シャオリンと科学者
早朝。
ラジオ体操をしている俺の横に、ゴッドとシャオリンが居た。
俺は早朝トレーニングとして、シャオリンにも筋トレの素晴らしさを教えていた。
「いいかシャオリン? 頭の後ろにこう手を当て、膝を曲げて、一、二、一、二だ」
「ニャー、ニャー、ニャー!」
見よう見まねでシャオリンはスクワットを始めた。猫のような鳴き声だぜ。
それを見たゴッドは、
「コイツ中々やるな……。よし、ワシも負けぬよう頑張るぞ!のほほ!」
対抗心を燃やすゴッドは元気良く叫ぶ。
その声に反応したシャオリンは、ブオオオオッ!と火をはいた。
『熱っちーーっ!』
ファイの炎を浴びた俺達は、ケツについた火を必死に消す。困ったペットを飼う事になったもんだぜ。しつけの仕方をカオリに聞かなきゃならんな。あれば……の話だが。
とりあえず運動が好きなようだから筋トレをする事にした。
シャオリンはやけに動く。
「ゴッドとは大違いだぜ」
「お前ともな」
「ぬ?」
「のほほ?」
意地を張る俺たちは筋トレ対決をする事にした。そんなこんなで、シャオリンと生活するようになって、二週間が過ぎた。
外は雨が降っており、シャオリンは自分の小屋でおとなしくしている。俺とカオリは来月の食費とかを考えながら生活していた。
「おいカオリ。このシャオリンの食費の予算はこれでいいよな?ゴッドが突如現れたりするから何かもう少し削らないと、シャオリンの分が赤字になるんだよな。多少削るか?」
「ゴッドも世界の安定の為に頑張ってくれているから、今回は大目に見よう。それなりに貯蓄もあるし節約に努めているから、予算に関してはたぶん問題ないよ。アデュー君がもう少し何でも屋として働いてくれればいいけど、あまりこの国の人からはお金は取れないしね」
「まぁ、そうだな。やっぱりたまにダンジョンを巡って宝物を回収するしかないか。勇者が食えないなんて世知辛過ぎだぜ」
そうだな。
カオリに金の面で心配をかけさせない為にも俺はダンジョンでお宝を探すしかない。その資金で生活の安定をはかるとするか。
「うっし、それじゃとりあえずダンジョン行ってくるわ。……アイス屋ギルドで新しいダンジョンがあるか聞いてくるぜ」
「……」
俺の声に反応しないカオリは少し怒気を込めた瞳で雨が降る窓の外を見つめていた。
「カオリ……?」
「あ、あぁゴメンね。客人が来たようだよ。すまないけどアデュー君、ティーの用意をお願い。用意が終わったらすまないけど、退出してて。ちょっとした知り合いだから」
「……?」
明らかに、普段のカオリとは違い、言動に余裕が無い。
事務所の前にはSPに囲まれた黒髪の白衣を着た青年風の男が出てきた。SPの男達に傘をさされ、優雅に黒髪白衣の男は事務所の方に向かって歩き出した。その姿を窓から見つめつつ、カオリはその場で立ち尽くした。
ティーの準備が出来た俺は、室内から出ずに壁に背を向け立っていた。普段は自分で家事をしたいカオリが俺に頼むなんてただ事じゃねーよ。
「アデュー君、退出をお願いしたはずだよ? 時間が無い、早くここから出てね。新しいダンジョンがあるかアイス屋ギルドに聞きに行くんでしょ?」
「無理だな。俺はカオリの相棒だから。相棒の調子が悪い時は支える義務がある。俺は確かに浮気心はある。まだ心が未成熟な子供の新米勇者だからな。けど、一番にカオリを愛してる。退出して欲しければ、そんな動揺を隠せない顔をしないでくれよ。お前にそんな顔をさせる奴は俺が許さないぜ?」
カオリはすでに何かささいなキッカケで泣き出しそうな悲しい顔をしてる。こんな顔を見たのは、この異世界に来る前に一瞬だけ見ただけだ……。
『……』
何故か動揺が隠せないカオリに、俺は核心的な一言を言う。
「カオリのこういう顔は、見たくねーぜ。相棒として、一人の男としてもな」
「……」
二人の間に微妙な空気が流れ、もう一度カオリは、
「いいから私の言う事を聞いて! 怒るよっ!」
「カオリの動揺が無くならない限り、部屋からは出ないぜ。出て欲しければ、俺を殴って無理矢理出してみろ」
「アデュー君、いい加減に――!」
その瞬間、事務所の扉に、コンコンッとノックが鳴った。
カオリはグッと歯をくいしばり、俺が扉を開ける姿を見守る。
すると、カオリに良く似た黒髪の中分けの白衣男が事務所に入ってきた。その男は背後のSPに止まれと合図し、和やかに話出す。
「久しぶりだね、カオリ。この少年は、カオリのモルモットかい?」
カオリが一瞬、その男から目を反らしたのを見逃さなかった。
カオリ拳を強く握り、その男に答えた。
「お久しぶりです、ケンジ兄さん。この少年はアデュー君と言って、このキャンディ王国だけじゃなくこの世界の勇者なのです。勇者を生み出す力がある私が異世界から連れてきた真の勇者です」
「勇者か……とうとうカオリも自分の命をかけた能力を使う事があったのか。最近耳にした噂は本当だったようだね。地上に出てきた甲斐があったよ」
『……』
不気味に笑うそのケンジというカオリの兄に、俺達は黙る。その雰囲気を察しないケンジは話す。
「勇者とはいえカオリと生活するのは大変だろう?カオリは結構な寂しがり屋だ。昔は僕も相手するのが大変だったよ。まぁ、いい君も座りたまえ」
そう言うと、ケンジはティーが置かれる前の椅子に座る。
カオリはうつむいた表情で椅子に座った。俺はその場で立ったままケンジを見つめ、
「俺は何でも屋チートニートスペシャルを経営してる勇者アデューだ。このキャンディ王国の姫カオリとは相棒になる。以後、見知りおきを頼むぜ」
挨拶をした後、アデューは椅子に座った。
「ほぅ、カオリに相棒とは初耳だね。この子はこの国の姫だから誰も近寄らなくてね。まぁ、それはいいとして、今日はこの国に解き放っていた白米怪獣の様子を見に来たんだ。どこまで成長してるか楽しみだねぇ……」
※
「ふうっ、すまなかったねアデュー君。兄は突然訪ねて来る事が多いんだよ。全くまいるね」
おどけた表情でカオリは言う。目の前の椅子に座ったまま俺は窓の外を見つめるカオリに、
「カオリの兄貴のケンジの話で一つ気になった事があったんだが、いいか?」
「……なーに?」
一瞬、二人の間に沈黙が流れ――。
「あのケンジという奴は科学者だな?そしてあの白米怪獣シャオリンを生み出したのもアイツだ」
フゥ……と溜め息をついたカオリは、
「……丁度いい、本人に聞いてごらん」
ポンッと俺の肩を叩き、カオリは玄関の前に立っていた白米怪獣シャオリンを入れた。
俺ととカオリは見つめ合う。
そして、シャオリンが壁に寄りかかり、話始めた。その姿は、白髪のボブスタイルの髪型の少女に変化した。シャオリンは怪獣から人間に変化出来るようだった。




