すると、トレード申請が表示されました。ハヅチの装備は、忍び風裝束という名前が付けてあります。どうやら忍者風ではなく、忍び風のようです。次からは、そう呼んであげましょう。

 ただ、一つ明らかに違うものがありました。


「それ、預かってた素材で作ったアクセサリだ」

「ありがと」


――――――――――――――――

【魔女志願者のネクタイ】

 魔女を目指すものが身に着けている小さなネクタイ

 耐久:100%

 INT:▲

――――――――――――――――


 ほうほう、ネクタイですか。胴装備の白いブラウスに、黒のネクタイ装備になりました。しかも、下の方に斜めに一本、白いラインが入っています。何かの学年を表しそうなデザインですが、派手ではないのがいいですね。

 魔力付与をしてから装備しましたが、アクセサリと聞いていたので、指輪とかイヤリングとか、そういった物を想像していました。けれど、これもありなんですね。

 そして、ハヅチに魔力付与をした忍び風裝束を返します。


「補正がINTなのが、更にいいね」

「アクセサリのスロットが1だと、付けられる能力が1個なんだよ。だから、下手にMPとか回復量とかにするより、そっちの方がいいだろ」

「さっすが、よくわかってる。それで、花火とヒツジも魔力付与取るなら言ってね。料理するから」

「あー、そっか。流石に全部をリーゼロッテに頼むのは大変か」

「そ。それに、付与魔法のレベル上げにもなるし」


 まぁ、本音を言えば私が全部やるのが面倒なだけです。それらしい理由を付けておけば、勝手に納得してくれますし、ハヅチの場合は本音も理解しているので、二人に取らせるでしょう。ハヅチPTの面々だって、いちいち新装備を私が魔力付与してから受け取るなんて、面倒でしょうし。

 まだ余裕もありますが、落ちましょうかね。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、誰でしょう。……ザインさんでした。何でも、一部の生産者がクールタイムの短いポーションを作り出したそうですが、その方法はまったく知られていないようです。特にボッタクっているわけではないそうですが、同盟のクランに教えたいから、交渉したいとのことです。

 私としては、メッセージでの交渉は面倒なので、空いている時間を聞くと、今からザインさんのクランハウスへお邪魔することになりました。他のクランハウスへ入るには、相手のクランで権限を持った人からの招待が必要とのことですが、ザインさんがクランリーダーなので、招待を貰いました。ただ、冒険者ギルドから入ったクランハウスへと繋がる廊下には沢山の扉があります。そのせいとは言いませんが、ザインさんのクランハウスの場所がわかりません。メッセージのやりとりで、アカツキというクラン名は聞き出しましたが、さて、どこでしょう。

 そう考えながら廊下に出ると、招待を受けたクランへの道案内が表示されました。これは便利ですね。道案内を辿ると、案外近い位置にありました。私達のクランは冒険者ギルドへの一番近い位置にあるので、出来た順のようですが、アカツキもかなり早い段階に出来たようです。

 いくら招待を受けているとは言え、いきなり扉を開けるような不躾な真似はしたくないのでヤタを送還してからノックしました。けれど、これは聞こえるのでしょうか。そう思っていると、中から扉を開けてくれたようです。


「やあ、リーゼロッテ、よく来てくれたな」

「いえいえ、招待ありがとうございます」


 それでは他人のクランハウスへ入るので、帽子は取っておきましょう。


「さ、入ってくれ」

「おじゃまします」


 ふむ、間取りは同じようです。ですが、使っている家具のせいか、私達のクランハウスとは違った印象を受けますね。大きなソファーに座るよう促されましたけど、これは来客用なのでしょうか。私達の様な身内クランと違って、最前線のクランというのは来客も多そうなので、こういった物が必要なのですね。


「さて、どこから始めようか」


 ザインさんは何か迷っているので、いろいろと手順をすっ飛ばします。私は、一つのアイテムを鑑定が出来る状態にしてテーブルの上に置きました。


「まずは、現物を見せましょうか」


 何だか怪しげな取引に思えてきました。毛むくじゃらの猫やワイングラスでもあれば、雰囲気が出るのですが。あ、それにはバスローブが必要ですね。


「……中級スキルのレベルを上げないと出来ないって言われてるんだがな」

「私の調薬スキル、LV11ですよ。生産クランとかあるんですから、この方法も見つかっててもおかしくないんですけどね」


 中級スキルすら持っていないことに驚いているようです。まぁ、それは置いといて、これは複数のスキルを組み合わせたものです。つまり、多種多様な生産スキルを持った人がいるはずの生産クランがあるのですから、複数人で協力して何かを作ってもおかしくはないのですが。


「君の思う生産クランがどんなものかは知らないが、このゲームの場合、相場の安定や、素材取引の仲介、基本レシピの収集、そして、クランショップのレンタルが主な活動内容だ。だから、こういった物を作ったプレイヤーは、アイテムを売りはしても、レシピは公表しない。つまり、基本から発展させたアイテムであれば、独占する。……ところで、何でこれを俺達に持ち込んだ? それこそ、生産クランに持ち込むべきものだろ」


 ザインさんの言っていることはごもっともです。それが、生産活動を主軸にしているプレイヤーにとっては、という注釈は付きますが。


「それはそうなんですけど、最前線で発言力のあるクランなら、子飼いの生産者くらいいますよね。そういった人に流して、是非、ドロドロした権力争いに利用してください」

「……君は本当に、変わっているな」

「ええ、もちろんです」


 こういうのは否定しません。否定して、無駄な言い争いをするのは面倒ですし、否定されるのを前提に口にした相手に一泡吹かせられますから。まぁ、ザインさんは肯定するのを知っているので、効果は薄いですけど。

 ああ、事前に確認しなければいけないことがありました。同盟のクランにと言っていたので、ちょっと疑問があります。


「このクランの規模、聞いていいですか?」

「あ、ああ。このクランは俺達6人だけだ。だが、同盟クランがいくつかある。それらを含めて、俺達の派閥だ」


 なるほど、そういうタイプでしたか。それにしても、6人だけのクランにしては、家具が豪華な気もしますが、これが最前線のプレイヤーの財力ですか。


「ちなみに、このポーションの情報、活用出来ますか?」

「同盟クランには、生産をメインにしているクランもある。そこに情報を持っていく許可さえ貰えればだが……」


 なるほど、無駄にはならないようですね。それでは教えてしまいましょうか。


「これはですね――」

「ちょっと待ってくれ。その前に対価の話をしないか?」

「ん? 何言ってるんですか。対価は、私が面倒事に巻き込まれないように骨を折って貰うことですよ。無理強いはしませんけど」

「面倒事も何も、俺達を経由して情報を公開しているのなら、巻き込まれようも無いと思うんだが? それに、トーナメントのことも、終了後に君がログインしなかったから、ほとんど面倒事にあっていないだろ」

「何があるかわかりませんし、これで安心が買えるのなら、安いものですよ」


 ザインさんの言う通り、私が蜃気楼の腕輪の効果を解除するのを見られていた結果、遭遇しなかったものの、私の勧誘合戦的なことがあったと聞いています。なら、迂闊な私のフォローを改めてお願いするまでです。

 それに、前の曖昧な関係よりも、明確な貸しによる関係の方が、安心出来ます。何度か更新する必要はありますが、面倒事を回避するための必要経費なら、問題ありません。


「……そうか。対価は行動で払えということか、わかった。それじゃ――」

「ザインさーん、お邪魔しまッスよー」


 おや、誰でしょうか。ザインさんの知り合いのようですが、PTメンバーではないようです。まぁ、私には関係ない人なので、ザインさんの反応次第ですね。


「すまない、少し待っててくれ。どうしたんだ、タウリン」

「いやー、納品に来たんッスよ。頼まれた分、ありましたし」

「いつも言ってるじゃないか、わざわざ来なくても、同盟クランのシステムを使えばいいと」


 何やら私の知らないシステムがあるようです。まぁ、私が知っていることなんて、他の人の極一部ですが。


「それはそうなんッスけどね。……ちょっとちょっと、誰ッスか、この可愛い子。ザインさんも隅に置けないッスね、ユリアさんに言いつけちゃいまッスよ」


 何ですかいきなり馴れ馴れしく隣に座ってくるチャラ男は。同盟クランの人かも知れませんが、どうにも関わり合いになりたくない人です。外であれば、さっさと立ち去るのですが、さて、どうしましょうか。


「タウリン、彼女に失礼だ。謝れ」

「ちょっとちょっと、ザインさん、どうしたんッスか。そんなマジにならなくても……、ポーション? 何ッスか、アカツキに売り込みッスか? 俺達明星がいるのを知らないんッスか? それに、イエローポーションって……え?」


 私の肩を抱こうとしたので、払っておきましたが、目ざとくテーブルに置いていたポーションに気付いたようで、手にとって驚いています。ですが、メニューを操作して回収してしまいましょう。あくまでも手に取れて、自由に鑑定出来るだけですから。


「さて、ザインさん、私はお邪魔なようなので、帰りますね。それに、そのポーションも不要のようなので」


 気分を害したように見せながら立ち上がり、出口へと向かうことにしました。ザインさんはどう反応しますかね。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。すぐに追い返すから。タウリン、話の邪魔をしないでくれ」

「そんなことより、今のポーション何ッスか。ちょっと君、意地悪しないで教えてよ」


 あー、これ、ダメな人ですね。人の話を聞かず、自分のことしか考えない、面倒な人です。ザインさん、こんな人と付き合いがあるなんて、大変そうですね。

 私は、チャラ男のことは無視し、ザインさんに言われた通り、ちょっと待ちます。もうすぐちょっとも終わりますが。


「タウリン、しばらく立ち入りを禁じる」


 ザインさんがメニューを操作した瞬間、チャラ男がポリゴンになって電子の藻屑になりました。予想ではありますが、招待を取り消したのでしょう。チャラ男が何か言っていた気もしますが。

 さて、ちょっとも終わりですかね。


「騒がせてすまない。話を戻してもいいか?」

「どこまで戻しますか?」


 ここでは怒るよりも笑みを浮かべた方が相手へのプレッシャーになるらしいので、満面の笑みを浮かべておきましょう。不敵な笑みよりも、満面の笑みの方が圧力になるとは。


「とりあえず座ってくれ」


 そう言ってザインさんも座ろうとしますが、さっきから視線がチラチラと動いています。まるでメッセージが来ているのを無視しようとしているようです。ただ、何か設定をいじったようで、落ち着きました。


「【召喚・ヤタ】」


 私は座りながらもヤタを組んだ足の上に乗せ、口ばしの下の方を撫でます。これは猫の方がさまになりそうですね。


「それで、座るところからですか?」

「……そのポーションの情報をもらう代わりに、最前線と俺達の周りで君に迷惑がかからないように行動する。他に、要求はあるか?」

「……今の人が、その情報を持って行く相手ですか?」

「す、少し、違う。今のは、同盟クランの一つ、明星のメンバーだ。クランマスターは別にいる」

「そうですか。でも、調合系のクランのようですけど?」


 つまり、どういう経路を辿るかはわかりませんが、今のチャラ男にも情報が届くということです。その上、私のことを見ていますから、情報源だということはチャラ男でも理解するでしょう。


「……君が望むのなら、タウリンには情報を渡さないように言うが?」

「それ、何か意味があるんですか? 私の知らないプレイヤーがクラン内でハブられる。そんなこと、私には何の関係もありませんよ」

「そ、それは……」


 他の人ならそれで喜ぶのかもしれませんが、興味のない人のことなので、どうなろうと知ったことではありません。

 ザインさんはそれ以降口を噤んでしまいました。ここまでですかね。これ以上やってはザインさんから反感を買うだけで、動きが鈍くなるかもしれません。何事も程々が一番です。


「さっきの人が、私に関わらないようにしてください。それが、私からの追加要求です」

「いいのか?」

「あの人の扱いが変化しようが、私には関係のないことですから。それじゃあ、説明しますよ」


 そう言って私は目の前で【濃いイエローポーション】を作ってみせました。工程短縮は使いましたが、素材を見せながら出来るので、入れ替えを疑われることはありません。まぁ、疑ったところで試せばわかることなですから。


「……複数のスキルの活用か。確かに、よくある仕様だが、盲点だった。連動設定があるから、それがないスキルは出来ないと思いこんでいたということか」


 あーそれはわかります。体術と魔力操作に連動設定がなかったので、魔拳なんてものが出てくるとは思っていませんでした。とにかく、何事も試してみるものです。


「一応、このポーションのレシピも書き出しておきました。ただ、基本レシピなので、性能も基本値ですけど」


 応用は私の仕事ではありません。それは専門家に任せます。


「ありがとう、この情報は活用させてもらうよ。それと、さっきはすまない」

「いえいえ、きちんと対価を支払ってくれるのなら、問題ないので。では、ドロドロとした権力闘争頑張って下さい」


 うまく活用してくれれば私は平穏に遊べるというものです。まぁ、ここ最近見つけたものは、誰かが秘匿していた物ばかりなので、そろそろ保険もいらなくなりそうですが。

 少し遅くなってしまいましたが、今日はここまでです。

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